もしもるう子があきらっきーのファンだったら   作:-Y-

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1.二人の関係

「ただいまー……」

 

 仕事が終わり、疲れた様子の蒼井晶が部屋の扉を開けると、小湊るう子が笑顔で出迎えた。

 

「おかえりなさい。今日もお仕事お疲れ様」

 

 そう言って晶に駆け寄るるう子。しかしながら少し距離を置いて立つるう子の性格にも、晶はもう慣れていた。

 

「えへへ、るうるういい子にしてたかなー?」

 

 晶は過剰にも思えるほど、まるで小さな子供をあやす様な口調で言った。

 その様子を見るとるう子は安堵した表情で晶へと更に近づき晶の服の裾をぎゅっと握った。

 

「うん、ちょっと寂しかったけど大丈夫だよ」

 

 晶には極端な二面性があった。機嫌が悪い時とそうでない時との激しい違い。悪い時はもはや少女とは思えないほどの汚い言葉を吐くようなことが多々あるのだ。

 るう子は晶の機嫌を損ねないよう、またすでに悪い時のことを考え出迎えるときはいつもおずおずとしている。

 

 晶もその気遣いがわかっているからこそ、家に帰るとすぐに"アキラッキー"をるう子に見せるのだ。

 

「寂しくさせちゃってごめんねぇ。じゃあそんないい子のるうるうには、お土産をあげちゃおう」

 

 そういうと晶はビニール袋から取り出したあたたかい缶のミルクティーをるう子の頬にぴとっと押し当てる。

 

「はわっ、あったかぁい……」

 

「るうるうこれ好きだよね。コンビニ寄ったから買ってきたの。パンケーキもあるからあとで一緒に食べようね」

 

 晶は読者モデルの仕事をしているが、元々貧乏であったため普段の大胆不敵な性格に反して、お金に関してはかなり質素であった。

 コンビニで買う三百円そこらのスイーツを買うことが贅沢なことだと、本気で思っているくらいだった。だからそれを自慢げにるう子に見せびらかすことを恥ずかしいとは思っていなかった。

 

 対するるう子も長い間両親がおらず、これといった贅沢をしたことはなかったので晶のお土産はただ純粋に嬉しく思えた。

 

「じゃあ、あたし先にお風呂入るね」

 

 瞬間、るう子の頬が若干赤く染まり裾を握る力が強くなる。

 せっかく帰ってきたのだからもう少し構ってくれても……と、昔のるう子ならば思っていただろう。

 

 しかし今は違う。

 帰ってくるなりそうそう風呂に入るということは、これから寝るまでずっと一緒にいるということを暗に示しているのだ。現に今までそうでなかったことがない。

 

 

 るう子にとってこの晶が風呂に入っている間の時間は、待ち遠しくもありありがたくもあった。

 早く会いたいという気持ちもあったが、内気なるう子は「今日は何を話そうか」、「どんな顔をしたらいいのだろうか」と妙にそわそわしてしまっていた。

 

 対する晶は入浴しながら、自分の身体――顔の傷を見て、思う。

 るう子がいなかったら、今頃自分はどうなっていたのだろうか、と。

 

 陰険な願いの代償として、自身の顔に大きな傷がついた晶。当初は何もかもに絶望して、ふさぎ込んでいた。

 化粧を落とし、顔の傷を見るたびに晶はその時のことを思い出す。

 

 

***

 

 

「晶さん、待って!」

 

 るう子の悲痛な叫びが、去ろうとする晶の足を止めた。

 

「うるっせぇ! 今頃同情かよ、おっせぇんだよ! こんな、こんな傷ッ――」

 

 その頃、晶は荒れていた。

 セレクターバトルに三回負ければ願いはマイナスとなって自身に降りかかる。

 晶は負けたのだ。バトル三回のうち、一回はるう子との戦いだった。

 

 逆上した晶はるう子に報復しようと、同じ傷をつけてやろうと凶器を持ち出したのだ。

 しかしるう子は晶の思う反応をしなかった。いや、確かに怯えてはいたし不安な表情でいっぱいだった。

 でも発言だけは、晶は自分の耳を疑いそうにもなった。

 

「晶さんがそんな風になっちゃったのは、るうのせいだから……だから、いいよ」

 

 同じ顔にしてやる。

 晶がそういった時、るう子はおどおどしながらも言ったのだった。

 

 ――いいよ。と。

 

 晶にはわからなかった。もっと怯えるなり逃げるなり許しを乞うなり、いくらでも少女らしい反応はあったはずだった。

 しかしるう子は違った。晶の激情を躊躇いなく受け入れる、そう言ったのだ。

 

