HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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第12話

 

視点はロンドン、HELLSING本部。

「TVクルーがホテルを映さなくなりました」

ウォルターが冷徹に告げる。

「突入する気か、バカどもめ……正気とは思えない」

インテグラは拳を握りしめた。

 

「アーカードにとって、彼らは目的達成の至上命令における単なる障害でしかない。例えそれが人間だとしても……」

 

「だとしたら狩人はどうなる?」インテグラの声が揺れる。「ヤツは人を狩ったことがあるとはいえ、無関係の人間を……」

 

「どうでしょうね」

ウォルターは静かに答えた。「ただ言えることがあるならば、彼らは化け物であること……ですね」

 

 

───────────────

 

 

リオデジャネイロ、ホテル「リオ」最上階。

ドォン!!

ドアが蹴破られ、ブラジル軍警察の兵士たちが雪崩れ込んでくる。

「クリア!」「クリア!」

兵士たちは部屋を索敵し、やがて部屋の中央に鎮座する巨大な棺桶に目を止めた。

 

隊長が歩み寄り、棺の表面に刻まれた銘文を読み上げる。

『私はヘルメス。私は自らの羽を喰らい、飼い慣らされる』

 

「なんだコレは……?」

 

そう言った刹那、闇の底から響くような声がした。

 

「私の棺に触るな」

 

兵士たちが一斉に振り返る。

窓際、月明かりに照らされた逆光の中に、真紅のコートを纏った男が立っていた。

「FREEZ!!」

数十の銃口が向けられる。だが、男は動じない。淡々と、少し苛立ったように繰り返す。

 

「私の棺に触るな。わたしの、棺から離れろ」

 

「撃てッ!」

 

ドドドドドドドド!!!!!

ドガドガドガドガドガドガドガ!!!!

 

一斉射撃。アサルトライフルの弾丸が嵐のように男を襲う。

肉が弾け、血飛沫が舞い、真紅のコートが穴だらけになって床に崩れ落ちる。

 

静寂。硝煙の匂い。

「動くなと言っただろうが、この変態野郎」

「元より射殺命令が出ていますが、撃ちすぎでしょうこりゃ」

兵士たちは荒い息を吐きながら、肉塊と化した男を見下ろす。

「知るか。念入りに殺せと言われただろ」

「しかしこいつ一体なんなんだ、ただのバカか?」

「知るか。お偉い方の事情じゃねぇか。なにしろ仕事は3分の1終わった」

「もうふたりの男と女がいたはずです」

「よし! すぐ探し出せ!! 発見次第即刻こいつのように射殺しろ!!」

 

すると、肉塊の中から声が響いた。

 

走狗(いぬ)め」

 

「「「!!!?」」」

兵士たちが凍りつく。

床に広がった血の海が、意思を持った生き物のように逆流し、肉片が集まり、男の形を成していく。

 

「なるほど大した威力だ。しかし走狗では私は殺せん」

 

男──アーカードの体が、無数の赤い目玉と黒い影を纏いながら再構築されていく。

彼は嘲笑うように告げた。

 

 

「化け物を打ち倒すのはいつだって人間だ」

 

 

 

「………」

その一言が、クローゼットの中に潜んでいた狩人の胸を打った。

 

『化け物を打ち倒すのはいつだって人間だ』

 

狩人の脳裏に、遠い街、ヤーナムでの記憶がフラッシュバックする。

血に酔った狩人たち、悪夢に囚われた古狩人たち。

ヤーナムの路地を跋扈する獣、瞳を求めた学徒たち、実験棟の患者たち、そして漁村の民。

彼らは皆、人を超えようとし、獣となり、あるいは上位者へと近づき──そして、狩られた。

 

(……私はどうだ?)

 

人の身で、化け物を狩り殺してきた自分。

そんな私は果たして「人間」として彼らを狩っていたのか?

いや、かつての私でさえ、既に「化け物」の側から、同族を狩っていたのではないか?

 

(……いつ頃だろうな、化け物となったのは)

 

狩人の瞳が冷たく沈んでいく。

今の自分は紛れもない化け物だ。人の範疇などとうに超えている。

だが「獣」ではない。

本能のままに血を貪り、理性を失ったケダモノとは違う。

それだけは、決して譲れない一線。

 

「か、狩人さん……?」

 

ふと、共に潜んでいたセラスの震える声に引き戻された。

「大丈夫ですか…? その…様子がおかしかったので……」

「………大丈夫だ」

 

狩人は深く息を吐き、思考のノイズをシャットアウトする。今は、狩りの時間だ。

「……頃合か」

 

狩人はクローゼットから音もなく滑り出た。

そこには、無惨に引き裂かれた兵士たちの死体が転がっていた。

そして、部屋の隅に追い詰められた最後の一人の兵士。

彼はガタガタと震えながら、自身のこめかみに拳銃を当てていた。

 

「ばッ…ばっ…! 化け物ッ!!」

上擦って酷く恐怖した声。その銃口はアーカードに向けられている。

アーカードは冷たく見下ろす。

 

「よく言われる。ソレと対峙したお前はなんだ? 人か狗か化物か」

 

兵士は絶望の息を吐き、引き金を引いた。

 

バンッ!

