キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション   作:ねうしとら

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原作開始前~対策委員会編2章まで
最新の調整を幾重にも重ねた企業


 アーキバス・コーポレーション。

 

 キヴォトスにおける企業の一つであり、主に銃火器等の兵器の開発・製造・販売を行う。

 その経営方針は良くも悪くも王道であり、故に突出したところがない。状況に即した臨機応変な立ち回りが強みであるが、社長が成り上がりであるが故の苦労という側面が見え隠れしている。

 

 このキヴォトスにおいて、大人が経営する企業としては裏表なく真っ当であり、服飾品以上に重要な生活必需品である銃火器を取り扱うメーカーであることも相まって、世間の評判は悪くない。

 

 寧ろ、ここ2、3年ほどでキヴォトスにおいてなくてはならないほどの企業へと成長を遂げている新進気鋭の敏腕企業という認識が一般的だ。

 

 そんなアーキバスにも、根も葉もない噂というのは存在する。

 

 最近になって頭角を現した企業に対して良い思いを抱いていない人間というのは少なからず存在し、そんな彼らの嫉妬が形を成したのか、それともただ単にゴシップを追い求める人間の浅はかさがそうさせたのか。

 

 曰く、生徒を実験台にして違法な兵器の製造を行っている。

 曰く、違法な手段を用いて今の立場を築いた。

 曰く、連邦生徒会と裏でつながっており、賄賂を始めとした黒い繋がりがある。

 

 等々。

 

 これらの噂は事実ではないことは確かだ。しかし、火のない所に煙は立たぬ。

 このような噂が広まる原因が、アーキバスにあることもまた確かだった。

 

 

 

 アビドス高等学校、廃校対策委員会。

 

「皆! これ見て!」

 

 黒見セリカは興奮した様子で部室へと足を踏み入れた。

 本日は自由登校日であり、学校に生徒たちが揃っている可能性は低かったのだが、運よく全員が揃っている。

 

 桃色の髪を伸ばし、寝ぼけ眼が特徴的な小鳥遊ホシノ。

 明るく穏やかな雰囲気であり、見る人を落ち着かせる笑顔が特徴的な十六夜ノノミ。

 表情の変化に乏しいが、その実誰よりも無邪気な砂狼シロコ。

 赤縁メガネに知的で真面目そうな雰囲気の奥空アヤネ。

 頭部にある二つの猫耳が特徴的な、活動的な少女黒見セリカ。

 

 とある理由により、カイザーコーポレーションに対して9億円の借金を抱え、その返済を目的にアビドス高校を守っている対策委員会の面々が揃い踏みだった。

 

 まさか、普段何をしているのか分からない委員長である小鳥遊ホシノまでもが部室にいることに驚いた。

 

「ん。どうしたの? 慌てて入ってきて……」

 

 驚きに目を見開いている後輩の姿に、何か言いたいことがあったのではないかと催促するシロコ。そんな彼女の言葉を聞き、再起動したセリカは自身が持っていたスマホを見せる。

 

「これを見てください!」

 

 何やら尋常ではない様子のセリカに、普段から彼女と接している四人は困惑しながらも彼女が提示した画面を見る。

 すると、そこには一つの依頼が書かれていた。

 

「『生徒の戦闘データの提供依頼』……?」

 

 端末に書かれている文字をノノミがそのまま口に出す。

 それに対して、半眼のホシノは率直な感想を言った。

 

「うへ。なんか胡散臭いね~」

 

「ん、そうかな?」

 

「おじさんの直感ってやつ~? うら若き乙女のデータが欲しいなんて、おじさんとしては疑っちゃいますな~。ところで、依頼元はどこなの? セリカちゃん」

 

「アーキバスってところらしいです」

 

『アーキバス?』

 

 全員の声が重なる。

 

「それって、ここ最近名を上げている企業ですよね? 確か、主に銃火器などの兵器の開発、製造、販売を行っている会社だとか」

 

 対策委員会のブレインであるアヤネが、記憶の隅に保存されているアーキバスについての情報を取り出した。

 それに対して、ノノミも頷く。

 

「生徒の戦闘データを収集するなんて、何が目的なんでしょうか」

 

