努力しない禪院、だが、最強 作:禅院炉
「ふむ。意外と呆気なかったね」
禪院真は裏梅の攻撃を避けきれず氷漬けになった。
「ブラザー!?」「真!?」
寸前でこの二人を突き飛ばしていたが、そのせいで間に合わなかったのか。それとも宿儺との戦いが響いたのか。てっきり破ってくる前提で二手、三手先を用意していたが、取り越し苦労になってしまった。
先ず死んではいないだろうが、ここで欲を書くと痛い目を見そうだからね。
「お前は……俺?」
「ブラザーと同じ顔……兄弟?いや、双子?」
「俺にそんなの居な……いや、確か爺ちゃんが産まれて直ぐ亡くなったって言ってたような。もしかして生きてたのか?」
やぁ、悠仁。その通り、ボクは君の生き別れの兄さ。
「マジか!?て、そうじゃねぇ!ならなんでこんな所にいるんだよ!?」
「それにブラザーは非術師の家系の筈。ブラザーは宿儺の指を取り込んで、後天的に術師として目覚めた。だが同じ方法を取ったとしてもお前の洗練された呪力の流れ……一朝一夕で身に付けられるものではあるまい。そしてそんな術師が今の今まで無名だったとは考えられん」
「偽物って訳だな。おい!なんでわざわざ俺の真似をしてんだ!」
酷いなぁ。この体は紛れもなく君の兄のものであるというのに。
でも、私自身、この体にはあまり価値を感じていないんだ。もう使わないし、ここで懇切丁寧に説明しても意味ないんだよね。
ほら、真人。条件は整えたよ。存分にやり合うと良い。
「オッケー!ありがとう『虎杖』」
「真人!?なんで、お前は真が祓ったんじゃ」
「ブラザー(真)のことだ。呪具に加工しようと生かしていたのかもしれん」
「それをアイツが連れ出した?」
「そうそう!そういうこと!ね?」
真人はこちらに同意を求めるような目を向けた。
その中には宿敵を前に抑えきれない興奮と、僅かな恐怖を滲ませている。
(成る程、そこまで徹底して縛っているのか。下手に脱線させると、縛りで消滅してもおかしくはないし、ここは合わせておこう)
そうだね。私が連れ出した。
「ここでこいつを逃がしたら、真のせいになるかもしれない。東堂!ここで絶対祓うぞ!」
「おうよ!」
別に邪魔するつもりはなかったが、三人は私を避けるように地下へと降りていった。
……さて。
禪院真。どうせ起きてるんだろう?何故、出てこないのかは分からないが、少し話そうじゃないか。
「なんや、人が折角、整ってる最中に~」
目の前の禪院真からではない、私の影から声が聞こえてきた。
スゴいね。領域がなくとも干渉出来るのか。
「これぐらいは出来て当然やろ?」
ははっ。
底知れない。君、鍛えてないって言うけどほんと?
「それ。ボクのこと舐めてかかって、返り討ちにされた連中が毎回聞いてくるねん。たまに気を使って、実はめっちゃ裏で修行してねん。とか言うと努力しただけでそこまで強くなれるわけないだろ、化け物め!て言われるんだけど、正解ってあるの?」
人は理解の出来ないものを本能的に拒絶してしまうからね。君たちのような存在はどうあっても凡人にはなれやしない。
歩み寄ろうとするだけ無駄。無視するのが一番だと思うよ。
「良いこと聞いたな。次からは無視して殺そ」
おお。怖い。その対象には私も入っていたりするのかい?
「もちろん。何なら今からでもやり合うか?」
その事なんだが、ここら辺で手打ちにしないかい?
「嫌や。ここまでやっといて逃げられたら、ボク、呪術界の恥やん。ボクは汚名じゃなくて名誉を残したいねん」
悪くない提案だとは思うよ。六眼でこの下に何があるかは分かっているだろう?
二級から特級まで様々。夏油傑が乙骨憂太との戦いで失った玉藻前を除き、日本三大怨霊への畏れから発生した特級仮想怨霊も揃えている。いかに君と言えど、渋谷だけでは抑えきれない規模だと思うけどね。
「まー。東京はダメになるかもなぁ。それに非術師達に呪霊の存在がバレるんも面白くない。けど、君って真人を使って、それの数倍やばいことやろうとしてるやろ?それを止める為やったら必要な犠牲になるんやない?」
それを見送ると言っているんだ。
そもそもこの計画はわりと初期の段階で挫折していてね。何とか修正して形にしようとしたが、ここで無理をして完全に頓挫するより、また百年ぐらいかけて練り直した方が良さそうと思ったんだ。
「諦めるって言って欲しかったなぁ……まぁ百年後はくたばってるやろうし、ボクの名に傷がつくことはないんやろうけど」
なんだ君は名前を残したいのかい?
