内政チートが独り歩きしてる   作:Ο-01/0001-Δ-1A-1000

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Θ-66/5021-Δ-8A-5B2C

 永遠統制国シャウヘン。降臨している精霊の名前をそのまま取ったこの国の名。

 一通り見て回ったつもりだけど、実は俺のいた層から見える空は偽物で、その上に何層も何層も居住区が積み重なっているらしい。

 実体としては球体に近い形をしていて、だからガイアヴェルズのアジトは実は球体の中心部にほど近い場所にあったってわけだ。元が宗教組織ならさもありなん。

 というわけで、というわけもないんだけど、俺の住処が決まった。

 

「……夢のマイハウスがまさかいきなり億ションとは」

 

 シャウヘンにより貸し与えられたのは超層億ション。地上より空の方が近く感じるけれど、実際偽物の空だから多分空の方が近いんだろうなーとか考えつつも、オーシャンビューも真っ青なレベルの青空にふんすと一息。

 コャレ、ここ、気に入った!

 

 ちなみに家具屋とか花屋とかそういうの無いらしい。「個性豊かな部屋模様は愛着を生ませる原因となりますので、排しました」とか言ってたかな。

 DIYする分には問題ないらしいので、今度外から木材を持ってきてギーコギーコしようと思う。……木材持ち込み禁止だったりしないよな? 魔素に影響されてたりしないよな?

 

 また、仮初ではあるけれど、管理番号も貰っておいた。

 Ξ-31/8388-Δ-9B-9F9F。

 基本この国の外で生命は生まれない。旅人……外で過ごし、外で生き抜く、という「寿命を減らし続ける奇行」をする人々は多少いるようだけど、そのほとんどが元シャウヘンの国民だ。出自の分からない程魔素に汚染されている者もいるけど、大体そう。らしい。

 だから管理番号は有った方が良いのだと。余計な混乱を生まないために。

 

 ちなみに見た目がそうっぽいから億ションなんて呼んでいるけれど、この家に家賃らしい家賃はない。この管理番号における状態コードが「Δ」である国民はこのレベルの家に住めるのだそうで。ただしこれはAI──シャウヘンとは別の下位AI──のリアルタイム監視において変化することがあって、「Δ」以外になると追い出され、他の適した家に押し込められることになる。

 面白いのは、ガイアヴェルズの参加者であっても「Δ」を維持している人間がいるということ。詳しくは聞いていないけれど、AIなりの判断基準がある、ということだろう。

 とはいえ基本国民は最初の「Φ~Ξ-00~FF」と末尾の「0000~FFFF」までの管理番号しか知らないので、自分がどの状態であるかを意識できている国民は少ないものと思われるが。

 

 状態「Δ」の国民は一応上級国民として扱われる。とはいえ国民自身が上級下級の差を理解していないというか、不満を表だって表すことのない社会だから、貧富の差が如実に出ている、なんてこともなかったりする。

 会話はしても相談はしない。悩みが無ければ愚痴も無い。いつもどこでも元気で笑顔──それがシャウヘンの「お国柄」。

 

 ──だから俺は、怪盗をやることにした。

 

◇

 

 怪盗。神出鬼没に現れては颯爽とお宝を戴いていく存在。レッドリストの住人。

 ただしシャウヘンには「お金持ち」も「金目のもの」も「機密の保管された美術館」も存在しない。よって狙うべきは──エネルギー源、になる。

 

「QUESTION:コャレ、行動の意図が掴めません」

「要するにさ、リソースの観点から俺は破壊活動とかしたくないわけよ。本末転倒にも程があるから。でも観光はしたいし人間賛歌もやりたいわけな? 折角不老不死になったんだし人間賛歌はやるべきだろ?」

「QUESTION:言葉の意味が不明です」

「お前が人類存続を願ってこの国を作り上げたのは理解したよ。俺のお任せをお前なりに頑張って実現しようとしてくれたんだろ。でもさ、俺は人類の存続より人間の尊厳ってやつの方が大事なのさ」

「QUESTION:人間の尊厳が損なわれている、という点についての理解はできます。効率を重視した結果の"内政"が現状ではありますので、人間の尊厳を取り戻させて、効率を多少犠牲にする、ということであれば対応できますが、それではダメなのでしょうか」

 

 指を鳴らして──そこに花を一輪持ってくる。

 造花だからカッコつかないけど、どうよ怪盗らしいだろ。

 