「それも気になるけど、報酬の欄を見て」

 

 アヤネに対して、セリカが言う。

 

 報酬。

 依頼であるならば、報酬が存在するのは道理。今までに無いタイプの企業からの依頼に目を持っていかれていたが、その報酬の額も怪しさを加速させていた。

 

「戦闘データ……一人につき、10万円!?」

 

「うへ~。こりゃ太っ腹だね。よっぽど生徒のデータが欲しいみたい」

 

「セリカちゃん、これはさすがに怪しすぎるんじゃないかな……」

 

「ノ、ノノミ先輩……。でも、こんなにおいしい依頼を逃すなんて……」

 

「ん。これはチャンス」

 

 自分たちをここまで追い詰めた『大人』。

 そのカテゴリに入る『アーキバス』という『企業』。

 

 セリカとて、彼らに対する不信がないわけではない。というより、人一倍強い。

 しかし、対策委員会は少しでも金が欲しい。感情と合理、その二つの間で板挟みになっているのが、今のセリカである。

 

 とはいえ、金が手に入るのであればやるべきだと、シロコは言う。

 

 どう考えたとしても怪しい。やるべきではないと理性では分かっている。

 だが、一笑に付すには10万という大金はあまりに魅力的な提案だった。

 

 どうする?

 

 明らかに怪しさ満点の依頼を受けて、一人10万、五人合わせて50万の大金を手に入れるか?

 それとも、安牌を取ってこの依頼はなかったことにしていつも通りの日常を過ごすか。

 

 バカバカしいと鼻で笑うには、アビドスに余裕は足りていなかった。

 

 ノノミは不安げな表情を浮かべ、この場の面々を見渡す。

 ホシノは眠たげな表情から一変、冷徹な年長者としての顔を見せる。

 シロコはこの大きなチャンスに、僅かに気を高ぶらせている。

 

 一年生二人。彼女たちは、どうすべきか未だ判断が付かず、悩みに悩んでいた。

 

 アヤネは自身の所持品であるタブレットでも、アーキバスのホームページを開きその依頼内容を確認して……。

 

「待ってください! この依頼、動画ファイルが添付されています」

 

 未だ確認していない項目があったことに、重大な決断を一先ず先送りにできる安心感から表情を緩ませた。

 

「動画ファイル……」

 

 ゴクリ。と、セリカの喉が鳴る。

 

「さ、再生しますね……」

 

 アヤネはリンクをタップした。すると、画面上にはアーキバス社のロゴが映し出される。

 続いて、落ち着いた男性の声が聞こえてきた。動画とは名ばかりのほとんど音声ファイルと言っていい。

 

『生徒各位。これは、アーキバス本社からの依頼です。わが社はこの度、自社製品の品質向上及び新たな製品開発のため、キヴォトスに住まう生徒の皆様から戦闘データを提供して頂く旨を決定いたしました。わが社の製品、その品質向上のためご協力をお願いします。つきましては、この依頼に応じていただける場合、下記のアドレスから必要事項を記入し、D.U.地区にあるアーキバス本社までお越しください。ブリーフィングは以上です。よろしくお願いします』

 

 

 手短に伝えられた依頼の詳細。

 

 恐らく、本社の人間の肉声で説明されたもの。与太話とは、言えなくなった。

 

「……どうする?」

 

「……どうしよっか」

 

「少なくとも、誠意は感じられたような……?」

 

「ん。受けよう。受けるしかない。受けるべき」

 

 四人は迷う。ああいや、四人ではなく三人。

 

 これが、文章だけの依頼だったのなら、怪しいという理由で断腸の思いで見逃すことはまだできた。

 しかし、人間の肉声という、一つの情報が加わっただけでもしかしたら本当に……。という思いを想起させる。

 

 個人情報の一つを開示しただけで、これほどまで人はだれかを信用してみようと思ってしまう。

 

 少なくとも、ここまでするんだから致命的な悪徳企業ってことはないだろうと。

 

「ホシノ先輩はどうする? 受ける?」

 

 シロコから問われ、彼女は考える。

 その小さな身で、背負ってきた経験を踏まえ、損得勘定を働かせ、この依頼がどこまでリスクを伴っているかを考え――。

 

