努力しない禪院、だが、最強   作:禅院炉

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絶好調真希VS禪院真 下

『分かってるとは思うけど、これは勝負やない。公開処刑や』

 

真希が間合いを取ったと思った瞬間、禪院真の拳が頬を打ち抜いた。

 

「なっ、ありえねー。領域もなしにあの状態の真希の速度に対応しやがった」

 

日下部篤也は目を見開いて驚いた。

確かにギリギリ目で追える速度ではある。狙いも真っ直ぐで動きを予測しやすい。簡易領域さえ発動出来ていれば自分とて同じようなことは出来るだろう。

だが逆に言えば簡易領域の補助なしにフィジギフの身体能力に適応するなど不可能な芸当だ。

 

「虎杖、お前なら出来るか?」

「受け止めるぐらいなら出来ると思う。けど、あんなカウンターは返せない」

「悠仁で無理ならここにいる奴らには無理か」

「間違いなく、あの法陣の影響だろうね」

「すいません。あれに心当たりはありますが、俺の口から言うことは出来ません」

 

高専関係者(日車+天使)を含む彼らは現在、天元の結界の中で二人の決闘を見守っていた。

その中には当然のように伏黒恵の姿もあり、恐らく魔虚羅の法陣を自らに適応させているのだろうと推測は出来たが、勝手にバラすとあとが怖いので煙に巻いていた。

 

「離せ!弟に姉を殺させるなど、この俺が許さん!!」

「余所の家族だろ。部外者が口出すな」

「そうだぞ。ここを出ても御三家の連中が見張ってるんだ。妨害しようとしたら袋叩きに遭うし、折角結んだ協定も白紙に戻っちまう。それに妨害するって言うんなら……」

 

パンダの視線の先には食い入るように映像に張り付く乙骨憂太の姿があった。

 

「………………」

 

この決闘は禪院真の言うように勝負ではない。高専と御三家立ち会いの元に行われる公開処刑である。

彼らは、呪具を取りに帰ると禪院家に里帰りした真希が何故一族の者を多数手にかけ、そして弟である真にすらその刃を向けたのか。仲間であるにも関わらず、それすらわからないまま、この戦いの行方を見守るしかなかった。

 

 

 

 

「はっこんなもんかよ!」

「さっすがフィジギフ!頑丈やね。今のは普通に魔虚羅がぶん殴った時と同じぐらい威力があったと思うんだけど」

「間違えてんだろそれ。鍛えてないせいか、軽いんだよお前の拳は」

「そうっ!」

 

先の戦いで釈魂刀のレプリカを失った真希の手持ちは竜骨と暗器のナイフが三つ。

対して禪院真は十種の式神と影に忍ばせた数百近くある厳選された呪具。そして魔虚羅の法陣を頭上に浮かべ、これまでに適応した数多の技能を継承している。

 

真希よりも細く引き締まった身体から繰り出される砲丸のような拳の数々。

何とか捌いているが、まるで武芸の達人を相手しているような気分であった。

 

「それより、式神はどうした?恵と同じ術式なんだろ?さっさと、玉犬ってやつを出したらどうだ?便利なんだろ?」

「犬好きなん?残念だけど、今回は出すつもりはない。……出せないわけやないで?ただおもいっきりぶん殴りたい気分やねん」

 

躯倶留隊や協調性のない禪院扇は論外として、真希に殺された蘭太達は禪院真の思い描く次世代の禪院家に順応出来るポテンシャルを持っていた。

一級クラスの術師は待っていてもそうポンポン湧くものではない。

強い術式という才能だとか未熟なうちに強い呪霊に出くわさない運だとか、そういうのが色々と噛み合って誕生するのだ。

 

まだ取り返しがつく、というだけで彼らを失って生まれた損失は両手で顔を覆いたくなるほどのものだった。

 

素直に言うと、真はぶちギレていたのだ。

 

(……型を変えた?いや、怒りで技が乱れてるな)

 

しかし、それ故に隙も生まれる。

禪院真は法陣の影響で達人クラスの武術が振るえるようになったと言っても、感情と分別して扱えるほど真は近接戦において経験を積んでいない。

 

彼は天性の呪力操作の達人であるが故、感情の高ぶりによる呪力のぶれは無意識下で調整していたのだ。

 

「なっ、」

「ここだな」

 

振るった拳の勢いで片足が浮いた。

その瞬間を逃さず竜骨が真の首に押し込まれる。

 

「だから!無駄だって!」

 

竜骨に込められた術式と呪力に法陣は適応していない。だが、フィジギフの豪腕と刀の切れ味自体には適応ストックがある。

 

禪院真は六眼に比肩しうる呪力操作の達人である。

 

首に呪力による強化を集中させ、完璧に防いだのちに、踏ん張りが利かず勢いのまま吹き飛ばされる。

 

真希は追従し、空中で泳ぐ真を捌くように竜骨を振るうが、その全てを真は最小限の呪力操作のみで防ぎきっていた。

 

「ナメプしやがって」

 

