キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション   作:ねうしとら

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解決


絆ストーリー:エア

 連邦捜査部シャーレの部室。そこで、一人の大人が頭を抱えていた。

 

 アビドス高校に対する支援を行い、アーキバス・コーポレーションからの調査依頼を受けた後。

 シャーレに戻り、一人で使える十分な時間ができた先生は、アーキバスの実態について詳しく調べることにした。

 

 カイザーに、ゲマトリア。

 

 この二つの組織と関りを持った先生は、キヴォトスにおける組織としての大人について慎重にならざるを得なかった。

 

 しかし、アーキバスについて調べた結果出てきた内容は、どれもこれも真っ当。いや、あまりに社会に貢献しすぎていた。

 

 様々な資料を閲覧した。

 

 アーキバスがここまでどのような経緯で成り上がってきた企業なのか。何をモットーとした企業なのか。

 アロナに協力してもらい、色々なことを調査した。だが、黒い部分は一片たりとも見当たらなかった。

 

 アーキバスを語るうえで避けては通れないのは、ブラックマーケットを拠点として生活していたはぐれ者を雇い、アーキバスの社員として働かせていたことだろう。

 

 当時の資料を見る限り、やはり色々な組織から指摘を受けている痕跡がある。しかしそれらも、言いがかりに近しいもので、苦し紛れの野次だった。大方、かの企業に良い思いを抱いていない人たちが、ここぞとばかりに責め立てた結果なのだろう。

 

 プチ騒動となったその一件は、連邦生徒会長の介入によって消火されることになった。

 

 学園を設立する許可を与え、所属している生徒たちをその学園の所属とすること。そして、設立に際しての費用の全額をアーキバスに負担させることで、連邦生徒会ですら容易に干渉できない自治区を作り上げた。それが、ルビコン総合技術学園。

 

 つまり、連邦生徒会長はアーキバスが生徒を抱えることに対するこれ以上ない正当性を作り上げたわけだ。

 

 そして、ぽっと出の企業が学園を保有するということに対して不安視する人々への対策として、ルビコンにおける権限の一割未満は連邦生徒会長も所有するということで合意された。

 

 正式にアーキバスが作り上げた学園に、路頭に迷った生徒たちを所属させた。

 

 アーキバスは人手不足に悩まされた結果として取った行動だと明らかにしているが、しかしその行動が多くの人々を救ったこともまた事実。

 

 ただ、善意だけで行動するよりもよほど信頼性があり、企業としてもそれで成長しているのだから経営手腕はお見事というほかない。

 

 加えて、自主性まで尊重している。

 

 強制的に企業に所属させたのではなく、ちゃんと勧誘してちゃんと社員として扱われていると、クロノススクールが発行する雑誌にもインタビュー記事が載せられていた。

 

 そんな事実を目の当たりにして、先生は一人机に突っ伏していた。

 

(……はぁ。私は『先生』なんて呼ばれて調子に乗ってたってことなのかな……)

 

 アビドスを巡って様々な陰謀があった。

 

『契約』を理由とした、一方的な搾取の実態を目の当たりにした。カイザーとて、黒服とてそうだった。

 だから、アーキバス社が、行き場のない子供たちに言葉巧みに魅力的な提案をしつつ、契約書にはそれとは真逆のことを記入して、生徒の自主性を尊重せず、ただ使い勝手の良い労働力として扱っている可能性を捨てきれなかった。

 

 端的に、生徒たちが騙されて今の地位についているという可能性が過ってしまった。

 

 だから少々警戒してしまったし、ホシノが捕らえられた光景がフラッシュバックしてしまった。

 

 だが、彼女たちが自ら志願して労働しているのだとすると、最早何も言うことはない。

 

 自分にすらできない、ブラックマーケットのドロップアウト組を掬い上げたという実績を持つ企業に対して疑心暗鬼となってしまったことに対する自己嫌悪で、先生は悶絶していた。

