HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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旦那の出番がちょいとなくなります。



第6話

 

ロンドン、ヘルシング機関本部。

円卓会議室の重厚な扉の向こうには、大英帝国を裏から牛耳る12人の権力者たちが集まっていた。

紫煙が漂う部屋の中心にインテグラが座し、その背後の闇には、古びた狩装束の男が佇んでいる。

 

「……にわかには信じがたい話だな、ヘルシング卿」

アイランズ卿が眉をひそめ、手元の資料に目を落とした。そこには、チェダー村やベイドリックで回収された「異形の吸血鬼」の死体写真と、狩人が提供した手記の写しがある。

 

「死都ヤーナム……。医療教会、上位者、そして『獣の病』か」

別の人物が呟く。

「我々の知る吸血鬼とは、似て非なる生態系だ」

 

インテグラは頷き、狩人に目配せをした。

狩人は一歩前へ出る。その場の空気が、冷たく澱んだものに変わる。

 

「……ヤーナムでは、血は癒やしであり、同時に呪いだった」

狩人の声は低く、淡々としていた。

「『血』を用いた医療は、人を獣へと変えた。今、この国で起きている異変……吸血鬼の人為的な増加と変質は、あの病の初期症状に酷似している」

「更に、獣以外のものも持ち込まれている」

 

狩人はテーブルの上に、3つの小瓶を置いた。中には、濁った灰色の液体と、瓶の中で潰れている『虫』の死骸。そして小瓶をボヤかしている青白い物体。

狩人はまず濁った灰色の液体を指す

「これは『灰血』と呼ぶ。……最近狩った吸血鬼から抽出したものだ。彼らの血は、渇きよりも、進化を求めて暴走している。それは残りのふたつも同様だ」

 

狩人は残りの小瓶を指す。

「この百足のような物は…一種の寄生虫のようなものだ。恐らく貴公らにはこの虫は見えないと思うが、『獣』には虫が入り込んでいる。虫は、時に生命の機能を停止した、或いは停止寸前の宿主を食い破り、這い出てくる」

「そしてこの青白い物体は先程貴公らに読んでもらった手記にある、上位者の片鱗のようなものだ。…この小瓶の中は覗かない事を勧める。話を戻すが、『獣』の因子だけでなく、『上位者』までもヤーナムから持ち込まれている、という事だ」

 

「つまり」インテグラが引き取る。「何者かが吸血鬼化のプロセスを解析し、それを『兵器』として製造・散布しているということです。そしてその技術には、この狩人の世界からもたらされた、未知の因子が混入していると言っていいでしょう。そしてそれをこの埋め込まれた発信機のようなもので調査し、管理している…」

 

インテグラが小さい発信機の機械を手に持つ。

円卓の人物たちがざわめき、戦慄する。余りにもグロテスクかつ信じられないような、しかし信じるしかない内容に、1人は口にハンカチを当てている。

単なるオカルト事件ではない。これは組織的なバイオテロであり、侵略行為だ。

 

「なんと恐ろしい……大英帝国の威信にかけて、その根源を断たねばならん」

 

その時だった。

 

電話口兼発信機から通信が入る。

 

「どうしたッ!何事だ!インテグラ!」

 

『こちら警備室ッ!こちら警備室ッ!インテグラ様!!敵です!敵の攻撃ですッ!』

 

「なんだと!?」

 

『外部との連絡が取れませんッ!現在一階正面玄関にて戦闘中!!』

 

通信口から警備兵たちが慌てたような切羽詰まったような声で現状を報告する。

 

「撃退しろ!無理なら時間を稼げ!」

 

『そッ、それがッ!敵は…敵は…!食屍鬼です!!』

 

「なにッ!?」

 

『敵は!!食屍鬼ですッ!!』

驚愕の事実を告げられる。食屍鬼の軍隊が攻め入って来ているのだ。円卓中が再びざわめき始める。避難経路のヘリも破壊された様だ。すると警備室に敵が入ってくる。

 

