─────お台場の夜は、もはや静寂とは無縁の地獄と化していた。
並木道を埋め尽くす、大凡五百以上の《天照院奈落》。
その黒い波に対し、銀色の閃光が、紫の影が、蒼い突風が、そして紅い龍が激突する。
かつての戦場を地獄に変えた《攘夷四天王》の真の戦いが、今、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の少女たちの目の前で展開されていた。
最前線で嵐を巻き起こしているのは、坂田銀時だった。
彼は《洞爺湖》と刻まれた木刀一本を手に、奈落の懐へと弾丸のような速さで踏み込む。
錫杖が振り下ろされる一瞬の隙を突き、柄で相手の喉元を強打。
呻き声を上げる敵の手から流れるような動作で真剣を奪い取ると、それを逆手に持ち替え、背後から襲いかかる三人の中段を一気に薙ぎ払った。
奪った剣を投げ矢のように遠方の敵へ突き刺し、再び木刀を構え直す。
その無駄のない、あまりにも洗練された『戦うための手際』は、普段、パチンコ屋の椅子に根が生えたように座っているあの男とは完全に別人だった。
歩夢「・・・嘘。銀時さん、あんなに動けるの?!」
歩夢が、驚きで声を震わせる。
歩夢「何時もは『あー、腰が痛い。おじさんもう動けない』なんて言ってるのに・・・あんなに器用に、あんなに強く・・・!」
果林「あれが、本物の『戦い』なのね・・・」
果林が息を呑んでその光景を見つめる。
銀時の動きには、一切の迷いがなかった。
相手の武器を奪い、環境を利用し、最小限の動きで最大の結果を出す。
それは、何千、何万という死線を越えてきた者にしか宿らない、凄絶な『器用さ』だ。
銀時の隣で、紫の着物を血に染めながら踊るのは高杉晋助だ。
彼の剣は、銀時のそれとは対照的に《破壊》そのものだった。
敵を無力化することなど考えていない。
ただ、目の前の存在を、その命ごと『壊す』ためだけに、鋭い一閃が闇を切り裂く。
晋助「ククッ・・・脆い。脆すぎるぜ、公方の飼い犬どもが」
晋助の瞳には、冷酷な光が宿っている。
命乞いをする敵の喉元を迷いなく切り裂き、血飛沫を浴びても眉一つ動かさない。
その姿は、数日前に中二病的な名前を菓子に付けていた男と同一人物だとは、到底信じられないほどに非情だった。
しずく「・・・高杉さん、怖いです・・・」
しずくが、震える手で自分の腕を抱きしめる。
しずく「あんなに冷たい目をして・・・まるで、この世界の全てを憎んでいるみたいで・・・」
せつ菜「─────いいえ、しずくさん」
せつ菜が、涙を浮かべながらも晋助の背中を見つめた。
せつ菜「あれは・・・あの方は、何かを守る為に、自分を鬼に変えているんです。あの残酷さは、あの方なりの《覚悟》なんです!」
後方で敵の増援を食い止めているのは、桂小太郎だ。
普段の「ヅラじゃない、桂だ」とボケ倒す変人の姿は、そこには微塵もない。
彼は着物の裾を荒々しく捲り上げ、野獣のような唸り声を上げながら、縦横無尽に敵を斬り伏せていた。
その剣筋は
長い髪を振り乱し、血に塗れながら笑う姿は、まさに《狂乱》の二文字に相応しい。
だが、それは決して正気を失った狂気ではない。
仲間を守り、己の信念を貫くための、最高に《
彼方「桂さん・・・何時もはあんなに面白くて、変なことばかり言ってるのに・・・」
彼方が、驚きで眠気を完全に忘れて呟く。
彼方「あんなに強くて、かっこいいなんて・・・まるで、物語の中の英雄みたい」
ミア「いや─────英雄なんて綺麗なもんじゃない。あれは、本物の《BEAST》だよ」
