HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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第15話

 

「悲鳴をあげる? この私が? まだわからないのか、おめでたいねアーカード君」

トバルカインが嘲笑う。

「脳みそまですっかりとおめでたくなったんですかァ!」

 

彼の両手から、無数のトランプが放たれる。

ヒュンッ!

鋼鉄をも切り裂く紙の刃が、アーカードに殺到する。

 

だが、次の瞬間。

ジャキッ!!

アーカードが左手に構えた武器、変形前のレイテルパラッシュが一閃した。

迫りくるトランプが、すべて切り刻まれて舞い散る。

 

「!? ……何を隠し持っている……!」

トバルカインが目を見開く。

 

アーカードは愉しげに笑い、カチャリと撃鉄を起こした。

「……フッ」

剣先と銃口が同時にトバルカインを狙う。

ズドンッ!!

至近距離からの水銀弾。

 

「!!」

トバルカインは辛うじてカードの盾を展開し、弾丸を逸らす。

だが、それは囮だ。

 

「らああああああっ!!」

轟音と共に、後方の瓦礫の山からセラス・ヴィクトリアが姿を現した。

その手にはアサルトライフル。吸血鬼の動体視力と筋力で制御されたフルオート射撃が、トバルカインを襲う。

 

ドガドガドガドガドガ!!

 

「こぉおォォのおォォ!! 小ぉォ娘ェえがァあッ!!! なああぁぁめェるゥぅぅなあAAAAああ!!」

トバルカインは防戦一方を強いられる。カードの盾が削られていく。

 

弾が切れ、セラスがライフルを投げ捨て、背中の本命、30mm対戦車砲「ハルコンネン」を構える。

「吹っ飛べぇぇぇぇッ!!」

 

ドガァァァンッ!!

劣化ウラン弾が直撃コースを描く。

「なあァめぇえェェるゥゥうなあァあぁッ!!!」

トバルカインは咆哮と共に全トランプを展開し、砲弾を真っ二つに切り裂いた。

 

爆炎と土煙が視界を奪う。

「ぐッ!?」

トバルカインが体勢を崩した、その一瞬の隙。

 

 

 

「……終わりだ」

 

 

 

背後の闇から、死神の声がした。

 

ザンッッッ!!!!

 

煙を切り裂き、紅い閃光が走る。

狩人の「千景」

神速の抜刀術が、ついにトバルカインの防壁を突破し、その肩から胸へと深々と食い込んだ。

 

「がァァッ!!!??」

ただの斬撃ではない。刃に纏わせた狩人自身の「血」が、劇毒となってトバルカインの血管を侵食する。再生阻害と壊死の激痛。

 

「このォ! 程度ォォ!!」

トバルカインは傷口を押さえながらも、必死に反撃のカードを放つ。

だが、そのカードもまた、銀色の刺突剣(レイピア)によって尽く叩き落とされた。

 

パンッ!!

乾いた銃声。レイテルパラッシュの銃撃が、動きの鈍ったトバルカインの膝を砕く。

「ぐがァァァッ!!」

 

硝煙が晴れると、そこには二匹の化物が立っていた。

アーカードが優雅に歩み寄り、レイテルパラッシュの細身の剣先を、トバルカインの胸板に突き立てる。

 

ジュガァゥッ!

「かッ……! グぁッ…! あッ…お゙ぁ゙ッ…!」

肉を抉る嫌な音が響く。

 

アーカードは剣を引き抜き、指揮者がタクトを振るうように、大きく振りかぶった。

 

「悲鳴をあげろ…豚のような」

 

ザンッ! ザンッッ!! ザンッ!!!

縦、横、斜め。華麗なる刺突剣の乱舞が、トバルカインの肉体を無慈悲に切り刻む。

「ガッァ…!」

血に濡れ、臓腑が零れ落ちる。

 

「………」

狩人は無言で千景を鞘に納め、腰を落とす。居合の構え。

アーカードもまた、レイテルパラッシュを正眼に構える。

 

二つの殺意が重なる。

 

 

グザンッッッッッ!!!!!!!

 

 

二人の一撃が同時に奔り、トバルカインの胴体を両断した。

上半身と下半身が泣き別れ、その体はもはや首と僅かな肉片だけとなった。

 

アーカードがその首を鷲掴みに持ち上げる。

王手詰み(チェックメイト)だ、『伊達男(アルハンブラ)』」

「グァが…! ガガグッ!! グ、グ、グ……」

 

 

しかし、トバルカインの目はまだ死んでいなかった。

「……ウ、ウウゥゥゥ……!!」

彼の首の切断面から、脊椎が蛇のように飛び出し、異常な速度で肉体を再構築し始めた。

いや、それは人間の形ではない。

 

「!!」

アーカードが咄嗟に手を離し、バックステップで距離を取る。

 

「GGYYYYAAAAAAAAA!!!!!」

 

