努力しない禪院、だが、最強 作:禅院炉
五条悟を封印して、他者に六眼が移る可能性を考慮しなかったわけではない。
十数年前の星漿体の暗殺の件は失敗だった。天元と六眼の因果関係を破壊する為に、禪院甚爾を使おうとしたが、雲隠れでもしたのか探しても見つからなかったのだ。そもそも呪力のない、呪術師達からすれば無機物なような存在だ。彼が本気で隠れたら誰も見つけられないだろうと、早期に捜索を打ち切って、自らも干渉し天内理子を暗殺することは成功した。
しかし結局、その因果関係は切れなかった。だから封印とはいえど、世界から六眼が消えたのなら、自分という脅威へのカウンターガーディアンとして新たな術師に六眼が宿る可能性がある。
ぶっちゃけ、絶対宿るだろうなと思っていた。
それを差し置いても五条悟を封印したのは彼が強すぎたからだ。
指を20本揃え、受肉した宿儺なら勝てるだろうが、呪霊としてなら指を揃えても負ける。
彼の寿命が尽きるまで待とうかとも思ったが、何も彼一代だけの例外とは限らない。
五条悟が子を成していない今しかなかった。彼の才能が子孫にも遺伝するようなら、それは最大最悪の脅威になりうる。
「……誰に移ったのかな?夏油傑の呪霊操術じゃ意味ないだろうし、乙骨憂太か禪院真か……」
これまでの傾向からして六眼は強者かつ、伸び代のある者に宿る。
だとすると、呪力操作の雑な乙骨憂太か、真面目に鍛えさえすれば五条悟に迫る禪院真のどちらかだろう。
彼としては乙骨憂太に宿ってほしいと思っていた。遠いが五条家の血も入ってるし、時間制限がある以上、対処は難しくない。だが、禪院真は違う。先ほどは種さえ分かれば楽勝と言ったが、逆に言えば種さえ分からなければ、禪院真は両面宿儺に届きえる。
彼は禪院家だが、五条家が存在する前から、六眼の存在は『虎杖』の野望を阻んできた。
五条家に六眼が宿るのではない、六眼が宿ったり、宿りやすい傾向の者を積極的に取り込んだことで、五条家が独占しているように見えるだけだ。でなければ源流である菅原道真が持ってないとおかしいし、そもそも五条家だけに宿るなら皆殺しにしている。
六眼持ちを殺すこと事態は難しくない。あれが脅威なのはどれだけ殺し回っても最終的に立ち塞がる呪いのようなしつこさにあった。
御前試合で当主が共倒れし、犬猿の仲になる前は優秀な術師を生み出す為に血が混ざる機会もあっただろう。
だから禪院真に発現してもそれ事態はおかしくはないと思っていた。
魔虚羅の『適応』も厄介だ。本来、魔虚羅の適応は召喚される毎にリセットされるのだが、どうにも魔虚羅と自分自身、召喚されている時とそうでない時で法陣を使い分け、常時法陣を顕現させてるようで、一度もリセットすることなく、あらゆる物に適正を持っていた。
六眼もないのに呪力切れを起こさないということはこれも何らかの縛りやカラクリがあるのだろう。
……まさにクソチート。『虎杖』でもなければ匙を投げるような化け物だ。それに六眼も追加となると悪夢としか言いようがない。
オマケに彼の子孫は、その才能を継いでいるようで、十種影法術の使い手が出るのは時間の問題だろうとのこと。
五条悟が消えれば、彼は五条家を取り込むだろうし、そうなれば五条悟を封印した意味がほぼ消失する。
「……何て理不尽なんだ」
そう呟く彼の表情は明るかった。まるでやり尽くしたゲームの高難易度DLCが追加されたような顔である。
五条悟のようにシンプルにクソ強いのではない。攻略法のある強者と言うのは、やはり心踊る。
「うっ……ぐうっ!」
その時、脹相が目覚めた。
「やぁ脹相。起きたかい?いきなりで悪いんだけど、お使いを頼まれてくれないかな?」
「使いだと?ふざけるな!弟を解放しろ!五条悟の封印に協力すればそうする縛りだっただろう!!!」
「あぁ。だが生憎、ここには目ぼしい器がここにはない。それに本来の彼の脳もここにはない。…いいのかい?わたしがここで適当な非術師の身体を乗っ取って君の弟の肉体を解放させることは出来るが、そうなれば彼の魂は永遠に居場所を失うことになるよ?」