「嘘だと思ってんだろ? あたしにはできないと思ってんの」

 

 そういって晶はるう子の頬にナイフを当てる。柔らかい頬だった。このまま手を引けば同じ顔にしてやることは、造作もないことだった。

 るう子は抵抗しようともしなかった。そればかりか、当てられたナイフを、それを握る晶の手に自分の腕を重ね自らナイフを更に頬に押し当てた。

 

「ううん、思ってない。それで晶さんの心がすこしでも癒えるなら、憂さ晴らしになるなら、るうはそれで構わない」

 

 無論、それが怖くないはずがなかった。るう子の手は震えていて、ぎゅっと唇を噛みしめていた。

 そんなるう子の不安が晶には文字通り、手に取るようにわかった。

 

 この少女は狂ってこんなことをしているわけではない。

 怖くてたまらないのを押し切って、自分の身の危険を顧みずその身体を捧げようとしているのだと。

 

「なんで……なんでそこまでするんだよ」

 

 晶には分からない。願いのない少女。それでいて人のためなら自己犠牲を厭わない性格。

 自己の強い晶にはるう子の考えがまったくわからなかった。

 

「そ、それ、は……」

 

 晶の問いに、るう子が詰まる。

 

「言えっていってんだろ! ぶっ殺すぞ!」

 

 イライラした晶はるう子を更に捲し立てる。そんな晶の様子に観念したのか、るう子は口を開いた。

 

「――好き、だから」

 

「……あ? なにが」

 

 

「晶さんのことが……好き、だから」

 

 

 アキラサンノコトガスキダカラ。

 

 晶は最初、まるで見当違いの言葉にそれが意味のある発言だということに気付くのに数秒かかった。

 好き? 誰が。るう子が。

 誰を? 晶を、蒼井晶のことを。

 

 小湊るう子は、蒼井晶のことが好きだから自己犠牲を厭わない。

 

 つまりは、そういうことらしい。

 

「……は? 意味わかんねーし。大体あたしはあんたのことなんか知らないし大ッ嫌いだしそれに」

 

「るうは、晶さんのことずっと前から知ってるよ」

 

 晶の言葉を遮って、るう子が言った。

 

「ずっと読んでた、晶さんの出てる雑誌。るうは友達とかいなくって、ファッションとかそういうのもよくわからなくて……でも雑誌の晶さんを見て、凄くキラキラしてて……るうなんかとは全然違うなって……」

 

「……伊緒奈のほうが人気があるでしょ。なんであたしを」

 

「伊緒奈さんも素敵だと思う。でもるうは晶さんがもっと素敵に見えた。なんでかな……それは分からない。気が付いたら晶さんの出てる雑誌をずっと追いかけてて……いつの間にかファンになっちゃってたの」

 

 晶が抱える劣等感。浦添伊緒奈に人気で劣るということは、常日頃からストレスの種になっていた。

 だからこそ、願いを叶えるセレクターバトルにおいてもその内容は自身のためのものではなく、浦添伊緒奈の破滅を選んだ。

 言ってみれば承認欲求が人一倍大きい。それが蒼井晶なのかもしれない。

 

 そんな晶だからこそ、るう子の言葉が純粋に嬉しかったのだろう。危害を加えるつもりだったるう子に対してその気持ちが薄れていた。

 

「こんな顔じゃあもうモデルは続けられない。あんたにいくら、何を言われようがもう……」

 

「……一緒に探そう。傷をどうにかする方法。るうがその傷をつけたようなものだけど……いや、だからこそ協力したいの。……だめ、かな」

 

 

 るう子は真剣なまなざしで晶を見つめる。

 その表情からはただの気休めではない、覚悟があることが晶にもわかった。

 

「別に。確かに傷をつけたのはあんたのせいでもあるわけだし。責任はとってもらわないと困る」

 

 晶はるう子の言葉は嬉しかったが、自らの体裁もあり、素直に受け入れられないので強がってそう言ってみせた。

 

 

 これがお互い交わるはずのなかった関係の始まりである――。

 

 

***

 

 

 晶は傷を見るたび、るう子が協力するといったあの日のことを思い出す。

 今は化粧で隠すという方法を思いつき実践しており、晶は無事にモデル活動を再開することができている。

 

「っと、るうるうを待たせちゃだめだよね」

 

 昔のことを思い出すこともつかの間、晶は風呂から上がりるう子の待つ自室のベッドへと急いだ。

 部屋のドアを開くと、ベッドにぺたりと座り込んだるう子の背中が見えた。まだ慣れない緊張のためか、ぼーっとしている可能性もある。

 晶はこっそりるう子に近づくと背後からその身体を抱きしめた

 