『なっ!ぐぁあっ!!………』

 

「警備室!!どうした!おいッ!敵か!敵なのかッ!!」

 

警備室内にて銃声が響いた。警備室の兵も殺されたようだ。すると何者かがノイズと共にマイクに喋り出す。

 

『アーアー、アローアロー聞こえますかー?円卓会議場のミナサマ、コンニチワーッ!アローッ。どうしようもないインバイで売女のヘルシングちゃんも聞いてますか?僕様ちゃん達の名前はバレンタイン兄弟ーッ!弟のヤンでーす!こちらはただ今遅めのランチの真っ最中ヘルシング隊員の皆様を美味しく頂いてまーす!』

 

『今からぶっ殺しに行くぜ。小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?』

 

なんとも下品で挑発するかのような通信ジャックは会議場をより動揺の渦に沈めた。

 

「どういう事だインテグラッ!これは!」

 

「敵が来ます。情報が漏れていた様です」

 

人物たちが動揺し、文句を垂れる中インテグラは冷静に受話器に手をかけた。

 

「ウォルター、ウォルターどこだ?」

 

『はッお嬢様。地下のセラス嬢のお部屋です。状況は把握しております。通信途絶に気づいてこちらに憲兵が来るまで4〜5時間、この間会議場を死守しなければなりませんな』

 

受話器からウォルターの声が聞こえる。インテグラがどうすれば良いかウォルターに尋ねると指示が入る。会議室のひとつの通路、出入口の死守と、アーカード、セラスが二手に別れそのうちの1組が守備救援に1組が攻撃に出ると。

会議室へは通気孔を通って行くと伝えた。

 

「ウォルター、ヤツら私の部下たちを喰っていた……絶対に許すな…」

 

『もちろんですとも、インテグラお嬢様』

受話器を戻し、到着を待つ中、会議場は混乱のままだ。

 

「一体これはなんだ!?どういう事なんだインテグラ!!」

 

「敵が来ます。しかもすぐにも…一階二階は制圧され我々に逃げ場はありません」

 

「そんな事を聞きたいんじゃない!?どうするのだこの責任は…」

メンバーのうちの1人、ペンウッド卿が慌てたように言う。

 

「ペンウッド卿、今はそんな事言ってるときでは無い。もしその時が来たら自分たちの身は自分たちで防がねばならんという事だ。そうだな?インテグラ?」

 

はッ(ヤー)

 

アイランズ卿がペンウッド卿を宥めると共にインテグラに確認する。もし、この会議場に入り込まれた際は各々が銃を抜き、身を守ると。

 

「あ、相手は不死身の食屍鬼じゃないのか?無茶苦茶だ…!どうせ…みんな死ぬんだ…」

 

ペンウッド卿が悲観的な事を言った刹那、ガコンッ! という金属音が破った。

 

会議室の天井にある通気ダクトの蓋が外れ、ペンウッド卿に鉄格子が当たる。中から何かが落下してきたのだ。

 

「あ、あわわわっ!?」

ドサァッ!!

派手な音を立てて床に墜落したのは、金髪の少女、セラス・ヴィクトリアだった。

彼女は巨大な30mm対戦車砲「ハルコンネン」を抱えたまま、目を回している。

 

「い、痛たたた……。もー、館内図が複雑すぎますよぉ……」

「……何をしている、婦警」

インテグラが呆れたように見下ろす。

 

「あッ! い、インテグラ様!?」

セラスは慌てて敬礼した。「た、ただいま戻りました!通気孔の中が狭くて…いやぁ、遅くなりましたなぁー…たはははは…」

 

「大丈夫かね?セラス嬢?」

 

「ウォルターさん!」

するとウォルターがセラスの後ろからスタッと舞い降りる。彼も通気孔を使ってきたのだろう。

 

