努力しない禪院、だが、最強   作:禅院炉

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両面宿儺 15本

禪院真の閉じない領域は不完全な代物であった。

 

とはいえ伏黒恵のように領域を正常に展開出来ない為の急揃えの代物というわけではない。

 

閉じる領域そのものは幼少期に習得していた。

彼は自他共に認める天才があるが故、大抵のものは直ぐ習得してしまう。そして十種影法術は禪院家の相伝であり、領域についても過去の文献を漁れば出てきたので、そこまで苦労した覚えはなかった。

 

彼が閉じない領域を習得しようと思ったのは些細なことだ。

 

ある日、特級呪霊との戦いで領域の押し合いになったが、あまりに実力さがあると衝突する前に相手の術式は消滅してしまう。

せいぜい宿儺の指1本分がいいところだったその呪霊の領域の外郭はガラス細工のように砕け散ったが、もしこれが自分の領域だったのなら…。

 

禪院真は想像した。魔虚羅は最強の手駒だが、環境そのものを支配する領域に対抗するにはそれだけでは足りない。

 

簡易領域や落花の情で時間稼ぎしつつ、魔虚羅をぶつけて乗り越えようとも考えたが、思い描いた絵図があまりに情けない姿だった為、別の方法を模索した。

 

 

ならやはり領域には領域をぶつけるのが一番、格好i……無難だろう。

だが、領域の効力を最大限発揮するには莫大な呪力と集中力が必要とされる。

戦闘が長引いたとして、そのベストコンディションをいつまで維持出来るだろうか?

 

いくら格下が相手でも疲弊した状態ではもしかしたらがあるかもしれない。

 

その対策として見出だしたのが閉じない領域だった。

 

そもそも外郭さえなければ領域の押し合いは成立しない。どれだけ疲弊していても、領域さえ発動出来さえすれば術式のポテンシャルは120%引き出すことが出来る。

 

ここで注意なのが、伏黒のように建物や既存の結界を利用するのはNGだ。呪術的に言えばあれも立派な外郭であり、結び付きが弱い故に酷く脆い。それを呪力で強化するようでは本末転倒である。

 

空に絵を描くような、掴み所のない結界という特大の矛盾の上に成立させなければなかった。

 

これに取り組んだのは彼が11の時だった。

だが5年経った今でも完成させることは出来ていない。

閉じない領域とは参考のない、正に全く未知の領域であり、さしもの天才と言えど手探りから習得していくのは容易ではなかった。

 

試行錯誤してようやく形になったとはいえ、彼の中ではまだ60点といったところ。

 

 

もっとも天才が求める100点と凡人の100点が同じなわけないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

【伏魔御廚子】

 

【翳之帳】

 

 

閉じない領域が重なり合う。

互いに外郭のないそれらはまるでお互いを飲み込むように展開した。

 

 

「ほぉ、これが出来るか!」

「……またか。五条悟にも出来ひんやろって、ひそかに自慢やったんやで?適応も閉じない領域も、平安時代では珍しくなかったん?」

「案ずるな。これが出来る存在は俺を除いて二人しか知らん」

「その一人がボクで、もう一人はキミを呪物にした人か?」

「さて、どうだろうな?」

 

宿儺の斬撃が渋谷の蹂躙を開始する。

ビルが砂のように砕け、地面が土のように耕かされていく。

 

しかし火中にいる禪院真だけはまるで避けるように斬撃は廻っていた。

 

「(必中を相殺しただけではないな。影に重力でも付与したのか、斬撃が逸らされている)」

 

どれだけ術師として優れた技能を持っていても、15本宿儺は禪院真に術師としてレベルが劣っていた。

故に必中は打ち消し合い、相殺されることは織り込み済みであり、その分手数を増やしたが、やはりこの程度でくたばるような柔な男ではなかった。

 

「(いいぞ。禪院真。もっと俺に見せてみろ!)」

 

宿儺はこの差を埋める為に、縛りを追加。斬撃の速度を一段階上げる。

 

禪院真の周囲で円を描いていた斬撃が少しだけ本体に近づいた。

 

まだか。またも宿儺は縛りを追加。

 

円の範囲が狭まる。

 

 

まだ、縛りを追加。

 

 

また狭まる。

 

 

まだ!縛りを追加。

 

狭まる。

 

 

これで、どうだ!

