「最強の格闘者はありふれた職業になっても世界最強」   作:武藤 桜

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第十三話「解放者の住処と療養、修行と旅立ち」

 ハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ハジメのまどろむ意識は混乱する。

 

(何だ? ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)

 

 まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、右手はその意思に反して動かない。というか、ベッドとは違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。

 

(何だこれ?)

 

 ボーとしながら、ハジメは手をムニムニと動かす。手を挟み込んでいる弾力があるスベスベの何かはハジメの手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。背中にも柔らかい何かが当たっている感覚がする。何だかクセになりそうな感触につい夢中で触ったり押し付けていると……

 

「……ぁん……」

「…うぅん…」

(!?)

 

 何やら艶かしい喘ぎ声が聞こえた。その瞬間、まどろんでいたハジメの意識は一気に覚醒する。

 

 慌てて体を起こすと、ハジメは自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。純白のシーツに豪奢(ごうしゃ)な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が天蓋とハジメの頬を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。

 

 さっきまで暗い迷宮の中で死闘を演じていたはずなのに、とハジメは混乱する。

 

(どこだ、ここは……まさかあの世とか言うんじゃないだろうな……)

 

 どこか荘厳さすら感じさせる場所に、ハジメの脳裏に不吉な考えが過ぎるが、その考えは隣から聞こえた艶かしい声に中断された。

 

「……んぁ……ハジメ……ぁう……」

「ハジメ…くぅん…」

「!?」

 

 ハジメは慌ててシーツを捲ると隣には一糸纏わないユエがハジメの右手に抱きつきながら香織も一糸纏わないでハジメに背中から抱き着いて眠っていた。そして、今更ながらに気がつくがハジメ自身も素っ裸だった。

 

「なるほど……これが朝チュンってやつか……ってそうじゃない!」

 

 混乱して思わず阿呆な事をいい自分でツッコミを入れるハジメ。若干、虚しくなりながらユエを起こす。

 

「ユエ、香織も起きてくれ。おい」

「んぅ~……」

「んにゅ~」

 声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエと香織。ついでにハジメの右手はユエの太ももに挟まれており、丸くなったことで危険な場所に接近しつつある。香織も太ももをハジメの足に絡めてきている。

 

「ぐっ……まさか本当にあの世……天国なのか?」

 

 更に阿呆な事を言いながら、ハジメは何とか右手と足を抜こうと動かすが、その度に……

 

「……んぅ~……んっ……」

「…んふぅ~…」

 と実に艶かしく喘ぐユエ。

 

「ぐぅ、落ち着け俺。いくら年上といえど、見た目はちみっこ。動揺するなどありえない! 俺は断じてロリコンではない!」

 

 ハジメは、表情に変態紳士か否かの瀬戸際だと戦慄の表情を浮かべながら自分に言い聞かせる。右手を引き抜くことは諦めて、ハジメは何とか呼び掛けで起こそうと声をかけるが一向に起きる気配はなかった。

 

 その内、段々と苛立ってきたハジメ。ただでさえ状況を飲み込めず混乱しているというのに何をのんびり寝ていやがるのかと額に青筋を浮かべる。

 

 そして、イライラが頂点に達し……

 

「いい加減に起きやがれ! この天然エロ吸血姫と変態腐女子!!!」

 

 〝纏雷〟を発動した。バリバリと右手に放電が走る。

 

「「!? アババババババアバババ」」

 

 ビクンビクンしながら感電するユエと香織。ハジメが解放すると、ピクピクと体を震わせながら、ようやく目を開いた。

 

「……ハジメ?」

「ハジメ、くん…?」

「おう。ハジメさんだ。ねぼすけ、目は覚め……」

「ハジメ!」

「ハジメくん!!!」

「!?」

 

 目を覚ました二人は茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開きハジメに飛びついた。もちろん素っ裸で。動揺するハジメ。

 

 しかし、ユエと香織がハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気が付くと、仕方ないなと苦笑いして頭を撫でた。

 

「わりぃ、随分心配かけたみたいだな」

「んっ……心配した……」

「本当に…、無事でよっかたよ~」

 

どうやらここは反逆者もとい解放者「オスカー・オルクス」の住処らしい。

ユエはあの後ハジメと香織を神水で治療しハジメより少し早く意識を取り戻した香織と一緒にハジメを運び込んだらしい。

ちなみに「何故服を脱がせたか?」というと、「汚れてたから」と真顔で返された。

 

『まぁ、さすがにまともに洗濯もできなかったし魔物の血や体液やヒュドラ戦で大量に血を流したからなぁ。まぁここには確かちゃんとした服もあるはずだしいいか…』

 

ハジメはユエが持ってきたであろう服の山から適当な上下服を選び着替え、香織とユエにもできるだけサイズ調整した服に着替えるように促した。

 

探索は原作を知っているためすぐに済み、オスカーの残した遺言と神代魔法の譲渡を受けたハジメは傷の療養と香織とユエの修行の仕上げ、装備や移動手段の確立の為ここに留まることを提案した。

 

「家に帰るためには神代魔法を全部取得しなくちゃいけないし。準備を整えて損はない。香織やユエはどうしたい?」

 

「この世界はどうでもいい。私の居場所はここ……他は知らない」

「私もハジメくんと一緒ならどこまでもついていくよ」

 

