「最強の格闘者はありふれた職業になっても世界最強」   作:武藤 桜

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第四話「修羅の修行」

ハジメの提案で「実践的武術」の会得の為クラスメイトの三分の二が参加する形となり、

ハジメは最初にクラスメイトを「護身用」の技のみの簡単コースと「それを含めた流派の完全取得」の本気コースの二つに分けた。

実際、天乃河達とメルド達騎士団のみ本気コースを選択し残りは簡単コースを選んだ。

 

「それじゃぁ始めるぞ。お前たちに伝授する流派は「二虎流」という武術だ」

 

「「「「二虎流・・・?」」」」

 

「「二虎流」は古流武術をベースに様々な武術の概念を取り込んだ武術だ」

 

「「二虎流」の技はそれぞれ四系統の型から構成されている」

 

・金剛ノ型(肉体硬化・打撃技)

・燥流ノ型(受け流し・カウンター)

・火天ノ型(歩法・走法)

・水天ノ型(肉体軟化・関節技)

 

「この四系統を使い分け、複合して技を放つなどありとあらゆる相手との戦闘を想定して作られた流派だ」

 

「聞くが南雲。俺たちはこれからどうやってその「二虎流」を覚えればいいんだ?」

 

「簡単コースは火天と燥流。本気コースはそれを含めて全部の型を教える」

 

「なるほどね。燥流と火天は自衛にぴったりの技だから簡単コース組に教えるのね」

 

「言っとくが本気コース組は「二虎流」以外の武術の技も教えるからそのつもりでな」

 

「はぁ!?」

 

「言ったよな。「本気で強くなりたい奴だけ来い」って。「二虎流」は確かに強い武術だがそれだけじゃこの世界で生き残れるって保証はねぇよ」

 

「「「っつ!!」」」

 

「それじゃぁ始めるぞ…」

 

こうして南雲ハジメによる「実践的武術」の修行が始まった。

修行内容はいたってシンプル。午前中は騎士団協力のもと体力づくり。午後は技の修行。

それぞれの現状の体力を確認し、それを踏まえたうえで一カ月で底上げできる限界まで筋力体力をレベルアップさせるコースメニューを考えて教える。

 

「つれーよ!!もう限界だよ!!!」

 

「何弱気なこと言ってんだよ。文句垂れたり動きを止めたら重りを足すぞ!!!」

 

「大変だよ!!野村君が息してない!!?」

 

「健太郎ぉぉ!!!!!?」

 

「おわ!?いたのか遠藤!?」

 

「いたぞ朝からずっとな!?それより健太郎が!!」

 

「なら頭からやり直しだ。いやでも目が覚めるだろう」

 

「嫌だぁ~~!!!!!」

 

「嘘!?起きた!?!?」

 

「おい南雲!!こんな無茶苦茶な修行で本当に強くなれるのか!?」

 

「「「そうだそうだ!!」」」

 

「何言ってんだアホ。一昼夜で変わるわけないだろ。大切なのは持続することだ。今はまだ新しい修行法に体が慣れないだろうが数日で楽になるぞ」

 

修行開始時ハジメは皆に特製の重りを両手足に着けた。

『これは日覆うごとに重量が一つ一キロずつ加算されるから死ぬ気で耐えてついて来いよ』

 

『『『『『嘘でしょぉ~!!?』』』』』

 

最初からトップギアで限界まで追い込む鞭、それと同時にしっかりした食事と睡眠時間を与える飴で修行を続ける。

 

一日の流れ

朝6時起床~7時までに着替えと食事を済ませる~7時から12時まで基礎トレーニング

13時まで昼休憩の食事~13時から18時まで技の修行~19時まで夕食と風呂~19時から21時まで座学と反省会~22時就寝

修行開始から一週間が過ぎたころ

「もうやってられるか!?これのどこが修行だ!!ただの拷問だろう!?」

 

忍耐力の無い天乃河が遂にキレだした。

 

「このサディスト鬼軍曹野郎が死ねぇ!!!!」

 

天乃河は怒りで我を忘れその場にあった儀礼用木剣で斬りかかてきた。

縦横無尽に振り回す姿に剣術というには程遠い子供の癇癪の用だったが最後の一振りが何故か修練場の外壁を真っ二つに切ってしまったのだ。

 

「う、噓…、だろ?」

 

「人間同じことの繰り返しをすると精神がマヒするが肉体は集中力を高めていくんだ。

集中力の向上は動作の素早さと正確性を生む。つまり自然に無駄な動きは削られ最低限の力と所作で技を繰り出すことができる」

 

