HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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第10話

 

ロンドン、ヘルシング機関本部。深夜。

執事室のバルコニーで、ウォルターは外で行われている新人たちの夜間訓練を眺めていた。

そんな彼の背後から、闇が滲み出るようにアーカードが現れた。

 

「……聞いたかね?まさかナチス絡みとはな…半世紀も前の亡霊の名が出てくるとは…」

ウォルターが振り返らずに呟く。

「そんな予感はしていたさ」

アーカードは手すりに寄りかかり、夜風に長い髪をなびかせた。

 

「あの感じ、あの薄暗さ……前にも感じたことがある」

 

「何故だ?」

ウォルターが問う。「何故、彼らだと?」

 

アーカードは低く笑い、指を三本立てた。

「何故? お前が何故と? 『死神』。『死に損ない(アンデッド)』を実戦で投入しようと考えたのは三つだけだ。一ツはきみら、一ツは彼ら、一ツはわたし」

「そして彼らのアンデッド研究機関は50年前に完全に粉砕された。……この私とお前とで、皆殺しにしたじゃないか」

 

かつての記憶。炎上するワルシャワ。血の雨。

二人の怪物が暴れ回った、若き日の戦争。

 

「……そうだそうだったな。思い出したよアーカード」

 

「『老い』とはこれだから恐ろしい」

 

「『老い』すら楽しむものさ、我々英国人はね。アーカード、君らは直ぐにでも南米へ飛んでもらうことになるだろう。ヴァチカンの13課の連中を全面的に信用する訳では無いが、情報量が少なすぎて取りえる手段がないのだ」

 

「南米にナチの残党が隠れて再興を狙ってるなんてよく聞くゴシップだが、これだけの事をする組織だ、しかもここまで秘密を守っている。生半可な連中でないことだけは確かなことだ」

「……しかしここまであからさまに喧嘩を売られて黙ってやれるほど我々はお人好しではない…」

 

「…はン…これだから英国人は…そんなんだから衰退するのだ」

 

「…意地も張れぬ繁栄など、こちらから願い下げだ」

 

「……それより」

 

アーカードは視線を訓練場の片隅へ向けた。そこには、黙々と銃の手入れをする狩人の姿があった。

「先日、ヤーナムで見たもの……手に入れた新たな得物」

 

「あの狩人について、どう思ってるんだ?」

ウォルターが静かに尋ねる。

 

「……今まで出会ったことのない、出逢うはずのない化け物だ」

アーカードの声には、珍しく純粋な感嘆が混じっていた。

「吸血鬼の『血』とも、我々の『術』とも違う体系。奴の根源にあるのは、星の彼方の深淵だ」

 

「………殺したいのか?」

 

「殺されたくはないな」

アーカードはニヤリと笑った。

「奴は化け物だ。底が見えない。だが……だからこそ、闘争をするのに相応しい強敵(とも)だ」

 

ウォルターは短く笑い、訓練場を見た。

「……今回の遠征要員はアーカード、狩人、そしてセラスの三名。あとは数名の外で訓練中の新人、という所か」

「狩人以外は連れていくだけ足手まといだ。構成員としてだけでいいだろう」

「なに、連中なかなかどうしてよくやっている様だよ。……少し教官に不安があるがね」

 

ヘルシング射撃訓練場。

そこでは、ワイルドギースの傭兵たちに対する、あまりに理不尽な訓練が行われていた。

 

「はいはいッそこなにやってんのーッ! ダメダメダメそんなんじゃダメダメダメ! なんで4500メートルがあてらんないのようッ!?」

「バカーッ! 無茶言うなっ!」

 

セラスが指導し、ベルナドットが反論する。

人間には視認すら不可能な距離の的を撃てというのは、吸血鬼基準のパワハラ以外の何物でもない。

 

ドォォォォンッ!!

その横で、さらに異常な轟音が響いた。

狩人が構えているのは、長銃身を持つ美しいライフル、「ルドウイークの長銃」

さらに次弾装填。今度は巨大な大砲のような「教会砲」を肩に担ぐ。

 

ズドガァァァンッ!!

着弾。4500メートル先の岩山が、的ごと粉砕された。

 

「そうそうッ! 皆さんも狩人さんみたいに撃ってくださいよっ!」

セラスが得意げに言う。

「いや……ヤツはなんつーか……ウン……人間離れ過ぎるっつーか……」

ベルナドットたちがドン引きしている。あんな携帯用カノン砲を、反動制御なしで連射する人間がいてたまるか。

 

「むぅっ……変わってください!」

セラスはハンネルコンを片手で軽々と持ち上げ、狙いをつけた。

ドォン!!

見事、的の中心に着弾。

 

「YES!」

セラスがガッツポーズをする。傭兵たちがザワつくが、ベルナドットが双眼鏡を覗いてため息をついた。

「よく見ろバカ」

 

よく見たら、撃つべき「敵の的」と、撃ってはいけない「人質の的」、両方とも綺麗に頭部が吹き飛んでいた。

「人質全滅」

「あ゙ーーッ!!?」

 

 

「先行き不安だ」

司令室からモニターを見ていたウォルターが呟く。

「フン」

アーカードは興味なさそうに鼻を鳴らした。

 

「……何故、彼女を吸血鬼にしたのかね」

不意にウォルターが問うた。

 

「何故だろうな。気まぐれ? 否、違うね。奴は自ら自分の意思で取捨選択した」

アーカードはチェダー村での夜を思い出す。

 

「あいつはどんな扱いになっている?家族は何も言ってこないのか?」

 

