キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション 作:ねうしとら
一行で矛盾するなよ。そんな巨大な質量だったとしてアーキバスのどこにしまうんだそれは。
言い訳させてください。ただの錯乱です。
すいませんでした。
アビドス高校へやってきて、この高校が抱えている借金について私は知った。
カイザーコーポレーションから9億円の借金。かつてのアビドス高校が残した負債。
その問題を解決すべく、私はアビドスの子たちに協力することにした。
そして徐々に浮き彫りになるアビドスを巡った陰謀。
ヘルメット団が所持している武器の数々が、ただの不良が持つにはあまりにも整備されすぎていて、おかしいことに気が付いた。誰かが裏で手引きしているのだろうと。
ヘルメット団の襲撃、セリカの拉致。便利屋68と柴関ラーメン、そしてゲヘナの風紀委員会。
ブラックマーケットを巡る資金洗浄の現場。
そして明らかとなるアビドスの土地問題など。
アビドス高校の土地は、既にほとんどがカイザーの手に渡っていて……。
悪質な手口でアビドスの土地を確保していたカイザーは何が目的なのか。
様々な戦いがあった。子供が背負うにしてはあまりにも大きすぎる悪意が渦巻いていた。
カイザー理事に、黒服。
ゲマトリアという組織に所属している『黒服』と名乗る人物は、ホシノの身柄を欲していたようだったけど、契約には律儀に対応する人間(?)だったから、退部届に顧問である私が未だにサインをしていないという点を突き、ホシノを諦めてもらった。
私がアビドスにやってきてからは色々とあった。
便利屋68の子たちやゲヘナ学園の風紀委員会の子たちと知り合うことができたのは良いことだとは思う。柴関の大将もあの後は屋台でラーメン屋を再開していたし、アビドスの暴利ともいえる利子は以前よりも良心的なものになった。
自己犠牲の精神でアビドスを救おうとするホシノには、ちゃんとおかえりと言って、ただいまと言わせた。
まだまだ借金は残っているけど、一先ずめでたしめでたしで終わったはずだ。
とりあえず、不満は残っていないと思う。
そんなアビドスに、私はもう一度やってきていた。
彼女たちの様子を見るためというのもあるけど、一番はただ私の生徒に会いたかったというのが理由かな。
「うへ。先生、いらっしゃ~い」
対策委員会の部室を訪ねてみれば、ホシノがノノミの膝で寝ている。
いつものことだけど、ホシノがあれほどゆっくりとできているのであれば、私としては安心だった。
「先生、来てくださったんですね。あまりおもてなしできませんけど、ゆっくりしてください」
ノノミに歓迎され、私は椅子に座る。
そうして、最近何か困っていることはないかと聞いた。
しかし、特にそういったことはないようで、あの後は平和そのものだったとのことだ。
昼の日差しが窓から差し込み、晴れた青空が広がっている。
お昼寝には丁度良いぽかぽか日和な今日この頃。ホシノの姿を見ていると、私まで眠くなってくる気がした。
ホシノとノノミという、アビドスでも先輩にあたる子たちが穏やかに過ごしているため、私も特にすることがない。ちょっとばかし端末を開いて、積みあがった仕事を消化するくらいだろう。
そうして、どれくらいの時間がたっただろうか。
ふと、私は少し気になったことを聞いてみた。
“少し気になったんだけど、アビドスのみんなは今までどうやって借金を返していたの?”
セリカが柴関ラーメンでバイトをしていたことは知っているし、他のアビドスの子たちもバイトで稼いだお金を使って毎月の利子を払っていたことも把握している。
だけど、ホシノやノノミは一体どんな仕事をしているのだろうかと思ったのだ。つい先日、借金を返済する方法についての議論を聞いたときは、アイドルやバスジャック、マルチ商法や銀行強盗といった案が飛び交って、そのどれもが却下されていたけど。
「あー。それはね、おじさんたちによく依頼を回してくれる企業があるんだよ」
“依頼を回してくれる企業?”
ホシノは少し表情を硬くしながら、私に言ってくれた。
アビドスに依頼を回す企業とは、どのような企業なのだろうかと少しの興味と警戒心が宿る。
ついこの間まで、カイザーコーポレーション絡みで色々とあったから、警戒心が強まっているのだ。
同じ大人として情けないが、生徒をいいように使って、騙す企業も存在する。それが今回のことで明らかとなった。
ホシノの表情からも、何か複雑な思いが宿っていることを察せられたのだ。
それに、このアビドスに対して企業が依頼を出すなんて、先生としては絶対に口には出せないが、利益が出るとは思えなかった。
そんな私の疑問に対して、ノノミが答えてくれる。
「はい。アーキバス・コーポレーションという企業です」
“アーキバス・コーポレーション?”
