努力しない禪院、だが、最強 作:禅院炉
あれから禪院家はてんやわんやだった。
死んだと思ってた何人かに息があり、慌てて蘇生処置を行ったり、大量の死者の供養の為に坊さんを寺総出で呼んだり、オラついてきた五条と加茂家を禪院真と直哉の二人でボコしたり、ほんとストレスでどうにかなりそうだった。
禪院真は愛する嫁さん達に恥ずかしい姿は見せられへんっと死に物狂いで働いたが、3徹したのなんて生まれて初めての経験だった。
「それでな、本家が無茶苦茶になったから暫くはボクの屋敷が本家として扱われるようになったんや。ボクのハーレムにむさ苦しい男どもを招き入れんといかんとか、ほんと悪夢やわ~」
「えっとその……俺らを殺しに来たんですか?」
「いやいやいや伏黒君は関係ないやん。虎杖悠仁も、もうそれどころの話じゃないって言うか、まぁ愚痴を聞いて欲しいわけよ」
禪院真は現在、伏黒達と行動を共にしていた。
普通に禪院真がスマホで連絡を取り、合流しただけだが、話を聞く内、二人の顔が青くなっていく。
最初は伏黒恵の恩人でもあり、師匠でもある人だ。五条悟が封印された今、大きな戦力になってくれると期待していたが、今は何故この人は暢気に話しているのだろうと怖くて仕方がない。
もしかしてこうして話しているうちに、禪院家の術者が包囲網を築いているのだろうか?
伏黒は虎の子である魔虚羅が禪院真の呼び出す魔虚羅(調伏済&適応リセットなし)の完全下位互換であることを自覚している。
(虎杖、お前なら正面から行けるか?)
(無理無理!この人、殴り合いも普通に強いもん!まだ呪力も扱えない頃だったけど、二人してボコされたじゃん!)
フィジギフ並とはいかないが、禪院真はフィジカルでも行ける。そのタッパと筋肉は飾りではないのだ。
加えて黒閃にも愛されている以上、虎杖でも勝る面はないに等しい。
禪院家に呪具を取りにいくと一旦別れただけの真希が、何をどうすれば一族郎党という強行に及ぶに至ったのか。
情報が少なすぎるが、自分達はその身内だ。良くて人質、最悪、連帯責任で死刑だろう。
「その、何で……俺たちなんです?真さんには奥さん達もいますし、こんな忙しい時にわざわざ東京まで来なくたって良かったんじゃないですか?」
「あーねぇ。まぁ、君たちって今、あのサルと行動を共にしてるでしょ?だからワンチャンいたらぶっ殺そうかなってのと、虎杖悠仁君。君の秘匿死刑の執行猶予取り消し、それ、取り消ししといたから」
「え?」
そしてしれっと乙骨憂太の殺した発言はウソだと報告している。理由はサルの想い人だからだ。単なる嫌がらせに過ぎない。
「その報告がしたかったってのと、これから高専に向かう予定だったからついでかな」
「何でそこまで真がしてくれるんだよ。宿儺のことは俺の自業自得みたいなもんだろ?」
「だからそれどころじゃなくなったんよ。今の禪院家に裏切り者のサルに加えて、両面宿儺まで抱える余裕はない。総監部は上手いこと言いくるめたから、これからは堂々と高専の門を潜ったらええで」
「でも真希さんは?」
「はははっ。伏黒君。きみ?ボクが身内の恥の後始末を余所に任せるようなみみっちい男に見える?指名手配なんてしとらんよ。あれは禪院家で方をつける」
「殺す、ってことですか?」
「楽に死ねるだけ温情やろ?」
「真希先輩にも何か理由とかあるんじゃねぇか?例えば京都の真依先輩の遺言で禪院家をぶっ壊してと頼まれたとか」
「だったら尚更殺さないかんやん。禪院家はボクのホーム、生きる意味全てや。あん時は油断して逃がしてしもうたけど、次はない。今度こそ確実に殺す」
「本当に油断だったのか?実は殺したくなかったんじゃないの?」
ピシリと禪院真の表情が固まる。
ここで、怖いもの知らずな質問が出来るのは虎杖の美点と言えるだろう。
「おいバカっ!」
「だってよう。いくら考えても真希さんが真から逃げきれるイメージが沸かねぇんだよ。その、フィジカルギフテッド?とかいうやつになって、強くなったって言っても、五条先生クラスではないんだろ?ましてや成ってばかりで力を使いこなせるとは思えねぇし、無意識のうちに手加減してたんじゃないのか?」
それは呪力を知覚することに成功したものの、宿儺の指1本分の呪霊になす術もなく弄ばれた経験談から来ているものだが、伏黒も確かに、と顎に手をあてる。
伏黒は一度、禪院真が呼び出した魔虚羅を見たことがあるが、あれは人間がどうにか出来る存在ではなかった。
五条先生はあんなん楽しょーと笑い飛ばしていたが、それでも『夜』なら五分五分ぐらいかなっと言っていた。
夜だと何が違うのかは聞いても教えてくれなかったが、禪院真はあれでまだ何か隠し球を持っているということだ。
そんな人が本気で殺そうとして逃がすようなへまをするだろうか?
