「最強の格闘者はありふれた職業になっても世界最強」   作:武藤 桜

8 / 15
第八話「月との出会い」

熊爪を討伐してから三日後、武器の補充とメンテナンス、水と食料の準備が終わり、いよいよ迷宮攻略に乗り出した。

 

「ここから先百階層もあるから覚悟しとけ」

「まさかここが迷宮の百一階層だったなんてね…」

 

「本来だと百階層を突破したらここに転移する仕掛けらしいけど。地下水脈がそのまま六十五階層と繋がってるなんて誰も思いやしないしな」

 

実際、奇跡としか言いようのない状況でここに流れ着いていたのだ。万が一あの橋から誰か落ちたとしても普通は助からないのが当たり前だ。

 

こうして、ハジメと香織の迷宮攻略が始まった。神水を無駄使いしないよう節約し、逆に魔物肉接種の激痛を胃酸強化の効力上げに使い負荷を掛けつつ修行に打ち込んだ。

 

原作同様、タール鮫を始め奈落の魔物は曲者ぞろいで一層降りるごとに獲得した技能が効かない相手が大量に出てきたが、香織とのコンビネーションで一層一層と降り、最初の目標地点奈落五十階層に到達した。ちなみに、現在のハジメと香織のステータスはこうである。

 

=====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49

天職:錬成師

筋力:1080

体力:1170

耐性:1060

敏捷:1240

魔力:960

魔耐:960

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解・「格闘者」+全武器適正・基本全体術適正・思考加速・二虎流武術免許皆伝・呉一族秘伝免許皆伝・拳眼・自然影響耐性

称号:「絶対不屈」(効果:自身よりステータスが高い存在との戦闘時、全ステータスが上昇する(最大3倍))

 

=====================================

 

白崎香織 17歳 女 レベル:48

天職:治癒師

筋力:1000

体力:1100

耐性:900

敏捷:1100

魔力:1300

魔耐:1300

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] ][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇] ・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・「狂暴者」+感情増減・森羅万象・思考加速・模倣取得・二虎流武術免許皆伝・呉一族秘伝免許皆伝・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇]・魔力操作・胃酸強化・高速魔力回復・纏雷・言語理解

 

==================================

 

はっきり言って化け物と呼ばれても仕方ないステータスだった。

香織がいつの間にか獲得していたユニークスキル「狂暴者」は完全な格闘特化のスキルだった。

・感情増減…喜怒哀楽の感情が大きく揺れ動くとステータスが上昇する。

・模倣取得…見たもの体験したあらゆるスキル技能を記憶し、修練次第では完全取得可能。

敵に対して一切の情けも容赦もなくなった香織の性格を象徴するスキルだ。

 

「ここが五十階層…。ここに封印されてる吸血鬼を開放するんだね」

 

「あぁ。ちょっとヤンデレ気質だけど魔法の技術ならだれにも負けないし故郷に帰るのに絶対に必要な戦力だしな」

 

「恋のライバルの予感…」

 

香織のそんなぼやきを他所にサイクロプスを瞬殺して扉を開けた。

 

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。ハジメの〝夜目〟と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

 中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

 その立方体を注視していたハジメは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

 近くで確認しようと扉を大きく開け固定しようとする。いざと言う時、ホラー映画のように、入った途端バタンと閉められたら困るからだ。

 

 しかし、ハジメが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

「……だれ?」

 

 上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗(のぞ)いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

 香織は硬直し、紅の瞳の女の子も平然とするハジメと呆然とする香織をジッと見つめていた。やがて、香織はゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

「すみません。間違えました」

 

そう言ってそっと扉を閉めようとする香織。それを金髪紅眼の女の子が慌てたように引き

 

「ちょっと待て香織!?」

ハジメの声を聴き。彼女も止める。もっとも、その声はもう何年も出していなかったように掠(かす)れて呟(つぶや)きのようだったが……

 

 ただ、必死さは伝わった。

 

「ま、待って! ……お願い! ……助けて……」

「嫌です」

 

 そう言って、やはり扉を閉めようとする香織。鬼である。

 

「ど、どうして……なんでもする……だから……」

 

 女の子は必死だ。首から上しか動かないが、それでも必死に顔を上げ懇願(こんがん)する。

 

 しかし、香織は鬱陶(うっとう)しそうに言い返した。

 

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないでしょ? 絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし……。という訳で……」

