HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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第19話

 

北大西洋、英国海軍空母「イーグル」。

レーダー員が絶叫する。

「所属不明のヘリコプター、本艦に接近中!!」

「馬鹿な! 正気とは思えんッ! 一体どこの誰だ!?」

 

「3回目の警告も完全に無視されました。間もなく本艦と接触します! 艦長!」

「……やむを得ん! 20mm機関砲!! 威嚇射撃準備!! 無視された場合は……撃墜しろ」

 

「そうは行きませんな」

 

「!?」

艦長が振り返る。

「副長!? 君は一体何を……」

 

「そんな事させん。と言ってるんです」

副長の目が、充血したように赤く発光している。

ガッ

彼が噛み砕いたのは、カプセルではない。「古き血」の凝固塊だ。

 

Zieg heil(ジーク・ハイル)!!」

 

裏切った副長が獣のような咆哮を上げ、艦員の喉笛に牙を突き立てる。

「ギャアアアアッ!?」

ぞろぞろと、影から他の裏切り者たちが湧いてくる。彼らの身体からは、異常な剛毛と筋肉が膨れ上がっていた。

断末魔が上がり、艦橋は瞬く間に鮮血の海となる。

 

そこへ、拡声器を通したような、しかし脳に直接響くような歌声が降りてくる。

 

Gib mir deine Hand Deine weiße Hand(あなたの手に与えようあなたの白い手に)

Leb' wohl mein Schatz le'b wohl(さようなら 私の恋人よ さようなら)

 

ヘリコプターが甲板に着艦する。

歌っているのは、長いマスケット銃を抱えた女、リップヴァーン・ウィンクル。

 

kommt die Kunde daß ich bin gefallen(戦の中に破れ去り)

Daß ich schlafe in der Meeresflut(私が潮の中に眠ったと 知らせを聞いても)

 

Denn wir fahren(我らは進撃する)

Denn wir fahren(我らは進撃する)

gegen Engelland(イギリスへ! イギリスへ向かって)

 

リップヴァーンが甲板に降り立つ。

その背後には、赤黒いオーラが揺らめいている。血質の高まり。

 

「かくして猟場は猟師の手の中に。有象無象の区別なく、私の弾頭は許しはしないわ」

 

すると奥から、返り血に濡れた副長らが出てくる。

「ようこそ!! ようこそ我が艦へ!!」

「お望み通り、我らと我が艦は『ミレニアム』に参加致します!!」

 

吸血鬼(バケモノ)の御感想はいかがかしら『副長』?」

リップヴァーンが問うと、副長は焦点の合わない、瞳孔の開いた目で答えた。

 

「素晴らしい」

「素晴らしい! これが、これが吸血鬼というものか!! 力が、血が漲る!!」

 

「そう……それは良かったわね」

リップヴァーンは冷ややかに微笑み、自身のマスケット銃、カインハーストの技術で強化された長銃を背負い直しながら問うた。

 

「祖国を裏切ってまで手に入れたかったその体……仲間を皆殺しにしてまで手に入れたその体の具合はどうよ、新艦長?」

 

「…………ッ!?」

言葉が詰まる副長。

 

「…あッそう。不死身の吸血鬼の力を存分にふるって、上官や部下を死肉を喰らう食屍鬼(グール)へと変えた具合は? 新艦長」

 

「……な……ッ!?」

 

リップヴァーンは呆れたように言った。

 

「あッそう」

 

 

すると拍子が変わったように、人当たりのいい満面の笑顔で言う。

「よくやりました!! 素晴らしいわ!! なんて素敵なんでしょう! いやあん、本当に大手柄ですわ、あなた方がいなきゃ成功しませんでした」

「私たちミレニアムは貴方達を温っかく大歓迎しますよ!! 我らの指揮者、代行殿もとってもとってもお喜びになってますよ!!」

 

副長たちが安堵の表情を浮かべる。

「つきましてはとっても素敵なごほうびと、新しい御命令も仰せ付かってますわ」

「ええと…たしか…えー」

 

「当海域における2m四方立方体分の海中面積を恒久的にあなた方に領土として与えるとの事です!!」

 

「は…!?」

あまりにも不可解な報酬に、吸血鬼たちは驚く。

 

「新たな命令についてですが、当海域付近の魚礁における魚類への滋養分散布行動との事ですよ!!」

 

「そッ、それは、それは一体どういう事だ!!」

 

「あら、ちょっとわかりづらかったかしら…お馬鹿なあなた方にもわかりやすくいうわね」

 

リップヴァーンは銃を構えた。

その銃口が、赤黒く脈動する。

 

「用が済んだらちゃっちゃとおッ死ね英国野郎(ライミー)

 

ドォォォォォンッ!!