「下の状況はどうだった?」

 

「守備はほぼ壊滅してしまったようです」

その光景はまさに地獄絵図そのもので、食屍鬼が武装している中、警備兵たちが食い荒らされてると。

 

「ウォルター、素直に聞く。我々はもうおしまいか?」

 

「否!!ありえません!1世紀前の初代ヘルシング卿に比べれば、この程度ピンチの内にも入りませんぞ。地下三階からアーカード、そして三階から我々が迎撃、いや、出撃いたします。お嬢様のご命令通り1匹たりともこの館から生かして帰しませんぞ」

 

「……了解した。ゴミ処理の時間だ、ウォルター」

「そして狩人、お前も行け。この娘を使え」

 

「承知いたしました」

 

ウォルターが優雅に手袋を直す。

狩人は無言で帽子を直し、セラスを見やった。

 

「……来るか、新米」

 

「や、ヤーッ!行きますっ!」

セラスは慌ててハルコンネンを担ぎ直した。

 

 

──────────────────────

 

 

廊下はウォルターの通り、地獄絵図と化していた。

 

「あーアーアー!ムカつく、ほんとーにムカつく、本当。英国は貧富の差が激しすぎるんだよなー、いい葉っぱ使ってんなぁ、ブルジョアーッ、つうのか?」

 

SWAT装備に身を包んだ武装グールたちが、進行している。

 

「あの女だけは簡単に殺すだけじゃダメだなー…」

ヤンが荒々しくドアを蹴破り、廊下を歩いく。

 

「犯して殺して、もっかい死体を犯してやらあ、Hey豚共を放り込んで1発で終わり。骨までしゃぶって夕方のオカズで一巻の終わり」

 

ズカズカと廊下を進行して行くと奥からドアが開き人が入ってくる。鋼線のようなものがユラリと奥光ったと思えばヤンの口に咥えていた葉巻の先が切断された。

と思えば隣の食屍鬼が体ごと切断されていた。

 

「…ウォルター・C・ドルネーズ。ヘルシング家執事…元ヘルシングゴミ処理係、行くぞ」

ウォルターが指先を動かす。

 

「うッ…撃てェ!!」

 

食屍鬼の軍団が一斉にウォルターに射撃する。

ガシャガシャガシャガシャ!!

ヒュンッ!

ウォルターが瞬時に動き鋼線を張る。目に見えない鋼線が走り、グールたちの首が、何の前触れもなく転がり落ちた。

「のろい!!やはりグールはグールですな。グールの頑強さに目をつけたのはいいアイデアですが…」

「これでは!!不死身の無敵軍には程遠い」

ワイヤーを引っ掛け、それを引っ張る。グールたちが一斉に切断される。

「小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?」

ウォルターがヤンの言葉をそのまま返す。

 

「なッ!?」

更に後続のグールが怯んだ瞬間、狩人が踏み込んだ。

 

彼の手にあるのは、「獣肉断ち」

鉄の刃が連なる、変形前は巨大な鉈、変形後は重々しく展開する蛇腹剣となる。元は古い狩人たちが巨大な獣を解体するために用いた鉄塊だ。

 

狩人が強溜め攻撃を放つ。

ガシャンッ! と蛇腹が展開し、鞭のように伸びた重い刃が廊下の奥まで一気に薙ぎ払う。

 

ドゴォォォンッ!!