キヴォトスに来て、まだ日が浅い私はこの世界に存在する企業に詳しくない。だから、アーキバスという名を聞いてもピンとは来なかった。
けれど、どこかで聞いた名だと記憶の奥底にしまわれたその扉をどうにかこじ開けようと努力する。だが、それも虚しく。アーキバスに関する説明は、ホシノがしてくれた。
「アーキバス・コーポレーション。このキヴォトス随一の大企業だよ。主に、兵器の開発・製造・販売を行っているメーカーで、色々と新時代的な武器類を世に出している大御所さんだよ」
ホシノの説明を聞いて、更に私は分からなくなる。
キヴォトスにおいて、兵器は一般的に流通しているものだから、そんな企業があることは道理だし何も疑問を抱くことはない。だけど、兵器のメーカーがアビドスに対して出す依頼って、いったい何だろう。
専門的なことを依頼するわけにはいかないだろうし、そうなると武力が目的だったりするのかなと思い、ホシノに問う。
“どんな依頼を受けてるの?”
「うーん……。色々だね。初めは、ホームページに記載されていた生徒なら誰でも受けられるばらまき依頼。『生徒の戦闘データの提供依頼』っていうのを受けたんだ。それでなんか、そこの社長さんに気に入られちゃったみたいでね~。それ以来、指名依頼を受けることも多いんだよねー。こんなおじさんたちの何がいいんだか」
“生徒の戦闘データの提供依頼……”
少し、違和感を覚える。
多分だけど、アーキバス社が開発している武器の実地検証や品質向上のためのデータ収集が目的なんだろうけど……。ダメだね、カイザー関係もあって少し疑心暗鬼になりすぎている。
これじゃあ、生徒を導く先生としてはあまり良い姿勢とは言えないね。
「あ、やっぱり先生も怪しいと思う? まあ、誰だってそう思うよね。おじさんは兎も角、うら若き少女たちをデータとして欲しいなんて、やましいよね~」
ホシノは軽く扱っているけど、かなりセンシティブな部分を扱う依頼だ。
アビドスのメンバーも怪しいんじゃないかって疑ったみたいだった。
けれど、どうやら悪いようにはならなかったらしい。
「でもね、大したことないよ。おじさんたちが依頼のために本社に向かった時に出てきたのは、正真正銘アーキバスの社長さんだったし。そこで、このデータの扱いは極めて厳重に保管するって言質も取った。しかも、書類付きでね」
少し驚く。
生徒に対して出した、不特定多数に向けた依頼を受領した人に対して企業のトップがやってくるなんて意外だったからだ。誠意を見せるには確かに効果的だけど、それほど大企業というのならそう簡単にスケジュールを空けられないだろうし。
「一人当たり十万円の割高な依頼だったから、おじさんたちも怪しさ満点だって疑ったよね~。結果は、収集できたデータの質が良いってことで、二倍の報酬額が振り込まれたけど……」
「あの時は驚きましたね~。まさか倍になるなんて、思ってもいなかったですから☆」
聞く限り、かなりの優良企業なんじゃないかと思う。
「外部雇用担当っていうペイターさんにも聞いたけど、契約書の内容を放棄するようなことはしないらしいし。それに、そこそこ付き合いは長いから」
“他にはどんな仕事を?”
「うーん……。新しく開発した兵器を開発局から本社へと輸送するための車両を護衛する依頼とか? シュナイダーっていう系列企業からは、新たに建てる支店を建設中にやってくるヘルメット団から防衛するようにとか。傭兵みたいな仕事が多かったね。でも、報酬は弾むよ? 二桁万円から三桁万円。場合によっては四桁万円なんかの依頼もあったりする。依頼の遂行内容によっては色を付けてくれることもあったりさ」
でもやっぱり、流石に報酬額が高すぎるのではないかと思ったりもしてしまう。ただの生徒四人に対する報酬として、四桁万円とはちょっとやりすぎなんじゃないかと。
……カイザーの前例が、アーキバスに対する印象の足を引っ張っている。
けれど、未だ彼女たちが汚い大人たちに使われているのだという可能性を考えると、慎重にならざるを得なかった。
そんなことを考えていると、ホシノが更に言う。
「私たちが元々背負ってた借金は9億6235万円だったんだよ」
“でも、私がここに来たときは9億円って言ってなかった?”
