努力しない禪院、だが、最強   作:禅院炉

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番外編
覚醒真希VS禪院真 上


「やっぱ、止めとこうか。禪院真を襲撃するの」

 

それはもしもの話。

 

「はぁ?何を今さら。禪院真の持つ天の逆鉾の奪取。そして禪院真は個としては五条悟に劣り、その分、軍の統率に長けている。ならばこそ単独活動時を狙うべきだと言ったのは貴様ではないか」

「そうなんだけどねぇ。やっぱり何度脳内シミュレーションしても、誰か一人は祓われる。来る渋谷での決戦を前に、戦力消費はなるべく避けたいんだよ。だから君たちには天の逆鉾ではなく領域展延で五条悟の無限に対抗して貰おうと思ってね」

 

最悪、全滅だね。

と、まさに触らぬ神に祟りなしとばかりに直前で方針を変えた呪霊組。

 

これだけなら禪院真が渋谷に向かい、運命は変わらないように思えるが、この分岐点では彼は渋谷へと向かわなかった。

 

 

なぜか?

 

 

それを語るにはそもそも何故、東堂葵が東京の高専に駆けつけたのか説明せねばなるまい。

渋谷に向かっていた彼が、いくら呪術総監部からの命令であったとはいえ、あそこまでベストなタイミングで到着するものだろうか。

 

高専はその秘匿さ故に人里から離れた場所に建てられている。同じ東京とはいえど、それなりに距離があるのだ。

 

まるで事前に誰かから向かうように言われていたのではないか?

 

禪院真は疑いはしたが、そのことについて結局聞けずじまいだった。

この男なら「ブラザーの縁に導かれた」と本気で言って来そうだったので怖くて聞けなかったのだ。

 

しかし、それは間違いではなかった。

 

 

未登録の高い知性を有した特級呪霊が複数。その中にいる魂を操る術式を宿した呪霊真人。

戦力という意味でも、理を侵すという意味でも、その存在は無視できない存在だ。

正史では禪院真が祓ったと、そういうことになっていたが、もしフリーであったのなら。

 

『彼女』は東堂をそのまま渋谷へと向かわせただろう。

 

 

そして自らの軽率な発言が結果的に、彼を呪詛師へと転じさせてしまった。

その責任を取るべく、代わりに向かっただろう。

 

 

 

「中々刺激的だね、プレイボーイ!どんな女がタイプかな?」

「……九十九由基?」

 

だが、それは過ちだった。

 

「なるほど、なるほど……はぁぁん。そっちはガチって訳ね。ならこっちも出すもん出さないと無作法やね」

 

質問には答えず、ノータイムで掌印を組む。

 

「あれ?何か思ってたのと反応違くない?」

 

それに九十九由基は戸惑った反応を見せた。

強者には一定の敬意は払う青年だと聞いていたからだ。

 

「何がおかしいねん?ジブンほどの相手にナメプするほどボクはアホやあらへんよ」

「私って君に嫌われるようなことしたかな?いや、初対面だよね。先ずは自己紹介からの話し合いが筋ってものじゃないのかい?」

「抜かせ。ジブンの立場分かってないん?そこらの有象無象ならともかく、夏油君を誑かしたアンタがここに現れた。状況証拠だけで十分やろ?」

「誑かしたって……そんなつもりはなかったんだけど」

 

「領域展開……」

「いきなりかよ!?」

 

禪院真に非があるとすれば聞く耳を持たなかったこと。

 

九十九由基に非があるとすればいくらなんでも状況が悪すぎる。まさか東堂葵が最適解だと思わなかっただろうが、最低でも高専関係者を一人は同伴させてくるべきだった。

 

 

 

この戦い、最終的に両者は和解すれど禪院真は渋谷に間に合わなくなる。

 

そして死滅回遊は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日 禪院家

 

「で?死んだん?」

「死んでた方がマシやな。お顔ぐちゃぐちゃになって、見てられん様になってたわ。あれじゃあ乙骨憂太も勃たんやろう。元がべっぴんさんなだけに残念やね。まぁボクなら娶るけど」

「まるでジブンのことを聖人みたいに言うてますけど、それって孕み袋として利用価値があるならかまへんってことやろ?それってどうなん?女として見てへんってことやないの?」

「変なこと言うね。実の姉を女として見れる訳がないやん」

 

うわードン引きや。直哉は真の()()()()()()()ながら呆れた声を漏らす。

その更に三歩後ろを禪院真の母親が歩くが、彼は真の三歩後ろを歩いていた。

強制されているわけではない。好きでやっていた。だからって絆されたわけでもない。

 

何の前触れもなく、彼は懐のナイフを振りかぶる。

 

「呪具持ち歩くのはダサいんじゃなかったっけ?」

「ただのナイフや。玩具やん」

「そっかー。あ、お母さん、それ片付けといてー」

 

