─────数日後。
お台場の片隅に、何時の間にか(勝手に)店を構えた「万事屋銀ちゃん・お台場出張所」。
そこには、今日も今日とて、平和な海風を切り裂くような怒号が響き渡っていた。
銀時「おい、新八ィィィィィィ!!!俺の苺牛乳はどうしたって聞いてんだよ!!!糖分が切れて俺の脳細胞が今、一個ずつ『さらば。俺は旅に出る』っつって死滅してんだよ!!!」
新八「そんなもん知りませんよ!!!大体、銀さんがパチンコで食費までスったから、うちにはもう水道水と神楽ちゃんがどっかから拾ってきた謎の草しか残ってないんですよ!!!」
銀時がソファでのたうち回り、新八が掃除機を振り回しながら怒鳴り散らす。
その横では、神楽が巨大な器に山盛りの白飯(おかずはたくあん一切れ)を詰め込みながら、鼻をほじって吐き捨てた。
神楽「銀ちゃん、往生際が悪いアル。糖分が欲しければ、自分の耳糞でも舐めてろヨ。甘いかもしれないアル」
銀時「汚ねぇこと言うな!!!誰が自分の耳で綿あめ作ってんだよ!!!」
そんな、何時も通りの『掃き溜めのような日常』が展開されている部屋の隅で、一人、お茶を啜りながらニコニコと微笑んでいる少女がいた。
─────上原歩夢である。
歩夢「ふふっ。皆さん、本当にお元気ですね」
新八「あ、歩夢さん!すみません、こんな見苦しいところをお見せして・・・この人たち、本当に『侍の末裔』とか言ってるのが信じられないくらい、私生活がドブ板なんですよ!」
新八が恐縮して頭を下げるが、歩夢は穏やかに首を振った。
歩夢「ううん。何だか、銀時さんたちのやり取りを見てると、すごく安心するの・・・私、最近ちょっと悩んでたんだ」
銀時「悩みぃ? なんだ、幼馴染の
銀時がソファから起き上がり、死んだ魚のような目で歩夢を見る。歩夢は少し俯き、膝の上で手をぎゅっと握りしめた。
歩夢「・・・スクールアイドルとして、みんなに笑顔を届けたい。それは本当。でもね、時々怖くなるの。私が頑張れば頑張る程、応援してくれる人が増えれば増えるほど─────『
銀時「─────」
歩夢「私が歌いたい歌と、みんなが求めてる
歩夢の切実な告白。
普通の大人なら「それは成長の証だよ」とか「贅沢な悩みだよ」なんて綺麗な言葉で片付けるだろう。
だが、目の前にいる大人は、かつて少年だった頃─────それも歩夢と同じぐらいの年に国を背負い、そして今は家賃も払えない『絶望を知り尽くした大人』だ。
銀時は再びソファに深く沈み込み、天井を見つめてボソリと言った。
銀時「歩夢─────お前な、色々と抱え込みすぎんだよ」
歩夢「え・・・?」
銀時「『みんなの期待に応えなきゃ』なんて、そんなのどっかの天下を取ろうとした《秀吉》か、ジャンプのアンケート順位を気にする漫画家くらいなもんだ。いいか、ファンってのはな、お前の『完璧な姿』を見に来てるんじゃねェ。お前が『のたうち回って、迷って、それでも一歩踏み出す姿』─────つまり、その『みっともなさとセットの輝き』を見に来てるんだよ」
歩夢「みっともなさと・・・セット?」
銀時「ああ。俺を見ろ。パチンコに負けて、糖分に飢えて、女子高生に説教されて・・・これ以上ないくらいみっともねーだろ? でもな、そんな俺でも新八や神楽はついてくる─────まぁ、家賃を払わないっていう物理的な理由もあるけどよ」
新八「言い方!台無しですよ銀さん!」
銀時は新八のツッコミを無視して続けた。
銀時「お前が迷ってるその姿も、全部ひっくるめて『
歩夢「図太さ・・・」
歩夢は呆然とした後、不意に、心の奥に溜まっていた重い塊がスッと溶けていくのを感じた。
歩夢「・・・そうか。私、一人で完璧になろうとしてたのかもしれない・・・銀時さん。なんだか、少しだけ肩の力が抜けた気がします」
神楽「そうアル!迷ったら全部銀ちゃんに押し付けて、自分は寝てればいいネ!私たち子どもの責任は全部、大人に責任転嫁すればいいのネ!」
新八「それは学んじゃダメだからね、歩夢さん?!!」
新八が必死に軌道修正する中、歩夢は楽しそうに声を上げて笑った。
歩夢「有難うございます・・・私、もう少し自分勝手に『大好き』を伝えてみるね・・・よし、銀時さん! お礼に、今日は私がとっておきのパンケーキ、作りますね!」
銀時「マジで?!よっしゃァァァ!お前ら聞け!聖母のパンケーキ降臨だ!糖分祭りだぁぁぁ!」
新八・神楽「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
銀時、新八、神楽が獣のような咆哮を上げ、キッチンの周りで狂喜乱舞する。
歩夢はそれを見て、苦笑いしながら改めて思った。
歩夢(・・・やっぱり、この人たち、すごく変・・・でも、私の大好きな友達だ・・・銀時さんは大人だけど)
外では、夕闇が静かに街を包み始めていた。
だが、万事屋の中には、パンケーキの甘い香りと、馬鹿げた笑い声が満ち溢れていた。
この『みっともない大人』と『そんな大人についてくる子ども二人』との時間は、歩夢にとって、何よりも眩しい宝物になっていく─────
次回へ続く・・・・・・