 

盾を持ったグールごと、数体がまとめて粉砕され、壁に叩きつけられた。

斬るのではない。叩き潰すのだ。

狭い廊下において、その直線的な超リーチと圧倒的な衝撃力は、まさに「掃除機」だった。

 

ウォルターは感心しながら、ワイヤーで死体を操り、銃弾を防ぐ盾にする。

「貴方のその武器……野蛮に見えて、集団戦の理にかなっている…見事なものですね」

 

狩人は武器を変形させ、鉈モードに戻すと、懐に入ってきたグールを殴り倒す。

 

「……害虫は、まとめて潰すに限る」

 

ウォルターのワイヤーが舞い、首と手足を切断する。

狩人の獣肉断ちが唸り、防弾チョッキごと肋骨を粉砕する。

「死神」と「狩人」。

二つの異なる死の旋律が、廊下を血の海に変えていく。

 

 

「クソッ! なんだあのジジイと変な奴は! 進めねェぞ!」

ヤンが吐き捨てる。

するとウォルターがニヤリと笑い、追い討ちの指示を出す。

 

「セラス嬢、直接火砲支援(ダイレクトサポート)!開始!!」

 

その時、ドアの向こうから金髪の影が飛び出した。

 

「ャ…了解(ヤー)!」

セラス・ヴィクトリアは背負っていた長大な砲身、30mm対戦車砲「ハルコンネン」を構えた。

 

ズガァァァァァンッ!!

轟音。閃光。

劣化ウラン弾頭がグールの密集地帯に着弾した。

狭い廊下で爆発した衝撃波は、残っていたグールを確かに撃ち抜いた。しかしまだ攻める。

 

「第2射!敵戦列中央!弾種焼夷榴弾信管VT!炸裂4号赤!」

 

「ヤッ、ヤーッ!」

 

即座に廃弾を外し、30mm弾頭を込め、リロードする。

そして再び構え轟音を響かせ放つ。

ドガッ!!バゴォォッン!!!

 

「う、嘘だろォ……」

煙の向こうで、ただ一人無傷で残ったヤン・バレンタインが、後ずさる。しかしここらで終わる訳には行かないヤンがウォルターに接近し、こちらも轟音を立て、射撃する。

ドガッ!!

 

「ヒャハァァッ!!」

 

ウォルターが食らう直前で避け、そこに狩人がヤンに向かい飛び込んでくる。

 

「ヒィっ!?!?」

 

正面から飛び込んでくる狩人を回避するため逃げようとするが、後ろからセラスが押さえつける。

 

「逃がしませんっ!!」

 

セラスはヤンを床に組み敷くと、その腕を逆にねじ上げ、顔面を床に押し付けた。

婦警として培われたセラスの拘束は、万力のように動かない。

 

「離せ! このアマ!テメェヴァンパイアだな!?ヘルシングでおまえみたいなのいるなんて聞いてねーぞ!なんだァ!?おまえ!?」

「黙っててください!」

セラスはヤンの頭をさらに強く押し付ける。

「あだだだだだっ!!!」

 

そこへ、ウォルターが静かに歩み寄った。

革靴が、ヤンの顔の横で止まる。

 

「……さて。随分と威勢のいい通信でしたね」

ウォルターは穏やかに、しかし絶対零度の瞳で見下ろした。

狩人もまた、獣肉断ちを引きずりながら、退路を塞ぐように立つ。

 

「目的を吐きなさい。……さもなくば、貴方のその再生能力が追いつかなくなるまで、私が解体し、(狩人)がすり潰すぞ」

 

狩人は無言で、獣肉断ちの刃を床に叩きつけた。

ガァンッ!!

その音だけで、ヤンは震え上がった。こいつらは本気だ。拷問の手順すら楽しむタイプの化け物だ。

 

「もう一度尋ねる小僧。目的を話せ」

 

「ケッ…!俺らが言われたのは2ツ!特務機関英国国教騎士団と円卓会議への攻撃!そして吸血鬼アーカードの完全破壊!!」

 

「俺ら?俺らと言ったな貴様?」

 

「フヒェへへへハハァ…今頃はオレの兄貴がアーカードぶっ殺してるトコロさ」

 

「な、何ッ…!?」

 

狩人は思った。この勝負はヤンが期待するような「兄の勝利」の気配ではない。

もっと圧倒的な、深淵の闇が口を開けている気配だった。

 

to be continued…

 

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