HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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第5話

 

アイルランド、ベイドリック近郊。

吸血鬼とその従僕(グール)たちが立て籠もる古びたビルの中は、腐臭と硝煙に満ちていた。

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

セラス・ヴィクトリアは走っていた。手にはまだ支給されたばかりのアサルトライフル。

だが、その動きは人間のそれではない。

曲がり角から飛び出したグールの頭部を銃床で叩き割り、続く二体目の喉笛を素手で引き裂く。

 

「……随分と様になってきたな、婦警」

 

階段の中腹に、アーカードがどっかりと座り込んでいた。

彼は悠然と医療用輸血液(パック)を啜りながら、眼下の殺戮劇を見下ろしている。階段からしれっと這い降りてくる食屍鬼を撃ち殺しながら。その隣には、無言で鉈の血を払う狩人の姿もあった。

セラスが銃で急所を仕留め損ねた食屍鬼たちが這い出てくるのを見てアーカードが助言する。

 

「婦警ーッ狙うなら確実に心臓(コア)をぶち抜け。彼らとて好き好んでグールになった訳ではない」

アーカードが空になったパックを投げ捨てる。その瞳が、サングラスの奥で赤く光った。

 

「一度こうなってしまった人間を元に戻す方法はない。速やかにぶち殺してやるのが、こいつらの為ってものだ」

 

その言葉は、セラスの中の何かを弾けさせた。

そうだ。これは殺人ではない。救済だ。

セラスの瞳孔が開く。恐怖が消え、代わりに冷たい高揚感が体を支配する。

彼女はライフルを捨て、襲いかかるグールの顔面を軍靴で踏み砕いた。

グシャリ、という生々しい音。

 

狩人はその様子を、複雑な胸中で見つめていた。

(……血の匂いに酔い始めている。獣化の兆候か。……いや、これは彼らの生態か)

 

狩人はセラスの背中を守るように、漏れたグールを鉈で処理していく。だが、その手出しは最小限に留めた。これは彼女のちゃんとした初陣(イニシエーション)だからだ。

 

「……どうやらわかってきたようだな」

アーカードが立ち上がり、満足げに嗤う。

「我々『夜族(ミディアン)』というモノが、どうあるべきか」

 

セラスは最後のグールを引き裂き、自身の手に濡れた赤黒い液体を見つめた。

喉が渇く。これは血だ。命だ。

彼女が無意識にその手を舐めようとした、その刹那。

 

ヒュンッ!!

 

無数の銀光が闇を切り裂いた。

 

「──っあ!?」

セラスの首元を、ひとつの刃が串刺しにした。

 

「な…!?」

更に続々と投げ込まれる刃…銃剣(バイヨネット)がセラスの背中を穿つ。

そして廊下には何かが書いてある紙が打ち込まれる。

 

「結界か!?」

アーカードは瞬時に察する。すると階段から何かが降りてくる。

コツ、コツ、と足音が近づく。

 

「我らは神の代理人、神罰の地上代行者…」

 

丸眼鏡。無精髭。そして手には不釣り合いな血濡れの銃剣。

 

「我らが使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること──」

 

ヴァチカン第13課イスカリオテ機関の機関員

アレクサンド・アンデルセン神父。

階段を降りきると、二人の化け物を見下ろし、口角を吊り上げた。

 

Amen(エイメン)……」

 

アンデルセンが此方を向き、睨みつけるような笑みを浮かべて言う。

「良い月だな、化物共」

アーカードが銃を抜き、狩人も構える。

セラスもアンデルセンを見る。しかし銃剣の痛みがジワジワ広がっていく。

 

「…ぐぅっ…!!」

アンデルセンは眼鏡を光らせ、殺意を膨れ上がらせる。

「随分とまぁ可愛らしい声を上げて苦しむのだねお嬢ちゃん。そんな程度でお前たちは死なんよ。久しぶりの吸血鬼狩りだ、楽しませて頂かなければね」

 

「………法皇庁(ヴァチカン)第13課…特務機関イスカリオテ…!」

 

「その通りだHELLSING(英国国教騎士団)の犬共」

 

アンデルセンがアーカードと狩人の前に立つ。

 

「おまえがアーカードか、吸血鬼(ヴァンパイア)の分際でありながら人間に味方し吸血鬼を狩るゴミ処理屋」

 

アーカードの方を見ていたアンデルセンが狩人の方へ振り向き、殺意を顕にする。

 

「だが、貴様は何者だ?貴様からは地獄の臭いすらしない。神の(ルール)の外側にある、冒涜的な気配……。吸血鬼以上に、この世に有ってはならない存在だ」

 

