努力しない禪院、だが、最強 作:禅院炉
「よくやってくれた。これで羂索も死滅回遊の永続に向けて暫くは奔走しなければならないだろう。あとは私だが……頼めるかな」
ええ、勿論。
ボクは天元様に案内され、彼女の本体を影の中に収納する。
「拡張されたお前の影は最早ブラックボックス。術者であるお前を殺さねば意図して中身を取り出すなど不可能に近いことだろう」
天元様は羂索という呪詛師に調伏されることを危惧して、ボクが匿うことになったんや。
ボクが死んだら中身は呪霊操術よろしく、全部飛び出してしまう仕様だが、ボクを信頼してチップをオールしてくれる覚悟を決めたらしい。
……あぁ。ほんと、この人いいな。
若かったら、子供が産める状態なら……いや、今からでも普通に口説くか?
別に子供を産めないからって妻になれない訳やない。後継ぎはもういるんだし、パートナーとして寄り添ってくれんかな?
「ねぇねぇ、ここにケツとタッパのでかい良い女がいるんだけど」
そんならしくないことを考えつつ、『世界から呪いを失くすなんてバカな夢を見る三十路後半のババア』を無視して、ボクは脹相に伝言を頼んだ。
虎杖悠仁に伝えてくれる?宿儺との戦いが始まる前に、サルと決着をつけるって。
「なにを!?お前、まだそんなことを!!?」
はいはい。キミの兄弟愛が素晴らしいことは分かったから。
あれから一応、考えてはみたんやで?
でも、あのサルのやらかしたこと、それに物心ついてから今までのこととか色々振り返ってみたけど……なんか、距離があったねん。
姉ではあったし、当然のものとして受け入れていたけど、真依お姉ちゃんと比べたら遊んだ回数や話した回数は桁が違うほど少ない。
たぶん元から好かれてなかったねん。
ずっと才能ある弟として劣等感を抱かれてたんじゃないかな?それでいざ力を手にして、やることが今まで自分を見下してきた連中の鏖殺って……その中にボクも含まれてた時点でご察しやろ。
あっちは初めから家族とすら認識してなかったんや。真希お姉ちゃんにとって、ボクは自分を見下す禪院家の一人に過ぎなかった。
なのにこっちが家族扱いして手心を加えるなんてバカらしいと思わん?
「それは……だが、真意は別かもしれない。一度でもいい。話し合うべきだ」
ハァ……まぁそれでいいや。話し合いたいから高専にこいって伝えてくれる?虎杖悠仁とかも一緒でええよ。身代わりの
「分かった。その場には俺も立ち会おう」
……めんど。誰か転移系の術式持ってた人っていなかったっけ?宿儺との決戦を前に巻き込まれて死亡とか目も当てられんのやけど。ジブン、絶体割り込んでくるなよ?
閉じる領域を使ってもええけど、フィジギフのサルは素通り出来るからボクにはメリットがないねん。
はぁぁぁ。だるっ。でもフィジギフの身体能力は適応済やし、なるようになるやろ。
もう前みたいに魔虚羅を出したりなんて、余計なことはしない。ボクがサルをこの手で殺したる。
「仮に二人が殺し合いになったとして、乙骨憂太が割って入らなければいいんだけどねぇ」
完全に蚊帳の外となってしまった九十九由基は一人思案する。
普通に戦えば真の圧勝だろうが、そこに彼が参戦すると分からなくなる。そうなったら自分が彼を押し止めるかと。
特級クラスの戦力が一度に三人消えるという最悪の事態を想定し、最小限の犠牲で済むように立ち回るのだった。
「へぇ、その歳でその呪力量か。スゴいねキミ。将来は炳、もしかしたらボクの次の当主になれるかもしれんで」
「とうしゅ?」
「そうや、当主。当主になると一杯いいことあるで。お菓子も玩具も好きなだけ手に入る」
「ほんとう!!?ぼくっ!とうしゅになりたい!」
私たち三姉弟の関係がおかしくなったのは間違いなくこの時からだった。
禪院直哉……あのクソ野郎が真の才能に気付いて、小間使いの真似事のようなことをさせ出したのだ。
