─────東京・
パステルイエローのボブカットとした女子高生・
何故なら、この近くにあるスナック《すまいる》に、自分たち以外の『可愛い女性』が集まっているという噂を耳にしたからだ。
かすみ「納得いかない・地位よりも絶対に納得いきません!この世界の『可愛い』は、かすみんと同好会のメンバーだけで十分なんです。それ以外の可愛いなんて、全部かすみんが叩き潰してあげますからね!」
かすみは拳を握りしめ、ターゲットである店の前に立った。
看板には《スナックすまいる》とある。
どことなく庶民的な、けれど歴史を感じさせる店構えに、彼女は鼻を鳴らした。
かすみ「ふん、どうせ大したことないんです。かすみんの圧倒的な可愛さを見せつけて、戦意を喪失させてあげましょう!」
勢いよく扉を開けると、そこには夜の帳が降りる前の何処か落ち着いた空気が、流れていた。
カウンターの奥で、一人の女性が穏やかな笑みを浮かべてグラスを拭いている。
女性・
その姿は『可愛い』というよりは『美しい』という言葉が似合う、凛としたものだった。
《
妙「あら、いらっしゃい─────あらあら、珍しいお客様ね。うちはお酒を出すところよ、お嬢さん?子どもには入れない場所だわ」
妙のその声は、春の陽だまりのように温かかった。
けれど、かすみの『可愛いレーダー』は、その笑顔の奥に潜む、言葉にできない圧倒的な『何か』を敏感に察知していた。
かすみ「な、中須かすみです!あなたがここのリーダーですか!?噂ではここに可愛い子がたくさんいるって聞きましたけど、かすみんより可愛い子なんて、一人も認めませんから!」
かすみは胸を張り、得意の『かすみんポーズ』を決める。
小首を傾げ、人差し指を頬に当てるその姿は、確かに計算され尽くした可愛さの極致だった。
妙「あら、そう?あなた、スクールアイドルをやってるのね・・・確かに、とっても可愛いわ」
お妙はふふ、と上品に笑った。
その肯定的な反応に、かすみは少しだけ拍子抜けする。
かすみ「そ、そうです!分かればいいんです!だから、今日限りで『可愛い』を名乗るのをやめて、かすみんに降伏してください!」
妙「そうね・・・でも、私たちが可愛いかどうかを決めるのは、お客様だもの─────そうでしょう、 近藤さん?」
妙が店の隅、暗がりに視線を向けると、そこには真選組の隊服を着た大男・近藤勲がいた。
彼はなぜかテーブルの下に潜り込み、お妙の靴を熱心に観察していた。
勲「あわわわ!お妙さん!僕はただ、テーブルの脚の強度を調べていただけです!決してストーカーなんて、そんな破廉恥な─────」
妙「─────死ね、ゴリラ!」
お妙の笑顔が、一瞬で消えた。
彼女の手がカウンターの下へ伸びたかと思うと、次の瞬間には巨大なゴルフクラブが振り抜かれていた。
ドゴォォォォォォォォォン!!!
勲「アベシッ!?」
勲は壁を突き破り、夜の歌舞伎町へと星になって消えていった。
その鮮やかすぎる暴力、そして一切の迷いがない殺意。
かすみは、自分の可愛さが通用する次元ではない戦場に足を踏み入れてしまったことを悟った。
かすみ(ご、ゴリラみたいな人がやられた・・・?!)
妙「さて、かすみちゃん─────お茶でも飲んでいくかしら? 私、料理が得意なのよ」
妙は、何事もなかったかのように再び天使のような笑顔に戻っていた。
彼女が差し出したのは、皿の上に鎮座する『何か』だった。
黒い、あまりにも黒い。
炭を通り越して、もはや未知の暗黒物質ダークマターと化した卵焼き。
かすみ「・・・・・・これ、なんですか?」
妙「卵焼きよ。自信作なの─────さあ、食べて?食べなさい─────食べろって言ってるのよ、この小娘」
お妙の背後に、この世の終わりを象徴するような黒いオーラが立ち上る。
かすみは震える手で箸を取り、そのダークマターを口に運んだ。
かすみ「・・・あ、あ、あァァァ・・・っ!」
脳内を走る衝撃。
魂が肉体を離れ、どこか遠い銀河を旅し始める感覚。
かすみは、その場に崩れ落ちた。
かすみ「・・・かすみん、完敗です・・・可愛いとか、そういう次元じゃない・・・この人、ゴリラより強い・・・」
妙「あら、失礼ね─────私はただの、か弱い看板娘よ?」
妙は優雅に茶を啜り、倒れ伏すかすみを慈しむような目で見つめた。
結局、かすみはその日、妙の圧倒的な武力と破壊的料理の前に、二度と『可愛さ』で挑もうとは決心できなかった。
虹ヶ咲の平和な日常では決して出会うことのない、本物の『歌舞伎町の深淵』を、彼女はその小さな体で存分に味わったのである。
次回へ続く・・・・・・