いよいよ今回からシリアス篇へと突入します!
銀魂本編で一回しか揃わなかった攘夷四天王、その四人が活躍する長篇となります!
この長篇の為に、本作を書き続けていました!
今回のサブタイトルの由来は勿論、DOESの楽曲及び、銀魂のOPとなった《曇天》からです!
24話 曇天
─────お台場の空は、一週間前までの夢に広がっていた空とは打って変わって、重く垂れ込めた雲に覆われていた。
海からの風は湿り気を帯び、華やかなショッピングモールや観覧車のネオンさえも、どこか冷たく、遠い世界の出来事のように感じられる。
坂田銀時は、お気に入りの《苺牛乳》のパックを咥え、コンビニの前のベンチに力なく腰掛けていた。
万事屋の看板を下ろし、この平和な街に馴染もうとしていた彼だったが、その背中には拭いきれない《侍》の気配が、湿った空気と共に張り付いている。
そこへ、アスファルトを力強く叩く軍靴の音が響いた。
十四郎「おい、死んだ魚みてぇな目した天然パーマ。こんなところで毒入りの
聞き慣れた、そして最高に不愉快な低音。
銀時は顔を上げずとも、その主が放つ独特の『ヤニとマヨネーズの匂い』で相手を察した。
銀時「・・・・・・何だ多串君。俺は今、人生という名の長い長い迷路で、出口じゃなくて入り口を探してるところなんだわ。見ての通り何もやってねぇし、何も持ってねぇよ。職務質問なら隣のペンギン連れたヅラにでもやってくれ」
十四郎「誰が多串君だコノヤロー」
土方十四郎は、制服の襟を正し、咥えていた煙草から吸った煙を吐き出した。
その瞳はいつもの喧嘩腰な輝きを宿してはいたが、奥底には消えない焦燥感と、警察官としての鋭い警戒心が同居していた。
十四郎「テメェみてぇな腐れ天パに声をかけるのは、俺にとっても相当な葛藤があるんだ。だがな、その葛藤よりも市民の安全を守る義務が、俺のちっぽけなプライドを上回った─────感謝しろ、天然パーマ」
銀時はようやく顔を上げ、片目を細めて十四郎を見上げた。
銀時「あ?何がだよ。お巡りさんがわざわざ万事屋の営業妨害に来るなんて、余っ程暇なのか?それともついにマヨネーズが脳まで転移して、職務内容を忘れちまったか?」
十四郎は銀時の軽口を無視し、真剣な面持ちで一歩歩み寄った。
十四郎「テメェ、最近─────あの虹ヶ咲学園の女子高生どもとつるんでるらしいな」
その言葉に、銀時の肩が微かに跳ねた。
脳裏を過ぎるのは、歩夢の真っ直ぐな瞳、せつ菜の熱い情熱、そして彼方の眠り姫のようなふわふわとし、平和な女子高生たち。
彼にとって、彼女たちは守るべき《日常》の象徴だった。
銀時「な・・・なわけねぇだろ! 俺を誰だと思ってんだ。ロリコンじゃねぇからな?!誤解を招くようなこと言うんじゃねーよ、このV字マヨネーズ!」
十四郎「誰もそんなこと言ってねぇ!誰もテメェの性癖の開示なんて求めてねーんだよ!」
十四郎は苛立たしげに煙草を地面に捨て、それを踏み消した。
十四郎「俺が言いてぇのは─────ここ一週間、虹ヶ咲学園の周りに変な男どもがうろついているという報告が相次いでるってことだ。それも一人や二人じゃねぇ─────集団だ」
銀時は「ふん」と鼻を鳴らし、空のパックを握りつぶした。
銀時「・・・ただのストーカー野郎じゃねぇのかよ。あいつらはスクールアイドルなんていう、眩しすぎる活動をやってるんだ。容姿も可愛いし、性格も天使と間違う程の聖人ども。変な虫がつくのは、今に始まったことじゃねーだろ。テメェら警察が、その虫を一匹ずつ蝿叩きで叩き潰せば済む話だろーが」
だが、十四郎の表情は晴れなかった。
寧ろ、その影はさらに深くなっていく。
十四郎「ちげぇんだ。俺たちも最初はそう思った─────だが、実際に現場を張った部下たちの報告を聞くに、どうにも只者じゃねぇ。少なくとも、
十四郎は声を潜め、周囲を警戒するように言葉を続けた。
十四郎「奴らの動きには、無駄がねぇ。視線の配り方、配置の取り方─────それは監視というより、戦場の《偵察》だ。まるで、あの女子高生どもを囮にして、その背後にいる、本当の『誰か』を引きずり出すつもりなんじゃねぇか─────俺の勘がそう言ってる」
十四郎のその言葉は、銀時の心の奥底に眠る、血の匂いのする記憶を呼び覚ました。
かつての戦場─────大切なものを守るために、それ以外の全てを斬り捨ててきた《白夜叉》としての本能が、警鐘を鳴らし始める。
十四郎はまだ、目の前の『怠惰な天然パーマ』が、かつて
ただ、この男の持つ『底知れぬ何か』が、今回の異常な事態の鍵を握っているのではないかと、無意識に感じ取っていた。
銀時「・・・囮、ね。物騒なこと言うんじゃねーよ、マヨネーズ税金泥棒君」
銀時は立ち上がり、ズボンの尻を叩いた。
その目は笑っていたが、光は宿っていない。
銀時「
十四郎「─────ああ。だからこそ、俺はテメェに釘を刺しに来たんだ」
十四郎は銀時に向かって、突き放すように、けれど警告するように言い放った。
