HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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第11話

 

南米ブラジル、首都リオデジャネイロ。

ギラギラと照りつける太陽の下、高級ホテル「リオ」のエントランスに、場違いな黒塗りの車が到着した。

 

降り立ったのは、黒スーツにサングラスの長髪の男、青い軍服にトップハットの紳士、そして眼帯の傭兵。

 

「最上階のスイートの予約を入れておいた者だが」

アーカードがカウンターで告げる。

「はッ。最上階のスイートのお客様。『J・H・ブレナー』様で御座いますね。承っております」

 

その背後では、ベルナドット指揮下の現地ポーターたちが、巨大な荷物を運び込もうとしていた。

「おいこっちだ、最上階だってよ」

了解(ラージャッ)

 

あまりにもデカイ、そして不吉な形状をした荷物に、ホテルのボーイが戸惑いの声を上げる。

「お、お客様、あの大きなお荷物は当ホテルといたしましては……」

 

アーカードは振り返りもしない。

ただ、サングラス越しに赤い瞳を光らせ、スッと手をボーイの額にかざした。

 

「問題ない」

アーカードの声には、抗いがたい強制力が籠もっていた。

「なにも、問題は、ない」

 

ボーイの目が虚ろになる。

「……なにも、問題、ありません」

彼はあっけらかんと答え、笑顔でキーを渡した。

 

「行くぞ。早く運び込め」

アーカードが歩き出すと、ベルナドットが冷や汗を拭いながら追いつく。

「はあ? ……なにをやった。魔法か?」

 

「何もしていないさ」

アーカードは嘯く。

「それより、運ぶ過程で問題は?」

 

「何もかも順調すぎて怖いくらいだ」

ベルナドットが肩をすくめる。

「まるで誰かが道を開けてくれてるみたいにな」

 

「………そうかね」

アーカードは歩みを止めず、ニヤリと笑った。

「フン」

鼻を鳴らし、楽しげに呟く。

「何も問題は無い。……楽しい休日(バカンス)になりそうだな。行くぞ、狩人」

 

ベルナドットは訝しげに黙り込み、隣を歩く狩人に小声で尋ねた。

「………なんかあるのか? ハンターサンよ」

 

狩人はトップハットのつばを直しながら、低く答えた。

「分かり得ぬな。……だが、ヤツがあぁ言うのならどちらにせよ、”何か”はあるだろうな」

「そ、そうかよ……」

 

彼らの背後、ホテルのロビーの隅で、客を装った男が無線に囁いていた。

「こちら赤テブクロから白クツシタヘ、『お客』は入店した。繰り返す、お客は……」

 

 

 

 

 

最上階、プレジデンシャル・スイート。

なんとも広々している王侯貴族のための部屋だ。

 

「何たる差別!! 俺は市外の30ドルの安宿だってのに! 何たる差別!! あぁブルジョアジー!! ブルジョアヌー!」

ベルナドットが煙草に火をつけながら喚く。

 

「安宿の方が良いこともある」

アーカードが窓の外を見下ろしながら嗜める。

「そうですか〜ァ」

 

ふと、狩人が部屋の空気を探るように呟いた。

「……静かだな。新米(セラス)らしくない」

あの騒がしい婦警の気配がない。

 

「どうせ騒ぎ疲れただけだろう」

アーカードが短く答える。

ご名答(イグザクトリー)

ベルナドットが手を叩く。

「途中随分と暴れていたんですよ。誤魔化すのに一苦労です。流石に疲れたのか諦めて寝ちまったみたいですがね」

 

アーカードは部屋の中央に置かれた巨大な荷物に歩み寄ると、被せてあった布を勢いよく剥ぎ取った。

現れたのは、黒塗りに銀の縁取りがされた、重厚な棺桶。

 

「……それがアンタの棺桶かい……」

 

「そうだ。私の最後の領地だ。ここで生まれここで死ぬ」

 

ベルナドットは呆れたように帽子を被り直した。

 

「確かにスイートだのなんだのの、へったくれもあんたには無さそうだ。それじゃあ、明日から調査という事でヨロシク。グッドハンターさんは朝から、あなた方吸血鬼は夕方頃迎えに来ますわ。夜の方がいいんだろ?」

 

「承知した」狩人が頷く。

 

アーカードは何かを含んだ口調で言った。

「フン……まあ楽しみにしておけ」

「は?」

「なかなか楽しめそうだ、此処は」

「は、はぁ……」

 

ベルナドットが部屋を後にし、広いスイートルームには二人の怪物だけが残された。

 

狩人はトップハットをテーブルに置き、アーカードに問う。

 

「……何を予感している?」

 

アーカードは白いコートのボタンを外し、不敵な笑みを浮かべた。

「ふッ……さあな? だが、いずれ答えが来るだろう」

 

