努力しない禪院、だが、最強   作:禅院炉

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閉じない領域

──チッ。まだかいな。一般人を閉じ込める帳の解除は。

無能どもが、ちゃんと働けや。あんな目立つ場所、六眼無くても容易に予想付くやろうが、ど阿呆。

 

禪院真は苛立っていた。

 

この戦い、両面宿儺と禪院真では勝利条件が違う。

 

宿儺は死ななければいい。どのみち今回の顕現は一時的なもの。本命への仕込みは既に済んでいるし、やるべきことはこれといってない。

ただ快不快の赴くままに暴れ周り、己の欲を満たせればそれだけで良かった。

 

反対に真は勝たなければならなかった。それも五体満足で生存し非術師達の命を救ってこその完全勝利である。全員は無理でも、最低八割は救わねば、今後の呪術界が大きく傾くことになってしまう。

 

「いいぞ!もっと見せてみろ!」

 

息つく間もない両面宿儺と魔虚羅の攻防。時に攻め、時に守り、そして僅かな傷を作る。まるで均衡しているようで僅かに己が勝っている、そう両面宿儺に自覚させることで魔虚羅へ狙いを集中させていたが、今ではその虚像が本物へと変貌しようとしていた。

 

(少し見誤ってたな。指が全部揃ぉてへんからって、その分、宿儺がバカになってくれるわけやあらへん。15本でも乙骨憂太以上五条悟未満の特級呪術師レベル。そこに、宿儺の頭脳がブーストされれば、充分最強に届きうる)

 

完全適応される前に、法陣のカラクリに気付かれたことが痛手だった。今の宿儺は体術だけで魔虚羅を削り取っている。

 

(何やねん。八岐大蛇と同じって。法陣は魔虚羅の専売特許やなかったんかい)

 

「ブラザー。そろそろ境界が崩れる」

 

最早、手加減などしている余裕はなかった。

東堂の不義遊戯とボクの六眼でアシストして、宿儺を極小のフィールドに縫い付けていたが、その糸は間もなく切り落とされるだろう。

 

「わーかっとる。少し伸ばして組み直す」

「どこまでなら許容範囲だ?」

「せいぜい100メートルってところやな。それ以上はまだ非術師がわんさか集まって震えとる。この帳やし、ボクの影もそこまで伸びへん。地味やけど、誰かが帳を解いてくれるまで時間稼ぎするかせぇへんなぁ~」

 

禪院真の影は術式の拡張により、大多数の人間を生きたまま回収することが出来た。重量の問題は適応済みだ。しかし今はその場から動くことが出来ない。

その為、一瞬。真人達を使おうかと考えた。

どのみちこんな状況だ。彼の悲願は達成出来そうにないし、与幸吉の術式は役に立つ。

だが禪院真は彼らのことを微塵も信用していなかった。呪霊を信用するとか考えられない話だし、与幸吉は自分の都合で高専を売ったクズだ。

縛りにない行動を取らせるのはリスクがあった。

 

「なんだ、時間稼ぎか。つまらん。もっと俺を踊らせてみろ。最強なのだろう?この俺を下して証明するといい」

「挑発にはのらんよ。ジブンはそこで一生魔虚羅と殴りあいじゃ。退屈なら虎杖悠仁に身体を返したらええんとちゃう?」

 

宿儺の飛ぶ斬撃が真の片腕を斬り飛ばした。

 

「ブラザー!!?」

 

その手を反転で生やした新たな手で掴み、宿儺へと投擲する。

 

「……黒閃」

 

ポツリと呟く。黒い閃光を纏ったその拳は「パンッ」防御しようとした宿儺の背後に入れ替わり、彼の背中を叩き付けた。

 

「ケヒッ。お前は五条悟とは違い、見所がある。やはり強者とはこうであらねばな!」

 

戦線を組み直す一瞬の隙をつかれた。

やはり侮れる相手ではない。

 

「すまない。カバーが遅れた」

「ええよ。腕なんていくらでも生えてくる。東堂は見えんのによーやっとると思うで。宿儺の目線や仕草で予測してるんやろ?どないなってんねん全く」

 

一秒一秒が濃密過ぎて時間感覚が曖昧になりそうだが、まだ1分も経っていなかった。

 

「虎杖悠仁が自力で戻ってこれたらとうっすら期待してたけど、そろそろ完全に乗っ取られてる可能性も考慮して殺すことも念頭に入れた方がええんとちゃう?」

「……ブラザー」

冗談だ。こんな時に何だと思うかもしれないが、こればかりは性分である。

そして虎杖悠仁をブラザーと呼ぶほど親交の深い東堂のことだ。てっきり怒るか強く否定するかと思ったら、思いの外思い詰めたような顔をする。

彼は感情では否定しても虎杖悠仁を殺すという選択を拒絶しなかった。

それを見て、禪院真は嬉しそうにはにかんだ。

 

「冗談や。冗談。本当にヤバくなったらそうするけど、まだその時やない。ボクは平和主義者やねん。どうしようもなくなったらそうするけど、呪詛師でもない人間は殺したない」

 

東堂葵。本当に分からない相手だと思う。初めは生粋の気狂いかと思ったけど、友であろうと斬る時は斬る。実力だけではなくその精神性も呪術師として高い水準を誇っていた。

 

(参ったなぁ……こういう有望な子を見ると、ボク嬉しくなっちゃうねん)

 

禪院真は後進育成に何よりも力を入れていた。

東堂葵は後進どころか先輩だが、何れ自らが先人を切って新風を吹かす呪術界、その後ろを着いてきてほしいと思った相手には、つい甘やかし過ぎてしまう悪い癖があった。

 

「最強ってのは大変やな。非術師を守る。友ダチの願いも叶える。その両方をやらんといけん」

「ッゥ!ブラザー!」

「気張りや。こっから先は先の見えない長期戦やで!呪力が切れたら容赦なくおいとっからな!」

 

二人の連携に益々磨きがかかる。

 

 

「なんだ、非術師などを守っていたのか?」

 

 

その時、宿儺の呪力が揺れた。

 

「東堂!!!影に潜れ!」

「了解!」

 

「折角の外だ。広く使おう」

 

宿儺が掌印を組む。その明らかな隙を魔虚羅が逃す筈もないが、彼はここまで制限していた斬撃を魔虚羅に浴びせて吹き飛ばした。

 

「さて……これをぶっ壊せなかったら最強の名は返上やな」 

真は今の斬撃を受けて二度目の適応を終えようとしていた魔虚羅を影に回収し、法陣を浮かべて薬師如来の印を結ぶ。

 

 

 

「領域展開」

 

「領域展開」

 

 

 

 

【伏魔御廚子】

 

 

【翳之帳】

 

 

二つの領域がぶつかり合う時、空に一切の変化はなかった。

 

 

史上初。閉じない領域がぶつかり合う。

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