努力しない禪院、だが、最強   作:禅院炉

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鹿紫雲一VS禪院真 下

「はぁ。さっそくかいな」

 

禪院真は物心ついた時から呪いを祓っていた。故に強者と対峙した経験はそれなりにあると自負している。

それこそ魔虚羅を調伏する前は苦戦を強いられた場面はそれなりにあった。

 

──ピシリっ。

 

久しく感じていなかった感覚が稲妻のように全身を駆け巡る。

全盛期の乙骨憂太……いや、五条悟に勝るとも劣らない術師として鍛え上げられた才能の極致。

まず、現代の術師ではあるまい。これほどの存在が自分の耳に入らないわけがないのだから。ならば受肉した過去の術師。それもさぞ高名な術師だろう。

 

「もし、名前を聞いてもいいでしょうか?」

「あ?」

「いや、ね。過去の術師が現代に蘇ったって、話には聞いていたけど、実際に目にすると感慨深いものがあって。……もしかして、ボクらのご先祖様かな~って」

 

興味本位。それとわずかばかりの打算もある。

禪院家は御三家に数えられることから分かる通り、日本の歴史に古くから関わっている。真は歴史が好きというわけではないが、教養としてそれらの知識を修めていた。

 

知っている術師なら、もしかすれば術式やその弱点まで分かるかもしれない。

 

 

「鹿紫雲だ。悪かったな俺に子はいねぇ」

 

 

まぁそう簡単にことが運ぶわけもなく。

 

「ボクの名は禪院真。会うんは最初で最後になるやろうけど、これだけ覚えて逝ってな?」

 

 

しれっと用意していた閉じない領域が展開される。

 

 

 

 

 

「ハハッ!詐欺師みたいだな!オマエ!」

 

あまりにも自然な態度だった。

呪力制御をおざなりに、まるで世間話でもするみたいに会話のキャッチボールを投げられた。

だから当たり前のように返してしまった、その数秒。戦場では万金よりも価値がある。冷静になれば場数を踏んだ術師が死地でそんなあからさまな隙を見せるとは思えない。

 

別に領域を展開するぐらい待ってやっても良かったが、ここまで上手く化かされるといっそ気持ちがいい。

 

鹿紫雲は地面に如意を打ち付ける。

雷撃の属性を持った呪力が地面を走り、結界の外郭をソナーのように捉えようとするが、コロニーの外郭にぶつかって霧散した。

 

それ即ち、禪院真の結界がコロニーを覆い尽くすほど巨大な物である。

もしくは、

 

「外殻がない!」

「せーかい!」

 

となれば領域の破壊は不可能。

鹿紫雲の練り上げられた呪力は身体能力を限界以上に引き上げて、地面を踏み抜きバネのように飛び出し、真の顔面を捉える。

 

「ぐっぅっぶね!速いね!キミ!フィジギフ並やん!」

 

鋼のような手応え。

体は追い付かなかったが、呪力の防御は追い付いた。

撃ち抜いた筈の鹿紫雲の拳が砕ける。

 

「馬鹿げた呪力操作だな」

「まーね。六眼には及ばんけど」

「六眼?……あー、五条家のやつか」

「お。五条家を知ってるってことは平氏が滅んだあとかいな?確かそれぐらいなんよ正式に五条家が出来たのって」

「さぁな。この身体の記憶かもしれねぇぞ」

「そやった!呪術師で五条家と六眼を知らんやつはいないやん!」

 

一息。その間に禪院真が次なる手を打ち出す。

 

「させるかよ!」

 

如意の投擲。空中で一直線に影を走らせる、それを地面から飛び出した虎葬が掴み取る。

その瞬間、虎葬は腕から足の先端まで、雷撃の嵐。

まるで雷を浴びたように黒ずみとなって、消滅してしまった。

 

「こわっ」

 

溜めた電荷の殆どを消費したが、これぐらい直ぐに溜まる。

 

「しっかし、それって術式かぁ?なんか違和感あるんやけど?」

 

ここで術式開示するのはアリだ。

術式ではないが、電荷(じゅりょく)の説明をするだけで呪力消費を抑えられ、デバブの効果も多少上がる。

 

だが、鹿紫雲の直感が言っていた。

喋るよりも手を動かせと。この手合いは情報を与えるだけ不利になる。

 

僅かに残った電荷を帰還電荷で呼び戻し、如意を再び手に取った。

 

「あー、殴り合いパターンね。完全に理解した」

 