粉々になったそれを足で避けながら、二人は何でもないように会話を続けた。

 

つまりそういうことだ。

禪院直哉は禪院家のトップ2で禪院真の右腕になる。

禪院真のことは認めていないが、いつでも殺しに来たらいいという彼の挑発に乗って、隙あらば命を狙っていた。

直哉は叩けば伸びると思っている真は容赦なくボコれるので、お互いのストレス解消にもなってWin-Winである。

 

「にしてもどうしよっかなぁ……。呪霊の存在がバレて、死滅回遊なんて酔狂なもんが始まって、呪術界の歴史が胃をひっくり返したみたいに無茶苦茶や」

「原点回帰と思えばええんとちゃう?平安の頃には非術師も呪術の存在は認知してたんやろ?」

「日本人だけならええねん。せやかて海外の非術師にバレてみぃ。化け物だって差別されるだけならまだしも、新エネルギーだ、モルモットだって、戦争ふっかけられたらどうすんねん」

「そんなん、全部殺したらええやん。出来るやろ?お前なら」

「出来なくはないけど、それはそれで別の問題が発生すると思うで。それに核落とされたらボクはともかく国が終わる」

「天元様の結界で防げんのやろうか?」

「っ!その発想はなかった。原爆やら何やらで無理やと思ってたけど、元々やるつもりがなかっただけかもしれん。今なら呪術界のためってことで説得出来るかも……こんど、面会頼んでみるか」

 

その時、「あっ」と声を漏らして立ち止まる真。

 

「直毘人死んだわ」

 

禪院直毘人は渋谷事変で漏瑚に焼かれていた。

円鹿をつけていたが、反転術式のアウトプットは自前のものより質が少し落ちる。根気次第ではいけると踏んでいたが、ダメだったらしい。

 

「葬式の用意しないとな。電話お願い出来る?」

「いや、さらっと流そうとしてるけど、僕のパパが死んだんやで?ジブンの先代やし、小さい頃は一緒にアニメ観てたやん。もう少しなんかないの?」

「ん?あー。みんな手加減するなって言ってるのに、手加減されるのが、嫌で仕方なくて(みんな弱すぎて手加減してると思っていた)退屈やったから、アニメで暇潰してただけや。ここでDVD観れるの直毘人の部屋だけやったしな。だから死んでも……うん。これと言って特にないわ。強いて言うなら今までご苦労さん?」

「ドブカスがぁ……まぁええわ。それはこっちで片付けとく」

「あんがと」

 

既に禪院真が当主になっている為、禪院家としては優秀な人材が一つ失われた程度の痛手。

彼の遺言に伏黒恵を当主にする力などないし、禪院家の資産をどうこうする権限もない。せいぜい個人で貯め込んだ貯金の分配ぐらいなので、直哉としても死後のいざこざで何か考えることはなかった。

 

暫くして二人は、襖の前で止まる。

真の母親がそれを開くと、禪院家の術師が勢揃いしていた。

 

「よ、急で悪いね」

 

禪院真は慣れたように腰掛け、全員の顔を見渡す。

その中には彼の子や先日、夏油傑の保護を理由に嫁入りした二人の姿もあった。

 

(来てないのは真依お姉ちゃんと真希お姉ちゃんだけか……お父さんが来てるのは意外やったな)

 

達磨になった筈の禪院扇は見掛け上は両手両足が揃っていた。単なる義手や義足かと思ったが、呪力の流れが変なので、呪具を特注でもしたのだろう。

 

(その消費量からして、もって30分ってところなのにようやるわ。肩で息してるの、みんな気付いてるで)

 

弱い癖にほんと見えっ張りな人だ。ほとほと呆れながら、わずかばかりの子供心を働かせて、手早く話を終わらせようと努める。

 

それでもこの1000年に1度の大事態に話が30分で纏まるわけもなく、途中から隅で石のように固まっていたが、みんな見ないふりをして、禪院真の話を聞いていた。

 

 

「そういうわけで、五条悟がいなくなったことは残念やが、御三家のパワーバランスはうちの一極となりました。この絶好の機会を逃さず、禪院家は他の御三家を解体する為に動く。そして呪術総監部、引いては日本を取るため、みんなには馬車馬のように働いてもらうで。この一年は大変忙しくなりますが、頑張って行こうなぁ~」

 

ピンチはチャンスだ。禪院真は大きく動くことを決断した。

禪院家がこの国の頂点となる。そのことを当然として受け入れつつ、興奮しないものは禪院家にはいない。

あの直哉ですら、頬を高揚させていた。

ひとまず、禪院家の方は大丈夫かと、それを横目に禪院真は次なる課題に頭を悩ませる。

 

虎杖悠仁に加茂憲紀、死滅回遊……色々とあるが、本当にヤバイのは意識外からやってくるのだと翌日彼は思い知ることになる。

 

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