「受けよう」

 

 決断を下した。

 

「――ッ。先輩、いいんですね?」

 

「うん。このまま停滞してても何も変わらないしね。それに、一日で50万なんて大金が合法的に手に入るのならやらない手はないよ~。もし何かあったら力ずくで逃げればいいしね~」

 

 なかなか物騒なことを考えているが、最終的にそれでどうにかできるという裏打ちされた自信がそこにはあった。

 

 彼女の決定により、全員が賛成派となったアビドス対策委員会は、アーキバス・コーポレーションの依頼を正式に受理することを決定した。

 

「えーっと、まずはこのサイトにアクセスして必要事項を記入しないといけないんだよね」

 

 そうして、必要事項を記入したアビドスの面々は、来るべき日に備えて英気を養うことにした。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 そして、当日。

 

 

「お待ちしておりました。アビドス高校の皆さん。私はアーキバス所属外部雇用担当、V.Ⅷペイターです。以後お見知りおきを。さて、閣下がお待ちです。ご案内しましょう」

 

 D.U.地区にあるアーキバス本社にやってきたアビドスの面々を出迎えたのは、ブリーフィングを伝えてくれた声と同じ声の持ち主である大人であった。

 

 物腰やわらかであり、第一印象は信用できそうな大人がやってきたことにまずは安心し、『閣下』なる人物が自分たちを待っているらしいことを伝えられ、大人しく彼の後を付いていく。

 

 その際、ホシノがペイターに対して気になっていたことを尋ねた。

 

「ねえ、ペイターさん。なんで生徒の戦闘データが欲しいの?」

 

「お伝えした通り、わが社が開発する製品の品質向上及び新たな製品の開発に役立てていくためです」

 

「それ以外の用途があるんじゃない?」

 

 ホシノは鋭い目つきで問う。

 何か、別の目的があるのではないか。

 

 恐らくだが、製品開発の一助とするというのも嘘ではないのだろう。彼らからはこちらを騙そうとする意志が感じられない。だが、それはそれとして事はそう単純とは思えなかった。

 

「……ご心配なく。あなた方に不利益が生じるような利用は行いませんよ」

 

「へぇ~。否定しないんだね」

 

「否定したところで意味がありませんから。これは、わが社の依頼に協力して頂いた皆さんに対する私なりの誠意です」

 

『大人』に対して不信感を抱いているアビドスの面々は、ペイターと名乗る彼の態度に感心した様子だった。

 とはいえ、この程度で彼らに対する認識を改めることはない。彼女たちが抱えている現状を考えれば、むしろ良い認識とすら言える。

 

「ふーん……。ま、一応信じておこうかな」

 

「ホシノ先輩……」

 

 初対面の人に対する態度じゃないと、ノノミは呆れた表情を浮かべながら彼女を咎める。

 

 そんな彼女たちを背に、ペイターは案内を続けた。

 そうしてやってきたのは、アーキバス本社にある一角。開発された製品を試し打ちする等、主に実践的な使用を目的とした施設であった。

 

 そこには一人の大人がいた。

 

 一目見るだけで神経質だと分かるその態度に、ここまで案内してくれたペイターと比べなんだか鼻につきそうという感想を抱いたアビドスの面々の感性は間違っていない。

 

 

「アーキバス・コーポレーション代表取締役社長、V.Ⅱスネイルです。私の指示の元で依頼を遂行できること、光栄に思いなさい」

 

(うわー……)

 

 出会いがしらの一言目。人間は第一印象が重要だというのに、相手を見下したような傲慢な態度を隠そうともしない大人の存在に、アビドスの面々は気持ちを一つにした。

 

 そして、なぜこの程度の依頼に企業のトップが直々にやってきているのかと疑問にも思った。

 

「代表取締役社長……? ただの戦闘データの収集にそんな大物がやってくるとはね~」

 

 皮肉を込めた牽制。

 ホシノが放ったその一言は、しかしスネイルに対しては牽制にもなっていない。

 

