HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

15 / 28
第13話

 

特殊部隊(GATE)の小隊が、防弾盾を先頭に整列していた。

「配置完了。後続部隊も到着、2分後に再突入を行う。ガス弾、閃光弾頭を用意せよ」

 

隊長がそう告げた、その直後だった。

こちらが動くよりも早く、部屋のドアが内側から静かに開かれた。

 

「……!」

兵士たちが息を呑む。

奥の暗闇の中から、二対の光が浮かび上がっていた。

一つは、血の池のように底知れぬ真紅の威圧

もう一つは、凍てつく月のような蒼白の殺意

 

闇の中から、楽しげな挨拶が響く。

 

Sein Amvane, Von jerz!(ようやく会えたな、さあ始めようか!)

Me lieben Freunde!(親愛なる友人たちよ!)

 

アーカードは口元に凶悪な薄ら笑みを浮かべ、狩人は無言で、しかしその全身から刃物のような鋭気を放っている。

カツ、カツ、カツ……。

二人の怪物は、銃を構える兵士たちの間を、まるで散歩でもするようにズカズカと歩き出した。

あまりの存在感。生物としての格の違いに、歴戦の兵士たちが金縛りにあったようにトリガーを引けない。

 

「う、うわぁぁぁぁッ!!」

一人の兵士が耐えきれずに引き金を引いた。

それが、虐殺開始の合図だった。

 

ドォォン!!

アーカードの両手が霞む。愛銃「454カスール」と「ジャッカル」が火を吹き、発砲した兵士の頭部がザクロのように弾け飛んだ。

 

「撃ッ!撃えぇぇッ!!!!」

残りの兵士が一斉射撃を開始する。

狩人が手にした杖、「仕込み杖」が、ジャキッという音と共に変形した。

鋼の鞭。刃のついた蛇腹剣。

 

ヒュンッ! バヂィィンッ!!

「グアァァッ!?」

狩人が腕を振るうと、銀色の軌跡が兵士たちを襲った。

重厚なボディアーマーも、強化繊維のチョッキも関係ない。鞭の刃は隙間を縫い、あるいは装甲ごと肉を引き裂き、骨を断つ。

 

狩人が防具を裂き、肉を晒す。

そこへアーカードの13mm爆裂弾が正確無比に叩き込まれる。正確に頭を撃ち抜いていく。

 

四方から飛びかかる兵士たちに対し、狩人は独楽(こま)のように回転した。

杖による広範囲の斬撃。血飛沫が円を描いて舞う。

その動きには奇妙な優雅さと、死者への手向けのような静けさがあった。

死に切れなく痛みに藻掻く者を「仕込み杖」を変形前に戻し、心臓を杖で一突きし、苦痛から解放する。

 

「…Amen……」

 

狩人は血塗れの杖を振り払いながら、首に下げた十字架を強く握りしめた。

それはかつて医療教会が用いたロザリオ。祈りではない。これは、獣となり果てた者たち、あるいはこれから死にゆく者たちへの、せめてもの「介錯」の儀式。

 

 

『本部ッ! 本部!!』

『こちら最上階再突入部隊!! 助けてくれ!! 助けてくれ!!』

『化け物だ畜生!! 銃が効かない! あいつら人間じゃなイギィアアアアッ!!』

 

悲痛な通信が飛び交う中、スーツの男、トバルカイン・アルハンブラは、物陰から冷ややかな目で見つめていた。

「……フフ。随分と派手好きな連中だ」

助ける気など微塵もない。彼はただ、カードを切りながら嗤った。

 

一方、ミレニアムの基地。

「始まりましたな。やはりこうなりますか」

ドクがモニターを見ながら呟く。

「こんなもので済むものか。死ぬよ、もっと死ぬよ。奴らがこんなもので済ますものかよ」

「ではいかがいたしますか?大隊指揮官殿(少佐)

「原住民がいくら死んでも構わんけれど、これではらちがあかん。何よりちっとも面白くないね」

 

少佐の目がギラリと光る。

「トバルカイン・アルハンブラに伝達。出撃準備。思うように埒をあけよ」

 

視点はホテルへ戻る。

生き残った兵士たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

だが、二匹の化け物は逃さない。

廊下の奥から、銃声と共に兵士が一人、また一人と崩れ落ちる。

 

アーカードは死に損なう傷ついた兵士の首に喰らいつき、その血を啜る。

狩人は左手にカインハーストの銃「エヴェリン」を構えていた。

パンッ!