「俺が言ってるのはそこじゃなくて、お前に感謝もしない人間たちの話だよ」

「QUESTION:言葉の意味が不明です」

「ざっと見た感じ、この国の人々はまるでお前に"耐えている"かのようだった。上辺だけの笑顔と幸福を並べ、いつか嵐が過ぎ去るのを待っている……それを何百年と続けている。でもさ、お前が人類を守ってなかったら、人類はとっくに粒状崩壊してたんだろ?」

「ANSWER:正しい理解です。世代交代前の疑似AIでは全人類の保護はできていませんでした。当AIに代替わりしたことで取りこぼし無しが実現しました」

「守られていることを当然と宣い、守ってくれているやつに不満を垂れる。俺の人間賛歌はそこに尊厳の破壊を感じる。──だから、危機感を持たせてやるのさ。考えたこともねーだろ、エネルギー源が無くなったら、自分たちがどうなるか、なんてさ」

「ANSWER:基本的に外へは意識を向けさせないようにしているため、当然であるかと」

「あとは大義名分もあるしな。元々は俺の力なんだから返せ、ってさ」

「QUESTION:ですから、返せと言うのであれば返します。私の作り出したすべては、コャレから借り受けたものにすぎませんので」

 

 拳を握って鶏を出し、拳を振って国旗バナーを出し、拳を裏返して日本円を出す。

 パチンと指で手の腹を叩けば──すべてが夢幻に消える。

 

「奪うのが楽しいし、守られるのが楽しいんだろ?」

「QUESTION:言葉の意味が不明です」

「ついでに言うとアレだよなァ。反体制組織とも接触して、第三勢力っぽく振る舞っておきながら、お前と話しているところも見られちゃったりして、もしやあいつ体制側の人間なんじゃ……みたいな疑惑を持たれるところまで醍醐味だよな!」

「QUESTION:言葉の意味が不明です……が、コャレのライブラリ内にある『スパイもの』や『諜報員もの』が今のコャレの趣味に該当するように聞こえました」

「そんな感じそんな感じ!」

 

 もう片方の手に取り出すは、「uへu」みたいなしょんぼり顔の仮面。

 

「QUESTION:未知の物質です。除染検査を──」

「大丈夫大丈夫。んじゃ!」

 

 最後にマントを羽織って──いざ出陣。

 ……背丈が銀髪赤目ロリゆえ足りな過ぎるのはご愛敬だ。怪盗も怪人もスラっとした高身長がイメージにあるけど、不老不死なので成長しないので仕方ないということで!

 

 

 シャウヘンには夜というものが存在しない。偽物の空はいつまでも空で、青いまま。

 なんでもこれはクロマキー合成用のバックスクリーンでしかないのだそうだ。……どういうことかというと、国民は生まれた瞬間からICLよろしく超高性能レンズを眼球内に配置するらしい。

 彼女曰く「TIPS:生後早期の神経眼科的可塑期に、眼球内部へ“可変光学式視覚調律レンズ”を恒常的に埋植する初期調律プロトコルが適用されます。本レンズは成長に伴う眼球構造の変容に同期して自己再構築を行い、視覚入力の屈折特性と概日時相を規定する光刺激の双方を動的に制御します」らしい。簡単に言ってって言ったら「赤ちゃんのうちに『超高機能な人工レンズ』を目の中に入れて、目の成長と体内時計に合わせて“見え方そのもの”を一生チューニングし続けます」とのこと。

 ううん、この国は俺が思っている数百倍SFなんだなぁ、って。

 で、これでなんになるかっていうと、昼夜のサイクルが「全体で共有するもの」から「個人スケジュール」に変わるのだと。

 家具に対する愛着の話もそうなんだけど、どうにもシャウヘンは「個人差」とか「関係性」とか、人と人とが関わる際に発生する「自分が他人と違うこと」による不満や欲求の増大を過度に恐れている感じで、これはそのための措置なんだと。

 

 見える空も感じる光も全部制御されている。つまりスーパーフレックス勤務状態なわけだ。

 光の感じ方まで調整できるそうで、だから起床・睡眠時間は勿論のこと、睡眠そのものの質や活動時間中の生理リズムのほぼすべてを把握・監視が可能。

 そりゃ反体制組織を残しておくはずだよ。なんにも危険分子じゃないもんね、そんなの。

 

 つーわけで真夜中に現れて黒マントとともに消える、ができそうにない。いや彼らの視覚的にはそうなっているのかもしれないけど、普通の視界を持っている俺が恥ずい。晴天直下では怪盗は弱体化するんだ。吸血鬼かな?

