努力しない禪院、だが、最強 作:禅院炉
羂索にはこの時、二つの選択肢があった。
【無量空処】か【反重力機構】
そのどちらの領域を展開するか否かの話である。
通常ではありえない複数の術式を持つが故の選択。
勿論強力なのは前者だ。先ほど適応されたが法陣が回ったのはまだ一回、完全に適応が済んだわけではない。使い慣れぬ術式故、六眼をもってしても外郭を省くことは出来ないが、術者にとっては致命的な脳へのダメージをダイレクトに与えることが出来る。
そして【反重力機構】は使い慣れた術式だ。お互いに外郭のない領域の為、押し合いが発生せず、勝敗が決するまで術式の負担を気にすることなく行使することが出来る。
(ベストなのは無量空処をぶつけて、禪院真に領域を維持出来なくなるまで脳にダメージを与える。からの反重力機構で一気に押し潰すこと。だが、九十九達がいつ戻ってくるかもしれない現状で、一瞬とはいえ完全に無防備になるのは好ましくない)
保険をかけるなら最強の矛であり、盾でもある無量空処は残すべきだ。
しかし羂索が取る手は初めから決まっていた。
【無量空処】
【翳之帳】
閉じる最強領域。それは外側から蝕むように伸びる影に外郭を締め上げられる。
「あれ?おんなじ領域か。てっきりその脳ミソを取り替えた術式のやつを使ってくると思ってたけど、戦闘向きやないの?」
「冗談でしょ。ここで魔虚羅を出されたらその時点で私の詰みさ」
禪院真を五条悟の片割れへと押し上げる最強の式神への懸念。
魔虚羅がある以上、羂索は手持ちの手札の殆どを生かすことが出来ない。あれは別に法陣がなくとも最強クラスだし、領域内では法陣を共有出来ないという縛りすらも何とかされているのではという、同類故の強い疑念があった。
(……先ほどの焼き回しになるとして、どこまでダメージを与えられるか)
九十九達への警戒は捨てるしかなかった。一応、九十九達が向かった西○屋はここから少し遠いところにある。こちらの動きを察知しても直ぐには戻ってこれないと踏んでいるが、権謀術数の羂索には珍しくあとは神頼みするしかなかった。
「あッがゥ……!」
無量空処の破壊に集中しているのか、禪院真は領域を展開してから式神を召喚していない。そんな彼が白目を剥いた。
既に発動してから7秒経っている。
こちらもあと一秒持てばいいというほど限界が来ているが先ほどよりも破壊されるスピードが遅い。無量空処自体には適応しても、ダメージは治癒しきれていないということだろうか。
血涙を流し、膝をついて、やっと無量空処が破壊される。
展開時間は9秒。
「あ……あー?」
意識は保てているようだが、立ち上がろうとして尻餅をついた。どうやら足元が覚束ないようだ。
……ならば反重力機構を使わなくともいいのでは?
そうすれば九十九達への保険も出来る。彼らは禪院真とは違い無量空処の破壊すら出来ないだろう。反重力機構で時間を稼ぎつつ……下手をすればこれだけで決着がつく可能性はあるが、とどめとして無量空処があれば勝利をより磐石なものと出来る。
(まさか。禪院真がこの程度で終わるわけがない)
羂索はそんな甘い考えに唾を吐く。
彼を五条悟と同等ではなく、あえて自分と同類と呼んだのは考え方が同じだからで、その強さを軽んじたわけではない。
多分、というか絶対。このままただでやられてくれる存在ではない。
それこそ絶命の縛りで、あの巨大な魔虚羅を召喚してもおかしくはない。
だから羂索は近づくどころかその場から逃げるように距離を取った。反重力機構の範囲内となるギリギリまで下がり、そして閉じない領域を展開する。
「バイバイ。私が戦った中では2番目に強かったよ」
一寸の油断すらもなく、手札を全て暴いたあとで相手の弱みを付くだけ付いた羂索の策略。
さしもの禪院真といえどこれにはなすすべもなく。
【まさか、オリジナルがやられるとはね】
羂索の上、遥か頭上の彼方から語り掛けられるような声が響く。
「……成る程。そう言うことか」
彼の六眼は見た。そして彼の脳は全てを知った。
「八握剣異戒神将魔虚羅大将……君が名付けたそれ。どうやったのか疑問だったんだ。他の式神とは違い、あれだけはどんな使い手であれ呼び出した強さは一律。それが十種影法術の強みでもあり弱点でもあった。それをどうやって破ったものだと……てっきりストックされたデータ量に適応して、規格を増設したのかと思ったが、十種影法術……そのものの格をk!」
影が墜ちる。その最後の瞬間。羂索の頬は興奮で裂けるように釣り上がっていた。
グチュリと嫌な音を立てて、ザクロが咲く。
───ガコンッ
静寂が場を支配する。
気絶した天元と禪院真の息づかいだけがその場を満たし、そして両者とも一時間ほどして目覚め、誰がこれをやったのだろうと片方はわざとらしく、もう片方は心底不思議そうな顔して見合せた。
※この場で生き残っても羂索と禪院真がくっつくことはありません。
同類だし、生まれてくる子が面白そうなので羂索はウッキウッキで歩み寄りますが、真は同族嫌悪を爆発させます。