彼はジャケットを脱ぎ捨て、虚空からいつもの真紅のロングコートを取り出して羽織った。

そして懐からヤーナムでの戦利品、「レイテルパラッシュ」を取り出し、チャキリと撃鉄を起こして機構を確かめる。

 

その所作だけで十分だった。

狩人もまた、理解した。

休日(バカンス)の時間は終わりだ。これからは、血に濡れた狩りの時間だ。

 

狩人は青い軍服の上着を脱ぎ、使い古した狩装束へと袖を通す。

「仕込み杖」と「獣狩りの短銃」を持つ。

マスクを装着し、いつもの三角帽子を目深に被る。

その姿は、一瞬にして理性的な官憲から、夜を駆ける処刑人へと変貌した。

 

 

その時だった。

窓の外から、けたたましいサイレンの音が響き渡り始めた。

 

ウゥゥゥゥゥ──ッ!!

 

パトカーの回転灯がビルの壁面を赤く染め、階下からは避難する人々の悲鳴と、警官たちの怒号が漏れ聞こえてくる。

 

狩人がカーテンの隙間から外を覗く。

ホテルは完全に包囲されていた。ブラジル軍警察の特殊部隊の装甲車が道を塞ぎ、完全武装の兵士たちが突入の準備を進めている。

下界は、まさに混沌としていた。

 

「始まった…か。…クク……」

アーカードが低く笑う。悠然と棺桶に近づき、蓋を開けた。中ではセラスが仰向けになって眠っている。

 

「起きろ」

アーカードが顔を近づける。

「っ!! お、おは、おはようございます……」

 

「起きろ。面白いから起きろ」

 

バタバタバタバタ……!!

強烈なダウンウォッシュが窓ガラスを震わせる。

 

「なっ、なんの有様ですかコレ……?」

セラスが目をこすりながら窓を見る。

そこには、サーチライトを向けた戦闘ヘリコプターが、ホバリングしながらこちらを覗き込んでいた。

 

「なっ、なッ、何! 一体…これは一体ッ!?」

パニックになるセラス。

 

「さあ、戦争の時間だ」

アーカードが両手を広げ、歓喜に震える。

 

「…………」

狩人は無言で短銃に水銀弾を装填し、鉈のロックを外した。

その瞳は、獲物を前にした獣のように冷たく光っていた。

 

 

テレビの画面には、「速報」の文字が踊っていた。

 

『現在、リオデジャネイロ市内のホテル「リオ」最上階に、凶悪なテロリストグループが立て籠もっております』

『警察当局の発表によりますと、主犯格の男の名はJ・H・ブレナー。共犯の女、およびもうひとりの男については現在氏名不詳とのことですが……』

 

安宿のベッドの上で、ベルナドットは飲んでいたビールを派手に吹き出した。

「ぶッ!? げほッ、ごほッ!! な、なんだァ!?」

 

 

──ロンドン、HELLSING本部。

ひっきりなしに鳴る電話のベル。

ウォルターが受話器を耳に当てながら、冷静に対処している。

その横で、インテグラはテレビ画面を睨みつけ、ギリリと歯を食いしばった。

 

「上等じゃないか。そんなに戦争がしたいならやってやる。……戦争屋共め」

 

 

──ミレニアムのとある基地にて。

無数のモニターの光を浴びて、小太りの男はモニターを眺めていた

 

「どうだね博士(ドク)

 

「彼らはいいです。いい素体だ。……そしてこれで、確かめられる事でしょう」

ドクがデータを記録しながら答える。

 

「化物でありながら化物共を狩り続けるあの男は、人間を……なんの罪も無い人間たちを……殺すのか、殺さないのか。それとも殺されるのか……」

男の眼鏡が怪しく光る。

「……そして、あの異界の狩人。ヤツはどこまで血に酔うのか……"ヒト"相手にどうするのか……」

「見せてくれたまえよ。闘争の歌劇を」

 

 

──北アイルランド、孤児院の一室。

薄暗い自室で、アンデルセン神父は小さなテレビを見つめていた。

画面には、追い詰められた(ように見える)怪物たちのホテルが映し出されている。

 

「神父様、お食事の時間ですよー。どうなさったんですか?」

ドアの向こうから、子供たちの明るい声が聞こえる。

 

「あぁ、もうそんな時間だったのですか。すぐ行くと寮母さんに伝えてあげてくださいね」

「はーい! 早く来てくださいね」

足音が遠ざかるのを確認し、アンデルセンは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「……踊り踊れ化物共(フリークス)。地獄を見せろ、この私に」

 

世界中の視線が注がれる中、リオのホテルは血塗られた戦場へと変わろうとしていた。

 

to be continued…

 

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