「た、確かに。がむしゃらに剣を振り回してたけどそんなに力は込めてなかった」

 

「力任せは正しいフォームに如かず…。効率的な動きはより効果的にエネルギーを伝える。

さっきのがお前本来の力の一端だ」

 

その場にいる全員が驚いていた。ハジメの修行法は無茶苦茶に見えて地道すぎる道のりだけど独学でやるより最も早く効率的なものだと全員が気づいたのだ。

 

天乃河の修練場ぶった切り事件以降ハジメに文句を言うメンバーはいなくなり代わりにより正確なフォームの修正方法を聞く者が増えた。

 

「もう少しあと二、三センチ腕の間に余裕を持たせるんだ。右足を四分の一歩引いて左足をもう半歩前に出してもう一度技を放て」

 

斬!!

 

放った一撃は修練用のカカシを真っ二つに斬った。

 

「すごい!!さっきと全く違う」

 

「当たり前だ。力みすぎていたり体感がぶれてるから本来の威力にならないんだからな。

さらに言うと技それぞれにもまだムラがあるからそれも少しずつ修正しよう」

 

「了解!!」

 

修行が二週間を過ぎるころには皆文句ひとつ言わずに修行にとりくんでいく。

だが、

「大変だ!!王国の判断で迷宮の実地訓練を一週間早めるそうだ!!」

 

「はぁ!?」

 

「大丈夫じゃねぇ?俺らそれなりに強くなったし」

「そうだな。大丈夫だろう」

「いや。本当に大丈夫なの?」

 

クラスメイト達の慢心や疑念の声が口々に聞こえてくる。

 

「しゃぁねぇ。こうなったら残り一週間で残りのメニューを消化するぞ」

 

ハジメのそんな無茶ぶりも良いところな発言に、

 

「マジ!?」

「少しずつ慣れてきたけど二週間分の修行を一週間にまとめるなんて死ぬだろ!?」

 

クラスメイト達の驚愕と恐怖の声が上がった。

 

「ハジメくん、聞きたいんだけど。もし一週間で修行をまとめるって方法を取ったら私たちは強くなれるの?」

 

「あぁ。確実に強くなれるが本気組は本当に命がけの修行になる。だから自分で決めろ。

このまま一週間元のメニューをこなすか。二週間分まとめた地獄コースメニューを受けるか」

 

簡単コース組は全員一週間メニューを選んだが何と本気コース組は全員地獄コースメニューを選択した。

 

「本当に良いのか?残り一週間俺は本当に限界まで追い込むからな。まず間違いなく全員仮死を経験するだろうな」

 

「「「仮死!?」」」

 

「そ、それでもやるわ!私も皆を守れる存在になりたいから…」

 

「雫を一人にさせられないからな。それに、認めたくはないけど俺達がこの二週間で強くなれたのはお前のお陰だ。お前が意味不明で無意味な修行内容を用意する奴じゃないのは十分わかってる。どんなに厳しい内容でも最後まで受けきってやる!!!」

 

「決意は固いか…。なら連れてってやるよ、地獄の淵に…」

 

 

「「「「「「ぎいやああああああああああああああああああああ!!!!?!?!?!」」」」」」

 

「誰、か。誰か助けてくれぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!!!!!!」

「燃える!体が燃えちまぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

「こんな修行イカれてる!?誰か止めてくれぇぇぇぇ!?!?!」

 

地獄コースメニューを選択した全員は現在逆さ状態で足を棒に固定された状態で地面から炎であぶられそうになる修行を受けていた。

 

「これは最速最高率で腹筋背筋を鍛えるメニューだ。ほらほら動かないと体があぶられるぞ」

 

「「「「「ギャアあああああああああ!?!?!?!?」」」」

 

午前中の修練場に勇者一行の悲鳴が響き続けたのだった。

 

「大変だ!!鈴が!鈴の心臓が止まってしまった!!!」

 

「ええええええええええええええええええ!?!?!?!?!」

 

「大丈夫だ」

 

ハジメがそう言いながら小瓶の中身を谷口鈴の喉に流し込んだ。すると、

 

「に、がああああああああああああ!?!?!?」

 

「息を吹き返したぞ!?どういうことだ!?」

 

「これは城の図書室で見つけた薬草の本に書いてあった苦い薬草数十種類をすりつぶして作った特製の気付け薬だ。これを使えば心拍が止まって数分程度なら確実に目を覚ます」

 

