─────虹ヶ咲学園の校門から駅へと続く並木道。
放課後の柔らかな陽光を浴びながら、眠そうな目をした女子高生・
彼方「・・・ふわぁ・・・眠い・・・今日はバイトも、お昼寝も・・・全部頑張った・・・」
抱えた枕をぎゅっと抱きしめ、重い瞼を必死に持ち上げる。
彼女にとっての世界は、常に半分夢の中にあるようなものだ。
しかし─────そんな彼方の
道の真ん中で、一人の男が『何か』と対峙していた。
男は、腰まで届く艶やかな黒髪をなびかせ、青い着物に白い羽織という、時代錯誤も甚だしい姿をしていた。
その端正な顔立ちは驚くほど真剣だが、問題はその隣に立つ『何か』だった。
それは、身長180センチメートルはあろうかという、巨大な白いペンギンのような生き物だった。
─────無表情な丸い目に、黄色い嘴。
そして、そこから覗く妙に生々しい毛深い足。
彼方は足を止め、首を傾げた。
彼方「・・・ん・・・あれは・・・巨大な、マシュマロ・・・? それとも、新しい、癒やし系・・・キャラ・・・?」
男「待て、エリザベス! お前の出すその『グー』は、宇宙の心理を内包しすぎている! もっとこう、初心に帰って、拳で語り合うのだ!」
男が叫ぶ。
巨大な白いペンギン・エリザベスは、無言でプラカードを掲げた。
『それ、ジャンケンっていうか、ただの暴力です』
と。
彼方「・・・あの・・・」
我慢できず、彼方がぽつりと声をかけた。
男・
小太郎「そこの少女─────すまないが、此処からは俺とエリザベスによるとある《儀式》を執り行っている最中でな。一般人は近寄らぬ方が身の為だ」
彼方「・・・・・・ぎしき・・・? ジャンケン、してるように・・・見えるけど・・・」
小太郎「違う! これは攘夷志士としての精神統一、そして来るべき夜明けの為の─────」
彼方「・・・・・・ふかふか・・・」
桂の演説を無視して、彼方はエリザベスの腹部に吸い寄せられるように歩み寄り、その白い胴体に顔を埋めた。
エリザベスは突然寝転がってきた女子高生に、頬を紅く染まっていく。
プラカードを掲げる。
『やばい、可愛い女の子が寝てきた。しかも匂いが良い』
と。
彼方「・・・あ、これ・・・すごく、寝心地、いい・・・今までの、どの枕よりも・・・至高の、ふかふか感・・・」
小太郎「あ、ちょっと少女!? 貴殿、我が友を何だと思っている! それは枕ではない、攘夷の魂を宿した戦友なのだぞ!」
彼方「・・・ずー・・・」
小太郎「寝た!? この状況で寝たのか!? 貴殿、もしや
エリザベスがプラカードを掲げる。
『いや、単純に眠たいだけだと思います』
と。
桂が狼狽していると、遠くから喧騒が響いてきた。
複数の足音と、拡声器を通した荒々しい声。
男「いたぞ!!!桂だ!!!桂を逃がすなァァァ!!!」
彼方には、聞き覚えのない組織の一団が黒い制服を翻して、こちらへ猛ダッシュしてくる。
その組織の名は、警察武装組織・
その先頭を走る煙草を咥えてる男が、彼方とエリザベス、そして桂の構図を見て目を見開いた。
男「てめぇヅラ!!!昼間から公道で何さらしてやがる!!!挙句の果てに、そんな眠そうな
小太郎「待て、真選組! 違う、これは誤解だ! 彼女が勝手にエリザベスにダイブしただけで─────」
男「問答無用だコラァ!!!通報によれば、『巨大な化け物とロン毛の不審者が、女子高生を拉致して洗脳教育を施している』とのことだ!!!このロリコン攘夷浪士が!!!」
円な目をした青年がバズーカを肩に担ぎ、無表情に照準を合わせる。
青年「死んじまいなァ、ロリコン」
小太郎「ロリコンではない!桂だ!待て!俺は何もしていない!本当だ!彼女が・・・ロリコンではないと言っているだろうがぁぁぁ!!!」
彼方「・・・ん・・・煩い・・・折角、いい夢・・・見そうと、だったのに・・・」
爆風が吹き荒れる直前、エリザベスが彼方をひょいと抱え上げ、物凄いスピードで逃走を開始する。
その後を叫びながら桂が追い、更に殺気立った真選組が追いかけていく。
─────夕暮れのお台場。
彼方は、自分を抱えて走る巨大ペンギンの背中で、揺られながら再び深い眠りへと落ちていった。
彼方「・・・よくわからないけど・・・このペンギンさん・・・タクシーより、速い・・・おやすみ・・・なさい・・・」
結局、彼女がこの騒動の真相─────この国に侍がいて、警察が刀を振り回しているという現実を正しく理解することは、この先もついぞなかった。
次回へ続く・・・・・・
次回は鬼兵隊✕せつ菜の予定です!