─────五十億円という国家予算級の夢が、少女たちの『清らかな良心』という名のシュレッダーにかけられて消滅したお台場の路上。
そこには、光り輝く天使のような十三人の女子高生たちと、その足元で魂が抜け殻になった四人の汚れた大人たちが転がっていた。
歩夢「・・・ねぇ、銀時さん─────そんなに落ち込まないで? お金よりも大切なもの、私たちと一緒に見つけに行きましょう!」
歩夢が、絶望のあまりアスファルトの砂利を数え始めた銀時の背中に、優しく手を置いた。
その無垢な微笑みは、もはや銀時にとっては直視できないほどの劇薬だった。
銀時「やめてくれ、お嬢ちゃん・・・その眩しすぎる笑顔は、今の俺には毒だ・・・俺の心は今、汚れきった換気扇の油ギトギトのフィルターみたいになってるんだ・・・お前みたいな洗いたてのシーツみたいな子が近づくと、俺の不潔さが際立って死にたくなるんだよ・・・」
銀時は這いつくばったまま、死んだ魚のような目で、近くに落ちていたアイスの棒(のはずれ)を拾い上げた。
晋助「クク・・・友情、努力、勝利・・・
晋助が震える手で煙管を咥えようとするが、あまりのショックで火を点けることすらままならない。
晋助「おい、
せつ菜「高杉さん・・・保険料は、皆が等しく出し合って社会を支えるための、素晴らしい絆の形なんですよ!逃げちゃダメです!」
せつ菜が熱く語りかける。
その真っ直ぐな言葉が、晋助の《中二病》という名の薄い鎧を貫通し、生活苦という生々しい
辰馬「・・・ア、アハハ・・・絆か。役所との絆は、督促状という名のラブレターで十分じゃき・・・」
辰馬は白目を剥きながら、エマの鞄に入っている自家製パンの匂いを嗅いで、かろうじて
辰馬「お嬢ちゃん、そのパン、一個恵んでくれんか・・・五十億失ったショックで、わしの血糖値が
エマ「うん、いいよ! お腹が空いていると、悪いことばかり考えちゃうもん!ほら、沢山食べて!」
エマが慈愛に満ち、母性溢れた手つきでパンを差し出す。
辰馬がそれに縋り付く姿は、もはや伝説の快援隊社長ではなく、炊き出しを待つ迷い犬のようだった。
一方、小太郎は一人、虚空を見つめてブツブツと呟いていた。
小太郎「・・・・・・五十億あれば、エリザベスのメンテナンス代、そして俺のサラサラの髪を維持するための高級トリートメントを一生分・・・いや、それどころか、全国の蕎麦屋に『マヨネーズ持ち込み禁止』の看板を立てさせる政治工作もできたというのに・・・」
銀時「ヅラ、お前の野望も大概にしろよ!!!」
銀時が地べたからツッコミを入れる。
璃奈「・・・愛さん。あのおじさんたち、なんだか・・・見てるだけで心が苦しくなるね・・・璃奈ちゃんボード『しょんぼり』」
愛「そうだね、りなりー。なんていうか、これが『大人になる』ってことなら、アタシ、ずっと
愛が乾いた笑いを漏らすと、果林も同調するようにため息をついた。
果林「そうね。モデルの仕事で色んな大人に会うけど、ここまで《残念》が煮詰まった人たちは初めてよ・・・朝香果林、
銀時「ちょっとお嬢ちゃんたち!さっきから聞こえてるぞ!俺たちを『人生の失敗の見本市』みたいに言うんじゃねーよ!」
銀時がようやく立ち上がり、鼻をほじりながら反論した。
銀時「いいか、俺たちはな、汚れてるんじゃない。この世の《真理》を体現してんだよ。欲望こそが人間を動かすエンジンなんだ。お前らみたいに『みんなの笑顔のために!』なんてガソリンで走ってたら、いつかガス欠起こして、俺たちみたいに路地裏で野垂れ死ぬことになるんだぞ!」
歩夢「そんなことありません!」
歩夢が、銀時の目を真っ直ぐに見つめて言い返した。
歩夢「私たちは、誰かを想う気持ちがあるから、どこまでだって走れるんです。銀時さんたちだって、本当は分かっているはずです。誰かのために戦ったことが、一度くらいはあるんでしょう?」
その瞬間、銀時、小太郎、晋助、辰馬の四人の動きが止まった。
脳裏をよぎる、戦火の記憶。
守れなかったもの、守れたもの。
そして、四人のうち三人はあの松下村塾で教わった『本当の強さ』。
だが、今の彼らは、お台場の路上で痰を吐き、五十億に未練を残す『駄目な大人』である。
晋助「・・・ククク・・・説教か。十年早いぜ、
晋助が、照れ隠しのように顔を背けた。
晋助「・・・・・・まぁ、お前らのその『おめでたい純粋さ』が、いつまで続くか見ものだな─────せいぜい、泥にまみれずに行けるところまで行ってみろ」
ランジュ「─────言われなくても、そうするわよ!」
ランジュがふんぞり返って笑う。
ランジュ「ランジュたちが、あなたたちみたいな汚い大人に、『大人も悪くないわね』って思わせてあげるから!楽しみにしてなさい!」
辰馬「アハハハ!頼もしいのう! よし、わしもおんしゃらのその心意気に免じて、今日のところは一円も貸さずに帰ってやるき!」
銀時「お前に金借りる奴なんていねーよ!!!」
銀時のツッコミが響き、ようやくその場の空気が少しだけ和らいだ。
少女たちは、再び夕日に向かって歩き出す。
その後ろ姿は、何処までも眩しく、濁りがない。
大人たちは、その輝きから逃げるように、影の濃い路地裏へと消えていく。
小太郎「銀時─────あの少女たちを見ていると、時々、松陽先生を思い出すな。今も元気にしているだろうか・・・」
小太郎がボソリと呟いた。
銀時「さぁな。松陽は元気にしてるどうか知らねぇけど─────彼奴らが眩しすぎて、目が腐りそうなのは確かだ」
銀時はそう言いながらも、懐に入っていた最後のキャンディを口に放り込み、少しだけ口角を上げた。
銀時「ま、せいぜい頑張れよ─────スクールアイドルさんよ」
欲望、純粋さ。
かつての侍であった哀愁漂う大人たち、スクールアイドルの夢見る青春に輝き続ける子どもたち。
混ざり合うことのない二つの世界は、互いを《反面教師》と《希望》として認め合いながら、お台場の夜へと溶けていった。
次回へ続く・・・・・・
まだまだ攘夷四天王とスクールアイドル同好会の交流は続きます!