「ごめんねるうるう。待った?」

 

「ふぇっ!? あ、あのっ、いやっ……そ、そんなに待っては……」

 

 不意打ちに思わずあたふたするるう子。そんな姿を見て晶は微笑ましい表情を浮かべた。

 

「びっくりさせちゃったかなぁ?」

 

 そういいながら晶は片腕でるう子の首に抱きつきもう片腕はるう子の頬を指先でつついた。

 

「う、うんっ、ちょっとだけ」

 

「ぼーっとして何考えてたの? もしかして――」

 

 晶はそっとるう子の耳元に顔を近づけ、ふぅ、と軽く息を吹きかけた。

 

「また"シて"もらえると思ったの?」

 

「なっ――!?」

 

 瞬間、るう子は顔はおろか耳までもりんごのように真っ赤になった。

 

「あははっ、るうるう顔真っ赤だよー?」

 

「あ、晶が変なこと言うから……それでっ」

 

 るう子と晶が不思議な関係を築いてからしばらくたったある日。

 唐突にある"行為"が二人の間で行われた。それからは週に一回ほどのペースで、二人はその行為を繰り返していた。

 そして今日がその行為の日。期待と緊張、二つの感情が入り混じったるう子がぼーっとしているのは無理もないかもしれない。

 

「でも、まだお預けだよ。るうるう? 先にパンケーキを食べようね」

 

 そういうと晶はコンビニの袋から買ってきたパンケーキを取り出し一口サイズにちぎると、それをるう子の口元に差し出した。

 

「はい、あーん?」

 

「ぅ……あ、あーん……」

 

 晶に促されるまま、口を開けて待つるう子。晶はるう子のしぐさの中で今の状態がお気に入りの一つであった。

 目を閉じ口を開け、晶から食事が与えられるのを持つ。そんな姿を見た晶は言い知れない支配感を得ることができた。

 るう子が自分の言いなりになって、自分だけの物になって――そんな気分になった。

 

「ねえ」

 

 だから、決まって晶はるう子に尋ねる。

 

「るうるうは、あたしだけの物……そうだよね?」

 

「……うん」

 

 晶はるう子の頬に手を当て、じっと目を見つめて尋ねた。るう子は若干の間の後、こくりとうなずいた。反論することはなかった。

 いつものやり取り。晶はるう子の返事を聞くと満足そうに笑い、そして決まってこう言うのだ。

 

「よくできました。じゃあ次はるうるうが晶にあーんってして?」

 

 そう言って晶は自ら口を開け、るう子に顔を寄せる。るう子は晶に命令されるまま、パンケーキをちぎって晶の口に放り込む。

 晶が食べさせては、るう子が食べさせる。

 そんなやり取りを二、三回繰り返し、ようやくパンケーキを食べ終えた。

 

「美味しかった?」

 

「うん。晶が買ってくるお菓子、るう好きだよ」と笑顔でるう子が言った。

 

 この笑顔を見るたび、晶は買ってきて良かった、と心の中で安堵する。

 晶は傍目には強引で攻め気のある性格をしていたが、ことるう子との関係については臆病で、そして慎重だった。

 

 だから、晶はるう子の一挙一動をじっと見る。

 好き、という言葉。笑顔。はにかみながら話す姿。そのどれもが自分に対して好意的な反応であることを何度も再確認して、晶は心の平穏を保つ。

 

 どんなに安定しているように見えても、まだ晶の心は不安定なままだった。

 るう子なしでは、すぐにでもどうにかなってしまっていただろう。

 

 そんな状況が、少女たちの心理状態が、ただの"友達同士"では済まされないような、そんな行為に発展していくのは必然だったのかもしれない。

 

「るうるう、そろそろ」

 

 ぽつりと、晶がつぶやいた。

 

 ついにきた――。

 るう子は晶の言葉から、これから"行為"を行うのだと、察した。

 緊張で唇と喉が渇き、心臓の鼓動がより速くなる。

 

「うん……」

 

 るう子はベッドに横になり、自身の胸に手を当てながら晶から目を背けた。

 

「いいよ……」

 

 恥ずかしさをこらえながら、るう子が言った。

 

 そんなるう子の従順な姿を見て、晶は満足気に頷きるう子の上に馬乗りになる。

 

「じゃあ……今日もしてあげる」

 

 晶は顔をゆっくりとるう子の顔に近づけ、そしてお互いの吐息があたる距離まで近づいていき――。

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