2匹の吸血鬼に被害者が惨殺された家の扉には、死の宣告のようなインターホンがなっていた
「チッ…ちょっ待ってろ、静かにさせてくるわ」
男の吸血鬼、ライフがマシンガンに弾を装填し、玄関に向かう。
彼がドアスコープを覗くとふたつの人型の影が合った。その影は段々と近づき、銃を構えた。
ドガドガドガドガドガドガ!!
ドア越しに銃を乱射し、蜂の巣にされたライフは倒れ込む。
キィ、とドアを開け2人の男が侵入して来た。深紅のコートを靡かせた怪物アーカードと、泥に塗れた狩装束の男。
「
ライフは即座にマシンガンを乱射した。だが、人間ごときの銃弾が彼らに通じるはずもない。
アーカードは銃弾を身体で受け止めながら高笑いし、狩人は紙一重のステップで弾道をすり抜ける。
「ひ、ひぃぃッ!?」
狩人が瞬時に間合いを詰め、ノコギリ鉈を振り下ろす。ライフの腕が銃ごと切断され、宙を舞った。
同時にアーカードのカスールが火を吹き、両足の膝を正確に撃ち抜く。
「ギャァァァァッ!!」
床に這いつくばるライフ。ジェシカは悲鳴を上げて部屋の奥へ後退る。
ここまでは、いつもの「ゴミ処理」のはずだった。
アーカードが銃口をライフの眉間に突きつける。
「終わりだ。腑抜けの
その時だった。
グジュッ……バヂヂヂッ!!
ライフの切断された腕の断面から、血ではなく、青白い粘液が噴き出した。
「あ、が……あああ、アアアアッ!!? ソラがぁッ!!降ってくるッ!!」
ライフが意味不明な絶叫を上げると同時、彼の頭部が風船のように膨張を始めた。
眼球が飛び出し、頭蓋骨が内側から砕ける音が響く。
皮膚は湿った蒼色に変色し、首から上が、まるで「巨大な肉塊のキノコ」あるいは「深海魚の頭部」のような、形容しがたい異形へと変貌していく。
「……なんだ?」
アーカードが眉をひそめた瞬間、その異形の頭部から衝撃波が放たれた。
ズドォォォン!!
「ぬぅッ!?」
油断していたアーカードが、見えない巨人の拳で殴られたかのように壁まで吹き飛ばされる。
木造の壁がクレーターのように陥没した。
狩人は咄嗟に後方へ跳んだが、異形となったライフの腕が長く伸び、ヒレと触手が混ざったような剛腕が、鞭のようにしなり、狩人の横っ腹を薙ぎ払う。
ガギィッ!
骨が軋む音。狩人は受け身を取りながらも、部屋の家具をなぎ倒して転がった。
(……この感触。獣ではない。「眷属」か!)
狩人は痛みを無視し、即座に立ち上がる。
目の前の存在は、もはや吸血鬼ではない。
実験棟の「失敗作」と、漁村の「魚人」を無理やり混ぜ合わせ、培養液で膨らませたような、冒涜的なキメラだった。
「アア……ウウゥ……!!」
異形は言葉にならない声を上げながら、その巨体を揺らす。
ただ腕を振るうだけで、建物全体が地震のように揺れる。物理的なパワーも、耐久力も、先程までの比ではない。
「クク……ハハハハ! いいぞ、素晴らしい!」
瓦礫の中からアーカードが這い出てくる。首が奇妙な方向に曲がっていたが、ボキリと音を立てて元に戻った。
「ただの雑魚かと思えば、とんだ隠し玉だ! 貴様、何を埋め込まれた!?」
異形は答えない。ただ、本能のままに、最も脅威度の高い狩人へ向かって、星の光を纏った拳を振り下ろした。
攻撃が直撃すれば、床ごと押し潰されるほどの重撃。
だが、狩人はすでに「敵」を分析し終えていた。
眷属には、雷が効く。
狩人は懐から一枚の紙片を取り出し、武器に擦り付ける。
「雷光ヤスリ」
バチバチバチッ! と青い稲妻がノコギリ鉈に纏わりつく。
異形の拳が振り下ろされる直前、狩人は前へ踏み込んだ。
死角へのステップ。
そして、雷光を帯びた刃が、ブヨブヨに膨れ上がった異形の脇腹を切り裂く。
バヂィィンッ!!