「いや、あん時はな。脳の一部を焼いて、反転で治すって無茶をぶっつけ本番でやったせいで呪力を使い過ぎてしまったんよ。ほら、ボクの呪力出力ってバグってるから、制御ミスると一瞬で空になるんよ」
「脳を焼くって、とんでもないことしますね。下手したら後遺症が残りますし、術式にも影響が出かねないでしょうに」
「そういや、術式って脳に刻まれてんだっけ?」
「そうそう。だからやったはいいものの、こんな無茶もう二度とせんわ。そもそもボク、法陣あるから術式なくても最強やしな」
「ん?それって術式とは別扱いなんですか?」
「うん。意外やろ?出し入れには影を使うけど、術式が焼き切れても消えんのよ。伏黒君も魔虚羅を調伏出来たら真似してみるとええ。呪力量が足らんから出しっぱは無理かもしれんけど、戦闘中に浮かべておくと便利やで」
「じゃあ魔虚羅を出さなければ心臓を潰されることも、そもそも領域を使う必要すらもなかったんじゃね?」
ピシリ。本日二度目の硬直である。
「法陣さえあれば真希さんの攻撃は届かないんだろ?ならわざわざ魔虚羅ってやつを出さなくたって、真が直接やれば良かっただけじゃん。やっぱり真は真希先輩をっ」
殴ったのは伏黒だった。
「すいません。こいつ、悪気はないんです」
「やめーや。伏黒君。そんなん伏黒君もボクがサルを殺したくなかったと思っとるって言ってるようなもんやん。ホントに油断しただけや。次会ったら殺す。それは絶対や」
「……もう、どうにもならないのか?姉弟なのに、殺し合うだなんて」
「真依お姉ちゃんに何を吹き込まれたのかは知らんけど、落とし前をつけへぇんことには面子ってものが立たん。ボクはこの世界で生きるって決めて、真希お姉ちゃんはサルになって山に帰るだけならまだしも、身内を殺し過ぎた。どうにもならへん。ならせたらいかへん。呪術師やってたら分かるやろ?私情を捨てる時が今や」
くしゃりと笑って、二人の肩を叩いた。
「…………すまんなぁ。なんか、辛気臭い空気にして。渋谷のことで何もしてやれんかった代わりに、力になってやりたかったんやが、こんな訳で、うちも首の皮一枚繋がってるギリギリの状況や。サルのことが片付いたら禪院家も死滅回遊に関わらせてもらおう思っとる。それまで二人とも、気張ってや」
「……おう」
「はい」
哀愁漂うその背中は儚げで、見ていられなかった。
とても同い年には見えない。彼の背負う業とは果たして背負わされて当然のものなのだろうか。
「……真希さんに何があったか聞いてみるか。解決の糸口があるかもしれない」
「だな!」
これより数日後。
死滅回遊のコロニーが一つ、禪院真によって