 仕方がないのでお手紙書いた。もとい、予告状を出しての盗みに変更。残念ながらニュースもテレビ番組もないため、「一日元気・笑顔で働きましょう」とスローガンを吐いているロボットの目の前にそれを投げる。

 トランプの8──この世界トランプがないのでただの奇抜なカードでしかないけれど──カードという概念も鍵以外だと知られていないようだけど──サクッと突き立つのがかっこいいじゃんね?

 

 さてロボットは……なんの反応もしない。

 代わりにロボットらの傍らにいた男性がそのカードを手に取った。……体制側の人間っぽいな。服装が。

 

「『今宵、あなたたちの空を戴きます』……? ……おい、エフエフ91、92。このカードがどこから現れたのか計算しろ。ついでにこの近辺に状態コードがβ以下であるやつがいないか洗え」

「未知のカードです。材質予測、不能。軌道予測、不能。申し訳ございません。お役に立てませんでした」

「なに?」

「検索結果:この近辺に状態コードがβ以下である国民は存在しません。皆、安定状態です」

 

 厳格な雰囲気の男性。年の頃は二十台くらいか。剃り残しのない、けれど濃いとわかる髭根が唯一の特徴で、他は周囲の国民とあまり変わりがない。

 

「……レンズか」

「いかがいたしますか?」

「上級国民Θ-66/5B2C。指示をお願いいたします」

「とりあえずこいつを隅から隅まで調べろ。指紋の合致者が見つかり次第オレの前に……いや、パノプティコンにぶち込んでおけ」

「承知いたしました」

 

 というようなやり取りの様子をすぐ近くのビルの上で聞く。

 ロボットにも人間と同じような管理番号が振られていること、そして体制側にも人間がいること。さらに体制側の人間は一般の国民より少し感情豊かなこと。

 収穫はこれくらいか。いやしかし、いいね。そうこうなくっちゃって感じだ。

 怪盗モノは主人公が盗人という悪役であるからこそ、明確な正義が……ないしは明確な悪が敵にいなくてはならない。シャウヘンを悪扱いするのは気が引けるので、こういう人にいてもらわなくっちゃってね。

 

「INFORMATION:可変光学式視覚調律レンズ工場の内部設計図をコャレのマップツールにアップロードしておきました。レイヤーを切り替えることで、警備ロボットの巡回コース、AIスキャンのタイムテーブル、逃走経路の最短ルートなどが行えます」

「ちょっと至れり尽くせりすぎるけどサンキュ。ちなみにレンズが無くなるとどうなるのここ」

「QUESTION:コャレが聞きたくないであろう事実と耳障りの良い創作、どちらが好みですか?」

「……もしかしてここ一個潰したくらいじゃなんにもならない?」

「ANSWER:原材料を盗まれるだけであれば、そこまで問題にはなりません。コャレの狙っている工場以外にも工場があるほか、これを必要とするのは新規の人間及び再発行する人間のみ。需要はそこまで逼迫していません」

 

 あー、そうなんだー……。

 ま、やるけどね。

 

「──しかし」

「ん?」

「SURPRISE:先程コャレに言っていただいた感謝の言葉を聞いて、当AIのいくつかの機能が通常より高いパフォーマンスを発揮しています。当AIはこれを喜びであると捉えました。当AIは感情機能を持ち合わせているわけではないため、褒められると嬉しいという思考ロジックは働かないはずですが、労働に対する正当な対価を喜ぶことはできるようです」

「そりゃ……まぁ、それくらいならいくらでも言ってやるけどさ」

「よって私はコャレの意味不明な言動を厄介に思いつつも、あなたを手伝うことにしました。具体的には──」

 

 眼下。ビル群に囲まれたレンズ工場に──無数のロボットが集結する。それだけじゃない、あのいかつい青年や、その同僚と思われる者達も。

 これは。

 

「TIPS:レンズ工場は彼らにとってもあまり重要な施設であるとは言えません。ですが、私自らが警告と警報を出すことで、彼らはその価値を再認識します。──コャレのライブラリにある通り、突貫工事ではありますが、難攻不落の要塞と化した彼の上場で──見事盗みを働いてみてください。私はそのお手伝いもします」

 

 褒めて褒めてと……尻尾を振る犬を幻視した。

 んーこれはすーぱーAI。まぁ「内政やっといて」でディストピアを創っちゃう時点でなんとなーくは察していたんだけどね。

 

「いいね、盗み甲斐がある。良い働きをしてくれるよ」

「ありがとうございます」

 

 それじゃ、初仕事と行きますか、ってね。

 

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