 

 全くもって正論だった。

 

 だがしかし、普通、囚われた女の子の助けを求める声をここまで躊躇(ためら)いなく切り捨てられる人間はそうはいないだろう。元の優しかった香織は確かにピチュンしてしまったようだ。

 

 すげなく断られた女の子だが、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……」

 

「香織…。俺とお前の恋路に邪魔な人ができるかもしれないと思うからってさすがにドライすぎるんじゃねぇか?」

 

「そうかな?私はただただ心配なだけ。ハジメくんがロリッ子にシフトチェンジするんじゃないかって」

 

「お前は俺を何だと思ってんだ!?俺は決してロリ一筋の変態じゃねぇぞ!!」

 

香織のハジメの説明を無視した完全ドライ発言と見捨てる気満々の行動にハジメは大いに呆れ、

 

「お前を助けてやる。条件を飲むならな」

 

「何でもする!何でも、言うこと聞くから。お願い…、助けて…!!」

 

「「助けて」か」

 

「香織…。魔力補助を頼む」

 

「分かったよ」

 

「錬成!!」

 

女の子がその意味に気がついたのか大きく目を見開く。ハジメはそれを無視して錬成を始めた。

 

 ハジメの魔物を喰ってから変質した赤黒い、いや濃い紅色の魔力が放電するように迸る。

 

 しかし、イメージ通り変形するはずの立方体は、まるでハジメの魔力に抵抗するように錬成を弾いた。迷宮の上下の岩盤のようだ。だが、全く通じないわけではないらしい。少しずつ少しずつ侵食するようにハジメの魔力が立方体に迫っていく。

 

「ぐっ、抵抗が強い! ……だが、今の俺なら!」

 

 ハジメは更に魔力をつぎ込む。詠唱していたのなら六節は唱える必要がある魔力量だ。そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始める。既に、周りはハジメの魔力光により濃い紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められているようだった。

 

 ハジメは更に魔力を上乗せする。七節分……八節分……。女の子を封じる周りの石が徐々に震え出す。

 

「まだまだぁ!」

 

 ハジメは気合を入れながら魔力を九節分つぎ込む。属性魔法なら既に上位呪文級、いや、それではお釣りが来るかもしれない魔力量だ。どんどん輝きを増す紅い光に、女の子は目を見開き、この光景を一瞬も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続けた。

 

 ハジメは初めて使う大規模な魔力に脂汗を流し始めた。少しでも制御を誤れば暴走してしまいそうだ。だが、これだけやっても未だ立方体は変形しない。ハジメはもうヤケクソ気味に魔力を全放出してやった。

 

 香織は「故郷に帰るための最重要戦力だから開放しなければならない」と考え行動したが、彼女の本気で助けを求めている顔を見て「とにかく放っておけない」のだから仕方ない。邪魔するものは皆排除し、徹頭徹尾自分の目的のために生きると決めたはずなのだが……

 

 香織はもう一度、内心で「なにやってんだか」と自分に呆れつつ、何事にも例外は付きものと割り切って、「やりたいようにやる!」と開き直りハジメに魔力を全力で譲渡した。

 

 今や、ハジメ自身が紅い輝きを放っていた。正真正銘、全力全開の魔力放出。持てる全ての魔力を注ぎ込み意地の錬成を成し遂げる!

 

 直後、女の子の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

 それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

 ハジメと香織も座り込んだ。肩でゼハーゼハーと息をし、すっからかんになった魔力のせいで激しい倦怠感に襲われる。

 

 荒い息を吐き震える手で神水を出そうとして、その手を女の子がギュッと握った。弱々しい、力のない手だ。小さくて、ふるふると震えている。

 

 ハジメが横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐにハジメを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

 そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「……ありがとう」

 

 その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、ハジメも香織にも分からなかった。ただ、全て切り捨てたはずの心の裡に微かな、しかし、きっと消えることのない光が宿った気がした。

 

 繋がった手はギュッと握られたままだ。いったいどれだけの間、ここにいたのだろうか。少なくともハジメの知識にある吸血鬼族は数百年前に滅んだはずだ。この世界の歴史を学んでいる時にそう記載されていたと記憶している。

 

 話している間も彼女の表情は動かなかった。それはつまり、声の出し方、表情の出し方を忘れるほど長い間、たった一人、この暗闇で孤独な時間を過ごしたということだ。

 