「マジかよ…!?」

「鈴さっきまでお花畑にいて川向うに死んだはずのおばあちゃんが鈴を必死で追い返そうとして…」

 

「それ三途の川だよ!?もう少しであの世に行くところだったの!?!?」

 

鈴の臨死の驚きと驚愕が昼の城内を駆け巡った。

 

「グべロバ!?」

「ぎやあああ!??!」

「や、やめてぇ!!!」

 

「オラオラ!!何やってる!?さっさと立てぇ!!!立たないともっとボコボコにするぞ」

 

「「「ヒィイイイ!!!!」」」

 

正に「地獄」という言葉がふさわしい程のメニューだった。

腕輪に加算される重量が二倍になった上に基礎トレーニングと技の修行の量も二倍になった。息も絶え絶えな状態になるまで体を絞られ昼食も過度の疲れでほとんど胃に入らず、そのわずかに入った分も午後の修行で吐き出す始末。座学が終わると気絶するようにベットに倒れ込んで眠りについた。

 

天乃河や坂上が後悔している中、八重樫と香織はそれでもついていこうと我武者羅に修行に取り組んでいた。

 

「どうした!?もうへばったのか!?」

「まだまだぁ!!!!」

「絶対に勝つんだからぁ!!」

 

手加減無しのハジメの攻撃を八重樫は木剣で香織は拳で防ぎ反撃をしてきた。

 

「なかなかやるな。ならこれはどうだ!?」

 

二虎流 金剛・火天ノ型  瞬鉄・爆!!!

 

攻めに転じてきた二人を全身を硬直した状態でタックルし、吹き飛ばした。

 

「「ガハァっ!!!」」

 

「香織!!雫!!」

 

「まだ、だぁ!!まだ、私たちは戦える!!!」

「絶対、何が何でも!!強くなるんだからぁ!!!!」

 

二人はものの見事に立ち上がり臨戦態勢を整えた。

そんな二人の姿御見ながら後悔した他のメンバーはその姿に感化され顔を上げ武器を構えだした。

 

「香織達だけに無理をさせる訳にはいかない!!」

「絶対にあの野郎に一発ぶち込んで文句言ってやる!!!」

 

少し形は違うが全員が「ハジメに勝つ」という意志のもと結束した。

 

「なかなかやるな。だったらこっちもギアを一つ上げるぜぇ!!!」

 

ズドゴオオオオオオン!!!!

 

午後の修練場に更に大きな轟音が響き続けるのだった。

 

そんなこんなで地獄コースメニューの一週間が残り一日になった日。

 

「今日は基礎トレーニングが終わったら最終試験を行う。昼休憩が終わり次第修練場に集合な」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

そして午後。全員の両手足につけられていた加重を加える手枷を外していった。

「なんだか思ったよりも開放感がないな?」

「確か一日四キロ加算されててそれの三週間は…、八十四キロ!?」

「そんなに重りが付いてたなら体感で軽くなったって分かるはずなのに?」

 

「試してみりゃいいんだよ。とりあえず烈火を使ってみろ」

 

二虎流 火天ノ型 烈火!!!

 

バヒュウウウン!!!

 

烈火を使った全員が一瞬のうちに数十メートル先に移動していた。

 

「なぁ!?何が起きたんだ!?」

 

「次、鉄砕!」

 

ドゴン!!!

 

外壁に向かって鉄砕を放つと拳は壁を貫通。他の者が開けた穴とヒビが繋がり外壁の一部が崩壊した。

 

「嘘でしょ!?」

 

「次!柳だ!!」

 

ハジメが目の前のクラスメイトに向かって木剣を振り下ろすと。

 

「うお!?」

 

ズテン!

 

ハジメは一瞬のうちに攻撃を受け流され地面に叩きつけられた。

 

「マジかよ…!?」

 

「どうだ?自分の今の実力の一端は?」

 

「なぁ、南雲?俺たちの体いったいどうなってんだ!?」

 

「決まってるだろ。肉体がほぼ完全に考えるより先に最適行動をするようになったんだよ」

 

「「「「最適行動!?」」」」

 

「お前らが枷を外しても違和感がなかったのは肉体が掛かってた重量の分散を完璧にしていた。つまり加わっていた分の重さを完全に感じていないってことだったからさ」

 

「八十四キロもの重量を!?」

「そんなの有り得るのか!?!?」

 

