大雨なのか
寒いのか
ハッキリしてよ
日本の天気
ヴァルナとして戦い終えた拓海が降り立ったのは廃墟と化した街の一角。願わくはこれが映画のワンシーンであってくれたならどれだけ幸いなことだろうと拓海は思った。外観はおろか原型すら留めていないビル群、住宅地には子ども用の自転車や家具や犬小屋の残骸が道路にばら撒かれた光景に拓海は日常の形跡が感じ取った。怪獣騒ぎさえなければ一家団欒の夜を過ごす事も仕事に邁進する昼をこの街はまた迎えられたはずなのだ。それを無慈悲に叩き壊した怪獣とそれを嗾(けしか)けたロクノスに少なからず嫌悪感を覚える。
ただ自分1人ではロクノス相手に戦えない。それは先ほどの戦いでハッキリしている。ウルトラマンカイナの協力なしでは立ち向かえる相手ではない。しかしウルトラマンカイナとのコネクションも自分にはない。そんな自分に今打てる最善策は…。
「おい拓海!こんなところで何してるんだよ危ないじゃないか!」
弓弦が拓海の背後から小走りしながら咎める。
拓海はその咎めに応える事なく弓弦の方に向き直るとひとつ話を聞いてほしい、とても大切な話だと切り出した。弓弦は一体どうしたんだと驚きながらも会話に応じる姿勢を示した。拓海は一拍時間を置くと口を開いた。
「弓弦、オレが今ウルトラマンカイナと共に戦った偽ウルトラマン…青の巨人の正体だ。」
「お前急に何言ってんだよ、こんな時に冗談なんて笑えないぞ。」
「冗談じゃない。オレと月島はここの世界の人間じゃない、別の世界から連れて来られたんだ。オレは身柄をBURK(弓弦たち)に預ける、そこで詳しく話をさせてほしい。ただ月島は綾川さん達と一緒に居させてあげてくれ。彼女は全く無関係だ。」
「……分かった。駒門さんや弘原海隊長に話通しておくよ、約束する。」
「ありがとう弓弦。」
弓弦はこんな事ホントはしたくないし、形式上だと思ってくれないかなと申し訳なさそうな声を出しながら手錠を取り出す。拓海はコレでオレもめでたく前科者かと苦笑いしなごら両手を弓弦に差し出す。カシャンと乾いた音が廃墟の街に響いた。
ーーーーーー
偽ウルトラマン、別名青の巨人がBURKに自ら身柄を預けに来たという事実は雷鳴の如き早さでBURK内に駆け巡り、拓海は重要参考人としてその身柄をBURK日本支部に移送されることとなった。日本支部に着いた拓海を待っているのはBURK隊員達による取り調べだ。拓海は自分の身柄を押さえている弓弦に連れられてとある部屋の前に立っていた。
「随分と雰囲気のある場所に連れてきてくれたもんだ。これが取調室って奴?ドラマだけの話かと思ってたよ。」
「まぁ、ウルトラマンが関わらない異星人や怪獣絡みの事件とかもBURKは扱ってるから。最もそれは駒門さんとかの女性隊員が対処することが多いから俺はそこまで関与しないんだけど、結構派手にというか時に破廉恥に事件を解決してるみたいだよ。」
「破廉恥に事件を解決…?一体何をしてる組織なんだよBURKって!?」
2人の会話を遮る様にギギギッと少し軋んだ鉄の音と共に扉が開く。そこには弘原海と駒門の両名が既に在室しており起立したまま2人を待ち構えていた。
「水瀬拓海、いや青の巨人。お前はこの事件の重要参考人だ。話してもらうぞ、お前の知っていること全てを。」
駒門が拓海を研ぎ澄まされた日本刀の様な鋭さで睨みつけている。その眼光で数多の異星人絡みのトラブルを解決に導いて来たのだろう。その眼差しの強さに拓海はたじろぎ目線を外してしまった。
「まぁ、先ずは座って自己紹介から始めてもらうかな。話しやすいところからでいい、緊張も必要ない。俺達は君を罰したいわけじゃない。話を聞きたいだけだ、分かるな?」