ミアが、戦慄しながらもその勇姿から目を離せない。
そして、そんな小太郎と共に、常に全体を把握し、死角から迫る敵を射抜いているのが坂本辰馬だ。
彼は、かつての負傷により、もはや満足に刀を振るうことはできない。
しかし、その手にある拳銃が刀以上の脅威となって奈落を圧倒していた。
辰馬「アハハハ!!!逃がさんぜよ!!!」
正確無比な射撃。
弾丸は吸い込まれるように敵の肩や足を撃ち抜き、戦闘不能へと追い込んでいく。
刀を捨ててもなお、彼は《四天王》の一角であることを、その銃声で証明していた。
栞子「坂本さん・・・刀を使えないのに、あんなに堂々と・・・!」
栞子が、感嘆の声を上げる。
ランジュ「自分の弱さを知って、それでも別のやり方で最強であり続ける・・・坂本辰馬、貴方は本当の意味で《王》の器を持っているわ!」
男「─────チッ。引くぞ。これ以上は消耗が激しすぎる」
奈落の指揮官が、苦渋の決断を下した。
四天王という《
男「撤収だ!闇に紛れろ!」
指揮官の合図と共に、残った奈落の兵士たちは煙幕を張り、蜘蛛の子を散らすように夜の闇へと消えていった。
静寂が戻ったお台場の並木道。
そこには、肩で息をしながらも、依然として凄まじい覇気を放ち続ける四人の男たちと、呆然と立ち尽くす少女たちがいた。
銀時「・・・ふぅ・・・やれやれ、おじさんもう腰が限界だわ」
銀時が、何事もなかったかのように耳を穿りながら、いつもの『だらしない顔』に戻った。
晋助「─────銀時、お前が余計な動きをするから俺の着物が汚れた。死ね」
晋助が、冷たく言い放ちながら刀を鞘に納める。
小太郎「銀時、高杉!喧嘩はやめろと言っているだろう! さあ、後片付けだ!」
辰馬「アハハハ!終わり良ければ全て良しぜよ!」
四人は、先程までの《鬼》のような姿が嘘だったかのように、何時もの『バカな大人』の会話を始めた。
歩夢「・・・銀時さん・・・」
歩夢が、一歩前に出る。
彼女たちの心には、恐怖と、驚きと、そして言葉にできない《敬意》が混ざり合っていた。
─────だが、この勝利は、更なる絶望の序章に過ぎなかった。
お台場の喧騒を遠く見下ろす、高層ビルの屋上。
冷たい風が吹き抜ける中、一人の男が静かに立っていた。
編笠を深く被り、首には大きな数珠、そして顔には傷があった。
その瞳は、深淵のような暗闇を宿している。
男「─────白夜叉、狂乱の貴公子、鬼兵隊総督。亡霊どもが、再び集ったか」
男は、感情の欠落した声で呟いた。
男の名は《
そんな彼の視線の先には、虹ヶ咲学園の校舎と、そこで安堵の表情を浮かべる少女たちの姿がある。
朧「お前たちの戦いは、まだ終わらんぞ・・・お前たち、吉田松陽の弟子は、必ず・・・必ず天からの裁きが下されることになる」
朧は、手に持った錫杖を小さく鳴らした。
朧「お前たちの死が、あの男の罪を贖うための供物となる─────そこにいる幼き女たちと共に、だ。その時を、精々楽しみに待っているがいい」
朧の姿が、夜の闇に溶け込むように消えた。
─────お台場の夜はそろそろ明けようとしたが、闇はまだ消えていない。
少女たちが手にした《平和》の裏側で、銀時たちが背負う《宿命》の鎖が、より一層強く、彼女たちを巻き込みながら締め付けようとしていた。
次回へ続く・・・・・・
次回で長篇が終わりますが、まだまだ物語は続きます。
攘夷四天王の活躍、本編とは違いましたが、如何でしたか?
そして、本作の朧は勿論敵となっています!