「最強の格闘者はありふれた職業になっても世界最強」   作:武藤 桜

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第十話「ゆっくり語らい」

 サソリモドキを倒したハジメ達は、サソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらをハジメの拠点に持ち帰った。

 

 その巨体と相まって物凄く苦労したのだが、最上級魔法の行使により、へばったユエに再度血を飲ませると瞬く間に復活し見事な身体強化で怪力を発揮してくれたため、二人がかりでなんとか運び込むことができた。

 

 ちなみに、そのまま封印の部屋を使うという手もあったのだが、ユエが断固拒否したためその案は没となった。

 

 無理もない。何年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。消耗品の補充のためしばらく身動きが取れないことを考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。

 

 そんな訳で、現在ハジメ達は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「……マナー違反」

「ハジメくん…」

 

 ユエが非難を込めたジト目で、香織も呆れた目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。

 

 ハジメの記憶では、三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「……私が特別。〝再生〟で歳もとらない……」

 

 聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

 ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 

 ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 

 なるほど、あのサソリモドキの外殻を融解させた魔法を、ほぼノータイムで撃てるのだ。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は〝神〟か〝化け物〟か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。

 

 欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが〝自動再生〟により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。

 

 ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。

 

 その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。もしかしたら帰る方法が! と期待したハジメはガックリと項垂れた。

 

改めてユエの魔法適正力は計り知れないと痛感したハジメと香織だった。

血を吸うだけで魔力を回復しその魔力保持量はハジメと香織の魔力を合わせた分の約2倍相当なもので全属性最上級魔法まで会得し複合魔法も得意なのだ。

 

「さすがエヒトの器ってことか…」

 

「どういうこと?」

 

「そういえばお前は知らないよな。話してやる。お前の出生の理由と封印された理由を…」

 

 

 

「…ってわけだ。お前のおじさんはお前をクソ神の依り代なんかにされたくないから封印させた。それが真実だ…」

 

「叔父様…。ディン叔父様ぁ~」

 

ユエは自身の真実を知りハジメに抱き着き涙を流している。

当たり前だ。自信を裏切った叔父が実は自信を救うためにわざと嫌われ役になったのだ。

本来なら他の大迷宮攻略の証で封印の部屋にある叔父の遺言を見せるのが史実だが、それでも真実を伝えたかったハジメの決断だった。

 

香織もそんな壮絶な家族愛を聞き、恋のライバル視を無視し、ユエを優しく抱きしめた。

 

「大丈夫…。私たちはいなくなったりしないよ…。ずっとずっとそばにいるから」

 

「お前は一人じゃない。この旅が終わったら俺の故郷に来ないか?」

 

「いいの?」

 

「当たり前だ。もうお前は俺らの家族だ。家族は何があったって互いを助け合うし互いにとっての居場所になるんだからな」

 

「これからは俺がユエをユエが香織を香織が俺を守るんだ。三人で世界を越えよう」

 

それは原作で奈落脱出の直前にハジメがユエに誓った言葉のもじりだ。何だか言うのもこっぱずかしい言葉だが、

 

「絶対に守ってね…」

「ありがとう!ハジメくん!!」

 

二人の心にはしっかり残る言葉になってくれたようだ。

 

「そうだ。香織の義足のとりあえずの完成版ができたぞ」

 

「本当!?」

 

「あぁ。前世で呼んだ漫画の義足を参考にした。もともと仮付けで作った義足をベースに作っているから履きやすいはずだ」

 

完成した義足を香織の右足にはめ込んだ。

 

「うん!前に履いてた義足の感覚と似てる。違和感もほとんど無いよ!」

 

「そりゃよかった。武器もアップグレードしたぞ。足の付け根部分を押してみ」

 

ドパン!!

 

香織が義足の付け根部分を押すと右足の足裏から散弾が発射されたのだ。

 

「急ごしらえだけど散弾が三発打てるようにした。普通の弾丸ならもっと装填数が多かったけど不意打ちの接近戦なら散弾の方が有効だからそっちにした」

 

「すごい!!これで戦闘の幅が広がるよ!!」

 

「ちなみに仮付けの義足に仕込んでた隠し剣もついてるぞ。散弾用の銃口に装填すれば散弾と一緒に発射されるし、至近距離から放てばあわよくば剣が対象を貫通する威力になるかもしれないぞ!!」

 

「すごい!!本当にありがとうハジメくん!!」

 

多機能な義足をもらった喜びを胸にハジメに抱き着く香織。それを見ながらジト目をするユエだった。

 

「ユエ、メシだぞ……って、ユエが食うのはマズイよな? あんな痛み味わせる訳にはいかんし……いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」

 

 魔物の肉を食うのが日常になっていたので、ハジメは軽くユエを食事に誘ったのだが、果たして喰わせて大丈夫なのかと思い直し、ユエに視線を送る。

 

 ユエは、ハジメの発明品をイジっていた手を止めて向き直ると「食事はいらない」と首を振った。

 

「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが……飢餓感とか感じたりしないのか?」

「感じる。……でも、もう大丈夫」

「大丈夫? 何か食ったのか?」

 

 腹は空くがもう満たされているというユエに怪訝そうな眼差しを向けるハジメ。ユエは真っ直ぐにハジメを指差した。

 

「ハジメの血」

「ああ、俺の血。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」

「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」

 

 吸血鬼は血さえあれば平気らしい。ハジメから吸血したので、今は満たされているようだ。なるほど、と納得しているハジメを見つめながら、何故かユエがペロリと舌舐りした。

 

「……何故、舌舐りする」

「……ハジメ……美味……」

「び、美味ってお前な、俺の体なんて魔物の血肉を取り込みすぎて不味そうな印象だが……」

「……熟成の味……」

「……」

 

 ユエ曰く、何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わいらしい。

 

 そういえば、最初に吸血されたとき、やけに恍惚としていたようだったが気のせいではなかったようだ。飢餓感に苦しんでいる時に極上の料理を食べたようなものなのだろうから無理もない。

 

 ただ、舌舐りしながら妖艶な空気を醸し出すのはやめて欲しいと思うハジメ。こういう時、ユエが年上であることを実感してしまうのだが、幼い容姿と相まって、なんとも背徳的な感じがしてしまい落ち着かない事この上ないのだ。

 

「……美味」

「……勘弁してくれ」

「……チッ」

 

 いろんな意味で、この相棒はヤバイかもしれないと、香織の舌打ちを聞きながら若干冷や汗を流すハジメであった。

 

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