HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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本編以上にセクハラ度が増していく隊長。



第8話

 

ロンドン郊外、ヘルシング家の私有墓地。

鉛色の空から、冷たい雨が降り注いでいた。

先のバレンタイン兄弟による襲撃事件。その爪痕は深く、多くの局員と警備兵が殉職し、あるいは食屍鬼となって処分された。

 

黒い傘の列が並ぶ中、インテグラは沈痛な面持ちで墓標を見つめていた。

その少し離れた場所に、狩人は立っていた。傘は差していない。濡れるに任せているが、その三角帽子と古びたコートが水を弾いている。

 

(……死者は、土へ。あるいは夢へ)

 

狩人は胸の前で手を組み、ヤーナム式の祈りを捧げる。

「……よき目覚めを」

それは彼がかつて、数え切れぬほどの墓標に祈った言葉だった。

インテグラがその姿に気づき、小さく会釈をする。言葉はなくとも、弔いの意志は通じていた。

 

数日後。ロンドンの夜。

「ミレニアム」というキーワードの手がかりを探すため、狩人とセラスは街の見回りを行っていた。

 

「うぅ……やっぱり夜は冷えますねぇ」

セラスが身震いしながら歩く。

「でも、狩人さんと一緒なら安心です! 何が出ても瞬殺ですし!」

 

狩人は無言で歩を進める。彼の感覚は鋭敏に周囲を警戒していた。

と、その時。

 

ヌゥッ……

街灯の影から、赤いコートの男が何の前触れもなく湧き出た。

 

「よう。精が出るな」

アーカードだ。彼はニヤニヤと笑いながら、狩人の隣に並ぶ。

「どうだ狩人。退屈しのぎに俺と遊ばんか? 先日喰らったルークとかいう男……あいつの命は中々に興味深いぞ。貴様の世界の『獣』の因子とやらが混ざっているらしくてな。体が疼いて仕方がない」

 

アーカードは腕を変化させ、剛毛に覆われた獣の爪を見せびらかす。

「スピードもパワーも段違いだ。今なら貴様ともっと楽しい殺し合いができるぞ?」

 

狩人はチラリとそれを見やり、溜息交じりに答えた。

「……断る。弾の無駄だ」

 

「つれないなァ。なら婦警、貴様が相手をしろ」

「ええッ!? い、嫌ですよマスター! 私じゃ1秒で挽き肉になっちゃいます!」

セラスが全力で首を振る。

 

狩人はセラスの前にスッと手を出し、庇うように立った。

「よせ。新米が壊れる。……貴公、犬の散歩なら一人で行け」

 

「チッ……ドケチめ」

アーカードはむくれながらも、狩人の周りをフワフワと漂い始めた。

さながら「新しい玩具を見せびらかしたい子供」のテンションに近い。

 

狩人は鬱陶しそうにしながらも、懐から『夜空の瞳』を取り出した。

血走ったような、眼球の中に何かが入り込んでるような、そんなグロテスクな見た目をした瞳から、小さな青い隕石を取り出す。

 

ヒュッ。

狩人はそれを軽く放り上げ、手の中で遊ばせる。

ヒュッ、ヒュッ。

二つ、三つと取り出し、器用にお手玉を始めた。神秘の輝きが、夜の闇に青い軌跡を描く。

 

「……ほう?」

アーカードがピタリと止まり、興味深そうに覗き込む。

「なんだそれは。魔術の触媒か? 宝石か? 貴様の力に近しい…奇妙な波動を感じるが」

 

「……ただの石だ」

狩人は淡々と答えながら、指先で隕石を転がす。

実際には、僅かな水銀弾を消費して発動する神秘の触媒だが、今はただの暇つぶし道具として使っている。

 

「わぁ……綺麗ですねぇ!」

セラスが目を輝かせて拍手する。

「狩人さん凄い! 大道芸もできるんですね!」

 

「……」

狩人は無言のまま、一つをセラスに放ってやった。

「わっ! ……あったかい……?」

セラスが受け取った石は、ほんのりと体温のような脈動を帯びていた。

 