それに答えるように真は影から赤い三節棍──游雲を取り出した。

 

「出来んのか?」

「まぁ、それなりに」

 

構えだけは様になっているが、呼吸が少し遅れている。それだと30手も打ち合えば酸欠になる。言葉通りあまり得意ではないのかもしれない。

当然、それがブラフの可能性も視野に入れつつ、打ち出した如意と游雲がぶつかり合う。

 

腰の入ったどっしりとした手応え。完璧に受けられた。

だが、これは受け稽古ではない。次を譲る気など毛頭なかった。

如意の電荷が弾け、相手の視界を覆う。

喉を突いて、頭を如意で振り抜いた。

 

並の術師ならこれでくたばるが、真は游雲を横薙ぎに振るう。

 

「ハッ!」

 

飛び上がり、そのまま頭を足場にして更に跳躍する。

 

「雷に打たれたことはあるか?」

 

鹿紫雲の電荷は術式ではない。術式ではないが、現代科学をインプットしたことにより、電荷(じゅりょく)を用いた擬似的な雷の再現に成功していた。

 

「珍しい体験させてくれてありがと!」

 

呪力防御のみで凌がれた。目に見えた負傷はなし。

空中で無防備になった所へ游雲が伸びる。

 

「あんま、ワクワクさせんなよ!」

 

どうやら電荷(じゅりょく)に耐性があるらしい。

動きに一切の鈍りがない。呪力の厚みで防いだのかと思ったが、()()()()()()()()()()。自分の半分ほどだ。これではカバーしようにも限界がある。

 

圧倒的な呪力制御と、電荷(じゅりょく)への耐性。

そして先程の式神を見るに、本領はそこじゃない。

 

鹿紫雲が術式を使わないように、禪院真も術式を殆ど使用していなかった。

 

堪らないと鹿紫雲は笑いを抑えきれなかった。

そして、「所詮、この程度か」と侮りが宿るその瞳を見て、どうしようもなく答えたくなってしまう。

 

 

 

──ダメだ。これは宿儺まで取っておかなきゃならねぇ。

 

 

生涯に一度きりの術式。それを使ったら最後、鹿紫雲は戦闘後に死亡する。

 

彼は過去の術師であり、宿儺と戦う為に400年待った。こんな所で使うべきではない。ここで使うようならどのみち、宿儺には敵わないのだと敗北を認めることになる。

 

「なんて言うか。キミ、弱いね」

 

 

ブチりっ

 

 

「なぁ、オマエはその強さをどうやって手に入れた?生まれながらに持っていたか?」

「見て分からん?努力なんてしたことない、生まれ持っての最強や」

「弱さを知らず、どうやって他者と関わる。どうやって他者を慈しむ。俺には出来なかった。自分以外の人間は脆い土塊でしかなかった」

「……」

「教えてくれ。強さとは孤独なのか、際限なく力の発露を求め彷徨い続けることが強者に課せられた罰なのか?」

 

その問いに、禪院真はこう返す。

 

「どーてーやろ、ジブン」

「は?」

「五条悟といい、ジフンら自称最強はバカばっかなんか。呪術師が衰退する理由って実はこれかぁ?」

 

ボリボリと頭を掻いて、それで游雲を影に仕舞う。

 

「あんまり呪力の無駄使いはしたくないんやけど、ジブンが五条悟を更に拗らせたパターンなら、このコロニーの実力者は軒並み殺し尽くしたって感じやろ?」

「……あぁ」

「じゃあ、特別に見せたる。ボクの魅力。受けきれたら、分かるんちゃう?モテる最強ってやつが」

 

そして日が落ちる。

 

空に浮かぶ、月が怪しく揺らめいた。

 

コロニー全体が悲鳴を上げるように軋む。

影のような領域が波のようにうねりを上げている。

 

その中心に立つのは禪院真。自分の半分もないと思っていた呪力が影の中から無限に溢れてくる。

縛り。それも限られた場合のみ解放するタイプの強力な物。

推測するに自らの呪力の殆どを影に流し続けていたといったところか?

それが解放された今、まるで先程とは別人……別、次元だ。

 

 

───あぁ、こいつだ。

 

 

代替品じゃない。こいつだったんだ。

 

 

「……布瑠部由良由良」

 

 

禪院真が掌印を結び空に浮かぶ、巨大なそれを見て。

 

 

鹿紫雲一は術式を発動した。

 

 

彼の直感が言っていた。

禪院真はこの瞬間、きっと宿儺よりも強い。

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