努力しない禪院、だが、最強   作:禅院炉

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北へ

三番入り口でお待ち下さい。

 

 

……ん?

 

ふかふかなのに何故か居心地の悪くなる椅子。横にだだっ広くて妙に落ち着かない空間。

知らんメーカーのやっているカフェにはポツポツと人が並ぶ……窓の外で今、飛行機が飛んだ。

 

気が付いたらボクは空港に居た。

 

どういうことや?意味が分からん。

確か直前の記憶では真希……サルの得物を叩き折って、めっちゃ笑っとった。そこから空港……瞬間移動の術式か?確か、冥冥さんの弟さんがそういう術式を持っとった気がする。

 

状況的に、妨害工作ってことかな?

妨害するって言うんなら乙骨憂太が出てくるんやないかって、ダメともで貞k……嫁さんにヘルプ出しといたんやけど、あの人、面倒の一言で、息子の誕生日会にすら顔見せへんほど気分屋やし、ダメやったんかな?←(一応、テレビ電話には出てくれた)

あの人なら乙骨憂太どころか高専戦力(五条悟を除く)が一遍に攻めてきても返り討ちに出来ると思ってたけど、来なかったのならしゃーないな。

 

「なんで、アンタが来るのよ」

 

スタッフや時刻表を見るに日本の空港なのは間違いなさそうやけど、どこの空港やろうか?

早いとこ帰って仕切り直さんと……なんでいるん?

 

目の前には死んで火葬までした真依お姉ちゃんがいる。

 

え?なんなん……あの死体ってもしかして術式で作成した偽物だった?いや、元から呪力量カスの真依お姉ちゃんが釈魂刀のレプリカなんて作って、そんな余裕はない筈……は?

 

「どうせ死んではいないんでしょうけど、術式の影響?それとも血縁の関係で引っ張られたのかしら?……はぁ、これも因果ね。お姉ちゃん(アイツ)に全部託して、後は楽になるだなんて、許されなかったか」

 

呪霊……なのだろうか。そういう感じはしないが、幻のようにも思えない。

……ん?この空港。全体がうっすらと呪力を帯びとるような?

まぁ、座りなさいよと促されて、隣に座る。

 

「それで?あの呪具を破壊されてから外の情報は分からないけど、アイツはどうなったの?投獄された?それともまだ逃げ切ってる?」

 

サル……真希お姉ちゃんはボクが殺すことになったよ。今さっき、手持ちの呪具を全部破壊したところでさ、やったことがやったことやし、出来るだけ痛め付けてから殺さないとって

 

「……そう」

 

真依は悲しそうに瞳をふせた。

やっぱり姉が殺されるのは嫌なのだろうか?

 

不思議と偽物だとは思えず、ボクはこの空間の解析を進める傍ら、話の先を促した。

 

「真希お姉ちゃんがあんなことしたのって真依お姉ちゃんが誑かしたからなん?」

 

「分かんない……私も禪院家なんて全部ぶっ壊れちゃえとは内心ずっと思ってた。アンタが当主になっていくらかマシになったけど、それも表面的な話で、裏ではいつも通りだった。多分、中身が完全に腐ってるのね。上をすげ替えてもダメ、土台ごと全部入れ換えないと意味がないのよ。でも、それでもアンタは足掻いてたでしょ?むしろやりがいあるってバカみたいに奔走してさ……それを見てたら私個人の感情なんて、どうでもよくなって、だから、そんなことは頼んでないつもりだった」

 

う~ん?つまり内心を読み取ったか、言葉通りではなく、曲解した解釈をしたってこと?

 

真希お姉ちゃんの凶行は真依お姉ちゃんの意図したものではなかったようだ。

 

やっぱり、サルはサルってことやな。

 

元々脳筋バカやったけど、呪力を失って、倫理とか道徳心まで落っことしてしまったんや。

 

フィジギフは強力やけど、術式による洗脳の手立てを防ぐ手段が一切ない。だから洗脳されてる線も考えてはいたが、これで心置きなくやれるわ。

 

解析の結果、一先ず、この真依お姉ちゃんは本物のようだ。魂だけの存在のようやが、ボクは魂を知覚出来るので、生前と同じ姿として捉えているらしい。

 

「待ちなさい。まだ話は終わってないわ」

 

多分、この空間はボクを拒絶しとる。

あの世とか、その境界とか、そういう系のやつなのか。未知の領域ということ以外全く分からんが、ボクを追い出そうとしているのは間違いない。ちょいと肩の力を抜くとふわりと身体が軽くなった。

その手を真依お姉ちゃんが掴む。

 

どうしたん?