当時、まだ物心がついて間もない真は当主の権力という甘言につられ、私たち姉妹のことは二の次で禪院家の内部へと喜んで入っていった。
「な、なぁ。今日は三人でお花見に行く約束だっただろ?母さんも弁当を準備してくれてんだ」
「や!なおや君がへいの人たちに会わせてくれるって言ったんだもん!!!」
「お母さん!真が言うこと聞かない!」
「まぁ……真は男の子だもの。仕方ありませんわ。お花見は私たちだけで行きましょう」
「真!一緒に行くの!お姉ちゃんの言うことが聞けないの!?」
「やなの!まいおねえちゃん!うるさい!」
あれだけベッタリだった真依の言葉ですら聞く耳を持たず、掴んだ手を振り払って行ってしまう。
私はそれを母さんからの言いつけもあり、仕方のないことだと思うようにしていた。
元々、あの子は私たちとは出来が違う。
遅かれ早かれ、こうなっていたのだろう。
「ちがう……ちがう、ちがう。真は私のなの。私だけの王子様なの……なんで、あんなのに、私の方が真のことを知ってるのに」
父は真を誇りに思うと言っていた。お前たちは出来損ないなのだから、真の邪魔をするなと。
暫くして寝泊まりする屋敷すら離されると、幼くして光る才能に一目おいていた禪院家の者達が私たちにどういった扱いをするようになったかは……わざわざ語るまでもないだろう。
「げほっ。アイツら……本気で蹴りやがって。おい、真依。大丈夫か?」
「助けて……助けてよ。真ぉ……」
「…………」
泣きながら踞るその手には真が喜ぶからと真依が無理をして作った剣のキーホルダーが握られていた。
……本当は気付いていた。真依が真に向ける矢印が肉親ではなく、明らかに異性に向けるものであると。
幼い頃から家の連中、そして呪霊に脅かされていた真依の心を真は力で守っていたのだ。
真さえ戻ってくればまた平穏な日々を送れると彼女は信じて疑わなかった。真を自分という存在に縛り付ける為に、その頃だろうか、嫌な感情が瞳に宿るようになった。
真を置いて二人して高専に逃げたのは、そんなアイツが一線を越えることを無意識に危惧していたのかもしれない。
「……でも、結局全部ダメになっちまった」
親父は想定を超えた真の才能に発狂し、真依は全部取り返しがつかなくなったところで、我に返った。
風の噂で母さんは首を吊って死んだらしい。
全部私のせいだ。私が逃げ続けたせいで、みんなバラバラになってしまった。
「なんだ?もう行くのか?」
「あぁ。お姉ちゃんとして最後の仕事だ」
「そうか。息子にあったら伝えてくれ今年の年末は帰る」
先輩は、饅頭を食べながら私を送り出してくれる。
「殺しにきたんじゃなかったのかよ」
「そんなこと言ったか?」
別に
ただひたすらにぶん殴られて、フィジカルギフテッドの使い方を叩き込まれただけだが、今までにない圧倒的なパワーが身体の中で渦巻いているのを感じた。
「どうせお前は死ぬ。それでも多少は歯ごたえがあった方が、アイツも満足するだろ」
「ありがとう」
禪院家として生きることを選んだ真と、禪院家では生きられなかった私。
決着をつけないことにはどちらも先には進めない。
だから、
「「次で最後だ」」
憂太には散々止められたが、悪いな。こればっかりはお前を関わらせるわけにはいかねぇ。うちら家族の問題なんだ。
「よく逃げずに出てきたなサル」
「引導を渡してやるよ」
「領域展開……」
あの日と同じように領域を展開しようとする真を妨害しようと駆け出して、その刃を真は素手で受け止める。
「分かってるとは思うけど、これは勝負やない。公開処刑や」
その頭上には法陣が浮かんでいた。
(まさか、適応してたのか?フィジカルギフテッドの速度に?)
複数のカラスが見守るその最中、真の拳が私の顔面を打ち抜いた。