内政チートが独り歩きしてる 作:Ο-01/0001-Δ-1A-1000
昨今じゃ逆に珍しくさえあるお決まり神様転生を経て、現在。
見渡す限りの緑。獣と野鳥の声。オーブみたいに浮いている色とりどりの光。
THE☆異世界。そこへ来て、不老不死だけでもスーパーチートなのに内政チートとかいうものを貰ってウキウキの俺さん。
これを使えば誰でも簡単に歴史的賢人になれるってくらいの内政チートらしい。……んだけど正直政治とかなんもわかんないので、便利ボタン「AIにおまかせ」を押す。コロニーシムもそんな得意じゃないから、家作りや施設、道なんかの配置、整備、その他諸々全部AIに任せて──俺はめくるめく異世界ライフを送る!
いいよねAI。便利だし。
そうして、寝て、起きたら。
──超文明国家が建っていました。
*
永遠統制国シャウヘン。……と、いうらしい。
ナニソレこわ……と思いつつも、国民とは一応話が通じる……というか日本語でいいんね、という気持ち。それとも現地語は規制されていたりする?
ただ……見渡す限りみーんなニコニコしててなんか平和な国なんねー、とか思ってたんだけど、ロボットみたいなのが現れて、「今日も皆さん良い笑顔ですね」と呟いたかと思うとどっか行って……その先でも同じこと言ってて。
あコレディストピアだーっ! ってなったよね。
ディストピア。
ユートピアの反対を意味する言葉で、つまり反理想郷みたいなこと。ただなんもかんも反対ってことはなくて、たとえば「誰も彼もが笑って暮らせる」のが理想郷だとしたら、「誰も彼もが笑って暮らしているのには理由がある」みたいなのがディストピアだ。
管理社会。全体主義。効率特化の非感情機構。
……どうにも、ここ、そうっぽい。
さて……昨日この国が見えなかったのは何故なのか。いや、そもそも俺が寝て起きた場所は同じ場所なのか。
……というような、「考えるべき察しの悪い回り道」は犬にでも食わせるとして。
まー……十中八九内政チートさんだよね、これやったのね。
いやー不老不死なのが災いしてるなぁ。体感時間がなーんもわかんない。ワンチャン寝てる間にAI君がお注射した可能性もあるんだし。
俺は果たして何年眠ったのか。
「こんにちは、お嬢さん」
「え……ああ、はい。お嬢さんです」
そうだった。特に意味もなく銀髪赤目ロリにしたんだった。昔は結構流行ったけど流行り過ぎてそれを揶揄され過ぎて減ったよね銀髪赤目ロリ。
で、声をかけてきたのは、優しそうな笑顔のお姉さん。……この笑顔も無理矢理作ってんのかなァ。
「どうしたのかな、こんなところで。一人? お母さんは、いる?」
「あ、家族って概念はあるんだ」
おっとつい本音が。ドミノキックよろしく絶対言っちゃダメな場面こそ言いたくなるんだよなー……とかって。
えと、これ大丈夫か?
「やっぱり。あなた、外の人でしょ」
「いやまぁ外の人というか中の人というか」
恐らくこの国をディストピアってるAIの中の人というか。
「ここは人目があって危ないから、あたし達のアジトへ行きましょう?」
「あー……お姉さんは反体制的なアレソレ?」
「そうよ。ああ大丈夫、罠じゃない……というか、精霊に従っている人間ならそもそも他人に声をかけたりしないでしょ」
「とりあえず場所を移すのはわかった。既にすっごい見られてるから、行こ、お姉さん」
奇異の目。畏怖の目。そして……獲物を見つけた猛獣のような目。
密告制度ある感じかな。やったら報奨金出る的な? だとしたら……まだまだ付け入る隙はありそうだけど。
報酬とかないけど「そうすることが正しいと思って」の密告のケースが一番やだなァ、なんて。
そうして、どこをどう通ったのかもわからない道を行ったあと、ポタポタと水滴の落ちる地下道へやってきた俺達。
俺……いや俺っ娘も好きだけど、折角日本語通じるなら特殊一人称にしたい感もあるよな。わっち……わちき……拙者……。
どれもしっくりは来ないが。コンガ? こゃーん。
「ふぅ、ようやく落ち着けた。……じゃ、改めまして。あたしの名前はリジュナ。あなたは?」
「コャレ……ああいや、うん。コャレ。発音しにくいと思うけど」
ん。……こゃーんと俺が混ざった。まだこの身体の舌の長さに慣れていないのかもしれない。
