虹ノ魂 〜未来の歌姫たちと伝説の英雄たち〜   作:MLBU

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13話 馬鹿が揃えばどんな場所でも戦場になる

 

 

 

 

─────お台場の夜道、かつての戦友たちが再会したエモーショナルな雰囲気は、もはや塵一つ残っていない。

そこにあるのは、三十路を目前にした男たちが繰り広げる、史上最低に不潔な『(たん)のキャッチボール』という地獄絵図だった。

 

その数メートル後ろで、歩夢たち虹ヶ咲学園のメンバー十三人は、茂みや電柱の影から凍りついた表情でその光景を眺めていた。

 

 

辰馬「女子高生はのう、いいぞ。女子高生同士がこう、友情を超えてキャッキャしとる、いわゆる《百合》というやつは、宇宙の宝じゃき。わし、それを見てるだけで『キマシタワー』と叫び、白飯三杯はいけるぜよ。幼い者同士の百合は最高じゃ」

 

 

辰馬が鼻の下を伸ばしてそう言い放った瞬間、銀時と小太郎の足が同時に辰馬の脇腹にめり込んだ。

 

 

辰馬「グハッ!?」

 

銀時「テメェ、何爽やかに気持ち悪いこと言ってんだ!全国の百合ファンに謝れ!」

 

小太郎「左様だ!清らかな乙女の交流を不浄な目で見るとは、快援隊の看板が泣くぞ!」

 

 

ボコボコに蹴られ、地面を這いずる辰馬を見下ろし、銀時は急に裏返ったような変な声で喋り始めた。

 

 

銀時「タカスギシニデンゴン。コンドハカンケツニイウノデツタエテクダサイ。ファ(ピー)クユーデース! ペッ!」

 

 

銀時は外国人タレントのような妙な発音で言い放つと、顔面を上げようとした辰馬の鼻先に、渾身の痰を「ペッ」と吐きかけた。

 

 

歩夢「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!」

 

 

歩夢が思わず声を漏らす。

 

 

愛「何、あの人・・・急に外国人っぽくなったと思ったら、痰を・・・汚い、汚すぎるよ!」

 

璃奈「愛さん、びっくり・・・ツッコミどころが渋滞してるよ・・・」

 

 

愛と璃奈は、もはや笑いを通り越して戦慄していた。

 

 

辰馬「いや何で外国人になってんの?意味分からんぜよ」

 

 

辰馬が顔を拭いながら晋助に向き直る。

 

 

辰馬「高杉氏、要するに彼はこう言ってます─────えっと、『あなたとファ(ピー)クしたい』と」

 

銀時「そんだけ熱く通訳すんな!!!」

 

 

銀時の鋭いキックが再び辰馬を飛ばす。

 

 

銀時「誰が此奴とベッドインしたいって言ったよ!!!殺すぞ!!!原作ラブライブに誰がそんなの読みてぇんだ?!!作者は薔薇が大嫌いなんだぞ?!!作者は百合が大好きの姫男子で『キマシタワー』と叫ぶ奴なんだぞコノヤロー!!!」

 

かすみ「・・・ぷっ、あはははははは!」

 

 

それを見たかすみが、堪えきれずに吹き出した。

 

 

かすみ「あ、あの人たち・・・馬鹿だ! 本物の馬鹿です!かすみん、あんなに一生懸命ツッコミ入れる大人、初めて見ました!」

 

小太郎「サカモトシ。チョットコッチ」

 

 

今度は小太郎が、これまた片言の日本語で辰馬を呼び寄せた。

 

 

辰馬「何なのもう・・・直接自分たちで伝えてくんない・・・?」

 

 

辰馬が渋々顔を近づけると、小太郎は頬を膨らませて「ガラガラ・・・」と念入りに喉を鳴らし─────

 

 

小太郎「─────ぷっ」

 

 

至近距離で辰馬の額に命中させた。

 

 

エマ「・・・・・・っ!?あなたもなの!?あの綺麗なロン毛のお兄さんまで!?」

 

 

エマが口を押さえて絶叫に近いリアクションをとる。

 

 

果林「エマ・・・あれ、もう『うがい』のプロセス踏んでたよね・・・丁寧すぎて逆に怖いわ・・・」

 

 

果林も藍色の瞳を点にしていた。

 

 

小太郎「ゴメンナサイ。チョットタンガカランダモノダカラ」

 

 

辰馬「痰吐いただけかい!!!わしゃ痰壺じゃないぜよ!!!」

 

小太郎「ツウヤクナドスルヒツヨウアリマセン。タンデモハキカエテクダサイ」

 