こうして、原作での奈落脱出のタイミングまでの二カ月を有意義に過ごすことにしたハジメ達。早速手に入れた素材と神代魔法で義手と義足を作り体の負荷を解消した。

 

「ユエにも近接用の武術を身に着けてもらうぞ」

 

「んっ!頑張る!!」

 

「まずは体力面だが、身体強化に頼りすぎないように地道に鍛えることにする。香織も傷のこともあるから療養用のトレーニングから始めるぞ・・・」

 

「分かった!それで、どんな内容なの?」

 

ハジメが提案した修行は水中で息を止めながら格闘し、息が苦しくなったら水面に上がり息を整えたらまた水中に戻り格闘するという修行法。

 

「ぶぅっつはあぁ!!はぁ!はぁ!はぁ!」

「これは確かに…、普段の修行よりはある意味楽だね…」

 

香織もユエも最初は一分も持たずに呼吸を繰り返していたが二分三分と伸び一週間続ける

と最大七分も息を持たすことに成功した。

 

「とりあえず鈍った体は戻ったな。香織はとにかく技を体に慣らすことを優先しろ。時間を置いて俺がちょくちょくテストする。ユエは体力作り中心だ。とにかくとことん扱き倒してやるから覚悟しろ…」

 

「んっ!!」

 

原作同様、修行をし、食事や装備を整え、夜は風呂に入ったりもした。

 

ある夜の風呂場。天井の太陽が月に変わり淡い光を放つ様を、ハジメは風呂に浸かりながら全身を弛緩させてぼんやりと眺めて日々の修行の疲れをとっていた。

 

「はふぅ~、最高だぁ~」

 

 今のハジメからは考えられないほど気の抜けた声が風呂場に響く。全身をだらんとさせたままボーとしていると、突如、ヒタヒタと足音が聞こえ始めた。完全に油断していたハジメは戦慄する。一人で入るって言ったのに!

 

 タプンと音を立てて湯船に入ってきたのはもちろん、

 

「んっ……気持ちいい……」

「は、ハジメくん…」

 

 一糸まとわぬ姿でハジメのすぐ隣に腰を下ろすユエである。その後ろにバスタオルで体を隠しながらも頬を赤くする香織もいた。

 

「……ユエさんや、一人で入るって言ったよな?」

「……だが断る」

「ちょっと待て! 何でそのネタ知ってる!」

「ごめん。ユエが一緒に入るって聞かなくて…」

「……」

「……せめて前を隠せ。タオル沢山あったろ」

「むしろ見て」

「……」

「……えい」

「……あ、当たってるんだが?」

「当ててんのよ」

「だから何でそのネタを知ってんだ! ええい、俺は上がるからな!」

「逃がさない!」

「ちょっとユエ!!?」

「ちょ、まて、あっ、アッーーーーー!!!」

 

 その後、何があったのかはご想像にお任せする。

 

 

「ユエは魔法を使った遠距離攻撃が得意だけどその魔法を手足にまとって戦えば近接も得意になるんじゃないか?」

 

「考えたこともなかった…。本来魔法使いは接近戦ではもっぱら身体強化魔法頼みだったから。魔法障壁で肉体を保護しつつ肉体を使った攻撃の瞬間魔法を纏わせて二段構えの攻撃にする…。新しい発想。さすが私のハジメ♡」

 

「とにかくやってみろ。俺が教えた流派の武術と組み合わせればより攻撃力が上がるはずだ」

 

「んっ!やってみる!!」

 

そして、いよいよ脱出の時が来た。

ハジメは原作と同じ黒コートに灰色シャツに黒ベスト、黒のジーンズ。義手、眼帯を付けたが祐逸原作と違う点は義手に大雑把な鎧部分は付けず万が一のギミックを取り付けてそれ以外をコンパクトな走行に回して本物の腕と変わりない大きさにし、コートで隠せば義手だと分からないようにできた。

 

香織もハジメと同じ黒コートに灰色のシャツに黒のベスト、下は同じ黒のロングスカート。義足もハジメが作った靴を履いてもギミックが使えるように改良しているので周りからも義足だとは気づかれないだろう。

 

ユエは原作通りの服装で落ち着き、神結晶の欠片のアクセサリーをプロポーズと勘違いするひと悶着も起きた。

 

 この二ヶ月で三人の実力や装備は以前とは比べ物にならないほど充実している。例えばハジメと香織のステータスは現在こうなっている。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:12950

体力:15190

耐性:12670

敏捷:15450

魔力:16780

魔耐:16780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

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白崎香織 17歳 女 レベル:???

天職:治癒師

筋力:10800

体力:10900

耐性:10700

敏捷:10900

魔力:20100

魔耐:20100

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] ][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇] ・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・「狂暴者」+感情増減・森羅万象・思考加速・模倣取得・二虎流武術免許皆伝・呉一族秘伝免許皆伝・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇]・魔力操作・胃酸強化・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・纏雷・言語理解

 

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「ユエ、香織……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ん……」

「だろうね」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん……」

「・・・・」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

「ん……」

「・・・・」

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「今更……」

「そんなの野暮な話だよ」

 二人の言葉に思わず苦笑いするハジメ。真っ直ぐ自分を見つめてくるユエと香織のふわふわな髪を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細める二人に、ハジメは一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。

 

「俺がユエを、ユエが香織を、香織が俺を守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

 ハジメの言葉を、ユエも香織もまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべた。返事はいつもの通り、

 

「んっ!」

「えぇ!!」

 

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