努力しない禪院、だが、最強 作:禅院炉
それは昼食を済ませたばかりの昼下がり。高専の広場にて自習練に励んでいた虎杖と伏黒は突然現れたかと思えば風のように去っていった男について話していた。
「なぁ、伏黒。あの真ってやつ俺らとタメみたいだけど、最強って名乗ってたし、そうなるとやっぱ五条先生と同じぐらい強いんかな?」
「少なくとも俺の何十倍は強ぇよ。あの人は俺の完成形だ。歴代の十種影法術の術師の中でも飛び抜けてる」
「じゃあ五条先生と同じ特級呪術師なのか?」
「いや、特別一級……高専に属さないものの、一級呪術師相当の実力があると判断されたものに付与される資格しか有してない」
「???なら、五条先生よりは弱い?それとも高専所属じゃないから階級が低いだけ?」
「……それ、二人には絶対直接聞くなよ。真さんは機嫌が良ければ笑って済ませてくれるけど、五条先生は機嫌が良くてもマジビンタしてくる」
「仲悪いんだ、あの二人」
「まぁ昔。色々あったらしい。仲が悪いと有名な五条家と禪院家の当主同士だ。10歳の頃、不意をついたとはいえ、当時既に特級クラスの実力者だった五条先生を殺す一歩手前まで追い詰めた。その時から二人の仲は壊滅的だ」
「10歳で!?マジもんの天才じゃん!」
「そう。天才なんだよあの人は」
普通の術師が一生をかけて極めることを、幼少期のうちに済ませてしまった。
だから鍛えたことはなく、その力を使って一人でも多くの呪霊被害者を救わんと日々邁進してる。
だから呪術社会からは嫌われていた。
「え?なんで?すっげぇ立派じゃん」
当然の疑問だった。これで志だけは立派な弱者が周囲を振り回しているという話なら理解も出来たが、実力は本物で、幼少期から呪術師として精力的に活動しているそうではないか。
「あれか?依頼を受けすぎて、他の術師が食いっぱぐれるとか」
「それも多少あるだろうが……前進的、いやある意味では後進的な面が顕著過ぎてな。稼いだ金でハーレムを築いているんだと」
「ハーレムぅ?それって恋人的、もしくは愛人的な意味で?」
「妻、嫁的な意味だ。あの歳で、子供が6人いるらしい。それで嫁の一人が実の姉だと……まぁ、その先は察しろ」
「お、おぅ……」
また呪霊を多く祓ってるって言っても、その恩恵を受けるのは非呪術師だ。呪術師にその声は届かない。
もしかしたら任務の途中で負傷し動けなくなっていたところを偶然通りかかった真に助けられた術師もいるだろうが、全体の母数からすれば雀の涙だ。
才能にかまけたバカがおかしなことをしている。それが呪術社会からの総意であり、禪院真が特級呪術師に認定されない最大の障壁であった。
「……そしてあの人は五条先生に勝った時、ここまででいいって満足したそうだ。それ以降は、強くなることを捨てたらしい。だから今、五条先生とやりあったら普通に先生が勝つんじゃないか?」
「そういうもんか。なんか勿体ねえな。まだ全然強くなれるのに、それを捨てちゃうだなんて」
「前にそれとなく聞いたことがあるが、周りはみんな無手なのに自分だけ刀を持ってる。それなのに銃を欲しがって何がしたいの?だそうだ。……まぁ、その点だけで言えば分からなくはない。あの人みたいな天才には限界なんてものはないんだろう。だから何処かで見切りをつけないと一生力を追い求めたまま人生を終える。多分、そんな気がして怖くなったんじゃないか?」
「…………」
虎杖はそれを聞いて黙り込む。
何故か想像出来てしまった。きっと禪院真は死ぬ寸前の自分まで想像してしまったのではないか。
正真正銘最強の呪術師となり、恐らくは未来永劫自分を越えるものはない。
だが、それだけだ。死ぬ間際。彼の周りには誰もいなかった。
そうか。自分は力を求め続けて……そうして、力以外の何物もこの手には残らなかったのかと、一人寂しく朽ちていく。
【お前は強いから人を助けろ】
祖父の遺言を思い出した。
「なんか、俺も少しだけだけど、真のこと分かった気がする」
誰だって孤独は恐ろしい。そんな当たり前の一面を彼も持っていたのだ。
「今度会ったら飯でも誘おうかな?真君~!みたいな感じで」
「冗談でもやめろ。相手は御三家の当主だぞ。その気になればお前の執行猶予なんて取り消せる」
次会う時は敬語!と伏黒に厳命され、不服そうに頷く虎杖。
「そういや、釘崎は?」
「今日は五条先生の言伝で特別休暇だ。真さんの目に入ったら、何をされるか分かったもんじゃない!って……そこまで見境ない人ではないんだけどな」
「なんか伏黒。さっきからやけに真について詳しいって言うか、肩を持つけど、なんかあるのか?」
「たまに術式の指南をしてくれるし、師弟関係と言ってもいいのかもしれない。だがそれ以上にあの人は俺の恩人なんだ」
姉を救ってくれたのだと、ただ一言。少し誇らしげに。
伏黒の姉は非呪術師らしい。
……なんだ、ちゃんと届いているじゃん。
虎杖は何も言わず、自分も呪術師としてそんな風にささやかでも誰かの助けになれたのならと空を仰いだ。
禪院真「(こいつが宿儺の器か……なんで今すぐ殺さへんのやろ?全部揃うまで待たんでも、両面宿儺が完全復活出来る機会を消失させるって云うんなら先代一隅のチャンスやのに。これで指を全部取り込んだら、器として持ちませんでした、分離しました、なんて復活されたら笑い話にもならへんで)」