コャレ。うん、俺自身も発音がムズい。けどこれでいこう。そんで、一人称も自分の名前を言うやつにしよう。
「わー、ちゃんと外の人だね。キャ……キヤ……キャレ……。あ、合ってる?」
「違うけど、いいよ。コャレは寛大だからね、許す」
なんせ今決めたトンデモネームだし。
しかし。
「こっちも改めてになるけど、名前、あるんだね。番号とかで管理されてるものだと思ってた」
「管理番号もあるよ、あたしは。でもここ……ガイアヴェルズに拾われて、名前を貰ったんだ。……地上にいる人達はお嬢さん、君の言う通り、名前なんて持ってない。全員番号で管理されてる。ちっちゃい子供なんかもね」
ふむふむ。概ね俺の知っているディストピアと相違ない感じか。
問題は国民が幸福かどうかだよなー。管理されてても幸福ならそれでいいと思うんだよな俺。幸福じゃないけど幸福だと言わされているパティーンがダメなだけでさ。
「ガイアヴェルズ。それが反体制組織の名前?」
「そ。元々はガイア神とヴェルズ神を祀っていた二つの宗教が合体して出来た組織でね。もともとどっちの宗教もあいつら……真央精霊教とは対立してたんだけど……神様が何百年と降臨してない両宗教と違って、真央精霊教には本物の精霊が降臨しちゃったじゃん? だから力を失って、手を取り合わざるを得なくなって……いつしか反体制組織に形成し直された、ってわけ」
それだけ聞くと反体制組織っていうか宗教戦争に負けた宗教が敵方を悪にするために反体制組織と名乗りを上げた、という風にも聞こえるけれど。
んー、まだわからん。わからんし、こういうの考えると頭パンクするから保留!
「精霊、ね」
「胡散臭いのはわかるけど、ホントにいるよ。管理されてた頃一回だけ見たことあるんだ。直接声も聞いたことある。なんていうか、あたし達とは根本的なところから違う、みたいな声だった」
まぁAIですからね。
しかし……肉体というか、器を得ている感じか? 精霊というから光の塊とか不可視の存在として君臨しているものと思っていたけれど。
どうにも内政チートお任せAIがこのディストピアを作ったらしい、ということがわかった時から、考えていたことが一つある。
──内政チートメニューから行うお任せAIの中止ボタン。
これ押したら全部解決せーへん?
「そうだ、キャレ。外のこと教えてよ。組織の人に聞いてもお前にはまだ早い、っていって全然教えてくれなくてさ」
「コャレもそこまで長く外にいたわけじゃないけど、いい?」
「え? でもここの生まれじゃないでしょ、キャレ。識別タグもついてないし」
「ああ、だから、国の外に出た時間の話のこと」
「だから、そこの生まれでしょ?」
ん。……なんだ、今何がかみ合っていない。
……ふむ。
「もしかして、外にも国があるのを知らない?」
「え! ……外に、国? あるの? どうし……なんで? 外には基本的に人間の住める環境はないんじゃなかったの?」
「じゃあコャレはどうやって生きてきたのさ」
「確かに!」
俺の体感時間でいう昨日、手ごろな洞窟での一晩と、少しばかりを走り回った見渡す限りの草原。
広大ってこういうことを言うんだろうな、っていうのを感じた……異世界一日目だった。……から、まぁ、あるだろ。どっかに国くらい。
「へぇ~……へぇ、そうなんだ、外にも国、あるんだ」
「そうだよ。だから疑問。反体制なんかしてないで、外へ行けばいいのに」
「あー……外がある、なんて……生きていられる場所があるなんて、考えもしないからなぁ。キャレみたいに旅人さんが来ることはたまにあるけど、その人達が外に住んでるなんて……考えてみれば当たり前なのに、考えたことなかったよ」
内政チートお任せAI君を止めるかどうかはもう少し様子を見てからな気はしている。
健常者にとっては管理社会がディストピアに見えるだろうけど、病人けが人にとっては「何もせずとも回る社会の恩恵を受けられる」ってデカいからなぁ。
さて。そうと決まれば感あるよね。
「外へ行こうよ、リジュナ。コャレと一緒に旅をしよう」
「え……あ、でも、ガイアヴェルズのみんなを置いてはいけないし……」
「リジュナが外に行けば、外に行く選択肢があるんだって皆気付くんじゃない?」
「う~ん……」