辰馬「じゃあ直接あいつに痰吐いてくんない?!!何でわしを経由させるんじゃ!!!」

 

 

辰馬の悲痛な叫びを無視して、彼は晋助に通訳しようと試みる。

 

 

辰馬「あの、高杉氏─────」

 

辰馬「─────ぷ」

 

 

辰馬が言い終える前に、晋助が至極当然のような顔で辰馬の頬に痰を浴びせた。

 

 

せつ菜「あなたもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ??!!!!」

 

 

せつ菜が本日最大級の驚愕の表情を浮かべる。

 

 

せつ菜「あのミステリアスなダークヒーローが、何の躊躇もなく痰を・・・!幻想が、私の幻想が音を立てて崩れていきます・・・!」

 

晋助「『その痰・・・そのまま返してやらぁ』って伝えとけ」

 

辰馬「いや本当そのまま返して?!!一回わしを通さないで?!!わし痰の通訳じゃないから!!!」

 

 

顔中をベタベタにされた辰馬が、発狂寸前でハンカチを振り回す。

 

 

辰馬「─────って臭っ!!!誰かの唾めっちゃ臭いぜよ!!!ニンニクとマヨネーズが混ざったような─────」

 

銀時「─────ぺ」

 

 

言い終える前に、銀時が追い打ちの痰を放つ。

 

 

銀時「おい─────『寝起きに痰はねぇだろ』って伝えとけ」

 

晋助「ぷ─────『人のせいにしてんじゃねぇ。年中甘い息を吐き散らかしてるバカが』って伝えとけ」

 

小太郎「ぷ─────『因みに俺ラーメン、ニンニク、トウモロコシを食べたけど歯は磨いた』と伝えてくれ」

 

辰馬「いい加減にせんかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!わしゃ何を聞かされとるんじゃ!!!!!!糖分とニンニクと復讐の味が混ざった痰を顔面で受けるワシの身になれ!!!!!!おまんら、本当に国を救おうとした仲間か??!!!!仲良すぎじゃろがボケェ!!!!!!」

 

 

辰馬の魂の叫びが夜のお台場に響き渡った。

 

 

歩夢「・・・・・・え?」

 

 

それまでギャグとして笑っていた歩夢たちの動きが、ピタリと止まった。

 

 

栞子「・・・今・・・『国を救おうとした』・・・って、言いました?」

 

 

栞子が鋭い視線を男たちに向ける。

 

 

侑「・・・ただの不潔な大人たちじゃ、ないの・・・?」

 

 

だが、そのシリアスな伏線は、一秒も経たずに銀時の発言によって粉砕された。

 

 

銀時「んじゃ、次は鼻糞でいくか」

 

 

銀時が鼻の穴を広げた。

 

 

晋助「いや、耳糞でいいだろ」

 

 

晋助が小指を耳に入れた。

 

 

小太郎「何なら目糞を生成しよう」

 

 

小太郎が目をこすり始めた。

 

 

辰馬「汚ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!段階を踏んで不潔になるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!出していいのは金貨だけにせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

辰馬の全力のツッコミが炸裂し、四人がもつれ合って道路に転がった、その時─────銀時の視線が、ふと歩道の反対側に向いた。

 

 

歩夢「・・・・・・」

 

侑「・・・・・・」

 

 

そこには、自分たちがそれぞれ数日前に出会い、いい格好を(あるいは事案を)見せたはずの女子高生たちが、一堂に会して自分たちを蔑みの目で見つめていた。

 

 

銀時「─────あ」

 

 

銀時の口から情けない声が漏れる。

 

 

銀時「・・・あれ? あの、清楚なジャンプのお嬢ちゃん・・・?」

 

小太郎「・・・彼方殿・・・?」

 

晋助「・・・情熱の、女子高生・・・?」

 

辰馬「・・・あ、あの時の・・・」

 

 

四人は顔を見合わせる。

 

 

銀時「・・・え、何々?お前ら、このお嬢ちゃんら、知り合い・・・?」

 

 

四天王は、自分たちが今まさに『痰とツッコミの地獄絵図』を披露していた相手が、自分たちの『お気に入り』の女子高生たちだったこと、そしてその彼女たちが全員友達同士だったという衝撃の事実に、全身を凍り付かせた。

 

 

銀時「─────銀さん、一回死んでくる。」

 

小太郎「死ぬな銀時!俺も一緒に切腹する!」

 

 

かつての英雄たちは、かつてないほどの社会的死(ソーシャル・デス)に直面し、ただただ白目を剥いて固まるしかなかった。

 

 

 

 

次回へ続く・・・・・・

 

 

 

 

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