HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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第14話

 

ミレニアム基地。

モニターには、リオのホテル前で繰り広げられた宣戦布告の映像が映し出されている。

 

「見ろ、あの有様。身震いするほど禍々しくておぞましい」

少佐は恍惚の表情を浮かべた。

「あれが我らの望むべきものだ。死と生の上でダンスを刻むもの。正気と狂気を橋渡しする存在だ」

 

「あいもかわらずお元気そうでなにより」

少佐は古き友に語りかけるように続ける。

「暗闇と深淵から来訪した、我らと同類の『人でなし』。死に損ないの戦友(カメラード)、吸血鬼殿」

そして、その隣に立つ異邦人へ視線を移す。

「我々の範疇を超えて来る、月の香りの狩人殿……」

 

ドクが傍らで、懸念を口にした。

「しかし、こうまで独断先行してしまうとは。トバルカイン殿も気が早い。今頃『オペラハウスの御老人方』はさぞやお怒りでしょうな」

 

「怒らせておけばいいさ」

少佐は一蹴する。

「御老人方に我々を止めることなど出来るものかよ」

「左様で」ドクの口角が吊り上がる。大尉は無言で直立不動を貫く。

 

「誰にも止めさせるものか。……いや、もう誰にも止まるものか」

少佐は両手を高く掲げた。

「戦争交響楽が聞こえる……あの懐かしい音が……阿鼻と叫喚の混声合唱が……」

 

 

───────────────

 

 

リオデジャネイロ、ホテル前広場。

そこはすでに戦場であり、屠殺場だった。

血の海の中に立つアーカードが、挑発的に叫ぶ。

 

「さあ、出て来いよ。前菜を食い散らかすにはもう飽きた。それとも皆死んで真ッ平らになるのか?」

アーカードは二挺拳銃を持った両手をだらりと下げる。

 

「………」

その隣で、狩人は無言のまま動いた。

背中の「葬送の刃」の柄を連結し、ガチャンッ!という重厚な音と共に大鎌形態へと変形させる。

 

群衆がざわめく中、一人の男が優雅に歩み出てきた。

茶色のパナマ帽とコートを着こなしている。

南国のリゾートに相応しい、しかし血生臭いこの場にはあまりに不釣り合いな紳士。

 

「いやはや、全くもってお見事な食事ぶり……」

男は帽子に手を当て、礼儀正しく一礼した。

「流石はかのご高名なアーカード氏……そしてなんとも加虐的なお掃除をどうも。狩人殿」

 

アーカードと狩人の眼光が、男を射抜く。

男はエースのスペードのトランプを片手に、細い葉巻を燻らせながら微笑んだ。

「私の名はトバルカイン・アルハンブラ。近しい者からは『伊達男』と呼ばれています」

 

「お前があの哀れな連中を差し向けたのか?」

アーカードが問うと、トバルカインは肩をすくめた。

「ああ、あの可哀想な連中か。馬鹿な上官を持ったが故にあのザマだ」

「連中、部下が皆殺しになっても欲しいのだ。『永遠の命』ってのがね」

 

狩人の眉がピクリと動く。

(……またか)

既視感(デジャヴ)。医療教会、メンシス学派、聖歌隊、ビルゲンワース、そしてその学徒たち。

上位者の知恵を求め、永遠を求め、そして狂った者たち。

 

「……救えぬ馬鹿共だ」

狩人の口から、乾いた言葉が漏れる。

「永遠なぞというものは、この世に存在しない。あるのは、終わらない悪夢だけだ」

 

「……フッ。手厳しい」

トバルカインは皮肉っぽく笑い、トランプを切る音をさせた。

「そうだ。そんな哀れな連中でも、私の僅かに役に立った。……ご自慢の特製弾丸はあと何発かな? アーカード君」

 

「……ついでに、こんな連中に情けは要らないんだぜ? 狩人殿」

 

「能書きはいい」

アーカードが銃口を向ける。

「で、どうする『伊達男』」

 

 

トバルカインが指を鳴らすと、懐から大量のトランプが溢れ出し、彼の周囲を風のように舞い始めた。

 

「君らの命は我々が『もらう』」

「君は我々の取るに足らない資料(サンプル)の一ツとして列挙される時が来た。『我々(ミレニアム)』によって」

 

キュッパッ!! ドゴァァン!

トバルカインが手首を振るう。

紙切れであるはずのカードが、鋼鉄の弾丸のような速度で射出される。

 

轟音と爆風。

煙の中から現れたアーカードの頬には、鋭い切り傷が刻まれ、血が流れていた。

「……ほう」

 

だが、狩人の姿がない。

 

「……成程成程、そうか全くもってどうしようもない連中だ」

「ならば、この私と狩人が相手してやらねばいけないのは全く自然だ。一度滅ぼされた位では何もわからんか」

 

アーカードが不敵に笑った刹那、トバルカインの背後の空間が歪んだ。

音もなく、殺気もなく。狩人のステップ移動。

 

「去ね」

 

ザンッ!!