 

 ある種仕方のない部分はある。

 

 先生が最初に出会った企業と組織が悪かった。

 誠意の欠片もない対応をし、子供が苦しんでいるのを見て愉快そうな態度を隠さない大人に、契約を盾に非人道的な目的を遂行することを厭わない大人。

 

 キヴォトスというのは魔境なのかと疑ったこともあった。

 

 故に、企業に対して不信感を募らせるのは悪いこととは言い難い。

 加えて、アーキバスに対して語るホシノの様子がどこか複雑そうだったことも一因かもしれない。

 

 大人に騙されて捕らえられたホシノが、あれほど微妙な顔つきで語る企業とは何か。あまり良い印象を抱けないのだ。

 

 そんな様子で悶々としている先生を見ながら、シッテムの箱内部でおろおろとしているアロナ。

 どうにか励ましてあげたいが、その方法が分からない。この状態となってしまった先生を励ますのは至難の業だ。

 

 そんな重い空気のシャーレに、一人の客人が来訪した。

 

 白髪、赤眼。モデルのようなスラッとした背の高い美少女。

 ルビコン総合技術学園所属の、本日のシャーレの当番生徒であるエアだった。

 

「お邪魔します、先生。……先生? その、どうかされましたか?」

 

 シャーレにやってきたエアは、一目見て先生の様子がおかしいことに気が付いた。

 いつもなら尋常ならざる書類の山に死んだような瞳をしているくらいで、特段おかしなことはなかったはずだ。

 

 生徒が来たら目を輝かせて元気を取り戻す様子のおかしい人ではあるが、ここまで覇気が萎んでいるのは珍しい。

 

 “あ、エア。こんにちは……。ちょっと色々とあってね”

 

「そうですか……。私でよければ、相談に乗りますよ?」

 

 “あはは……。不甲斐ないけど、お願いできる?”

 

「ええ。私でよければ、よろこんで」

 

 そうして、先生はエアにこれまであったことを説明した。

 個人情報や守秘義務に違反しない程度に、これまでどのような人間と出会い、どのような経緯をたどってきたのか、ぼかしながらも筋が通るようしっかりと説明し、何故今自分がこうなっているのかを語った。

 

 語る際に、そういえばエアはルビコンの生徒だったし、アーキバスに対しての不信感で嫌な思いをさせてしまうかもと躊躇ったが、エア本人が構わないと言ってくれたのでそのまま相談した。

 

「……なるほど。アーキバスの代表は誤解されやすい方ですし、あまり気落ちする必要はないと思いますが……」

 

 “そういうわけにはいかないよ。だって、私は生徒たちを信じ切れていなかったということになるから”

 

 アーキバスに半信半疑となったのは、そこで働く生徒たちの気持ちを信じ切れていなかったということになると、先生は言う。そのあまりにもな理論に、エアは困惑した。

 

「そ、そうなるのですか……? しかし、先生はキヴォトスに来てまだ日が浅い。そんな中で初めて遭遇した企業が、カイザーであったのなら警戒するのも当然だと思いますが……」

 

 先生の話を聞いた限り、エアはそこまで落ち込むほどのことではないと思っていた。

 彼は一貫して生徒のことを想っている。そこに、彼女たちの幸福が存在するのか。彼女たちが自身の意思で働きたいと思ったのか。

 

 カイザーという企業が、生徒たちの気持ちを無視した対応を取り、正当性だけを理由として攻め立ててくる大人げない集団だったから、また同じような境遇にある可能性のある生徒たちに対して、過敏になってしまったというだけのこと。

 

 そもそも、社長であるスネイルの態度さえ問題なければこの話はなかったはずだ。

 先生はアーキバスを悪と断定していたわけではなく、半信半疑の状態で、ルビコンについて知ったことで問題ないと一応は結論付けたはずなのだ。

 