「現に実際お前らは技を放つまで肉体が軽いと感じていなかっただろ?」

 

「それと同時に重りを外したことによって重りがあった時の何倍の遼力を発揮してる。とりあえず三週間ぶりに自分のステータスを見てみろ?」

 

全員が啞然としながらもしまっていたステータスプレートを見ると、

 

「嘘だろ!?」

「初期の天乃河以上のステータスになってる!?」

 

簡単コース組は初期ステータスの三倍から四倍のステータスに、地獄コースメニューを乗り切ったメンバーは七倍から八倍のステータス量になり全員「二虎流」免許皆伝が技能に追加されていた。

 

「これから最終試験を始める。内容はいたってシンプル。枷を外した俺に誰か一人でも一撃クリーンヒットしたらお前らの勝ちだ。俺は「二虎流」だけで戦う。お前らは「二虎流」を含めて職業技能全部使え。遠慮はいらない」

 

ハジメはそう言うと上着を脱ぎ、ベストのような重りを外した。外した枷は地面に当たると同時に地面深く沈んでいった。

 

「俺らの倍以上の重りを付けて修行してたのかよ…」

「やっぱり南雲ハジメは「異常」だ」

 

そんな呆れと納得の籠った声が聞こえたが、

 

「さぁ、最後の稽古の時間だ…!」

 

ハジメは地面を爆発させるかのような踏み込みで駆け、クラスメイトに迫っていった。

 

「グハ!?」

「ちょ、ちょま…」

「うわああああああああああ!?!?」

 

簡単コース組の悲鳴が聞こえるが皆たいして大怪我を負ってはいないようだった。

 

「天翔閃!!!」

「瞬鉄・爆!!!」

「水燕!!!」

 

勇者一行が真正面から攻撃をぶつけてきた。

 

「フン!!」

 

二虎流 金剛・火天ノ型 瞬鉄・砕

 

「教えたよな。瞬鉄系の技はカウンターで一番効果を出すんだ。俺に一撃を与えたいのは分かるがむやみの正面から攻撃するな」

 

平然と全員の技を一発のカウンターで返してしまったハジメ。

 

「クソぉぉ!!」

「まだまだぁぁ!!!!」

 

「こっちももう一発どつくぜぇ!!!」

 

ドバゴオオオオオオン!!!

 

衝撃波も乗せられた一撃が周囲にいた全員を吹き飛ばした。

 

「どうすれば勝てるんだよ!?」

「無理ゲー過ぎんだろ!??!」

 

「はああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

香織と八重樫が二人一緒に攻めに動いた。

 

「なるほど、一人が受け流してもう一人が攻める。効果的判断だ。だが、それで俺を越えられるかな?」

 

二虎流 火天ノ型 火走

 

二人が同時人火走を使い左右別方向に分かれた。

 

「今だぁ!!!」

 

さっきまで二人がいた場所から天乃河が突っ込んできた。

 

「なるほど、二人と見せかけ三人…。いや、四人がかりか」

 

後ろから坂上も攻撃を仕掛けてきた。

 

「喰らえぇ!!!天翔拳!!!!!!!!!」

「鉄砕!!!!」

 

天翔閃の魔力を乗せた天乃河の拳。烈火でトップスピード状態の鉄砕が同時にハジメに迫てくるが、

 

二虎流 燥流ノ型 柳

 

二人の攻撃を受け流した。

 

「効果的だがまだまだだ」

 

「俺らは囮だ!!」

「今だやれぇえ!!!!」

 

「八重樫流体術・奥義!!!龍牙墜!!!!!!!!!」

 

「水燕!!!!!」

 

更に左右から八重樫と香織が向かってきた。

 

「ちぃ!!流刃!!!」

 

二虎流 燥流ノ型  流刃!!

相手の攻撃角度を見極め、直撃瞬間拳側面で攻撃角度をずらす守の技。

燥流ノ型を極めきれば銃弾の軌道をも変えられる。

 

足を使った占め技と不規則な攻撃を何とか受け流したハジメ。

 

「いいねぇ!最高だよ!てめぇーら!!!」

 

二虎流 金剛・火天ノ型 瞬鉄・砕脚!!!