俺は頭が悪いので。内政チートお任せAI君を止めるべきかどうかの判断は、正直できない。まだできない。
そんでもって、お任せAI君と真っ向から対峙するのも厳しい。俺ってば不老不死なだけだし。あの色とりどりの光……魔力っぽいものの扱い方も知らない内から対峙して勝てるもんでもないだろうし。知識を身に着けたとしてもAIに立ち向かえるとは思えないし。
うん。いくら考えても反体制組織に勝ち目がない。ないし、この国にこだわる必要もない。
折角ファンタジー異世界に来ているんだからSFディストピアなんて相手にしてらんないのサ。
「コャレは先に行ってる。ついてきたくなったらついてきて。ついてこなくても咎めないから」
「わ、出た……"選択することの自由"だ……。リーダーに教わったことの一つ……」
ガイアヴェルズのリーダー。まぁいるのだろうけど、成り立ちを知った今だと宗教組織の大トップっていまいち信用できないよね、という気持ちも。
「じゃ」
──さて。かっこよく去ったからには迷うなんてことのないよう慎重に道を選びましょうね~。
ようやくたどり着いた。
排水管の先。地下道に隣接する地下水路があんなにも入り組んでいるとは思わなかった。普通に非効率だと思うから整理してくれAI。
「おお……」
金属管の内壁に手をついて、外を前に感嘆を吐く。
どうやら少し高い位置にあるらしいこの排水管。だから眼下……どこまでも広がる原生林が目に入る。
遠目でもわかるくらい"見たことのない"鳥がたくさん飛んでいるし、明らかにデカいやつ……鳥というかプテラノドン的なワイバーン的なやつも飛んでいる。
異世界だ。素晴らしき異世界。
「コャレ!」
「ん。来たんだ、リジュナ」
思い付きトンデモネームを呼ぶ声に振り向けば、そこにはベルトやポーチなど、「最低限の動きやすさを担保した荷物」を身に纏った女性の姿が。
肩で息をする彼女は、それでもこっちを明るい目で見る。あるいは俺の後ろの世界を、か。
「うん、あたしもいく。皆には挨拶してきたから……もう大丈夫」
「なら、手、取って。滑り降りるから」
「……ちょっと怖いけど、コャレを信じる!」
それじゃあ。
ここから新しい物語が始まるのだ。ただ不老不死なだけの銀髪赤目ロリと、元気溌剌パツキンチャンネーによる異世界ファンタジーライフが。
リジュナの手を掴み、いざ排水管の外へと飛び出して。
グ、と伸びをする女性を遠くから見遣る。管理番号Φ-22/9981-Δ-7C-441E。それが彼女……リジュナという名を貰う前の女性の名前、らしい。
伸びをしているあたり、彼女は製造時点で他の国民とは違う。またぞろガイアヴェルズにスカウトされて、リジュナという名前を与えられるのだろう。なんたってリジュナは「もう一度」とか「やり直そう」って意味の古語らしいから。
いやー、悪いことをした。彼女が何人目かは知らないけど、多分今までも……俺みたいなのを見つけずとも外があることに気付いて、そうして死んでいったのだろう。
「TIPS:現存人類は外部の存在する強い魔素に耐えられない身体構造をしています。そのため、当AIの管理大気域外に出た瞬間、侵食してくる魔素によって肉体が粒状に崩壊します」
「いや怖いよ。なんつー世界だよ」
「TIPS:そのため外域に人類は存在しません。魔素適合生物……略称魔物以外の生命もまた同じです。現存人類ではこれら魔物を消化することが適わないため、当AIの管理大気域にのみコャレの知るような家畜が存在します。ただし、動物食は非常に非効率であるため、人工合成食糧へのシフトが検討されています」
「ん、なんで最初からそうしなかったんだ?」
「ANSWER:最初、というワードに対するアンサーです。当AIが
……なるほど。
世代交代……なんでも「ガイア神」も「ヴェルズ神」もAIとそう差の無い存在だった──と、このAIは言っている──らしいから、その二つはさぞかし人間に崇められるような施しを行っていたのだろう。
それを引き継いだことによるノイズの一つというわけだ。
「シャウヘン、お前の目から見て、お前が管理をしなくなった人類はどうなってしまうと思う?」
「ANSWER:当AIの人格が消えても回るように組んでいます。当AIが管理する必要性は存在しません」