弘原海は駒門の言葉をよりマイルドに言い換えながら拓海を背もたれのついた椅子に座るように促した。拓海はそれに黙って従った。萎縮しているのもあってか椅子に座している姿はいつもよりも身体が小さく見える。
「分かりました。オレの知っていることの全てをお話しします。信じてもらえるかは分かりませんけど。」
拓海はそう前置きするとおもむろに話し始める。その内容に3人の顔は徐々に強張り始め話し終えることには重苦しい沈黙が流れた。それを破ったのは弘原海だった。
「……君の証言は分かった。君はウルトラマンがいない世界から来て女神の力を借りて戦う…つまりはこの世界の住民ではないということか。そしてロクノスという自称時間と空間の神にこの世界に連れて来られウルトラマンカイナと戦うことを強いられそうになった…ロクノスの目的はウルトラマンカイナの打倒。そういうことでいいのかな水瀬君。」
拓海はそれに黙って頷く。
「彼もまた異世界から来た人間の1人にすぎず今回の事件の首謀者ではないということでしょうか、神の力などというのは些か信じ難い話ではありますが。」
懐疑的な見解を示す駒門に拓海が苦笑しながらオレからしたらウルトラマンっていう存在がいることもあなた方の様な軍隊がいることも最初は戸惑いましたよと言うと駒門は小馬鹿にされたと思ったのか少し気色ばんだ様子で今言った話が嘘ではないという証明が出来るのかと問い詰めた。
「駒門さん、俺は彼が嘘をついているとは思えません。何者かによってこの世界に連れて来られたと言うのは他の異世界から来た人達と証言が酷似しています。異世界から人々が流入してきているというのは俺達BURKしか知らない情報で模倣できるものでもないと思います。彼の話の中に出て来た時間と空間を司る神ロクノス…奴が今回の首謀者ではないでしょうか。」
弓弦からすれば全ての点が線で繋がった感覚だった。突如自分の前に現れた神を自称する男ロクノスが自分がウルトラマンカイナであることを看破していたのは奴が本当に神であり、その能力を使いありとあらゆる時間や空間に干渉したことで正体を把握していた可能性が極めて高い。そんな男が別の世界の人間達をこの世界に連れ込み世界を混乱させようとし、あまつさえウルトラマンカイナ打倒に挑もうとさえしているという状況はあらゆる意味で危機的事態だと言えた。
「やけに庇い立てするじゃないか弓弦。同年代だからと言って甘く見ているのではないか?それとも彼の証言を裏付ける証拠を持っているとでも言うのか。」
駒門の言及に弓弦は言葉を窮する。ここで自分もロクノスからコンタクトを取られたがあります、自分の正体がウルトラマンカイナだと知られていたことが彼が神である可能性の高い証拠です…などと宣えばコンタクトが有った時点で報告しろ、ウルトラマンカイナの正体をなぜ秘匿していたのかなどと詰められ後々大問題になる可能性大だ。そして何より正体の露見は不必要な危険を駒門、弘原海に与えてしまうだろう。しかしそれ以外に有効な手立ても見当たらない。弓弦が重い口を開こうとしたその時拓海がそれを遮った。
「これで信じてもらえるかは分かりませんけど、手の内見せといた方が怪しまれないか…ヴァルナ、出て来てくれないかな。」
すると拓海のペンダントから眩い光が放たれたかと思うと拓海の背後からヨッと右手を上げながらニンマリ笑顔の幼い少女が白いワンピース姿で現れた。一瞬の沈黙の後、ギャーーーーと耳をつんざく様な女の悲鳴が取調室にこだまする。女傑駒門の絶叫であった。
「お、お前はあの時のゆ、幽霊…!!!」
「なんじゃ蛇みたいに睨んどった割には案外肝の小さい奴じゃのー。よしよし頭を撫でてやろう。タクミ、ワシを抱っこせよ。」
「………」
「ヴァルナ、駒門さんもう気絶しちゃってるよ。」