絶叫と共に現れたのは、全身の皮を剥がれたような赤黒い異形。

長く伸びた四肢、不揃いな牙、そして背中から垂れ下がるボロ布のような皮膚。

かつて狩人が旧市街の聖杯教会で屠った獣

──「血に渇いた獣」。それに酷似していた。

トバルカインの体内に埋め込まれていた「獣の因子」が暴走したのだ。

 

「フハッ! まだやるか!」

アーカードが嬉しそうに叫ぶ。

「……! 血に渇いた獣か……!」

狩人が即座に反応し、千景の血を振り払う。

 

「ならば此方も応えてやらねばな! グガァ……」

 

アーカードの右腕が変質する。

黒い霧と共に剛毛が生え、指先が巨大な鉤爪へと変わる。

以前喰らったルーク・バレンタインの因子と、自身の変身能力を掛け合わせた、吸血鬼流の「獣の爪」

 

「GYYYYYYYYYYAA!!!」

「その程度か! 獣が!」

 

二体の獣が激突する。

トバルカイン獣の爪がアーカードを切り裂くが、アーカードはお構いなしにその爪を叩き折り、獣の腹を抉る。

狩人もまた、死角から千景の血の斬撃を飛ばす。

 

「GGG…GAAAAAA!!!!」

追い詰められたトバルカイン獣が、全身の毛穴から灰色の霧を噴出した。

劇毒の霧。触れるだけで神経を焼き、正気を削る猛毒だ。

 

トバルカイン獣が最後の力を振り絞り、アーカードの喉笛目掛けて飛びかかる。

その速度は、音速を超えていた。

 

だが。

 

 

パンッ!

 

 

乾いた銃声が一発。

空中で、トバルカイン獣の頭が大きくのけぞった。

アーカードの左手にあるレイテルパラッシュ。その銃口から放たれた水銀弾が、獣の攻撃動作(モーション)の出鼻を完璧に挫いたのだ。

 

「楽しかったぞ、醜い『伊達男』」

 

動きの止まった獣の腹に、アーカードの獣化した右腕が深々と突き刺さる。

 

グチャァァァ!!!

内臓を引きずり出し、握り潰す。

トバルカインだった獣は痙攣し、どうと地面に倒れ伏した。

 

 

 

動かなくなった肉塊に、アーカードが覆いかぶさる。

彼は獣の首筋に牙を突き立て、その血を、命を啜り始めた。

ズズッ、ズズズッ……。

不気味な捕食音だけが、屋上に響く。

 

狩人はその光景を、ただ静かに眺めていた。

「……悪食だ」

「フッ……そうかもな」

アーカードは口元の血を拭い、満足げに笑った。トバルカインの命もまた、彼の一部となったのだ。

 

そこへ、瓦礫の陰からセラスが這い出てきた。

「マッ、マスターッ……!?」

 

セラスの目に映ったのは、返り血に染まり、異形の腕を持つマスターと、静かに血刀を納める狩人の姿。

それはまさに、夜を統べる化け物たちの宴の後だった。

 

アーカードは月明かりの下、手を叩いた。

パン、パン、パン。

それはヘリコプターへの合図だった。

 

バタバタバタバタ……!!

強烈な風と共に、軍用ヘリが屋上スレスレまで降下してくる。

「アーカードの旦那ーッ! セラス嬢ちゃーん! グッドハンターさーんッ!」

 

操縦席では、ベルナドットがパイロットのこめかみに銃を突きつけていた。

「3人の傍に寄せろ! あそこだ! そこに降ろせ! そこに降ろすんだよ!!」

「は…ハッはいッ! はいッ!」

 

セラスがヘリを見上げる。

「あ、隊長!」

「棺はどうした」

「あッ…はッはい!」

セラスが慌てて棺桶を回収に走る。

 

「アーカードの旦那ーッ! グッドハンターさーんッ! 早くしてくれ! もうもたん! 早くしろーッ! 早くッ! 何やってんだァっ!」

ベルナドットが叫ぶ。下からは新たな増援部隊が階段を上がってきている。

 

 

アーカードはヘリに乗り込む直前、南米の夜空を見上げた。

その視線は、遠く離れた場所にいる「少佐」へと向けられているようだった。

 

「敵を殺し、味方を殺し、守るべき民も、治めるべき国も、自分までも殺し尽くしてもまだ足りぬ……」

アーカードの目が、冷たく燃える。

「俺もお前らも、全く以って度し難い戦争狂(ウォーモンガー)だな。『少佐』」

 

「………」

狩人もまた、ヘリのドアに手をかけながら、眼下の街を見下ろした。

燃えるホテル、逃げ惑う人々、そして終わらないサイレンの音。

この事態の黒幕へと近づいている。

そして、この冒涜的な行為──人間の命を弄び、獣の病を兵器として撒き散らす「ミレニアム」を、必ず根絶やしにせねばならぬと、強く心に誓った。

 

ヘリが上昇し、リオの夜景が遠ざかっていく。

だが、戦いはまだ終わらない。

これは、長い長い夜の始まりに過ぎないのだから。

 

to be continued…

 

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