 

狩人の手には、葬送の刃ではない。

血のような紋様が刻まれた異邦の刀「千景」が握られていた。

カインハーストの血の女王を守護する近衛騎士の刀。

 

神速の抜刀術。

トバルカインは反射的に真横へ飛び退く。

それでも、彼の纏っていたトランプの防壁が両断され、ジャケットの袖が鮮血と共に宙を舞った。

 

「チッ……! 気味の悪いサプライズな事!」

トバルカインが距離を取る。

狩人は追撃せず、静かに刀を鞘に納め、腰を落とした。

居合の構え。

 

(……なんだ、その刀は。血の匂いがする)

トバルカインの直感が告げる。あれに斬られれば、再生が阻害されるどころの話ではない。血そのものが毒に変わる。

 

「逃がさんぞ」

後ろからは、二挺拳銃を構えた怪物が迫る。

ドガッ! ドガッ!!

13mm弾がトバルカインを襲う。

トバルカインは無数のトランプを盾にし、爆風を利用して飛び回る。

 

巻き込まれた兵士たちや、逃げ遅れたカメラマンが、トランプに切断され、あるいは銃弾の余波で肉塊に変わる。

まさに阿鼻叫喚。

 

「そこだ」

アーカードの銃弾がトバルカインの頭部を捉え、粉砕した…かと思えば、その身体がバラバラとトランプになって崩れ落ちる。

幻影。

 

「かかった!」

本体はアーカードの死角に出現し、トランプの刃でアーカードの腕を深々と切り裂く。

狩人は即座に反応し抜刀するが、トバルカインは紙一重で回避。

辺り一面には血に濡れたトランプカードが落ちていた。

 

するとギャンッ!!と轟音が響く。

アーカードが笑いながら、重力を無視してホテルの壁面を駆け上がり始めた。

 

トバルカインもまた、トランプを足場にして空中を駆け上がる。

「おぉ、怖い怖い。君の力はほんの少しだけでも当たれば死にそうなんでね、焦らさせてもらうよ」

地上での挟み撃ちを嫌ったのだ。

 

狩人は下から二人を見上げ、舌打ちした。

彼は刀を鞘に納めたまま、自らの手首を切り、傷口に刀身を這わせた。

刀身が狩人の血を吸い、赤黒く脈動する。

 

狩人は懐から輸血液を取り出し、太腿に突き刺して回復すると、壁の凹凸を蹴って二人を追った。

 

 

 

 

視点は変わり、現場の仮設兵務室。

上官たちが慌てふためいている。

「トバルカイン殿が交戦中との事だ!」

「バッ、馬鹿なッ! 彼にもし何かあったら我々との約束はどうなる!?」

 

その最中、一人のガスマスクをした兵士がテントに入ってきた。

「あッ、あの〜大変です、あのぅ…その」

頼りなげな声。しかし、その手にはサプレッサー付きの短銃が握られていた。

 

シュッ、シュッ。

次の瞬間、上官たちの頭部が正確に撃ち抜かれた。

「……ふぅ」

兵士は手際よく全員の息の根を止めると、机の上にC4爆薬を設置し、テントから退出する。

 

外は混乱の極みだった。

兵士たちが右往左往する中、ガスマスクの男は背中からとんでもないモノを取り出した。

「大砲」

狩人から借り受けた、禁断の重火器。

 

「へっ、重てえなオイ……」

男はそれを片手で構え、テントに向けた。

 

ドカァァァァンッ!!

 

轟音と共に指揮所が吹き飛ぶ。

男は反動でよろめきながらも、ガスマスクを外して投げ捨てた。

現れたのは、眼帯をした傭兵、ベルナドット。

彼は煙草に火をつけ、紫煙を吐き出した。

 

「すげぇ威力だなぁ…片手で持てるけど、こんなん持ちきれないっての…まあいい」

ベルナドットは死に損なった兵士たちに止めを刺しながら呟く。

「給料分にはまだちょっと足りないかな……じゃあチョッパー(ヘリ)といこう!! 」

 

 

 

ビルの屋上。

アーカードは壁面を駆け上がり、屋上に着地していた。

しかし、その体は傷だらけだ。トランプによる裂傷から血が止まらない。

 

「はぁッ…はッ…血が止まらない…ただのトランプでも能力でもない様だな…」

アーカードは痛みに顔を歪め──そして、満面の笑みを浮かべた。

「面白い、面白いぞ」

 

「あはは、がはははははは!! あははははは!」

狂気の大笑いが夜空に響く。

「あいつらだアイツらだ、ひどく面白いぞ!!」

 

アーカードの手には、ヤーナムでの戦利品

「レイテルパラッシュ」が握られていた。

血に飢えた剣と銃の複合兵装。

 

背後には、トバルカインが音もなく着地していた。

「準備はいいですかね? アーカード君。故郷に帰りたまえ、うるわしの地獄の底へ」

 

「フッふはは、くはは、はははッ!」

「何がおかしい!?」

 

アーカードは笑いを堪えきれずに叫ぶ。

「とても嬉しい。未だお前達のような恐るべき馬鹿共が存在していただなんてな…」

「『ミレニアム』、『最後の大隊』……そうか、あの狂った大隊指揮官(少佐)に率いられた人でなしの戦闘団(カンプグルッペ)!」

 

アーカードの脳裏に、50年前の記憶と、今の狩人の存在が交差する。

「まだまだ世界は狂気で満ちている…いや、アイツが…悪夢が…呼び覚ましてくれたか…クッ…フフ…」

 

アーカードはレイテルパラッシュを構え、切っ先をトバルカインに向けた。

 

「さあ歌い踊れ『伊達男(アルハンブラ)』!」

「豚のような悲鳴をあげろ!」

 

月下、二人の怪物の間に、血を纏った狩人が飛び込んでくる気配がした。

 

to be continued…

 

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