狩人は無言でノコギリ鉈を構える。

(話は通じない。……この神父もまた、血に酔っている)

 

「ここにいた吸血鬼はどうした」

 

「とうの昔に始末したよ。とんだ雑魚だった。楽しむ間すらありはしない」

 

ギシギシと互いに歩み寄る。すれ違いざまの瞬間、静寂の後。

 

「残りは、貴様らだけ」

 

「そうかい」

 

 

一瞬の静寂の後、爆発するかのように戦闘が始まる。

 

 

「シィィィィィッ!!」

速い。そして多い。

両手に持った二刀の銃剣だけでなく、袖から、懐から、無限に湧き出るような刃の嵐。

 

狩人は即座にステップで回避を試みるが、アンデルセンの連撃はそれを許さない。

ガギンッ! ガガガッ!!

ノコギリ鉈で弾くが、一撃弾く間に三撃が飛んでくる。

 

(相性が悪い……!)

狩人は舌打ちした。ノコギリ鉈は万能だが、この圧倒的な「物量」と「速度」で押してくる相手には分が悪い。パリィを狙おうにも、銃剣の雨に隙がない。

 

「どうしたァ! その程度か異教徒ォ!!」

アンデルセンの蹴りが狩人のガードを崩し、首元へ追撃の刃が迫る。

 

そこへ、13mmの爆裂弾が割り込んだ。

「ハハハッ! 元気だな神父! ならばこれはどうだ!」

アーカードがカスールを撃ち抜き、周囲に弾幕を張る。

 

アンデルセンは銃剣をクロスさせ、弾丸を弾きながら突進する。しかし弾きれなかった弾がたしかに、額を穿つ。

だがその当てたはずの額は、再生していた。

人間離れした膂力と再生能力。彼もまた、人でありながら怪物だ。

 

「……再生者(リジェネレーター)…!」

 

「そうだ!我々人類が貴様らと戦うために作り出した技術だ」

一気にアーカードに詰め寄り、銃剣で一気に串刺しにする。両手を壁に撃ち込み、大量の銃剣で串刺しにする。

 

「……次は貴様だァ…」

 

銃剣に突き刺されたアーカードを眺め、狩人は悟った。

今のままではこいつを倒し切ることが出来ないと。むしろ、倒されかねないと。

 

狩人は武器を納めた。

この敵に対抗するには、力ではない。

あの刃の嵐をすり抜け、舞うような速度(スピード)が必要だ。

 

狩人は両手を交差させ、虚空から二振りの剣を引き抜く。

一方は長い刀身、もう一方は短い刀身を持つ、優美な曲刀。

「落葉」

かつて時計塔のマリアが愛用した、カインハーストの美しき双刀であり、二刀。

 

「ほう?」

アンデルセンが眉をひそめる。

狩人の雰囲気が変わった。泥臭い獣狩りから、洗練された騎士のそれへ。

 

「行くぞ」

狩人の姿がブレた。

加速。

アンデルセンの銃剣が空を切り、狩人はその懐へ潜り込む。

 

ザシュッ!

二刀による神速の斬撃。

アンデルセンの法衣が切り裂かれ、鮮血が舞う。

 

「ヌウッ!?」

アンデルセンが反撃の刃を振るうが、狩人は舞うように回転し、背後へと抜ける。

その動きは、まるで死の舞踏。

「チョコマカと……鬱陶しいわァ!!」

 

アンデルセンが広範囲に銃剣を投擲する。

だが、狩人はそれを剣で弾くのではなく、流れるような連撃で叩き落とす。

 

「いいぞ狩人! その剣技、見事だ!」

アーカードが笑いながらいつ間にか再生し、カスールを片手に援護射撃を行う。

戦況は拮抗し始めた。

 

交代(スイッチ)だ!狩人!」

 

今度はアーカードが前に出で、至近距離でカスールをぶっ放す。狼狽えた隙に手刀を繰り出すアーカード。

その手を銃剣で切り落とし、アンデルセンも1歩たりと譲らない。

アンデルセンの圧倒的な突進力を、アーカードが肉体と銃で受け止め、その隙を狩人が高速の剣技で切り刻む。

 

「エイメェェェン!!」

アンデルセンが狂喜の声を上げながら、再生した肉体でさらに加速する。

2対1でありながら、決して引くことはない。神の加護を受けたバイヨネットは、無限に湧き出し、壁を、床を、彼らを串刺しにしようと迫る。

 