 

「「ガハぁ!!!」」

 

八重樫達を手加減無しの蹴りで顎を刈った。

八重樫が力なく倒れ込み香織も膝をついた。

 

「惜しかったな。中々やるじゃねぇか・・・っつ!?」

 

ハジメが二人に敬意の言葉を賭けようとしたとき香りがいた方向から尋常じゃない殺気が起こった。

 

「まだ、だ。まだだぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」

 

『完全に顎を刈った。こいつ意識が途切れても肉体だけで動くなんて…』

 

「本当に。…最高だぜぇぇえええええええ!!!!かかってこいやぁあああああああ!!!!!!!!」

二虎流 金剛ノ型 不壊!!!

 

「鬼慶…」

 

ドゴオオオオオオン!!!!!!!

 

皆驚いていた。クラスメイトに王国騎士団総出で掛かっても恐らく勝てないハジメが城壁に吹き飛ばされていたのだ。

 

 

 

『鬼慶?』

 

それはまだ地獄コースメニュー開始から数日が経ったころのこと、「二虎流」の技について香織達が質問してきたときのことだった。

 

『あぁ、「二虎流」には三つの奥義が存在する。身体能力の強化「前借り」、動体視力の強化「降魔」、そして「二虎流」すべての型を使った技「鬼慶」の三つだがお前らにはまだ教えられない』

 

『何でだよ!?そんな必殺技みたいなもんがあるならそれを覚えた方が早いぜ!!』

 

『「前借り」と「降魔」は肉体の負荷が大きくて心臓と脳が異常に発達していないと何回か使うだけで脳障害と心不全を患う技だ』

 

『マジで!』

 

『それに「鬼慶」は「二虎流」の技を完全に取得し理解しなければ放てない技だからな』

 

『たった三週間じゃぁどうやっても会得できないってわけね』

 

『ねぇハジメくん!覚えるのは無理でもどんな技なのか見てみたい!!』

 

『それは確かにね。まだ準備不足だけど完成形を見れば参考になるわ』

 

『いいぜ。見せてやるよ。』

 

騎士団に頼んで大岩を修練場に持ってこさせ岩の前にハジメは立った。

 

『「鬼慶」は完全なカウンター技だ。燥流ノ型で相手の攻撃をそらし、そのエネルギーを水天ノ型でコントロール、その間に火天ノ型でカウンター用の体制を整え、エネルギーを拳に乗せる瞬間金剛ノ型で拳を固める。それをほぼノーモーションで行えば…』

 

ドガアアアアン!!!!!

 

『岩位なら一撃で粉砕できる』

 

『オイオイ!!!一撃で大岩を砕き割ったぞ!?』

 

『この技の最もいい近道は技の理解度を高め、極限状態で体を限界まで柔軟化させることだ』

 

『それができれば…』

 

『格上の敵を一撃で吹き飛ばすことのできる大技になる』

 

「やった。やったぞぉおおおおおお!!!!白崎が南雲をぶっ飛ばしたぁあああああああ!!!!!!」

 

誰が声を上げたか分からなかったがそれを皮切りに一気に歓声が響いた。

誰が予想しただろうか。治癒師という回復職が召喚された異世界人の誰よりも強い存在を倒したのだ。修練場は、否。王城内はかつてないほどの大歓声が響いた。

 

「あぁ~。痛ってぇ。久々だったぜ。負けるなんて」

 

南雲が平然とした状態で立ち上がった瞬間、一瞬で歓声は止まった。

 

「まさか、見様見真似で「鬼慶」を撃つとはな。さすがの俺も度肝抜かれたぜ」

 

「なんで「鬼慶」を喰らったのに平然としてんだよ!?」

 

「そりゃぁ「鬼慶」が見様見真似だったからだよ。気絶状態の中肉体だけが無意識に動き俺の動きをまねて放っただけだからだ」

 

「そ、そうなのか…」

 

「それでも俺に一撃で入れる最終試験の内容はクリアだ。お前らは今日をもって免許皆伝だ!!よく頑張ったな!!!」

 

「「「「お、おっしゃああああああああああああ!!!!!!!」」」」

 

重症を負った勇者一行は王国の専属治癒師が治し、その夜はクラスメイト達が食堂で大宴会を開き、翌日迷宮のある町に向かうための英気を養うため眠りについた。

 

「南雲君…?こんな時間に何の用でしょうか?」

 

夜、皆が就寝する少し前、ハジメは畑山先生と食堂前で落ち合った。

 

「実は先生にお願いがあってな。俺たちが迷宮の訓練から帰ったら皆にこの手紙を渡してくれないか?」

 

「手紙、ですか?」

 