真希の額に青筋が走る。

彼女は悟った。どのみち竜骨程度の呪力量では頭に突き立てようと真の命には届かない。

法陣にストックされた適応の要塞を突破することは出来ないので、無視して攻撃すればいいものを、無傷による完全勝利の為に、わざと防いでやっているのだ。

 

「真面目に戦え!!!」

「ええでええで、そういうのが欲しかったんや!呪力のないカスザルが人間様に吠え面かます無様な様が!」

 

竜骨で受けた衝撃と呪力を解放して撃ち込むも、自らの呪力には適応済みである。

まるでアクションゲームのように空中に打ち上げ続けられている真はわざとらしい欠伸をしながら嘲笑った。

 

「式神は出さん。影の中にたんまりある呪具も使わん。好きなだけ殴ったらええ、斬ったらええ。ジブンの全力を全部受けきって、ジブンの惨めさを嫌と言うほど分からせてから殺したる」

「ちいっ!」

 

真の笑い声が木霊する。

決して大きな声ではないというのに、耳に残る嫌な声色。

禪院真希が幼少期から365日毎日聞いてきた嘲笑と同じ声だ。

 

「お前っ!「でも攻撃せんとは言ってないで?」

 

禪院真は黒い閃光に愛されている。

 

ぶぐっ!!?」

 

何てことはない呪力を纏った足蹴りが2乗され、真希は地面に打ち付けられた。

 

 

 

 

 

 

「……これ以上は無意味だ。止めてきます」

「戻れ、邪魔するな。お前の出る幕じゃねぇ」

 

打ち付けられた真希を見て、立ち上がった乙骨憂太の前に鹿紫雲一が立ち塞がる。

 

「落ち着け乙骨。少なくともアイツが遊んでいるうちは介入するべきじゃない」

「遊んでる?真希さんを玩具か何かかと勘違いしてるんですか?このまま黙って殺されるのを見ているぐらいなら僕はこの場にいる全員を敵に回したって構わない」

 

秤金次の忠告を切って捨てる。

禪院真の言う通り、これでは公開処刑だ。

真希には万に一つの勝ち筋すら残されていない。このまま指を咥えて想い人がぼろ雑巾になるのを見ているぐらいなら、呪詛師に堕ちても構わなかった。

 

「憂太……こればかりは俺も秤に賛成だ。真希はやったことだけで見れば呪詛師認定されてもおかしくない。ここでお前が介入したからって状況が改善するとは思わん」

「人殺しだからって僕が躊躇うとでも?」

 

『リカ』こそ出していないが、パンダを前にしてこの呪力出力。

 

鹿紫雲も対抗するように電荷(じゅりょく)を迸らせる。

 

「乙骨先輩……俺には、何が正しいのか何も分からんけど、あれを止めるって言うんなら、俺はアンタに行ってほしいって思ってる」

 

虎杖悠仁は乙骨憂太の参戦に肯定的なのか、止めるつもりはないようだ。

 

「おいおい、やめろよお前ら。御三家と高専、それに呪術総監部までいっぺんに敵に回すつもりか?」

「禪院真は海外にも複数のコネクションを持っている。国外に逃げたところで安全とはいかなそうだね」

 

日下部と冥冥。彼らは例えこの場を何とかしたとしてもその後のことを説いた。

 

「それに彼には第二コロニーを破壊したあれがある。本気になって困るのはどっちかな?」

「あそこまで巨大な式神です。それ相応の縛りはある筈」

「いい加減納得しろってんだバカ野郎。勝ちゃいいって話じゃねえの。真希がやらかして禪院真は当主としてその責任を取ってる最中だ。殺すも生かすもアイツ次第。それを惚れたなんだで済ませられるなら、呪術師はやっちゃいけねぇよ」

 

「……そう、ですね。だったらもう僕は呪術師を」

 

乙骨憂太が刀に手をかけた、その時、リカが現れる。

 

「……リカちゃん?」

『ア、ユウタァァ…ア…ダメ……コレ、ア、ダメ、アア、アニゲテ、ニゲテェェェェ!!!!』

「どうしたんだ、リカちゃん!?」

 

苦しそうに自らの首を締め、身体を捩る。そしてプツリと電源が切れたように沈黙したかと思った次の瞬間。

 

乙骨憂太の胸部に赤い花が咲く。

 

「「「なっ!?」」」

 

乙骨憂太の外付けの術式として機能していた特級過呪怨霊・祈本里香の脱け殻はあろうことか乙骨憂太にその牙を向けた。

 

『ア、ア、ア、ア、ア…………ワタシノ、オット……キズツケルヤツハ……ゼンイン、コロス……ヨ?』

 

呪いの女王は微笑む。

 

あのリカが何かに乗っ取られている。それは明らかだった。

その場にいる全員に緊張が走る。

 

『オマエラハ、ミテイレバ……イイ』

 

彼女が指差す先では、真希の唯一の武器である竜骨が無惨に叩き折られているところだった。




うそみたいやろ。この人↑の出番これっきりや。
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