 

発砲。

放たれたのは鉛ではない。凝縮された「血の魔弾」

弾丸は生き物のように空中で分裂し、副長たちの眉間、心臓、喉元を同時に貫いた。

 

バシュウゥッ!!

「ガ、アァッ!?」

着弾と同時、体内で血液が炸裂し、彼らの体から無数の血の棘が突き出した。

血質による内部破壊。再生など許さない、必殺の一撃。

 

副長たちはボロ雑巾のように海へ弾き飛ばされた。

まさに、魚の餌だ。

 

「Tausendmal um her und her, jetzt geht's zusammen gegen Engelland♫」

 

「Give mir deine Hand, deine weiße Hand♩」

 

リップヴァーンは再び歌い出す。

兵士たちが甲板にペンキを運んでくる。

 

「中尉」

「あら、お目覚め?」

「途中でペンキが切れてしまったのだけれどなんとかなったわ。やっぱりコレがないと」

「我らの(フネ)としてしまりが無いわ」

 

甲板には、赤黒い液体、乗員たちの血で、巨大な紋章が描かれていた。

ナチスの鉤十字ではない。

一本の指揮棒を、血の螺旋が取り巻く不吉な記号。それは少佐自身が見出した記号。

 

 

 

カレル文字『戦争(クリーク)

 

 

 

「呪われた我らの"しるし"を」

 

リップヴァーンは空を見上げ、敬礼した。

「ドイツ第三帝国海軍、大西洋艦隊旗艦『アドラー』。これより作戦行動に入る!!」

 

 

 

 

 

場所は変わり、ミレニアムの飛行船団、旗艦「デウス・エクス・マキナ」。

薄暗い司令室に、ラスト・バタリオンの兵士たちが整列している。

演壇に立つのは、少佐。

 

「諸君」

少佐の声が響く。

 

「私は戦争が好きだ」

「諸君、私は戦争が好きだ」

「諸君、私は戦争が大好きだ」

 

「殲滅戦が好きだ」

「電撃戦が好きだ」

「打撃戦が好きだ」

「防衛戦が好きだ」

「包囲戦が好きだ」

「突破戦が好きだ」

「退却戦が好きだ」

「掃討戦が好きだ」

「撤退戦が好きだ」

 

「平原で 街道で」

「塹壕で 草原で」

「凍土で 砂漠で」

「海上で 空中で」

「泥中で 湿原で」

 

「この地上で行われる、ありとあらゆる戦争行動が大好きだ」

 

「戦列をならべた砲兵の一斉発射が、轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ」

「空中高く放り上げられた敵兵が、獣の爪による本能任せの攻撃でバラバラになった時など心がおどりそうだ」

 

「戦車兵の操るティーゲルの88mmが、敵戦車を撃破するのが好きだ」

「悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を、巨大な獣の腕で叩き潰した時など胸がすくような気持ちだろう」

 

「銃剣先をそろえた歩兵の横隊が、敵の戦列を蹂躙するのが好きだ」

「恐慌状態の新兵が、既に息絶えた敵兵を、変形した鉈で何度も何度も切り刻んでいる様など感動すら覚えるだろう」

 

「敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない」

「泣き叫ぶ虜兵達が、私の降り下ろした手の平とともに、金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ」

 

「哀れな抵抗者達が、雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを、80cm列車砲の4.8t榴爆弾が、都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える」

 

 

(中略。露助、英米への屈辱の記憶)

 

 

「諸君、私は戦争を、地獄(悪夢)のような戦争を望んでいる」

「諸君、私に付き従う大隊戦友諸君」

「君達は一体、何を望んでいる?」

 

「更なる高次元な戦争を望むか?」

「情け容赦のない、糞のような『悪夢』を望むか?」

「鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す、血と狂気の『狩り』を望むか?」

 

兵士たちの目が、一斉に赤く輝き始める。

彼らの喉から漏れるのは、人間の喊声ではない。獣の唸り声だ。

ガガガガ ガガガガッと手を上げた部下達が口々に

 

狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!』

 

狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!』

 

狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!狩り(ヤクト)!!』

 

 

少佐は手を振り上げ、万感の思いを込めて叫んだ。

 

 

 

「よろしい、ならば狩り(ディ・ヤクト)だ」

 

 

 

「我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ」

「だがこの暗い闇の底で半世紀もの間、堪え続けてきた我々に、ただの戦争ではもはや足りない!!」

 

「大戦争を!!」

「一心不乱の『大狩猟』を!!」

 

「我らはわずかに一個大隊、千人に満たぬ敗残兵にすぎない」

「だが諸君は、『古き血』を知る一騎当千の古強者だと私は信仰している」

「ならば我らは、諸君と私で総兵力100万と1人の軍集団となる」

 

少佐はロンドンの方角を指差す。

 

「我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう」

「髪の毛をつかんで引きずり降ろし、眼を開けさせ思い出させよう」

「連中に恐怖の味を思い出させてやる」

「連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる」

 

「天と地のはざまには、奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる」

「人知を超えた『上位者』の深淵を、彼らの喉元に突きつけてやる!」

 

「一千人の吸血鬼(バケモノ)の戦闘団で、世界を燃やし尽くしてやる」

「ロンドンを、この地上に顕現した『悪夢の都(ヤーナム)』へと書き換えるのだ!」

 

「最後の大隊、大隊指揮官より全空中艦隊へ」

 

ドクがスイッチを押す。

巨大な飛行船のエンジンが咆哮を上げる。

船体に描かれたハーケンクロイツの隣にあのカレル文字、『戦争』が赤く輝いている。

 

「第二次ゼーレヴェー(あしか)作戦状況を開始せよ」

 

「征くぞ、諸君」

 

 

『オォォォォォォォォォンッ!!』

 

兵士たちの咆哮は、もはや人間のそれではない。

獣の遠吠えが重なり合い、巨大な破壊のシンフォニーとなって夜空を震わせる。

 

雲海を割り、鋼鉄の飛行船団が進撃を開始した。

目指すは帝都ロンドン。

悪夢の夜が、すぐそこまで迫っていた。

 

 

視点はロンドン、ヘルシング機関本部。

インテグラが寝室へ下がった後の、静寂に包まれたバルコニー。

 

風が止まった。

いや、空気そのものが変質していた。

ロンドンの湿った夜気が、鉄錆と古い油、そして濃厚な血の匂いへと塗り替わっていく。

 

アーカードは手すりに腰掛け、遥か彼方、大西洋の空を見つめていた。

その赤い瞳が爛々と輝いている。

 

「聞こえるか? 狩人」

アーカードが愉しげに問う。

「空気が震えている。海が沸き立っている。……歓喜の歌が聞こえるぞ」

 

狩人はその隣で、夜空を見上げていた。

彼の目(啓蒙)には、常人には見えない光景が映っていた。

雲の切れ間から覗く月が、徐々に、病的な赤色へと変色していく。

境界が薄れている。夢と現実、人と獣、此岸と彼岸。

その裂け目から、這い出そうとする巨大な意志。

 

「……ああ」

狩人は静かに頷き、手袋を嵌め直した。

「……不吉な月が、近づいている」

 

狩人は知っている。

この感覚は、ただの戦争の前触れではない。

儀式の始まりだ。かつてヤハグルで、メンシスで、漁村で感じた、あの冒涜的な儀式の気配。

 

「クク……ハハハハハハ!!」

 

アーカードが肩を震わせ、笑い声を上げた。

恐怖ではない。武者震いでもない。

待ち焦がれた恋人を迎えるような、純粋な歓喜。

 

「素晴らしい夜だ。素晴らしい戦争だ」

 

アーカードは両手を広げ、夜の闇に向かって呼びかけた。

その口元が、耳まで裂けるかのように歪む。

 

 

「来い」

 

 

その隣で、狩人は無言のまま、自身の内なる衝動(獣性)を高めていた。

 

(……今宵は、長い夜になりそうだ)

 

二つの影が並び立つ。

一人は戦争を食らうために。

一人は悪夢を狩るために。

 

ロンドンの夜明けは遠く、赤い月だけが静かに、彼らを見下ろしていた。

 

to be continued…

 

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