 しかも、話しぶりからして信頼していた相手に裏切られて。よく発狂しなかったものである。もしかすると先ほど言っていた自動再生的な力のせいかもしれない。だとすれば、それは逆に拷問だっただろう。狂うことすら許されなかったということなのだから。

 

 「神水を飲めるのはもう少し後だな」と苦笑いしながら、気怠い腕に力を入れて握り返す。女の子はそれにピクンと反応すると、再びギュギュと握り返してきた。

 

「……名前、なに?」

 

 女の子が囁くような声でハジメに尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかったと苦笑いを深めながらハジメは答え、女の子にも聞き返した。

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。こっちは白崎香織だ。お前は?」

 

 女の子は「ハジメ、香織」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したようにハジメにお願いをした。

 

「……名前、付けて」

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

 長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるハジメだったが、女の子はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」

「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

 おそらく、ハジメが、変心したハジメになったのと同じような理由だろう。前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。ハジメは痛みと恐怖、飢餓感の中で半ば強制的に変わったが、この女の子は自分の意志で変わりたいらしい。その一歩が新しい名前なのだろう。

 

 女の子は期待するような目でハジメを見ている。ハジメはカリカリと頬を掻くと、少し考える素振りを見せて、仕方ないというように彼女の新しい名前を告げた。

 

「〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

 思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

「おう、取り敢えずだ……」

「?」

 

 礼を言う女の子改めユエは握っていた手を解き、着ていた外套を脱ぎ出すハジメに不思議そうな顔をする。

 

「とりあえず香織。ユエに服を着させてくれ…」

 

改めてユエも自身が裸なのに気づきそれと同時に封印を解いてからハジメが目線を気にしながら会話していることに気づいた。

 

「ハジメ…。ありがとう」

 

ハジメはユエの裸を決して見ないようにそっぽを向きつつ手を振って返事のした。

 

「さて、問題はこっからだな…」

 

「え?」

 

ハジメはユエと香織に飛びつき片腕で抱き上げると全力で〝縮地〟をする。一瞬で、移動したハジメが振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

 その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

 一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。自然とハジメの額に汗が流れた。

 

 部屋に入った直後は全開だった〝気配感知〟ではなんの反応も捉えられなかった。だが、今は〝気配感知〟でしっかり捉えている。

 

 ということは、少なくともこのサソリモドキは、ユエの封印を解いた後に出てきたということだ。つまり、ユエを逃がさないための最後の仕掛けなのだろう。それは取りも直さず、ユエを置いていけばハジメだけなら逃げられる可能性があるということだ。

 

 腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、サソリモドキになど目もくれず一心にハジメを見ていた。凪いだ水面のように静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思を伝えていた。ユエは自分の運命をハジメに委ねたのだ。

 

 その瞳を見た瞬間、ハジメの口角が吊り上がり、いつもの不敵な笑みが浮かぶ。

 

 他人などどうでもいいはずのハジメと香織だが、ユエにはシンパシーを感じてしまった。崩壊して多くを失ったはずの心に光を宿されてしまった。そして、ひどい裏切りを受けたこの少女が、今一度、その身を託すというのだ。これに答えられなければ男が廃る。

 

「上等だ。……殺れるもんならやってみろ」

 

 ハジメはユエを肩に担ぎ一瞬でポーチから神水を取り出すと抱き直したユエの口に突っ込んだ。

 

「うむっ!?」

 

 試験管型の容器から神水がユエの体内に流れ込む。ユエは異物を口に突っ込まれて涙目になっているが、衰え切った体に活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。

 

 ハジメはそのまま片腕でくるりとユエを回し背中に背負う。衰弱しきった今の彼女は足でまといだが、置いていけば先に始末されかねない。流石に守りながらサソリモドキと戦うのは勘弁だ。

 

「しっかり掴まってろ! ユエ!」

 

 全開には程遠いが、手足に力が戻ってきたユエはギュっとハジメの背中にしがみついた。

 

香織がうらやましいと言いたげな嫉妬の表情を向けるがそれも敵を目の前にしているので諦め的に向き直った。

 

 ギチギチと音を立てながらにじり寄ってくるサソリモドキ。ハジメは背中にユエを感じつつ、不敵な笑みを浮かべながら宣言した。

 

「邪魔するってんなら……殺して喰ってやる」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。