 

 

「チイッ」

 

遂に斬撃は禪院真へと届き始める。あの式神から受け継いだ法陣の効果か、切断まではいかないようだが、これまで後方で指揮者を気取っていた奴が初めて痛みに歪んだ顔を見せた。

 

「ええの?そんなに縛りを追加して?ただでさえ実力差があるのに益々広がっちゃうやん?この前やった火山頭は縛りを追加し過ぎて自爆してたで」

「問題ない。気にするな」

 

宿儺の追加した縛りはどれもこの戦闘のみに限定したもの。それも勝敗を分けかねない致命的なものだけを除いていた。

彼は縛りに長けていた。

 

「それよりどうした式神使い。お前の本領はそれなのだろう?何故、出さない?まさか領域を展開している間、式神を召喚出来ないというわけでもあるまい」

「え、うっそ、バレてもうた?あー終わりや~まさか、ボクが領域内で式神を召喚出来ない雑魚やったことがバレるなんて、殺されてまう~」

 

【玉犬】

 

宿儺は足元に寒気を感じて飛び上がった。見れば自身の影からやつの式神が飛び出してきたではないか。

 

「成る程。貴様の領域内では俺の影も対象内か!」

 

先ほどまで禪院真は自身の影の中から式神を呼び出していた。恐らく領域の効果は領域内にある全ての影から式神を自由に呼び出せるといったところか。

ならば、影に注意を払い、距離を取れば問題ない。

 

「と、思うやん?」 

 

ガクンっと、宿儺の視線が下がった。

まるで地面に吸い込まれるように地に足をつく。

 

「(なんだ?)」

 

「ボクの術式は十種影法術。名前の通り、式神を十体呼び出せるだけが能力かと思った?ちゃうねん。十種影法術の真の能力は、十種類の影の法術を使えることや。そんで今見せたのが、『式神を十体召喚出来ること』、『影に本体を縫い付けること』まだたったの二つや」

 

あ、これ術式開示な? 

 

 

「ッゥ!!?」

 

 

両面宿儺に戦慄が走る。

ブラフか、真実か。真偽は不明だが、本当なら相当厄介な相手だ。

 

「(読めん。が、それだけの術式を使いこなすのは容易ではない筈)」

 

もし本当だとして、他の八種も同等の性能を誇るとしたら、一遍に使って制圧してしまえばいい。戦闘向きではないのか、条件がいるのかは分からないが、出来ない理由がある。それなら、次に取るべき行動は一撃必殺ではなく、縛りの追加による斬撃だった。

 

「そうよな。ここで下手を打って逆転されたらおもんない。だから今の攻撃を続けるしかない」

 

宿儺の次の縛りは、的を任意で固定することだった。

伏魔御廚子は術式範囲内全てに絶え間のない斬撃の嵐を起こすことが出来る能力だが、あえて領域内で的を絞ることにより、威力を底上げする。

 

「(やつのダメージが目に見えて少ないのはあの法陣が影響しているのだろう。あの強力な式神が未だ出てこないということは、共有は出来ても、一度に使えるのは一人のみ。ならば、攻め続けて、その手札を封殺する)」

 

真は落花の情を発動、そして貫牛と虎葬を呼び出した。

 

もちろん、自身の影ではなく、宿儺の背後にある石ころや御廚子の影を利用して。

 

「甘いぞ。ここはお前の領域であると同時に俺の領域でもある。呪力感知に気を配れば不意打ちなど無意味だ」

 

斬撃の的に二体を追加し、瞬く間に破壊。

 

「そんなことないと思うけどなぁ」

 

反転を使う余裕はないのか、血を流しながら真は惚けたような声色をしていた。

 

「(先ほどから不意打ち狙いだが、本体で攻め込まないのは格闘戦に自信がないからか?)」

 

一つ、一つ、確実にパズルを解いている感覚はあるが、まだ先は遠い。

 

このまま式神を残らず破壊して、丸裸にしてやればその余裕ぶった顔がどう恐怖に歪むのかと宿儺は楽しみで仕方なかったが、そこで、虎杖悠仁が目を覚ます気配を内に感じ取った。

 

「……チッ。これからだと言うのに、面白味のない」

 

予想以上に早い。やはりただ飲み込むだけではダメだ。器を支配するには、あの時のように心を折らねばならないのだろう。

 

「お?もしかして、おネムの時間?大丈夫?愛用の枕が無くても上手におねんね出来るかいな?」

 

「余興にしては楽しめた。次までお預けだ」

 

しかし時間切れで幕切れというのは味気ない。

 

「俺を興じさせた褒美だ。最後はド派手に飾ってやろう」

 

 

そこで、宿儺は勝負を捨てた。

 

 

(フーガ)

 

 

「あー。そういうことするん。さては虎杖悠仁への嫌がらせも入ってるな?お前のせいで非術師が大勢死んだんだぞー的な?……はぁ。危なかったぁ」

 

真は影の中に潜る。

 

 

 

その直後、渋谷の一部は焼失した。

 

 

 

 

 

 

記録──2018年10月

 

東京 渋谷 同ハチ公前通り

両面宿儺(器 虎杖悠仁)その顕現を特別一級呪術師禪院真と一級呪術師東堂葵が確認

 

緊急事態のため 両名が対処し

 

 

渋谷の一部が完全焼失

 

 

その被害による

 

重軽傷者多数 

 

死亡者0

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