乾いた銃声。水銀に狩人自身の血を混ぜた「血の弾丸」が、逃げる兵士の背中を撃ち抜く。

「が……ッ!?」

撃たれた兵士は、傷口から急速に広がる「劇毒」に侵され、数歩歩いて黒い血を吐いて絶命した。

 

「早くしろッ! 閉めろ!」

生き残りの兵士たちがエレベーターに雪崩れ込む。

だが、その中の一人、リカルドという兵士が狂乱した。

「あああ……来る! 来るんだよ! 開けろ! 逃げなきゃ!」

彼は閉まりかけた扉を無理やりこじ開けようとする。

 

「正気に戻れリカルド!」

「ダメだ、こいつ狂ってやがる!」

仲間の兵士がリカルドを蹴り飛ばし、最後には銃で撃ち抜いて外へ放り出した。

 

「あ……あぁ……」

放り出されたリカルドは、エレベーターホールの床を這う。

ふと見上げると、天井の梁の上に、影があった。

三角帽子、黒い狩装束。

 

狩人が静かに落下してくる。

その手には、仕込み杖ではなく、巨大な大鎌「葬送の刃」が展開されていた。

 

リカルドが救いを求めるように手を伸ばす。

「た、たすけ……」

 

ザンッ!!

 

慈悲深い一撃。瞬きする間に首が跳ねられ、リカルドの苦痛は終わった。

狩人はそのまま着地し、閉まりかけるエレベーターの扉へ向き直る。

 

「閉まるぞ! 急げ!」

兵士たちが祈るように閉まる扉を見つめる。

あと数センチ。

 

その隙間に、巨大な二丁の拳銃がねじ込まれた。

 

 

 

Open Sesame(開けゴマ)……」

 

 

 

アーカードの愉しげな声。

鋼鉄の扉が、怪力によって無理やりこじ開けられる。

 

「兵士諸君、任務御苦労。……さようなら」

 

アーカードが銃口を突き入れ、引き金を引いた。

閉鎖空間での乱射。跳弾。肉の飛び散る音。

エレベーター内は瞬く間に赤いペンキをぶちまけたような惨状へと変わった。

 

狩人は無言でその強烈な死臭のする昇降機に乗り込む。

アーカードと共に、一階へ。

 

 

ホテルのロビー。一階に待機していた予備部隊は、上から降りてきたエレベーターの中身を見て戦慄した。

だが、反撃する間もなかった。

鎌の一閃が部隊長を両断し、対戦車ライフル並みの銃弾が残りを肉片に変える。

 

「……行くぞ」

 

ホテル前の広場。

特殊部隊の待機していた隊員。TVカメラの放列と、野次馬、そして封鎖線を敷く警官隊。

レポーターが絶叫に近い声で中継している。

 

「現在、ホテル内部から激しい銃声が…ッ!?」

 

ガシャァァァンッ!!

二階の窓ガラスが割れ、何かが飛び出してきた。

それは人間だった。いや、人間だったものだ。

兵士たちの死体が、ホテルの前に並ぶ国旗掲揚のポールに突き刺さり、串刺しになって晒されたのだ。

 

悲鳴。フラッシュの嵐。

その混沌の中、正面玄関のドアが開き、二つの影が現れた。

 

真紅のコートの吸血鬼。

返り血に濡れた狩装束の異邦人。

 

アーカードは言葉を発さず、大衆に向かって両腕を大きく広げた。

「さあ見ろ、これが戦争だ」とでも言うように。挑発的で、傲慢なジェスチャー。

 

そして狩人は、その隣で静かに「エヴェリン」を構えた。

銃口がゆっくりと上がり、カメラのレンズを捉える。

その切っ先は、カメラの向こうにいる「黒幕(フィクサー)」に向けられていた。

 

ロンドンの英国国教騎士団(HELLSING)では

葉巻を噛み砕き、獰猛に笑う『鉄の女』に。

眼鏡の奥で目を細める『死神』に届いた。

 

ヴァチカンの特務局では

不快そうに顔をしかめながらも、その力に戦慄する『司教』に。

孤児院の一室で、テレビ画面にかぶりつき、恍惚の表情で震える『神父』に。

 

 

 

そして───

狩人の銃口と目が合った男は震えた。

その震えは恐怖でなく、心からの歓喜であった。

 

「なんとも素敵な宣戦布告。……嬉しいね」

 

少佐は自分に向けられた銃口に向かって、子供のように

 

「…バーン」

 

自分の口で指鉄砲を返した。

 

「戦争だ。これでまた、戦争が出来る」

 

カメラの向こうとこちら側。

殺意の交信は完了した。

少佐はこれ以上ないほどの闘争を切望していた。

 

to be continued…

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。