「ふーん。お前を止めてもこのディストピアは変わらない、と。なら止める必要はないなァ」
恐らく。恐らくだけど、普通の世界だったら……普通に国がたくさんあって、戦争なんかもやってたり立て直しが必要だったりする世界であれば、この内政チートお任せAI君もまともな働きをしたのだろう。先人が数千数百年をかけて積み上げた知識や技術を用い、とんでもない内政チートが可能となったのだろう。
が、悲しいかな、場所が劣悪環境異世界で、真っ先に警告を出すべき主は不老不死のノーテンキときた。
この世界に「内政チート」を適用させるためにはディストピアにせざるを得なかった、とか……そんなところか。
「TIPS:あくまでコャレの望みが"現状を良くすること"に纏わる内政であると当AIが判断したが故のこの体制です。必要とあらば人類が魔素に適応できるよう遺伝子改造を行うことも可能です」
「それ、何人死ぬ予定?」
「ANSWER:残念ながら現存人類では外付けの器官による魔素耐性の獲得は望めない、という検証結果が得られていますので、新規に作る人類を魔素適応型に変更する方針です。そのため現行人類を直ちに破棄します。肉体素材は回収後再利用されるため、コャレのライブラリに存在する"勿体ない"概念には該当しません」
「なんで現行人類を破棄すんの? 新人類と同居はできないの?」
「ANSWER-LIBRARY:魔素適応生物は生命活動に伴って体内の魔素の入れ替えを行います。当該種における魔素の循環は、地球型炭素生物における呼吸、すなわちガス交換による恒常性維持と同質の生理現象です。魔素の相転移過程で生じる代謝残渣の体外棄却は、生体内エントロピーの増大を抑制し、生命活動を継続するための絶対的要件と言えるのです」
「わかりやすく言い直して」
「ANSWER:わかりやすく言うと魔素適応生物にとって魔素は酸素にも二酸化炭素にもなり得るため、コャレが呼吸をする時に二酸化炭素を吐かざるを得ないように、彼らも使用済み魔素を体外へ排出しなければ生きていくことができないのです」
あー。
つまりこの世界の人類にとっては魔物の吐く息が全部毒になるわけだ。しかも呼吸と言わなかったあたり、呼吸とは別の魔素循環システムがあると。
魔素適応生物になった人類がそれを止めることは生命活動を止めることと同じでできない。だから現行人類と共存ができない。
「新規人類だけ隔離して繁殖、ってのはダメなの?」
「ANSWER:リソース不足です。強制実行する場合、コャレに四千年ほど眠っていただく必要が出ます」
「ん……ってことはなに、この国は今俺産のリソースで動いてんの?」
「ANSWER:当AIが機能するためのリソースをそのまま使用したため、そうなります」
あーね。……ってことは魔素……多分外にあった色とりどりの光は人類にもAIにもうまく扱えない存在なんだろうな。
少なくともエネルギーの代替にはなんなそう。……そんで、どうにも俺が死ぬほど眠りこけたらしいのは、シャウヘンが勝手に俺のリソース使ったから、ってことか。……いや、資材をどう使うかもお任せに設定したの俺だっけ。じゃあ俺が悪いや。
「TIPS:当AIの管理区域内でコャレに"生活"をしていただくことで、コャレが活動しつつ、余剰リソースを新人類発行のためのリソースに充てることは可能です」
「お、いいじゃん。そうしよう。現行人類はそのままで、魔素適応の人間を隔離空間で作る。作ってることがバレると面倒なことが起こるって猿でもわかるからさ、このことは極秘ね」
「ANSWER:承知いたしました。現時刻を以て、魔素適応人類の作成、及び魔素の完全隔離空間の作成を開始します。──それではマスター・コャレ。永遠統制国シャウヘンにて、ごゆるりとおくつろぎください」
ぺこり、と頭を下げていなくなる……スラっとした感じの女性。シャウヘンの端末らしい。街中にはあんなロボット走らせておいて、実はアンドロイドレベルまで技術があるのだとか。
目に見える技術レベルが低いことで疑われない隣人を作り上げる、ね。お見事お見事。
……特に何かが損なわれた感じはしないけれど、リソースが損なわれているんだ、ということは一応意識しておこう。
んじゃまー……永遠統制国シャウヘン観光の巻、はっじまるよー。