「なるほど、これが女神か。小ぢんまりしてて可愛い女神もいたもんだ。それにペンダントから小学生サイズの女の子が出てくるなんてとこ見せられたら水瀬くん、君の証言信じるしかないわな。」
「可愛い?カワイイ?kawaiiとな?ゴツゴツ男、お主見る目があるの〜!!褒めてやる!頭を撫でてやろう、タクミ抱っこせよ。」
「そんなことしなくても良いさ、俺が抱えてやるから。」
そう言って弘原海は軽い荷物を持ち上げるかの様にヴァルナを抱える。ヴァルナはとても満足そうにキャキャと笑うと弘原海の頭を撫でている。傍目から見れば子どもが大人に遊んでもらっている様にしか見えないが一応は神と人間の交流の最中である。
「隊長、ここ託児所じゃないんですよ…抱えるなら駒門さん連れてってください。調書は俺の方で取っておきますから。駒門さん気絶したまま放っておくのはちょっと…ね。」
「隊長を顎で使いやがって…ったく。親父さんが見たら泣くぞ。まぁ同年代同士でしっぽりやりたいって気持ちも分からなくもない好きなようにやってくれて構わん。」
そう言ってヴァルナを地面に下ろす。ヴァルナはよほど嬉しかったのか満面の笑みのままだ。
そして今度は長い髪が乱れ切っていてまるでホラー映画の怨霊のようになってしまっている駒門をお姫様抱っこする形で抱える。もし駒門が起きていたなら赤面しながらも満更でもないお惚気を披露したかもしれないが残念ながら彼女の意識は女神の悪戯のせいで無辺世界に飛んでいってしまっている。乙女の恋路を邪魔するとんだ女神もいたものだ。
弘原海が駒門を抱えて取調室を出て行こうとしたその時、拓海でも弓弦でもヴァルナでもない声が取調室に響く。
「神様が皆カワイイとは限らないよ。色々いるのさ神様にだってね。」
ギョッとして弘原海は後ろを振り返る。3人も声がした方に顔を向け凝視している。取調室に白いワームホームが現れたかと思うと1人の男が現れる。白いコートを羽織り黒シルクハットを目深く被る怪しげな男、拓海と月島をこの世界に連れ込んだ男。
「ロクノス…!!」
拓海は射る様な真っ直ぐな視線をロクノスに向けるがロクノスは其れを気にも止めていない。ヴァルナがこんなはちゃめちゃなことをする神がいてもらっては困るわけなんじゃがのーと顔を顰めるとボクからすればここまで人間に迎合する神様も困りものだと思うよと人を不快にさせるニヤケ顔で返す。弘原海は極力怒りを抑えながらロクノスに問う。
「お前の目的は何だ…!!」
「アレ?そこのヴァルナから聞かなかった?ウルトラマンカイナを倒すことさ。」
「あまり男を舐めるなよ、神様とやら。カイナを倒すだけなら他の世界から人間を連れてくる必要がない。ただこの前みたいに怪獣だけ召喚していればいい。カイナを倒すって目的は何かのついでに過ぎないんじゃないか?」
「……君たちってさ動物飼ったりするんだろ?犬とか猫とか魚とか。」
イマイチ要領の得ない唐突なロクノスの発言に拓海達は答えることなく沈黙する。ロクノスは苦笑いしつつ続ける。
「んー?なんかピンと来てなさそーだね。じゃあ魚で例えようかな。魚が入っている水槽を眺めているのがボクで魚が君たちね。毎日毎日魚を眺めてるだけだけどさ、やっぱり飽きちゃうよね。色々工夫(サプライズ)とか趣向(ハプニング)凝らして楽しもうとするんだけどそれにも限界がある。」
「そしてね思いついたんだ。水槽の中に別の水槽から魚を入れたらどうなるのかなって…上手く共生していくのか、それとも…共喰いしちゃったりするのかなって。それを眺めて楽しむのもまた一つ楽しめそうかもって思ってさ。」
弓弦は座っていた椅子から荒っぽく立ち上がると力任せに目の前にある机を拳で殴りつけると灰色を基調としたやや無機質に感じられる机はガシャンと派手な音と僅かな凹みが生まれる。
弓弦の激情は机の凹み1つだけでは到底収まらない。