十四郎「深入りするな、とは言わねぇ─────だが、テメェが奴らの狙っている『何か』に関わっているなら、お台場を戦場に変えるような真似だけはさせるな。これ以上、あの街を汚させるわけにはいかねぇんだよ」
重く湿った沈黙が、二人の間に流れる。
日常のカーテンのすぐ裏側で、鋭く研ぎ澄まされた刃の音が、確かに響き始めていた。
歩夢たちが信じる《友情》や《輝き》を、漆黒の悪意が飲み込もうとしている。
銀時は顔を少し上げて、夜の闇に消えゆく街の灯りを見つめていた。
銀時「わぁってるよ─────マヨネーズは賞味期限内に使い切れ、ってことだろ?」
銀時の呟きは、風に流されて消えた。
そして、握りつぶした苺牛乳のパックをゴミ箱に放り捨てた。
その動作はいつも通り投げやりだったが、瞳の奥に宿る《夜叉》が、無意識に周囲の気配を殺している。
銀時「・・・・・・因みにさ、多串君。その『只者じゃねぇ男ども』ってのは、何処の何奴なんだよ。最近のストーカーは、どっかの秘密結社にでも入って、規律正しく女子高生の尻でも追いかけてんのか?」
十四郎は銀時の冷やかしに眉をひそめたが、その表情は冗談を許さないほどに硬かった。
彼は内ポケットから一枚の写真を取り出し、銀時の目の前に突き出した。
十四郎「巫山戯てる場合じゃねぇ─────これを見ろ。虹ヶ咲学園の裏門付近、奴らが去った後に残されていた痕跡だ」
差し出された写真には、古びたコンクリートの壁に刻まれた、小さな、だが禍々しい紋章が写っていた。
それは、三羽の八咫烏を象ったような、あるいは深淵から伸びる鋭い爪を模したような、異様な意匠。
銀時「・・・・・・っ!!!」
それを見た瞬間、銀時の心臓が大きく脈打った。
視界が、一瞬にして十年前の、あの血と硝煙に塗れた戦場へと引き戻される。
その紋章は、忘れもしない。
かつて
銀時(・・・奈落・・・何で、あいつらが今更、この街に・・・)
背筋を氷の刃で撫でられたような戦慄が走る。
だが、銀時はすぐに表情を殺した。
ここで動揺を見せれば、十四郎のような勘の鋭い男には、自分の過去が─────《白夜叉》としての正体が露見しかねない。
銀時「・・・あ?何だよこれ。どっかの暴走族の落書きか? 最近のガキは、もっとこう、ファンシーなデザインとか選べねーのかね。これじゃ可愛げの欠片もねーだろ」
銀時は鼻をほじりながら、わざとらしく欠伸をして見せた。
指先が微かに震えているのを、必死に隠しながら。
十四郎「・・・そうか、テメェの目にも、ただの落書きに見えるか」
十四郎は銀時を観察するように見つめた後、写真を懐に仕舞い込んだ。
十四郎「だがな、俺たちのデータベースにさえ、この紋章の記録はねぇ。名前だけは《天照院奈落》だと分かった。奴らはまるで歴史から意図的に抹消されたかのような、古い─────それでいて、血の匂いのする紋章だ。そして何より不気味なのは─────奴らが、スクールアイドルという、この街で最も《光》の当たる場所にいる女子高生たちを、組織的に監視しているという事実だ」
十四郎は一歩、銀時に詰め寄った。
十四郎「奴らの狙いは、間違いなくあのガキどもじゃねぇ。あいつらを餌にして、この街に潜んでいる『何か』─────或いは、奴らにとっての『不倶戴天の敵』を炙り出そうとしている。万事屋─────テメェ、本当に心当たりはねーんだな?」
銀時は、十四郎の鋭い視線を正面から受け流した。
銀時「心当たり?あるわけねーだろ。俺にある心当たりっつったら、昨日のパチンコで負けた三千円をどうやって取り戻すか、それだけだわ─────多串君。あんまり考えすぎると、そのV字ハゲがさらに進行してM字になっちまうぞ」
十四郎「誰がハゲだコノヤロー!!!」
十四郎の怒鳴り声が響く。
だが、銀時の心は、その喧騒を遠くに聞いていた。
脳裏をよぎるのは、歩夢の笑顔、そして何も知らずに夢を追いかける少女たちの姿。
銀時(─────奈落が動いている。あいつらが標的にするのは、ただ一人─────いや、あの場にいた、俺たちか)
銀時、小太郎、晋助、辰馬。
かつての攘夷四天王がこの街に集結していることを、奴らは察知している。
そして、彼女たちを人質に取るような形で、自分たちを誘い出そうとしているのだ。
十四郎「兎に角、注意しておけ・・・真選組も暫くはあの学園の警戒を強めるが、公にはできねぇ事情もある・・・何かあったら、すぐに俺に連絡しろ」
十四郎はそう言い捨てると、再び軍靴の音を響かせて去っていった。
一人残された銀時は、夜の闇に沈みゆくお台場の街並みを、死んだ魚の目で、けれどどこか悲痛な色を帯びて見つめていた。
銀時「・・・ったく。平和な隠居生活を邪魔すんじゃねーよ、糞烏どもが・・・」
銀時の低く呟いた声は、夜風にかき消された。
虹ヶ咲学園の少女たちの純粋な輝きを守る為に、彼は再び、封印していた《過去》という名の戦場に足を向けざるを得ないことを、本能的に悟っていた。
お台場の闇がいよいよ、直ぐそこまでに来ていた─────
次回へ続く・・・・・・