「ギョ、エエェェッ!!?」
電気の痛みが神経を駆け巡り、異形の動きが硬直する。
そこへ真紅の死神がクイックし、躍り出る。
「遅い!」
アーカードの「カスールカスタム」が、異形の膨張した頭部に突きつけられる。
再生を阻害する13mm爆裂弾が、ゼロ距離で発射された。
ドパンッ!!
頭部が弾け飛び、青白い体液が部屋中に飛び散る。
だが、それでも肉体は痙攣し、暴れようとする。生命力というより、細胞そのものが暴走しているのだ。
「往生際の悪い」
狩人は鉈を変形させ、長く伸びた柄を両手で握りしめた。
渾身の力で振り下ろす、縦一文字の叩きつけ。
グシャッ!!
残った胴体が両断され、ようやくその肉塊は活動を停止した。
「……汚い花火だ」
アーカードがコートについた青い粘液を忌々しげに払う。
「吸血鬼の改造実験か? 随分と悪趣味な事だ」
「い、いやぁぁぁぁッ!!」
恋人の無惨な、あまりに理解不能な最期を見たジェシカは、半狂乱になって窓から飛び出した。
外へ。夜の闇へ。
だが、そこにはもう一人の狩人が待っている。
建物の外、約600メートル地点。
屋根の上に展開していたセラス・ヴィクトリアは、飛び出してくる女吸血鬼を捉えた。
「逃がすなよ、婦警」
「…ヤッ…ヤーッ!」
アーカードの指示を聞き、セラスは震える指で、支給されたライフルの引き金に指を置く。
「スコープ無しでこの暗さですようッ!」
「教えた通り射て。おまえはもう人間ではない」
アーカードの助言を受け、暗闇の中セラスが目を澄ます。
ズドォォン!!
夜気を切り裂く砲声。
弾丸がジェシカの上半身に直撃し、心臓を貫いた。
「良くやった」
「………はーっ」
セラスが安堵の息を吐こうとした、その時。
遠くから見えるジェシカの死体、その残された首の断面から、何かが這い出しているのが見えた。
それは、とぐろを巻く蛇のような、あるいは巨大なムカデのような「虫」だった。
宿主が死んだことで行き場を失った寄生虫が、のた打ち回っているのだ。
「ひっ……!? な、なにアレ!? 蛇!?」
現場に追いついた狩人が、その「虫」を見下ろす。
彼は無言のまま、厚底のブーツでその虫を踏み潰した。
グチャリ。
まるで、害虫を駆除するのが当たり前の日課であるかのように。
狩人は、潰れた虫の残骸を見つめ、小さく呟く。
「……禁域の、連盟の
アーカードが背後から近づき、そのシミを覗き込む。
「寄生虫か。なるほど、先程の男の変異といい、今の吸血鬼たちは随分と『賑やか』な腹の中をしているようだ」
「インテグラに土産話ができたな。……これは、ただの吸血鬼事件ではないぞ」
場所は変わり、どこかの暗い一室。
無数のモニターが並ぶ部屋で、一人の小太りの男が、映像を見つめていた。
そこには、頭部が破裂して異形化したライフの戦闘データと、ジェシカから這い出た虫の映像が映し出されている。
「……ふむ」
男は恍惚とした表情で呟く。
「失敗か。いやいや、これは成功への尊い礎だよ」
彼の背後には、ガラスのシリンダーに入った、赤黒く脈動する「肉塊」と、アルコール漬けにされた「瞳」が鎮座している。
それは科学力と探求の果てに見つけた、異次元の遺跡からの発掘品。
「吸血鬼の不死性に、上位者の『進化』を掛け合わせる。……素晴らしいじゃないか」
男は不敵に微笑み、カチャリとライターで煙草に火を点けた。
「素晴らしい……これが、醜き戦争の根源……という訳か」
「急がずとも、とびきりの闘争が待っているね…夢より来たる狩人よ…」
紫煙の向こうで、男の眼鏡が冷たく光った。
「戦争だ。悪夢のような、戦争が待っている…」
to be continued…