このままでは、ジリ貧だ。

狩人は決断する。

自らの血を力に変える、禁忌の剣技を使う時だ。

 

狩人は一瞬立ち止まり、自らの腹部に短刀を突き刺した。

 

「なっ!?」

セラスが悲鳴を上げる。

だが、それは自決ではない。

マリアの技を模倣し、自らの血を刃に乗せたのだ。狩人が引き抜いた剣には、どす黒く凝縮された血液が、炎のように纏わりついていた。

自身の血液を触媒に、リーチと威力を爆発的に高める「血の刃」

 

「……どけ」

狩人は低く唸ると、アーカードごとアンデルセンを間合いに捉えた。

二刀を連結し、大きく振りかぶる。

 

血の斬撃。

空間ごと薙ぎ払うような、紅い閃光。

 

ズバンッッ!!

 

「グ、オオッ!?」

アンデルセンが吹き飛ばされ、壁に激突する。その胸には深い裂傷が刻まれ、再生が遅れている。

そして、その射線上にいたアーカードもまた、胴体を真っ二つに切断されていた。

 

「おい狩人! 俺ごと斬ったか!」

上半身だけになったアーカードが、床に転がりながら文句を言う。

だが、その表情は満面の笑みだ。

 

狩人は血を払いながら、短く答えた。

「貴公なら、死なん」

 

「クク……違いない!」

アーカードの肉体が黒い影となり、瞬く間に接合する。

 

「ハアッ……ハアッ……!」

アンデルセンが瓦礫の中から立ち上がる。

再生している。だが、その息は荒い。

「……異教徒どもが。よもやこれ程とはな」

 

彼は懐から聖書を取り出した。

これ以上の戦闘は、自身の任務に支障をきたす。それに、この得体の知れない二体を同時に相手にするのは、準備不足だ。

 

「なるほど、これでは今の装備では殺しきれん……吸血鬼、そして異教徒よ」

ページが風に舞い、彼の姿を覆い隠していく。

「次は皆殺しだ…」

 

紙片の渦と共に、神父の姿は消え失せた。

嵐が去ったような静寂が戻る。

 

「……逃げたか」

アーカードは銃を収め、つまらなそうに鼻を鳴らした。

狩人もまた、「落葉」についた血を払い、静かに刀身を消滅させる。

 

そこへ、厚着のコートに短銃と剣を携えた、インテグラル・ヘルシングがエージェントを引き連れて現れる。

 

「状況報告を。……騒がしい夜だったようだな」

 

インテグラは、散らばっているバヨネットと聖書のページ、血液、そして平然と立っている二人の怪物を見渡した。

 

「ここまでやるやつは狩人以来だ。あれがアンデルセン神父か。まだ挨拶を交わしただけだったが……イヤ、良いものを見れた。」

 

嬉々しく狩人を眺めるアーカード。狩人は静かに佇んでいる。

インテグラは溜息をつき、視線を狩人に向けた。

「お前も無事か。バチカンとの接触は避けられんと思っていたが、早すぎたな」

 

狩人は小さく頷く。

「……厄介な敵だ。だが、死なない敵ではない」

 

「頼もしい言葉だ」

「……協定違反による越境戦闘。機関員に対する殺傷にいたりかねない攻撃…ヴァチカンに対する大変な貸しになる。」

「しかし今は連中と争ってる場合はではないんだ。以前の吸血鬼を調べた通り、ここもそうかもしれないが、非常に重大で…そう。手がかりになるかもしれないことがわかった」

 

インテグラの言葉を聞き、狩人がピクリと反応する。

 

「…そうか」

 

「あぁ。だが、我々では全て解明しきれん。あくまで手がかりとして…何か知ってる事があれば教えてくれ、狩人」

 

そして傍らで疲れ果て、あまりにも目まぐるしいことがあったためビックリゲロしている銃剣を抜いたセラスをジトっと眺めた。

「……で、あの娘はどうした? 使えるようになったのか?」

 

アーカードはニヤリと笑い、セラスを見上げた。

「あぁ、婦警か。普通だ。」

 

「ま、マスターぁッ」

あまりにも拍子抜けな評価にセラスがずっこける。

「もう『婦警』はやめてください!私にだってちゃんと名前が…」

 

「五月蝿いこの半端者、おまえは『婦警』でちょうどいい」

 

「そ、そんな〜〜っ!」

狩人はただ静かにセラスを眺め、想いを馳せる。

(……悪夢は、まだ始まったばかりだ。生き残れよ、新米狩人)

 

こうして激情の戦闘は幕を閉じた。

 

to be continued…

 

 

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