 

連れていって欲しいの?

 

「違うわよ。何て言うか……ハァ。気にしてるのは私だけか。……久々津は元気にしてる?」

 

っ!してるしてる!最近は高専から買い取ったメカ丸を嬉々としてバラしとるで!

 

「そう。良かったわ。私はこんなんだから母親らしいことは何にも出来なかったけど、元気そうならそれでいい」

 

真依お姉ちゃんにも母親としての自覚あったんやな!

これ伝えたら絶対久々津喜ぶで!もっと他ない!?一言一句違わず伝えたるで!

 

「……そうね。あの子はアンタに似てるから、多分将来は大成するんでしょう。でもアンタみたいになろうとはしないで。反面教師にしなさい」

 

ひっどいなぁ~でもそうやね!ボクはボクだからこの生き方が出来るんや。真似しようとしたら破滅するで。

 

「あと、アンタの父親はモテるわけじゃない。変な女を引っ掛ける才能があるだけよ。だから新しい嫁を迎える時は随分用心しなさい。それがまともだなんてあり得ないから」

 

心外やな。実の姉だったり、大統領の一人娘だったり、ちょっと言えない因習村の出身だったりするだけやん。そんな人をイロモノ趣味みたいに言わんといで。

 

「それと最後に、これを渡して……そう、あの子のへその緒よ。これに髪を巻き付けて燃やしなさい。そうしたら私が悪いとこは全部持っていくから」

 

……大丈夫なん、それ?

 

「どのみち死んでる身よ。それで子供が健康になれるなら、親としては本望ってやつでしょ……心からそう思ってるって胸を張って言えはしないけどね」

 

いやいや、立派やで。誰が認めんでも、アンタは久々津の母親で、ちゃんと愛しとる。

 

「それで……」

 

ん?真衣お姉ちゃんはボクに何かを握らせる。

 

「ごめんね、真。お姉ちゃん、バカだから散々困らせちゃったよね」

 

まるで昔みたいにワンワン泣いていた真依お姉ちゃんの姿がそこにはあった。

 

「真のことを利用して、自分まで偉くなったみたいに感じて、私って本当に最低。こんなことで許してもらえるとは思ってない。むしろ、重荷になるかもしれない。けど、これからはもう私のことは忘れて、好きに生きていいんだよ」

 

…………はぁ。ボクの姉にはろくなもんがいないな。

 

上がちゃらんぽらんだと下がしっかりするって言うが、その通りや。

忘れへんよ。真依お姉ちゃんも真希お姉ちゃんのことも。全部抱えてボクは先に行く。

 

最強を舐めんなよ?いっときとはいえ、ボクはアンタが惚れ込んだ王子様やで。

 

「ふふっ。そう。なら好きにしなさい」

 

うん。真依お姉ちゃんは笑ってる姿が一番綺麗や。

 

今度こそ最後。いつの間にか真依ちゃんの腕の中には見知らぬ赤子がいた。

 

 

……その子って、あぁ『これ』はその子の。

 

 

「ええ。僕もお父さんの役に立ちたいんですって」

 

 

あんがと。早速使わせて貰うわ。

 

ボクはその手袋型の呪具を装着する。

 

 

「あんまり早くこっちに戻ってきちゃダメよ」

 

 

なら、次会う時は早くても80年後やね。いっぱいお土産もってくるから楽しみにしててや。

 

 

「ええ期待してる」

 

 

 

 

 

 

意識が切り替わる。

さっきまでの戦場だ。手持ちの呪具を全部砕いたら、往生際悪くも素手で殴りかかってくる真希お姉ちゃんに向け、その手をかざした。

 

「無為転変」

 

 

最強の肉体は砕け散る。

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