努力しない禪院、だが、最強 作:禅院炉
無限の情報が脳に流れ続ける最強の領域『無量空処』。
永遠と完結することない空間。その中では思考することも、動くこともままならない。
恐らく常人なら、0.3秒もその中にいれば廃人になるだろう。
その領域が展開され、5秒。領域は外側から破壊される。
「まぁ、出来るよね。当然」
初見殺しも初見殺し。大抵の相手なら発動した瞬間に勝ち確のこの領域も、御三家なら当然のように知っているメジャーな領域だ。
特に禪院家は五条家と仲が悪く、次期当主は間違いないと幼少期から頭角を現してきた禪院真がその対策を怠るわけがなかった。
……が。
「………………」
「おい、おい!……これは駄目だね」
掌印を結んだ状態のまま硬直した禪院真の肩を揺する天元。
どうやら無量空処を防げたわけではないらしい。
それとも天元が取られたら詰みだと、彼女の防御を優先でもさせたのか。
血涙を流す禪院真の瞳は私を見据えて離さない。だが思考を巡らす余裕などなく、会話も出来ず、ほぼ本能で捉えていると言っていいだろう。
「残念だよ。禪院真。いや、ある意味で想像の範疇に収まったというべきか」
羂索は喜びとも悲しみとも取れる笑みを浮かべる。
完全に不意をついた意識外からの攻撃。それも領域の押し合いにおいて圧倒的なアドバンテージを持つ六眼こみの無量空処(本人調べ)の直撃だ。
これを破るには外郭のない領域を展開するか、簡易領域などで被害を最小限に抑えつつ、術者本人を神域の速さで倒すしか手段はない。
そのどちらも無量空処の直撃自体は避けがたく、領域展開直後に致命的な隙を晒してしまう。
こちらも領域展開直後で術式が使用困難になるとはいえど、六眼があるなら充分お釣りは出る。そうやって何百年と苦い思いをさせられてきた羂索からして、この結果は当然の末路というものだった。
真人達を難なく退けた彼ならば、そのデメリットを踏み倒せると予測していた。そしてどうなるかも、ご覧の有り様。
「君は間違いなく強者だ。五条悟にも比肩する才能もある。それは断言するよ。でもやはり君は私の脅威にはなり得ない」
数年前から予感はあった。魔虚羅を調伏したという話を聞いたときは勘違いかと思ったが、この場で羂索は確信する。
「同じタイプなんだよね。私たち」
脳を取り替える術式。影を媒介に式神を呼び出す術式。そのどちらも解釈次第で際限なく強くなれる当たりな術式だ。
だが、自分が両面宿儺を最強と見なしたように、禪院真は五条悟を最強と見なし、己の限界を見定め、強さ以外の別のことに答えを見出だそうとした。
「弱くなろうとしているわけではない。だが、強さというものを目的の為の手段として二の次にしてしまったせいか、どうにも殺し合いを甘く見てしまう」
恐らく無量空処の対策は万全だと思っていたのだろう。彼の脳内では完璧な式が出来ていたのだろう。
己は天才故に、きっとこれ通りに物事が運ぶ筈……。
「そうはならないんだよ。これまで何度も苦汁を飲まされてきた。でもどうしてかな。未だにこうして痛い目を見るんだから、これはもう持病なのかもね」
こふっと、羂索の唇から血が溢れる。
見れば地面の影から伸びた鋭い針のような物が肺を貫いていた。
「でも、私は1000年生きてきたんだ。どうしようもないこれにも折り合いをつけてきた」
羂索が手に触れると影の針はまるで初めから存在しなかったかのように消滅する。
「…………」
「10、いや正気に戻るまで5分といった所かな?かなり早い方だが、丸腰の天元と……そうだね。今の攻撃を見るに脳がショートする前に組んだ単純なプログラムに沿って攻撃を繰り出しているといったところかな?お粗末な固定砲台と化した今の君に五条家の秘宝は打ち破れない」
「随分と、お喋りじゃないか」
天元はそれならさっさとやればいいだろうにと皮肉げに言う。
「あぁ、たった今。術式が回復した」
照準が合わされる。狙いは禪院真だ。天元は咄嗟に前に出て身代わりになろうとしたが、蒼の出力で瞬間移動のように目の前に現れた羂索に足蹴りにされる。
「がっは!?」
「人に戻ってしまったのは残念だが、まだ使い道はあるからね。そこで大人しくしているといい」
羂索の指先に宿る赭き光。
目先の鼻。超至近距離。「位相、波羅蜜……光の柱」
「呪詞まで!貴様!それほどまでに禪院真を殺したいか!!?」
この事態に対処すべく、無数の影が羂索へと伸びるが、既に彼と影達の間には無限の壁が展開されている。
「(生きる時代が違えば私たちは親友、いや、生涯の伴侶となれていただろう)」
羂索と禪院真はきっと魂レベルで同類だった。
もしもの話、羂索が加茂家ではなく禪院家に肩入れしていれば、物心ついて間もない禪院真をその道に勧誘し、道楽にふけていたかもしれない。
そんな存在しない記憶を妄想しながら、赭を放つ。それは真の額へと吸い込まれるように伸びて、次の瞬間。彼の頭が吹き飛
──ガコンッ
「残念。赭は適応済みや」
ニヤリと嗤う最強がここに一人。
「(法陣が回った。だから目覚めたのは分かる。だが何故だ?禪院真のそれは回転するまでに10倍以上の時間がかかる筈……そうか!赭の出力で強引に無下限の適応を速めた!)」
赭の適応は過去の五条悟との格付けの時に完了している。完了しているものの、法陣の適応はそこでは終わらない。何れは領域や無限にも適応する。あの日以降、無下限と交える機会がなかった為、その為に必要なストックは長らく死蔵されていたが、禪院真はそのストックと現在受けた赭の出力先を無下限へと結びつけることでそれを時短したのだった。
「(ぶっちゃけ奴さんが無下限を使ってくれるかは賭けだったけどな!)」
状況を悟った二人が次に何をするのか。
それは拳をぶつけ合うように互いの掌印を結ぶことだった。
「「領域展開!」」