「チッ!ならば縛りを追加する!『虎杖』と『悠仁』の生存をお前は保証しろ!ただ肉体が生命活動中というだけでは駄目だ!俺たちのように思考し、身体を動かし、五体満足でなければ俺はこれ以上、協力はしない」
脹相にこの『虎杖』という器と虎杖悠仁に血の繋がりがあるのはバレていた。流石に物理的に近すぎたらしい。血の繋がりを読み取られて、顔の同じ虎杖悠仁も紐づる式に発覚した。
そして『虎杖』の中にいる私の存在も露見したが、彼はこの通り弟達の為に従うしかなかったのだ。
「ふむ。いいだろう。その縛りを受ける。その代わり、君は上にいる虎杖悠仁に宿儺の指を食べさせて欲しいんだ」
「おい!?話を聞いていなかったのか!?」
「大丈夫。虎杖悠仁はそんな柔な作りはしていないよ。一度に複数の指を取り込めば一時的に宿儺が表に出てくるだろうが、20本全て取り込んでも、宿儺を抑え込める『檻』としての機能を持たせているからね」
「加茂憲倫!貴様どこまで俺たち兄弟を弄ぶつもりだ!」
「どうするの?やるの?やらないの?大事な兄弟を見殺しに出来るって言うのなら構わないけど」
「チッ!!!!」
虎杖……否、加茂憲倫が取り出した宿儺の指を受け取り、脹相はその場を後にする。
「さて。獄門疆の処理が完了したら、真人の回収に向かおうか」
禪院真がこちらに来る前にすべきことは終えておきたい。まだ種の分からぬうちに直接対決は避けたかった。
少々計画とは違うが宿儺が目覚めれば、その対処に彼は追われるだろう。
その戦いで、種が露見すれば結構。虎杖悠仁ごと彼が宿儺を殺そうとした時は、「裏梅、頼めるね?」
「お前が私に命令するな」
つまりはそういうこと。盤面は未だ、この男の手のひらの上だった。
目が焼けるように熱くなって、爛れ落ちるかと思った。
反転術式を全力で回してるのに、一向に治らへん。なんやこれ?毒か?それとも何か寄生虫でも入り込んだのかと、30秒ほど悶えると、嘘のように痛みが引いた。
なんやこれ?
違和感。目を開けると、見える景色がまるで違った。
いや、ちがう。見える景色は同じなのだが、前よりもっと良く見えた。単に視力が良くなったのではない。風景を情報として事細かに読み取ることが出来る。
変化はそれだけではなかった。
禪院真の呪力操作は贔屓目なしに言っても、かなりずば抜けている。感情の起伏が激しい幼少期から制御をこなしていたのだからこれは天性のものだった。
だが莫大な呪力とその操作が出来たとしても、やはりロスは生まれる。
最近は経験していないが、五条悟を相手に魔虚羅を三連続で出した時は地味に呪力切れ寸前だった。
今は違う。呪力の流れが澄んでいた。まるで黒閃を決めた時のような全能感が溢れて、呪力の流れを完璧に掴んでいる。完全なる自己補完を成し得たと言っていいだろう。これなら魔虚羅を何回でも呼び出せそうだ。
「弟よ。何かあったのか?」
ん?あ、あぁ……どないしたんやろうな。何かいきなり強くなった、というか覚醒したみたいな感じや。
ナチュラルに弟呼びしてくる東堂にビクりと震えつつ、それ以上の状況に訂正する余裕もない真は素直に言葉を返す。
背中を擦ってくれる彼の顔を見れば、驚愕に染まった。
「六眼だと!?」
ふぁ!?六眼!!?うせやろ!?
「まさか、五条悟が死んだ?いや、ありえない、だが異常事態なのは間違いないようだ」
そうやな。でも何でボクに六眼?ボクって禪院家やよね?……実は五条家の血筋やったんかな?
お父さん、雑魚やし、おかしいとは思ってたけど。
「六眼は天元様と深い関わりがあると聞いたことがある。恐らくそれは、お前が天元様に選ばれたということだろう」
ボクが天元様に?ええ……会ったこともないのに。
「困惑するのは分かる。が、五条悟に何かあったのは間違いない。早速で悪いが、鵺を呼び出せるか?今のお前なら渋谷まで俺たちを乗せて運べる筈だ!」
……なんでキミ、そんなに冷静なの?あとボクより術式に詳しいのは何で?
あと、何か……見えすぎて気持ち悪い。空飛んだら吐いてまいそう。
「それなら問題ない。こんなこともあろうかと、(安眠用)アイマスクを用意していた。少し早いがお兄ちゃんからの誕生日プレゼントだ」
……この人、キモい!!!!