「そうだよ。それも間違ってない。つまりおじさんたちは、6235万円の借金を既に返済したんだよ。アーキバスからの報酬で」
中々、羽振りがいい企業らしい。
……アビドスが借金を抱えていることを知ったうえで、彼女たちを便利な傭兵扱いしている節もある。
そんなことを思ってしまうが、同じことをホシノも考えていたようだった。
「おじさんも、最初はすごく疑ったよ。借金を抱えているアビドス相手に、割高な報酬額を提示して依頼を受けさせるなんて、実質的な私兵じゃないかって。そしてそのまま、アビドスを実効支配する気なんじゃないかって。今でもちょっと疑ってる」
「ホシノ先輩……」
「でも、向こうからしたらそんなメリット一切ないんだよ。アビドスは砂にまみれてるだけの土地だし、私たちの兵力くらいなら全然替えが利く。知ってる先生? アーキバスには、『ヴェスパー』っていうお抱えの精鋭部隊があるんだよ。そこの主席隊長さんと第四隊長さんは、大人のくせに中々強いよ? それに、第六隊長さんは生徒だし」
……生徒を働かせている企業。それが分かり、私は少し顔を顰める。
生徒の本分は学業だから、先生としてはあまり良い印象は抱けない。
「学園が欲しい可能性だって考えたけど、そんなの余計あり得ない。だって、アーキバスは連邦生徒会長と連名で新たに学園を立ち上げてる企業だからね。連邦生徒会長が失踪した今、どうなっているのか知らないけど」
……分からない。
いや、私の中でそのアーキバスという企業の評価が全く定まらない。
ホシノの話を聞く限り、怪しい側面も確かにある。でも、連邦生徒会長と連名で学園を設立したっていう事実は、絶対に悪徳企業じゃできない真っ当な手法だし。
だけど、生徒を企業で働かせているというのはちょっとどうかと思う……。
けど、何か理由があるのかもしれないとも思う。
アビドスに対してなんでそんなに羽振りが良いのか、何か裏の目的があるのではないかと疑ってしまう面もある。
でも、便利屋の子たちを見て麻痺してるけど、正式に傭兵を雇うってなったらそりゃ数十万くらいかかるものでしょ。場合によっては百万円くらいかかってもおかしくない。しかも、五人分ともなれば値段は嵩む。依頼内容を詳しく知ったわけじゃないけど、割と正当な報酬なのでは……?
なんか、話を聞くだけじゃ全然評価できない企業だと思う。
やっぱり、ちゃんと実際に会って話をしてみないと分からないね。
“アロナ、アーキバス・コーポレーションについて何か知ってる?”
『はい! お任せください先生! アーキバス・コーポレーションは今からおよそ二十年ほど前に設立された企業で、代表の方のお名前はスネイルさんです! 実績としては、ホシノさんが今言ったことがほとんどですが、連邦生徒会長と連名で設立した学園、【ルビコン総合技術学園】は、連邦生徒会長の失踪後、アーキバス社が保有していたすべての権限をルビコン生徒会に譲渡したことで、独立した学園になっています!』
ルビコン。その名前には、聞き覚えがあった。確か、私がキヴォトスに来てすぐの頃、レイヴンとエアと名乗る子がそこの所属だと言っていたっけ。
……推定、無罪。
だって、自治権限を生徒会に譲渡するなんて悪徳企業のすることではないし。
兎に角、ホシノたちが大丈夫と言っているのだし多分大丈夫なのだろうと思うことにした。
それはそれとして、いつか会って話をする必要はあるだろうとは思うけど。
そんな感じで話がひと段落したころ、不意にホシノの持っていたスマホが鳴る。
「うへ? あ、アーキバスからの依頼だ……」
「本当ですか?」
「うん。いつもみたいに動画ファイル付き。本当なら対策委員会が全員揃ってるときに見るものだけど……。先生、気になってるんじゃない?」
“う、うん……。正直に言うとね”
「なら、ちょっとばかし依頼内容がどういうものか見てみましょっか」
ホシノの判断により、アビドスに対して届いた指名依頼の詳細が明かされる。
守秘義務とか大丈夫なのかと思ったが、ホシノ曰く「先生なら大丈夫でしょ~。だってシャーレって超法規的組織じゃん? いざとなったら先生の身を差し出せば何とかなるし~」と言っていた。
まあ、私が口外しなければ問題はないか。
そうして流れるのは、アーキバス社のロゴと神経質そうな人の声だった。
『ヴェスパー第二隊長。スネイルです。これより依頼内容を伝達します。私が立案した依頼に応じられること、光栄に思いなさい。今回の依頼内容は、アビドス砂漠を拠点として活動する機械仕掛けの大蛇についての調査です。先日、我がアーキバスはアビドス周辺で巨大な熱源反応を検知しました。反応の規模から推定するに、アビドスに存在するとされる大蛇の可能性が極めて高い。どのような情報でも構いません。もし戦闘ログを入手できた場合は、速やかにそれを渡すように。精々企業を落胆させないよう心掛けることです』
そこで、動画は終了した。
うーん……。
これはちょっと分からなくなってきたぞー?
預言者たちって結構デカいですよね。
ホドやコクマー、ビナーにダアトなんかはACより全然大きいのではと思ったり。