「当然です。私はヴェスパー、アーキバスです。この依頼が大衆にどう受け取られているか、それを把握していないほど愚かではありません。生徒の個人情報を扱うという、センシティブな依頼なのですから、企業たる私が足を運び誠意を見せるのは道理でしょう。それが、大人としての責任です」

 

 フン。と、嘲笑したにしては思った以上に論理的な説明をされたホシノはわずかに肩透かしを食らう。

 態度は傲慢で鼻につく、典型的なプライドの高い人間。そういった印象から乖離する言動。

 

「では改めて、依頼内容の確認をします。わが社が求めるのは、あなた方の戦闘データです。具体的には、これから我々が提示したミッションを熟していただきたい。そうして、最終的には我がアーキバスが誇る実働部隊ヴェスパーとの戦闘訓練を行っていただきます。尚、これにより得られたデータは第三者に漏洩することはありません。また、このデータを違法に扱うことも、この依頼を受けたことによる何らかの不利益があなた方に生じることもありません」

 

 丁寧に依頼内容の説明がされ、更には倫理的配慮まで担保されているときた。

 

 ここまでお膳立てされたのなら、やるしかない。

 それに、これほどまでしっかりと生徒のことを一人の個人としてリスペクトを向けてくれる企業は珍しい。

 

 暫定で、信頼できる相手だと確信し彼女たちは素直にミッションに取り組んでいった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

「よかったのかいスネイル? 彼女たちはアビドス。あのカイザーに借金をしている子たちじゃないか。彼女たちに報酬を支払うというのは、間接的にカイザーに金を払っているとも捉えられるけど」

 

 アビドス対策委員会が依頼を遂行し、帰路に就いた後。

 スネイルを始めとしたヴェスパーのメンバー何名かが机を囲んでいた。

 

「その程度、些事というものですよ、ホーキンス。何より、カイザーにとってその程度の金額など大したことではないでしょう。それより、想定以上のデータを得られたことを喜ぶべきです」

 

「そうだね。まさかフロイトが追い込まれるとは思わなかった」

 

 フロイト。

 

 V.Ⅰの称号を得ているアーキバスにおける最強。生徒ではない身であるにもかかわらず、並みの生徒を凌駕する戦闘力を有している規格外である。

 

 その彼が後手に回ったという事実は、ヴェスパーの面々を驚かせるのに十分以上の効果を齎していた。

 

「メーテルリンク。彼女たちの強さについて、生徒である貴方の視点から率直な感想を」

 

「そうですね……。実力に関してはキヴォトスでも上位に位置すると思います。特にあの小鳥遊ホシノの実力は、閣下のお言葉をお借りするのならば『カラス』と言って差し支えないかと」

 

 カラス。

 

 スネイルが用いる独特な指標。

 各学園に一人以上はいるだろうとされる、キヴォトスでも有数の実力者のことを指す。

 

 ゲヘナの風紀委員長。トリニティの正義実現委員長。ミレニアムのコールサイン00。

 

 小鳥遊ホシノは彼女たちと並ぶ実力があると、ヴェスパーは判断した。

 

「元より、不特定多数に向けたばらまき依頼。平均か、それ以下程度のデータしか集まらないと思っていたが……。良い誤算が生まれたものです」

 

 この依頼に応じる生徒は、精々がヘルメット団のような不良たちだろうとスネイルは思っていた。だというのに、まさかこのキヴォトスでも有数の実力者と目される人物のデータを手に入れられたことは僥倖以外の何物でもない。

 

「今後も彼女たちに依頼を回す機会があるでしょう。私の野望、その一歩が確実に進んでいるというのは、良いことです」

 

 手に入れたデータの希少価値に、スネイルは笑みを浮かべる。

 そんな彼の姿を見て、この場の面々は呆れたような、それでいてやわらかな笑みを浮かべた。

 

 

 アーマード・コア。

 

 スネイルが抱く野望。彼が目指す景色を見たいと付いてきた面々。彼らがそのロマンを実現させるための一歩が、着実に踏み出されていた。

 

 




ヴェスパー部隊の外見に関しては、皆さんの解釈に委ねます。
ロボットの見た目なのか、それとも人間なのか。獣なのか。

でも、メーテルリンクは女性なので生徒です。(断言)

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