※今回は銀魂キャラが登場しません。ご了承ください。
─────お台場の海風が少しだけ冷たさを帯び始めた、とある土曜日の午後。
天王寺璃奈は、何時ものように自分の感情を伝えるための大切な相棒、《璃奈ちゃんボード》を抱えて、海浜公園の隅にあるベンチに座っていた。
彼女は今、新しいデバイスの構想を練っていたわけではない。
ただ、少しだけ迷っていた。
スクールアイドルとしての自分、そして『天王寺璃奈』という一人の女の子としての自分。
どうすればもっと、みんなと『繋がる』ことができるのか。
その答えを求めて、ぼんやりと地平線を眺めていた。
すると、少し離れた砂場の近くで、一人の少女が画用紙を広げて座り込んでいるのが見えた。
小学校の低学年くらいだろうか。
少女は真剣な表情でクレヨンを動かしていたが、その手は時折止まり、俯いては小さな肩を震わせていた。
璃奈は、放っておけなかった。
人付き合いが苦手な彼女にとって、自分から声をかけるのは勇気のいることだ。
けれど、璃奈の『困ってる人を見過ごしたくない』という想いと少女が放つ『寂しさの波長』が、璃奈の心のセンサーに強く触れた。
璃奈はゆっくりと立ち上がり、少女の背後に歩み寄った。
璃奈「─────こんにちは」
蚊の鳴くような声。少女は驚いて顔を上げた。
その頬には、涙の跡が白く光っていた。
少女「あ・・・こんにちは、お姉ちゃん・・・」
璃奈は無意識に、腕の中のボードを掲げた。
【璃奈ちゃんボード:にこっ】
璃奈「私は璃奈。天王寺璃奈─────何を、描いているの?」
少女は一瞬、電子音と共に表情を変える不思議なボードに目を見開いたが、すぐに悲しげな顔に戻って画用紙を見せた。
そこには、お台場の虹色の橋、レインボーブリッジが描かれていた。
しかし、その色はぐちゃぐちゃに混ざり合い、黒い影のようなものが画面の半分を覆っていた。
少女「あのね・・・私、明日お引っ越しするの。仲良しの友達と、もう会えなくなっちゃうかもしれない。だから、この橋を描いてプレゼントしようと思ったんだけど・・・上手く描けなくて。悲しい色になっちゃうの」
少女の声は震えていた。
少女「私、本当はもっとキラキラした、楽しい色で描きたいのに。どうしても、暗い色になっちゃうんだ・・・」
璃奈は、その画用紙を見つめた。
かつての自分を思い出した。
心の中にたくさんの『伝えたいこと』があるのに、上手く表情に出せず、言葉にできず、結局は自分を閉ざしてしまったあの日々。
璃奈は静かに、少女の隣に座った。
璃奈「・・・分かるよ。心の中と、外に出るものが、違っちゃうこと・・・すごく、苦しいよね・・・」
少女「お姉ちゃんも、そうなの?」
璃奈は頷いた。
璃奈「私は、表情を作るのが苦手。だから、このボードを作った。これがあれば、みんなに『大好き』って伝えられるから。でも、道具だけじゃなくて、本当に大切なのは─────繋がろうとする『気持ち』なんだって、最近やっと気づいたの」
璃奈は鞄から、自分が何時もデバイスの調整に使っているスケッチブックと、多機能デジタルペンを取り出した。
璃奈「一緒に、描こう。お姉ちゃんの『魔法』も、少し貸してあげる」
璃奈はデジタルの力を使い、少女のクレヨンが描いた『暗い色』を、一つひとつ解析し、反転させていった。
璃奈「この黒い色は、寂しい色じゃないよ。本当は、友達と一緒に過ごした『夜の静かな時間』の色。この紫は、『夕焼けを一緒に見た時』の色─────ほら」
璃奈がペンのボタンを押すと、少女の画用紙の上に、柔らかな光の粒子が重なった。
璃奈のデバイスが、少女の描いた線の奥にある《感情》を読み取り、それを色彩のデータとして再構成したのだ。
少女「わあ・・・!キラキラしてる・・・!」
璃奈「繋がっているよ。離れても、この橋を渡った記憶は、消えない・・・お姉ちゃんも、友達と離れるのは怖いけど。でも、繋がろうとすることを諦めなければ、世界はいつでも虹色になる」
二人はそれから一時間、夢中で絵を描き続けた。
璃奈は、少女の筆を否定しなかった。
悲しい色は悲しいままでいい、それが思い出の一部なら。
けれど、そこに少しだけ、明日への『ワクワク』を足してあげる。
少女の顔から、次第に涙が消え、真剣な《笑顔》が戻ってきた。
璃奈もまた、ボードを介さずとも、自分の頬の筋肉が少しだけ、柔らかく動くのを感じていた。
少女「できた・・・!」
完成した絵は、もはやぐちゃぐちゃな落書きではなかった。
闇の中から、幾千もの光の粒が立ち上がり、空に向かって橋を架けているような、幻想的で力強い虹色の橋。
少女「これなら、渡せる!お姉ちゃん、ありがとう!」
少女は立ち上がり、満面の笑みで璃奈の手を握った。
少女「お姉ちゃん、魔法使いみたい!私、新しい学校に行っても、友達にちゃんとお手紙書くね!繋がってるもんね!」
璃奈「・・・うん。頑張って。」
【璃奈ちゃんボード:はなまる】
少女は絵を大切に抱え、迎えに来た母親の元へ走っていった。
何度も振り返り、手を振る少女の姿が見えなくなるまで、璃奈もまた、ぎこちなく手を振り続けた。
夕陽が、お台場の海を黄金色に染めていく。
璃奈は一人、ベンチに座り直した。
繋がることの尊さ。
それは、相手を思いやる《勇気》から始まる。
スクールアイドルとして、自分がやるべきことが、また一つ明確になった気がした。
璃奈「・・・明日も、みんなに会いたいな・・・」
璃奈は小さく呟くと、充実感に満ちた足取りで、公園の出口へと向かった。
その背中は、以前よりもずっと真っ直ぐで、確かな自信に満ちていた。
彼女が去った後の公園のベンチには、不自然な程の静寂が残っていた。
木々の影から、数人の男たちが姿を現す。
これまでの『変な大人たち』とは明らかに違う、本物の《毒》を纏った男たち。
???「─────報告は済んだ。《虚無の軍団》を動かす。ターゲットは虹ヶ咲学園─────そして、そこに屯するかつての亡霊たちだ。白夜叉、狂乱の貴公子、鬼兵隊総督、桂浜の龍」
リーダー格の男が、空を見上げる。
そこには、お台場の夜景に紛れるように、巨大な《黒い艦》が音もなく滞空していた。
???「時は満ちた。始めよう─────この平和という名の茶番を、真実の闇で塗り潰す時が来た」
お台場の美しい夜景が一瞬だけノイズのように歪んだ。
彼らの日常はついに終焉を迎えようとしていた─────
次回─────
新章突入!
攘夷四天王復活篇
─────伝説の英雄たちがトキメく少女たちの為に牙を剥いた。
いよいよこの時が来ました!
次回からついにシリアス篇へと突入します!
ラブライブの世界で銀さんたちがどんなチャンバラ劇を見せてくれるのか・・・お楽しみください!