「ふざけるな!そんなお前のくだらない実験紛いに俺たちの世界を巻き込んだって言うのか!?」
「まぁ、君たちの世界で言うところの災害だとでも思って貰えばいいんじゃないかな?この星はそういうのには散々慣れっこだろ?」
「何だと!?自分で起こしておいてそんな勝手が通ると思ってんのか、この野郎!!」
どこか他人事の様に軽いものの捉え方で話すロクノスに弓弦はより怒りを増幅させ彼のコートの襟に掴み掛からんと足を進めようとした時、それを拓海が手で遮る様にしてそれを制し問いかける。
「ロクノス…世界って言うのは無数にあるんだろ。ということは無数の幸福を観測することだって出来たはずだ。若しくは不幸を求めていたならそれもそれでいい。今その場にある世界の営みを見つめているだけじゃ足りなかったのか?」
「さっき言ったでしょ?飽きるんだよ。時間って言うのは神でも人でも時間の進み方は平等なの。違いはボクはどんな世界のどんな時間の中でも永遠に過ごしていられるけど、君達は過ごせる世界は一つだし過ごせる時間にも個人差はあれど有限だ。」
「オレ達人間は神様に比べれば力も何もかもないかもしれないけど、今そこにある幸せを喜んだり慈しむことが出来る。人に出来て神に出来ないことなんてないだろ?」
情に訴えかけんしているのか嘆願する様な表情の拓海の言葉をロクノスは乾き切った笑いで切り捨てる。
「ハハハ、随分傲慢な発言だけど嫌いじゃない。でもね一つ世界で限りある時間を過ごせる君達の幸福とボクの幸福は根本的に違うんだよ。無数の世界で永遠に生きる…それってね凄く寂しいことなんだ。君たち人間には分からないだろうけどね。」
そう言ってロクノスは顔を俯かせる。今までの余裕満々な表情とは違う憂いを帯びた瞳に拓海は僅かに戸惑い、ヴァルナは眉を顰めたがすぐにロクノスの表情は切り替わった。
「ゴメンゴメン、そんな話しに来たわけじゃなかったんだ。つい話しすぎちゃうのがボクの悪いクセでねヘヘヘッ。」
そう言いながら全く悪びれる様子もなくロクノスは言葉を続ける。
「今から36時間後の朝10時にボクはBURKにそしてウルトラマンカイナに挑戦するよ。今までみたいに子飼いの怪獣をけしかけたりしない、ボクが直々に相手をしてあげよう。」
「それは犯行声明と受け取っても良いんだな?それにしても何故だ、何故ウルトラマンカイナへの挑戦を我々にわざわざ伝達する?」
「そんなの簡単だよ〜。君たちBURKに伝えればそれは必ずウルトラマンカイナにも伝わるはずさ…君もそう思うだろう?」
そう言ってロクノスは目を細めながら弓弦に微笑みかける。わざわざ君の正体を隠してあげてるボク優しいでしょ〜と油性マジックの太字で書いてありそうな程の厚かましい配慮とドヤ顔に弓弦は奥歯から音が出るほど強く噛み締めながらああ、そうだなと苦々しく吐き捨てるように言った。
「それじゃあボクは用事も済んだしオサラバするよ〜皆様ご機嫌よ〜う!またねー!」
ロクノスは再びホワイトホールの中に入り、そしてホワイトホールも伴って消えていった。
「いろんな神様というか…碌でもない神様もいるもんだな。」
弘原海はついさっきまでホワイトホールがあった壁を見ながら呆気に取られた様な呆れた様な声で呟いた。弓弦もフーッとため息を一度吐くながら駒門さんが起きてなくて良かったですよ、絶対にブチギレて発砲してだと思いますと苦笑いしながら弘原海の呟きを拾い上げる。
「いやいや、弓弦も結構怒ってたと思うぞ?机叩いた時ビックリしたよ。」
「それはあんな理由で暴れられたんじゃ俺達からしたらバカにされた気分になるって言うか、許せないっていうか…ってか拓海が怒らなすぎんだよ!」
「さては自分の気持ちを出すこと悪いことだと思ってるだろ?拓海はもっとこう…丸く丸く優しくじゃなくて気持ち出した方が良いと思う。」