「家族は……いない。孤児だ」

 

「ふふ、そうだろう。まあそんな所だろうさ」

 

「あいつは見かけや表面上なんぞより、随分とおもしろい女だ」

アーカードは語る。

「最初期出動から上官や同僚らが続々と食屍鬼と化し、全滅していく死の村落。自分を強姦して殺そうとする吸血鬼たち、まるで魔女の蓋のそこのような地獄」

「そこであの女は何をし、何を選択したのか? ……『あきらめ』が人を殺す。あきらめを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となるのだ」

 

そして、狩人のことも思い出す。

「それに……あの夜、ヤツの眼にも焼き付いた筈だ。我が強敵(とも)神秘(スピリチュアル)が」

「……異界の星の光、か」

「ああ。あれを見て正気を保ち、なおかつ戦おうとした。見どころはある」

 

「……ふッ、あとは血液さえ飲んでくれれば……か?」

未だ血を拒むセラスに対し、ウォルターが苦笑する。

 

「……飲むさ、飲むとも。必ず飲む」

アーカードは予言するように言った。

「もしや、思いがけぬものも"飲む"かもな」

 

話題は南米遠征へ。

「どうやって海を渡るか。飛行機でも、吸血鬼には流れる川や海を姿身で踏破することが出来ない」

アーカードが悩んでいると、ドアがバンッ! と開いた。

 

「ウォルタァさぁぁぁん!!」

セラスが泣きながら駆け込んでくる。

「隊長がセクハラしてくるんですぅ! マラソンの時にヒワイな大変態ソングを歌ってきてぇ!」

 

「……それはさておき」

アーカードはセラスの訴えを完全にスルーした。

「クラシックだが、いい手がある」

 

 

 

翌朝、ヘルシング家のエントランス。

「おはようウォルター。婦警はどうやって運ぶことになったのだ?」

インテグラが尋ねる。

 

「はッ。その件ですが……」

ウォルターが苦笑しながらドアを開ける。

 

「おはようインテグラ」

 

そこには、巨大な木造の棺桶の上に優雅に座るアーカードと、その傍らで静かに佇む狩人の姿があった。

だが、二人の装いはいつもとまるで違っていた。

 

棺桶の中からは、ドンドンと蓋を叩く音と悲痛な叫び声が聞こえてくる。

「いぃやあぁぁぁぁ出してぇぇぇ…!! 暗いよぉ! 狭いよぉ!!」

 

「……大丈夫なんだろうな」

インテグラが眉をひそめる。

「密輸船を使いますから」ウォルターが答える。「私の柩も運びたかったから一石二鳥だ」とアーカードも悪びれない。

ベルナドットも「俺たちがいつも使ってるルートだし、金を払ってる限り信頼できマスよ」と請け負った。

 

「ゔゔゔ出してええぇぇぇ!」

「黙れ」

 

アーカードが一喝すると、棺桶の中の悲鳴はピタリと止んだ。

 

インテグラは、改めて二人の格好に目を向けた。

「……いつもの格好ではないのだな」

 

アーカードは黒のジャケットにワイシャツ、独特な柄のネクタイというラフな出で立ち。髪も真っ直ぐに下ろし、サングラスをかけ、まるでロックスターのようだ。

「あの格好で飛行機に乗るわけにもいくまい。相手に宣伝しながら歩くようなものだ」

「それに私にとって陽の光は大敵ではない。大嫌いなだけだ」

 

そして、狩人。

彼は普段の黒い狩装束ではなく、青色の軍服「官憲の服」を着ていた。

肩にはケープを羽織り、真鍮のボタンが整然と並ぶ。右手には武器ではなく、仕込み杖を携えている。

そして何より、いつもの三角帽子とマスクがない。

 

「……お前も替えたのだな」

インテグラが物珍しそうに狩人の顔を見る。

ウォルターも初めて見るその素顔に注目した。

 

さらりとした灰色の髪。色素の薄い瞳。色白な肌。顔立ちには中性的な美しさがある。

普段荒々しく泥臭い戦い方をする割には顔はあまり雄々しさは無い。どこか、夢の中の人形に似た静謐な顔立ちだった。

 

「よく似合ってるぞ。それにしても……どこの軍に属していたんだ? もしくは官憲のように見える」

「……否、官憲という訳では無いが……譲り受けた……と言っておこう」

狩人は少し居心地が悪そうに杖をいじった。

 

「しかし、帽子がないとお前だと分からないな。それにいつも口元を覆っていただろう」

 

「そうだな。……だが、帽子がないと私にとっても違和感がある」

 

狩人は懐から、黒い「トップハット」を取り出した。

青色の官憲服にシルクハット。

不釣り合いな組み合わせのはずだが、手足の長い狩人が被ると、それは奇妙な調和を生み、ヴィクトリア朝の老紳士のような風格を漂わせた。

 

「その帽子も似合っている」

インテグラは満足げに頷いた。

「……すまん、少し駄弁り過ぎたな」

 

インテグラの表情が引き締まる。

命令(オーダー)唯ひとつ(オンリーワン)

 

見敵必殺(サーチアンドデストロイ)

 

以上(オーバー)

 

アーカードが不敵に笑い、狩人はトップハットのつばに手を添え、静かに一礼した。

 

「認識した。我が主人(マイマスター)

 

異界の狩人と、最強の吸血鬼。

普段とは違う仮面を被った怪物たちは、南米ブラジルへと向かう「棺桶」の旅路についた。

 

to be continued…

 

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