 

自殺。

アーカードはつまらなそうに、そしてもどかしそうに兵士を睨みつけた。

人間として挑んでこなかった弱者への失望。

 

狩人はその死体を見つめ、心の中で短く祈りをくべた。

(……安らかに眠れ。悪夢に囚われぬように)

 

セラスも出てきて、惨状に目を見開き、そして俯いた。

「準備しろ、脱出するぞ」

「あの……その……」

「どうした、グズグズするな」

「いや、あの…ま…マスター…あ、あの…彼ら…人間です…」

「………だからなんだ」

「にッ人間なんですよ!!」

「だからなんだ!!」

 

アーカードがセラスの胸ぐらを掴み上げた。

「鉄火を以って闘争を始める者に人間も非人間もあるものか! 彼らは来た!! 殺し、打ち倒し、朽ち果てさせるために! 殺されに、打ち倒されに、朽ち果たさせるために! それが全て!! 全てだ!!」

「闘争の契約だ!! 彼らは自らの弱いカードに自らの全てを賭けた! そういう事だ!!」

「殺さなければならない!!」

「それを違える事は出来ない。誰にもできない唯一の理だ。神も悪魔も私も狩人もおまえも」

 

狩人は心中で頷いた。

元より闘争を望むものが居るならば、ましてや殺し合うなら、どちらが死んで、どちらが生きるかだ。

それが「人間」であろうと「化け物」であろうと、命を賭けたチップの重さに変わりはない。

 

(……この世界にいると、どうしても思考が人間臭くなる)

 

狩人は自嘲気味に口元を緩めた。

アーカードが胸ぐらを離す。

「行くぞセラス。せいぜい薄暗がりをおっかなびっくり着いて来い。狩人も行くぞ」

「はッはいッ!」

 

 

───────────────

 

 

アーカードが電話をかける。

『誰だ、敵か? 味方か?』

「お前の従僕だインテグラ。命令(オーダー)を寄越せ我が主」

 

アーカードは状況を説明し、そして問うた。

「この人間たちは上の命令を実行してるに過ぎない。それを私と狩人は殺すことができる。化物だからだ。ではお前はどうだ? お嬢さん」

 

「銃と鈍器は私たちが構えよう。照準も定めよう。弾を弾倉に入れスライドを引きセーフティは私が外そう。鈍器を展開し、敵に刃をあてがうのは狩人がやろう」

 

「だが、殺すのはお前の殺意だ。さあどうする? 命令を、局長インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング!!」

 

電話の向こうで、インテグラの激情が爆発した。

『私をなめるな従僕!! 私は命令を下したぞ、何も変わらない!!』

『「見敵必殺(サーチアンドデストロイ)」!! 「見敵必殺(サーチアンドデストロイ)」だ!! 我々の邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰せ!! 逃げも隠れもせず正面玄関から打って出ろ!! 全ての障害はただ進み、押し潰し、粉砕しろ!!』

 

アーカードは喉を鳴らして笑った。

了解(ラージャ)。……それが最後のイチジクの葉だと? 素晴らしい、股ぐらがいきり立つ! インテグラ!」

「ならば打って出る、とっくりとご覧あれヘルシング卿」

 

電話が切れると同時に、セラスと狩人は脱出の準備を終えていた。

棺桶は布で覆われ、黒紐で固く括り付けられている。狩人の手際は職人のように完璧だった。

 

「屋上に運び、ヘリを奪って脱出しろ」

「どうやってやるんですかぁ」

「何とかしろ」

「……口答えしてもムダだからなんとかしまス」

セラスは諦めたように棺桶を背負った。

 

「マスターと狩人さんはどうする気ですか?」

 

アーカードはニヤリと笑い、狩人に向いた。

 

「着いてきてくれるだろう? 私の友人(マイパートナー)よ」

 

狩人は三角羽根帽子のつばを指でなぞり、静かに答えた。

 

「………了解(イエスサー)

 

その返答と共に顔を上げた狩人の瞳。

それは、感情のない上位者のそれとは違っていた。

犠牲者への慈愛、救済への祈り、そして敵対者への無慈悲な殺意。

相反する感情が静かに同居する、「狩人」の眼だった。

 

「フフ…ならば正面玄関から歩いて出る。高見の見物をしている奴らに教育する。自分がどんな相手に喧嘩を吹っ掛けたのかということを」

 

アーカードが二挺拳銃を抜き、狩人が仕込み杖を鞭へと変形させる。

 

「……さあ、行こうか。狩人(ハンター)

 

二人の死神が、ゆっくりと歩き出した。

ホテルの廊下は、これから始まる虐殺の舞台へと変わる。

 

to be continued…

 





次回からやっと戦闘です。
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