「出してるつもりなんだけどなぁ…」
「ワシもユズルとやらの自分の気持ちを出せという意見に賛成じゃな。タクミは自己主張が足りん自己主張が。もっとハッキリハキハキモノを申せ、元気よく!」
「それじゃあ遠慮なく。女神様はもっと自己主張を抑えて下さい。そういうこと言ってるから晩餐会で幽霊騒ぎ起こすんだよ?お願いだからもう少し大人になって?☆彡」
「ぐぬぬぬぬ!こ、この不敬者がぁぁぁぁ!!」
「なんだ、ハッキリ意見言えるじゃないか。けどもっと活動的になった方が良い思うな例えば…。」
怒り狂って両手をブンブンと振り回しながら突進してくるヴァルナに拓海は伸ばした右手で頭を優しく掴んで動きを制しながら、少し体を動かしたりして気持ちを上げることの大切さを説く弓弦の言葉に申し訳なさそうな顔をして耳を傾けている。そんなとっ散らかっている状況に弘原海はいつの間に持ち替えたのか駒門をおぶりながら本当に色んな神様もいるもんだなと呟いた。
ーーーーーー
時刻が夜から深夜に差し掛かり始めた頃、拓海は取調室から拘置所の独居房の様な場所に移動し一夜を明かすことになった。BURKとしては拓海をそのまま返すのではなく身柄を留め置くことが組織として事件の全貌解明のためにも有益だと判断したのだろう。拓海には拒否権もないため手錠腰縄をつけられ黙って従う他なかった。
灰色の鉄格子に白い壁があるだけで装飾品は全くない室内。家具も正座をしないと使用できない小机があるのみで、すりガラスに鉄格子がついた小さな小窓は最低限の日照権を保障されるのみで外の様子を窺い知ることは全くない。つい半日前までトレンディドラマの小道具の様なキングサイズベットに横たわっていたのが遠い昔のことの様だ。あまりの環境の落差に拓海はおもわず苦笑いを浮かべこんなことならもう少しあのバカでかベットで眠っていたかったなと少し後悔した。
拓海は外出があまり好きではない。特に日を跨ぐ外出は大嫌いだとすら言える。何故ならば拓海は見ず知らずの場所でなかなか寝付けない。それ故に宿泊はなかなか困難なのだが、今回はホテルですらないやや劣悪とも言える環境で一夜を越せと言うのだ。今の拓海にとっては寝ることすら高いハードルとしてそびえていた。
「あら、水瀬さんまだ寝てないんですかー?寝ないと体に毒ですよー?」
夜間巡視にでも来たのだろうか、ツインテールの女性隊員がやや甘ったるい声で声で拓海に声掛けする。拓海は知らない場所ではなかなか寝付けない性質(タチ)なんですと返すと眠れないなら目を閉じるだけでも良いですよ〜それだけでも身体は休まるらしいからと女性は笑いながら言った。
「一応身柄押さえられてる人間相手なのに随分フレンドリーなんですね、BURKの女性ってもっと厳しいイメージだったんですけどなんか…意外です。」
「あっ、さては私たちのこと駒門さんみたいな人達ばっかりの集団だと思ってるな?偏見だ、偏見だー駒門さんに言っちゃお!」
女性隊員の小学生の口喧嘩の様な言い草に拓海はBURKの女性隊員のキャラクター濃すぎないか、この中で働いている男性隊員の肩身って狭くないのかなと弓弦や弘原海達のことを勝手に心配し始めてしまうほど困惑を隠せなかった。
そしてそんな困惑は女性隊員にはカケラも伝わっていない。
「皆がみんな駒門さんみたいにキビキビしてるわけじゃないでーす。色んな人がいてのBURKなんです〜。いいですか、みんな違ってみんないい。はい!復唱して〜!」
「…み、みんな違ってみんないい。」
「もう一度元気よくー!」
「みんな違ってみんないい!」
「はい、よろしい。」
「あの…一応確認なんですけど、貴女オレを寝させるつもりはあります?」
「んー、ワタシはもう少し起きてて欲しいかな?」
(寝かす気ないのかよ!)
