「最強の格闘者はありふれた職業になっても世界最強」   作:武藤 桜

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第十五話「残念ウサギ登場」

オスカーの指輪を使い約三か月ぶりに地上に出ることに成功したハジメ達。

「……戻って来たんだな……」

「……んっ」

 

 二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

「やったぁあああああああ!!!!!」

「んっーー!!」

 

 小柄なユエと香織を抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓(つまず)き転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、三人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

 ようやく笑いが収まった頃には、すっかり……魔物に囲まれていた。

 

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

 ドンナー・シュラークを抜きながらハジメが首を傾げる。座学に励んでいたハジメには、ここがライセン大峡谷であり魔法が使えない場所であると理解していた。

 

「……分解される。でも力づくでいく」

 

 ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。もちろん、ユエの魔法も例外ではない。しかし、ユエはかつての吸血姫であり、内包魔力は相当なものであるうえ、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している。

つまり、ユエ曰く、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいということらしい。

 

「回復魔法もうまく使えないね。怪我しないよう気を付けないと」

 

「魔力が出した途端消えるなら超至近距離で当たる瞬間ぶつければいい。ユエは奈落で教えた技の練習台にこいつらを使え」

 

「んっ!!」

 

ハジメと香織が周囲の魔物を相手をして、ユエは一体の魔物の前に立った。

 

「ぎしゃああああああああああ!!!!」

 

魔物が爪を振りかざして襲ってきたが、

 

二虎流 火天ノ型  幽歩

 

まるですり抜けたかのようにユエは魔物の懐に飛び込んだ。

 

孤影流 羅刹掌×雷魔法  螺旋雷撃掌!!!!

 

攻撃のモーションに入った瞬間肉体を雷魔法で加速し接触する瞬間手のひらに雷魔法を纏わせて羅刹掌を放ち。魔物の胴体は大きく焼き抉れた。

 

「ハジメのいう通りだった。遠距離攻撃はできないけど近距離攻撃はできる…」

 

「そりゃよかった。ここらにいる魔物も奈落三十階層レベルか。普通の冒険者なら危ないが今の俺らには何も問題ないな」

 

「……確かに」

 

 ハジメは、右手の中指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。

 

 地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かである。ハジメとしてはエンジン音がある方がロマンがあると思ったのだが、エンジン構造などごく単純な仕組みしか知らないので再現できなかった。ちなみに速度調整は魔力量次第である。まぁ、ただでさえ、ライセン大峡谷では魔力効率が最悪に悪いので、あまり長時間は使えないだろうが。

 

 ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。ハジメもユエも、迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 

 もっとも、その間もハジメの手だけは忙しなく動き続け、一発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らせているのだが。

 

 しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。

 

 魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

 

 ティラノサウルスモドキに追われているのは足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だった。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

 滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、ハジメ達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。

 

「どうする?」

 

「まったく。本当に残念そうにもほどがあるだろ…」

 

ハジメの手が跳ね上がり銃口がティラノの額をロックオン。コンマ一秒にも満たない時間で照準から発砲までプロセスを完了し、一発の銃声と共に閃光がティラノの眉間を貫く。

 

 一瞬、ビクンと痙攣した後、ティラノはあまりに呆気なく絶命し、地響きを立てながら横倒しに崩れ落ちた。

 

 その振動と音にウサミミ少女が思わず「へっ?」と間抜けな声を出し、おそるおそるハジメの脇の下から顔を出してティラノの末路を確認する。

 

「し、死んでます…そんなダイヘドアが一撃なんて…」

 

 ウサミミ少女は驚愕も顕に目を見開いている

 

呆然としたままダイヘドアの死骸を見つめ硬直しているウサミミ少女だが、その間もユエに蹴られ、ハジメにしがみついたままである。さっきから、長いウサミミがハジメの目をペシペシと叩いており、いい加減本気で鬱陶しくなったハジメは脇の下の脳天に肘鉄を打ち下ろした。

 

「へぶぅ!!」

 

 呻き声を上げ、「頭がぁ~、頭がぁ~」と叫びながら両手で頭を抱えて地面をのたうち回るウサミミ少女。

 

今までゴロゴロ地面を転がっていたくせに物凄い勢いで跳ね起きて、「逃がすかぁ~!」と再びハジメの腰にしがみつくウサミミ少女。やはり、なかなかの打たれ強さだ。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

とにかく図々しいウサミミ少女シアにハジメは呆れたが、原作の流れを知っているため今後のことを思うと無下にはできず仕方なく連れていくことにした。ことあるごとにハジメに言い寄ろうとするシアは

 

「で、でも! 胸なら私が勝ってます! そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟

とんでもない爆弾発言を投下した。

 峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊(こだま)する。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。

 

 ハジメは「あ~あ」と天を仰ぎ、無言で合掌する。ウサミミよ、安らかに眠れ……。

 

 ちなみに、ユエは着痩せするが、それなりにある。断じてライセン大峡谷の如く絶壁ではない。

 

 震えるシアのウサミミに、囁(ささや)くようなユエの声がやけに明瞭に響いた。

 

―――― ……お祈りは済ませた? 

