努力しない禪院、だが、最強 作:禅院炉
真希のやったことは許されることではなかった。
せめて成功させていれば話も違ったが、あの日禪院真から逃亡した時点でどうやっても詰み。万一、決闘に勝利したとしても、呪術界は彼女を未来永劫許しはしないだろう。
故にこの結末は当然の帰結というやつだった。
パンっ
フィジギフの身体が風船のように弾ける。
「な、え……」
「…………」
「これって」「あぁ」
「禪院真の勝ちだ」
新しい力の感触を確かめるように拳を握ったり開いたりする男の姿を高専組は見つめる。
その日、禪院真希は死んだ。
『マァ、コウナルヨネ……ハァ……バカナ、ダンナサマ……』
乙骨憂太が気絶していたのは幸いだった。
もしこの光景を彼が目にしたら、きっと死ぬまで止まらないだろうから。
『デモ、オマエモ、タイガイダネ。コンナツクシテクレルコ、ガイルノニ、アンナ、アバズレ、エラボウトスルダナンテ』
あれを妻に迎えるのはいい。だが迎えたとしても妾だろう。なんでこの子が居て正妻にしてるんだ。イカれてんのかとリカに憑依していた彼女は、よく分からないことを言い放ち、私なら二人まとめて呪い殺していたと、どこかへと消える。
結局さ。この一連の事件って真希お姉ちゃんが頭おかしかったからですませていいのかな?
それから一週間後。
もろもろの事後処理を終えた禪院真は、自らの妻にして正妻の座を自称する禪院万の膝枕の上でそうボヤいていた。
「いいんじゃない?だって、あの女が頼んだわけでもないんでしょ?まぁ頼んだからって、自分を虐めていたわけでもない、女子供まで殺そうとしたんだもの。新しい人生を生きる為に過去を切り捨てようとして、しくじった……笑い話にもなりやしない滑稽な話だわ」
まぁ、そうやよなぁ。どんだけ考えたって、真希お姉ちゃんがやったことは私怨によるものや。
力を手に入れてジブンがこの世界の主人公と勘違いしてしまったんや。
「そんなバカを気にするなんてアナタらしくもない。さっさと忘れたらいいのよ。私にとっての宿儺みたいに」
そういや、万って宿儺が好きやったんやったね。その為に呪物になったんやろ?1000年に及んだ愛をどうして諦められたん?
「誰かを愛して、愛されて初めて分かった。あの人は甘んじてあの立場にいるの。望むなら親愛だって友愛だって手に入るのに、裏梅の優しさに甘えて暴力という分かりやすい手段で欲を発散させて、傍若無人に振る舞った。……何て言うか、情けない男に映ったのよ。アナタは自分の欲に嘘はつかない。だから宿儺よりも好きになった。ここまで女として満たされたのは初めてだわ。きっと宿儺が私の目の前に現れて、求婚しても私はアナタを選ぶ。それは断言してもいい」
夫冥利に尽きるね。
確かにあの宿儺が愛を知っていて、それでも暴力を選ぶって拗らせてるみたいで、何て言うか情けないな。
元は人間だし、千年経っても変わらんとか拗らせてるってレベルやないやろ。
「あの人は……本当の意味で一回死なないと生き方を変えられないでしょうね」
安心しな。君の心の中に宿儺がいることをボクは否定せぇへん。今の宿儺の生き方は痛々しいって言うんやろ?
宿儺は殺す。殺して呪いの輪廻から解き放ったるわ。
「……良い男。このまま食らい尽くしてしまいたい」
ボクの首を甘噛みする万の手を取って、ベットに押し付ける。
今日はその日や。朝まで仕込むで。
「あっは!」
場所は変わり天元の結界の中核。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!」
「……ところで、この子はどうするべきなのだろうね」
「少なくとも今はこの子の生存を公開するべきではない。知らせるのは乙骨憂太とごく一部。ある程度育てばフィジギフの再来として表に出しても平気だろう」
「しかし成長しても以前の記憶はないんだろう?それは同じ彼女と言えるのかい?」
「殺した。と彼は言った。これは乙骨憂太の暴走を抑える為の落としどころに過ぎず、禪院真希の意思は一切考慮されていない。お前はそういうの嫌いそうだね」
「納得は出来ないが、こればかりは飲み込むさ。せめてこの子は復讐なんかではなく幸せな人生を歩んで欲しいものだね」
「……姉を妹にして兄となるか。この俺にしてもそこまでは読み切れなかった」
天元、九十九、脹相の三人は真から預けられたその赤子を取り囲む。
どう生きるにしろ、もう禪院家とは関わらない方がいいだろう。それから誰が引き取るかという話になり、暫くは九十九が面倒をみることで落ち着いた。
番外編1 覚醒真希VS禪院真 終