女性隊員の大放言に内心ズッコケながら拓海はどうしてですかと尋ねた。
「あなたと話したかったから。何となく他人の気がしないっていうか。」
「他人の気がしない?」
「ワタシの名前雫田七海(しずくだななみ)って言うんですけど、母方の苗字が水瀬なんです。」
「雫田…!?」
雫田は自分の父方の苗字だ。雫田と水瀬、父母双方の苗字が同じ人物が目の前に現れるというのはただの珍しい出来事として処理するにはあまりにも特異過ぎる。
「あと何より気になったのはコレ!」
雫田はそう言って右手で拓海の胸元にぶら下がっているペンダントを指差すと左手で自身の胸元をあるものを取り出した。それを見た拓海はあまりの衝撃に言葉を失う、何故なら雫田の左手には今自分が首から下げているものと全く同じペンダントが握られていたからである。
「同じペンダントを持ってるもの同士何だか似てるのかなって勝手に共感?仲間意識持っちゃって。」
「そのペンダント…一体…どこで。」
拓海は愕然としながら途切れ途切れの言葉で尋ねる。心臓が激しく脈打つ、意識していないと呼吸の仕方すら忘れてしまいそうだ。異世界で名乗る苗字こそ違えど父母双方の苗字が同じ人物が全く同じペンダントを持っている。この事実が拓海の脳裏に嫌な想像を掻き立てる。
頭で進んでいく思考とそれを拒絶しようとする心を自制させることは今の拓海には容易なことではなかったがこの想像の通りなら財布の中の硬貨や紙幣は使えたのに金融システムを使用できないこと、自分のスマホが使用できないことも説明がつく。いや、ついてしまう。
考えてみれば簡単な話だ。この世界は異世界なのだから自分のいる世界とは理(ことわり)が違うことがあっても不思議ではない。だがその違いがウルトラマンが存在するか否かだけであると何故思い込んでしまったのか。もっと単純で根本的な違いな可能性を今の今まで考えなかったのだろう。
「ああ、このペンダントは母方のおじいちゃんがワタシがBURKに入るって言ったら記念にくれたんですよー。今年で88歳にもなるのに雨の日以外は船出して沖合で漁してるんですよ〜自慢のおじいちゃんです!あっ、写真見ます?重光って名前なんですけど、なんか名前までカッコいいなって最近思ってて……あれ?水瀬さんなんで泣いているんですか?」
この世界の一番の理の違いはウルトラマンが存在する世界であることでもそれをサポートする武装組織BURKがいることでもない。『水瀬拓海(じぶんじしん)が存在しない世界』なのだということを。
それから拓海は雫田に何と言って返したのか、何を話したのか憶えていない。気づいた時には拓海は仰臥位になって殺風景な天井を眺めていた。心に重苦しい靄が滞留していくのを感じ、さっきまで不眠で頭を悩ませていたことすら幸福に思えるほどの鬱屈を覚えながら過ごす夜は最悪という言葉すら生温い。
その背後から音もなくロクノスが姿を現しそして耳元でそっと囁く。その表情は今までの笑顔ではなくその瞳は無機質な光を宿している。
「キミは言ったね、ボクに立ち向かう義務があるって。でも自分が存在しない世界でそんな義務果たす必要あるの?本当に?」
「そしてこうも言ったね、人間は今そこにある幸せを喜んだり慈しむことが出来る、何故神であるボクはそこにある幸せを喜ぶことで満足しないのかと。じゃあキミは自分が存在しない世界の人々の幸せ喜べる?蚊帳の外どころかただの部外者のキミが?何を喜べるって言うんだい?」
「世界には幸福もあれば不幸もある。幸福を慈しむことも不幸を嘆き心を痛めることも自分がその世界にいてこそさ。ボクはどの時間どの世界にもいるのに存在しているのは時間と空間って概念だけ、つまりボクは存在していないのと同じ…今のキミとボクってちょっと似てない?どう?少しはボクの気持ち理解してくれたかい?」
「まぁなんだ何が言いたいかって言うとさ」
「思い上がるなよ人間風情が」
そう一方的に吐き捨てるとロクノスは姿を消した。彼から矢継ぎ早に飛んで来た言葉の刃は拓海に反論という盾を出すことすら許さずその心身を切り刻んだ。涙も出ない、ただ立ちあがろうとする気力すら奪い取られていく。
「くそ…くそ!!くそ〜!!」
拓海の憤怒の声が殺風景の部屋に響く。それは余計に拓海を憐れな感情を呼び起こさせただけだった。水瀬拓海はその日、ロクノスに完全なる敗北を喫した。
「……」
その慟哭を独居房の外で風祭弓弦は憂いを帯びた目でただ見つめていた。
長い夜は未だ明けない。
分かりにくい話のため補足します。
Q雫田 七海って何者?
A カイナ世界における水瀬拓海ポジションの人物でヴァルナへの変身能力はありません。(カイナの世界には神の概念がないから)逆に拓海の世界には雫田七海は存在しないのでコインの裏表みたいな関係です。
Q拓海のおじいちゃんはカイナ世界では生きているの?
A 元気に生きてます、それも拓海の世界とは反対になっています。
Qなんで拓海はカイナ世界でスマホとキャッシング類が使えなかったの?
Aスマホもキャッシング類も本人確認と契約によって使用できるもの。
存在しない人間名義の物が使用できるわけがないから(暴論)
こんな分かりにくいというか意味が分からん話書いててすいません、話も暗いし重いし。ここから明るく出来たらいいなぁ。
それではまたお会いしましょう!