―――― ……謝ったら許してくれたり

―――― ………… 

―――― 死にたくなぁい! 死にたくなぁい! 

 

「〝嵐帝〟」

 

―――― アッーーーー!! 

 

 突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共にハジメ達の眼前に墜落した。

 

 まるで犬○家のあの人のように頭部を地面に埋もれさせビクンッビクンッと痙攣している。完全にギャグだった。その神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女である。ただでさえボロボロの衣服? が更にダメージを受けて、もはやただのゴミのようだ。逆さまなので見えてはいけないものも丸見えである。百年の恋も覚める姿とはこの事だろう。

 

ハジメが視線を彷徨(さまよ)わせた直後、痙攣していたシアの両手がガッと地面を掴み、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿を捉え、これ幸いにとシアに注意を向け話のタネにする。

 

「アイツ動いてるぞ……本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが……」

「……………………ん」

 

 いつもより長い間の後、返事をしてくれたことにホッとしていると、ズボッという音と共にシアが泥だらけの顔を抜き出した。

 

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」

 

 涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すシアは、意味不明なことを言いながらハジメ達の下へ這い寄って来た。既にホラーだった。

 

「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ……何者なんだ?」

 

 ハジメの胡乱な眼差しに、ようやく本題に入れると居住まいを正すシア。バイクの座席に腰掛けるハジメ達の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが……

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」

 

原作同様、固有魔法が使えるという理由で樹海を追放され、人間の奴隷狩りにあいながらわずかに生き残った者達と峡谷に隠れていると説明された。

 

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

 最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、ユエやハジメと同じ、この世界の例外というヤツらしい。特に、ユエと同じ、先祖返りと言うやつなのかもしれない。

 

「俺らはこれから樹海に向かう。仲間を助けたら樹海の道案内をしろ」

 

「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

 ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。

 

「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それでお二人のことは何と呼べば……」

「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」

「私は白崎香織」

「……ユエ」

「ハジメさんとユエちゃんに香織さんですね」

 

 三人の名前を何度か反芻し覚えるシア。しかし、ユエが不満顔で抗議する。

 

「……さんを付けろ。残念ウサギ」

「ふぇ!?」

 

 ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。どうもユエは、シアが気に食わないらしい。何故かは分からないが……。例え、ユエの視線がシアの体の一部を憎々しげに睨んでいたとしても、理由は定かではないのだ!

 

「ほれ、取り敢えず残念ウサギも後ろに乗れ」

 

 ハジメがユエの内心を華麗にスルーしながらシアに指示を出す。シアは少し戸惑っているようだ。それも無理はない。なにせこの世界に魔力駆動二輪等と言う乗り物は存在しないのだ。しかし、取り敢えず何らかの乗り物である事はわかるので、シアは恐る恐るユエの後ろに跨った。

 

 とある魔物の革を使ったタンデムシートだが、ユエが小柄なので十分に乗るスペースはある。シアは、シートの柔らかさに驚きつつ、前方のユエに捕まった。その凶器を押し付けながら。

 

ハイベリアスと呼ばれる魔物に襲われそうになっているハウリア族をシアを囮にして退治し、合流した。

 

「あふんっ! うぅ~、私の扱いがあんまりですぅ。待遇の改善を要求しますぅ~。私もユエさんみたいに大事にされたいですよぉ~」

 

 しくしくと泣きながら抗議の声を上げるシア。シアは、ハジメに対して恋愛感情を持っているわけではない。ただ、絶望の淵にあって〝見えた〟希望であるハジメをシアは不思議と信頼していた。全くもって容赦のない性格をしているが、交わした約束を違えることはないだろうと。しかも、ハジメはシアと同じ体質である。〝同じ〟というのは、それだけで親しみを覚えるものだ。そして、そのハジメは、やはり〝同じ〟であるユエを大事にしている。この短時間でも明確にわかるくらいに。正直、シアは三人の関係が羨ましかった。それ故に、〝自分も〟と願ってしまうのだ。

 

 投擲とキャッチの衝撃で更にボロボロになった衣服を申し訳程度に纏い、足を崩してシクシク泣くシアの姿は実に哀れを誘った。流石に、やり過ぎた……とは思わず鬱陶しそうなハジメは宝物庫から予備のコートを取り出し、シアの頭からかけてやった。これ以上、傍でめそめそされたくなかったのだ。反省の色が全くない。

 

「シア! 無事だったのか!」

「父様!」

 

 真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互いの無事を喜んだ後、ハジメの方へ向き直った。

 

「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

 そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

 シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族であるハジメに頭を下げ、しかもハジメの助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱くハジメ。

 

 カムは、それに苦笑いで返した。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

 その言葉にハジメは感心半分呆れ半分だった。一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程があるというものだろう。

 

あまりの家族愛に呆れつつ何時までもグズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、堪えて出発を促した。

 

 一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。

 

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