アーカードは「フン」と鼻を鳴らしたが、その目は楽しそうだった。

「いいだろう。今夜は付き合ってやる。……ただし、狗はそっちで処理してくれよ」

「……好きにしろ」

 

奇妙な三人組の夜の散歩は、平和に過ぎていった。

 

 

翌日、ヘルシング本部。

人員不足を補うため、インテグラはプロの傭兵部隊を雇い入れた。

その名も「ワイルドギース」

 

会議室には、ちょっと柄の悪い男たちが屯している。

その中心にいるのは、隊長のピップ・ベルナドット。眼帯をした、いかにもな伊達男だ。

 

「……で、吸血鬼だぁ? バカバカしい!」

ベルナドットはインテグラの説明を聞き、鼻で笑った。

「俺たちは戦争のプロだ。テロリスト相手なら幾らでも殺ってやるが、オカルト映画の撮影に付き合う暇はねェんだよ」

 

インテグラは眉一つ動かさず、部屋の隅を指した。

 

「信じられんか。……そこにいるのが、当機関所属の吸血鬼、セラス・ヴィクトリアだ」

 

「はァ?」

ベルナドットの視線の先には、大きな銃を抱えて直立不動のセラスと、その隣で死神のように佇む狩人がいた。

 

「君…吸血鬼……?」

 

「は…はあ…ええまあ…」

ベルナドットはニヤニヤしながらセラスに近づき、顔を覗き込んだ。

「吸血鬼ってのはアレか? 夜な夜な男の精気を吸い尽くすって意味か? そりゃあ是非とも吸われたいもんだがねェ」

 

ドッと沸く傭兵たち。セクハラ発言にセラスが顔を赤くして狼狽える。

「あ、あの……私、本当に吸血鬼で……」

 

「はいはい。で、隣の陰気な兄ちゃんはフランケンシュタインか何かか?」

ベルナドットは狩人も指差して笑う。狩人は微動だにしない。ただ、マスクの下から冷ややかな視線を送るだけだ。

 

インテグラが指を指した

「……ようし、じゃあ証拠を見せてやれ婦警」

「らッ、ラジャー…!」

ベルナドットが呆気にとられる。

 

「おいおいお嬢ちゃん、泣かさないでくれよ? 俺の身体は…」

 

バヂィィィンッ!!

 

空気を切り裂く破裂音。

セラスのデコピンが、ベルナドットの額を捉えた瞬間。

 

「ぶべラァッ!!?」

 

ベルナドットの体が弾丸のように吹き飛び、会議室の壁まで一直線にカッ飛んだ。

ドゴォォォン! と壁にめり込み、そのままズルズルと落ちてくる。

 

「「「た、隊長ォォッ!?」」」

傭兵たちが絶句する。

 

「い、痛たたた……首が、首が取れるかと……」

 

ベルナドットが涙目で額を押さえる。そこには真っ赤な痣ができていた。

 

「ほ、本当に吸血鬼なのか……?」

ベルナドットが震える声で言う。

 

「そうだとも」

 

ズルリ……

唐突に、壁のシミからアーカードが顔を出した。

物理法則を無視して、壁をすり抜けるように実体化する。

 

「うわあァァッ!?」

「で、出たァ!!」

傭兵たちが悲鳴を上げて銃を構えるが、恐怖で手が震えている。

 

「肝の小さい連中だ。使い物になるのかコレで」

 

「アーカード!申し訳ございませんお嬢様。止めたのですが…」

ウォルターが入室する。

 

「私の寝床を守る連中だ。どんな連中か見ておきたい」

その圧倒的な「人外」のプレッシャーに、歴戦の傭兵たちも言葉を失う。

 

「それよりお嬢様」

 

ウォルターが一つの封筒をインテグラに差し出す。

 

「こんなものが送られてまいりました」

 

「手紙…?」

 

「差出人をご覧ください」

 

ウォルターがインテグラに手紙を手渡すと、その表面にはまさかの差出人名が刻まれていた。

 

「ッ!?……ヴァチカン特務機関第13課、イスカリオテ機関だと!?」

 

to be continued…

 

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