五条悟と並び、今のままでも充分後世に讃えられるほどのものだと思うけど。
「ボクはまだやろ。呪術総監部を手駒にして、それで完成や。そんで五条悟は多分、知ってる世代が全滅したら、六眼と無下限の抱き合わせだったから強い人程度に落ち着くと思うで。アイツ、政治欲とか皆無だから、せいぜい強い呪霊を倒したぐらいしかインパクトのある話がない。それで教師やってるから、教えるのが上手くて、優秀な後進をバンバン排出したって話ならまだしも、教えるの下手やしな。実際に観たことないやつからしたら才能でゴリ押してるだけの凡夫や」
嫌な時代になったね。強者が忘れ去られる世界か。
「昔もそうやったと思うよ?ただ強いだけなら皆忘れる。宿儺が覚えられているのだって、大勢を殺して恐れられたからやろ?
別に術式やなくて、毒や爆弾でも、大勢殺せばそれだけで恐れられる。名を残すのに強さは関係ないねん。大切なのは立ち振舞いや」
興味深い話だね。
でも、道理だ。強者という記号に意味を持たせるのは使い方次第。君はそれの扱いに長けていた。
ならばこそ、今回は見送るべきじゃないかな?
「なんで?」
年々呪術師の質が下がっているのを感じているんじゃないかい?
呪霊の数が増えるにつれ、まるで反比例するかのように。
今はまだ採算が取れているが、その均衡もいつかは崩れる。
私のやろうとしていることは、それの解決にもなっている。
後で資料を屋敷に送るね。
それに、打倒私という目標があるとそっちも立ち回りがしやすいだろう?
私の野望を阻止する名目で、そっちをまとめ上げたらいい。
「…………縛りを結ぶ。五条悟の封印されとる呪物を地球の外に出すのはなしや」
流石の彼も、星を追放されたら終わりだもんね。
いいだろう。承諾する。
「そんで、今回は見逃す。だけどそっちが意図してるかしてないかに限らず、ボクの立場を脅かした場合、ボクは君を殺す」
当然だね。それも承諾だ。
「そんで最後だけど、この【真人】は諦めろ。これはボクら禪院家の物や。次にポップしてくるまで大人しく待つんやな」
それは少し困るな。君が存命の間だけ、とは出来ないかい?
「駄目や。ボクかボクが許可した禪院家の者。もしくはボクの血を引く直系の子孫しか使用は認めへん。あれの術式は極論何でも出来るからな。悪用されるぐらいなら破壊する」
……ふむ。分かった。それも承諾する。
「いま、ボクの子孫に何かしようと考えたやろ?」
ハハ、まさか!
「20歳以下のボクの子孫に手を出せない。これを追加な」
おや?成人したらいいのかい?
「子供の頃ならまだしも、大人になって不覚を取るようなら、その時点でボクの血は終わりや。絶やした方がええ」
厳しいね。君のことだ。どうせ自分以外が使用出来る回数も設けるんだろう?
「せやな。一回使ったら壊れるようにしようと思っとる」
ほんとうに徹底してるね。だが、それだけあれば充分だ。その縛りも承諾しよう。
「じゃあさっさと帰ってくれる?目障りやねん」
そうだね。今回のことはテロ集団が渋谷を襲撃したとでも処理するといい。どうせ電子機器への対策はしてるんだろ?
「言われなくともそうするわ。あ、ボクを凍らせたやつおる?もし、お前に愛想尽かしてボクにつくようなら良い席用意したるって言っといて。この氷、ごっつう気持ちええ。脳に染みるわぁ~」
伝えておくよ。けど、『彼女』は宿儺の従者だからね。期待はしないでくれ。
「お、女か。ええやん。呪詛師やし、最悪無理やりってのも……でも宿儺の従者ってことは呪霊か?呪霊って子供残せるんか?無理なら宿儺を餌に呪具にするのもありやな」
噂に違わぬ口の悪さ。
これ以上居たら裏梅が暴走しそうだ。私は手早くその場を去った。
渋谷事変 閉門
次回、最終回