「あぁ、三週間だったけど同級生っていう立場を越えて俺はあいつらの師に、先生になったんだ。それで、俺からあいつらに激励の言葉をこの手紙にそれぞれ書いたんだ」

 

「南雲君が直接渡したらいいんじゃないですか?」

 

「俺はあいつらに免許皆伝を伝えてもう師じゃないんだ。これからはあいつらがあいつらなりに「二虎流」を作っていくんだ。だからみんなの先生である貴方に手紙を渡してほしんだ」

 

「なるほど…、分かりました。責任をもって皆に渡します!」

 

「ありがとう先生。それに、ちょっとだったけど先生ってこんなに誇れる仕事なんだって知れて良かったと思うよ」

 

「そうですね!先生は最高の仕事です!!」

 

互いに先生という立場を持つ二人は互いの生徒のこと、自身の食柄のことを語り合いながら誇らしく笑うのだった。

 

そして、夜中。ハジメは明日に備えて武器道具の最終確認を進めていた。

 

『十中八九檜山は俺を殺そうとするだろうな。距離が離れれば離れるほど避けるのが難しい魔法攻撃をどう避けるかがミソだな』

 

原作通りに事が運びそうな予感しかしない現状に頭を悩ませていると。

 

「ハジメくん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 なんですと? と、一瞬硬直するも、ハジメは慌てて扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「……なんでやねん」

「えっ?」

 

原作通りの展開に思わず関西弁で静かなツッコミを入れたハジメ。よく聞こえなかったのか香織はキョトンとしている。

 

「あ~いや、なんでもない。えっと、どうしたんだ? 何か連絡事項か?」

「ううん。その、少し南雲くんと話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

「…………どうぞ」

 

『原作同様の励ましと「守る」と言いたいのだろうか?』と思いつつ香織を部屋に招き入れた。

 

「うん!」

 

 なんの警戒心もなく嬉しそうに部屋に入り、香織は、窓際に設置されたテーブルセットに座った。

 

 若干混乱しながらも、ハジメは無意識にお茶の準備をする。といっても、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだが。香織と自分の分を用意して香織に差し出す。そして、向かいの席に座った。

 

「ありがとう」

 

 やっぱり嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける香織。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のようだ。

 

 ハジメは、欲情することもなく純粋に神秘に彩られた香織に見蕩れた。香織がカップを置く「カチャ」という音に我を取り戻し、気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干す。ちょっと気管に入ってむせた。恥ずかしい。

 

 香織がその様子を見てくすくすと笑う。ハジメは恥ずかしさを誤魔化すために、少々、早口で話を促した。

 

「それで、話したいって何かな。明日のことか?」

 

 ハジメの質問に「うん」と頷き、香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。

 

「はじめくんは強いって本当に分かっているんだけど何故だかハジメくんが遠くに行ってしまいそうな気がして…」

 

「大丈夫だ。俺はちょっとやそっとじゃ死なねぇよ。それにお前を置いてどっかに消えたりなんかしねぇよ」

 

「変わらないね、ハジメくんは」

「は?」

 

「覚えてる。初めてハジメくんと話した時のこと?あの時からハジメくんはいつも変わらずにまっすぐに自分のできる精一杯を全力で頑張ってた。中学生じゃ絶対にできる訳ないぐらい鮮明でまっすぐな瞳に私は惹かれたの…」

 

「あなたが、好きです…」

 

それは本来もっと後に聞くはずだった言葉だった。

 

「いいのかよ?天乃河が怒ると思うぜ」

 

「いいの。だって誰に何と言われようとこの気持ちだけは絶対に曲げないし譲れないから」

 

「はぁ~。本当にどこまでの決意が固くてまっすぐな目をした女だなまったく…」

 

「今すぐ答えを伝えることはできない。でも、その気持ちは確かに受け取ったよ。約束する、俺は絶対に死なないし何がなんでもお前が危ないときは俺が守る!」

 

「ありがとう、ハジメくん。だからね、ハジメくんが危ないときは私もあなたを守るわ…」

 

「そうか、ありがとうな!」

 

俺らは月が差し込む窓際で飛び切りの笑顔で「互いを守り合う」と誓いを立て、満面の笑みで笑い合った。

 

 それからしばらく雑談した後、香織は部屋に帰っていった。

 

 ハジメはベッドに横になりながら、思いを馳せる。絶対に香織を守り抜くと。

 

深夜、香織がハジメの部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいたことを誰も知らない。その者の表情が醜く歪んでいたことも知る者はいない。

 

 

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