 まあ、スネイルの口調がそれを半信半疑に持っていくことになったのだが。

 

 アーキバスが、悪い大人かどうか。それを判断するために、まずは警戒から入るというのは生徒を守るという意思の表れでもある。

 

「先生は、アーキバスの生徒たちが半ば無理やり働かされている可能性を考慮し、警戒してしまったのですよね? そしてそれは、『契約』を悪用する大人たちが存在していたから」

 

 “そうだね。生徒たちが自主的に働いているのなら、私はとやかく言うつもりはないよ。というか、言う資格がない。あ、もちろん学業を疎かにするのはダメだけどね。でもそれは、企業ではなく生徒個人のやる気の問題だから、そこは先生である私の仕事なのだろうけど……”

 

「ですが、アーキバスについてよく調べていくうちに、そのような懸念は杞憂であることが判明したと。……別に、決めつけたわけでもないのであれば何も問題はないのではないですか? 結果として、認識は改まったわけですし……」

 

 先生個人の中で疑い、そしてそれが晴れたのであれば何の問題もないはずだ。

 

 だって、誰にも迷惑をかけていない。

 

 そもそも、スネイルにも原因の一端くらいはある。人間は第一印象が大切なのだ。

 

 “私は恐ろしいんだ。生徒一人一人を偏りなくしっかりと見ることが先生の務めなのに、企業に対してはフィルターをかけてしまったのが……”

 

 なんだろうか。

 

 “それに、行き場所を失った生徒たちに居場所を与えるなんて、私の理想ともいえることをした人を少しでも疑ったと思うとさ……”

 

「……筋金入りですね」

 

 エアは思った。

 

 めんどくさい大人だと。

 

 これは、先生自身が抱える感情の問題だ。

 

 生徒の幸せを本気で目指している。

 子供の選択は、大人が責任を負うべきだと本気で考え、それを実践している人間だ。

 

 正直、そこまで誰かのために行動することなんて並の人間ではできない。

 

 だから、自分が目指す理想の一部を体現していた人間に対して、疑念を抱いた事実に嫌悪している。

 

 今、先生が凹んでいるのだって巡り合わせが悪かったとしか言えないのだ。カイザーなどに会わなければ、こんな半信半疑になることはなかっただろう。

 

 やはり、カイザーは碌でもないとエアは思う。

 

「貴方のような大人を、私は一人知っています。自らを飼い主(ハンドラー)だと自称する、色々なことに雁字搦めとなった大人を」

 

 エアは、言う。

 

 かつて、学籍を失い、途方に暮れていた自分とレイヴンを拾った存在を。

 

「負うべきではない責任まで背負い、抱えるべきではない重みを抱え、溺れそうになりながら生き続ける。そんな人でした。彼は、学籍を失い、途方に暮れていた私とレイヴンを拾ってくれた恩人です」

 

 少しばかり、この大人に似ているくたびれた人間を。

 

「キヴォトスにおいて、学籍を失った生徒が辿る道は悲惨です。何をさせても問題がないのですから、いい様に使おうとする大人は山ほどいる。そんな中、彼は私たちを自らの道具として使いました。その癖、どこまでも私たちを気遣い、どこまでも私たちの安全を最優先する。矛盾した行動が目立つ大人でした」

 

 自らの目的のために生徒を使うということに罪悪感を抱きながら生きている。割り切ることができない性格の大人だった。

 今ではその目的も果たされ、エアを始めとしたハウンズはルビコン総合技術学園に入学しているが、例え彼は自身の飼い犬に手を噛まれたとしても易々と、苦笑しながら許すのだろうと想像できる。

 

「何もかもに責任を負う必要性はありません。先生がキヴォトスに来る前のことについても、責任を負うつもりですか?」

 

 “生徒が苦しんでいるのなら、そうなってしまったことに責任を持つのが大人だから。例え、私とは関係ないことだとしても、同じ大人に原因があるのなら、その責任は同じ大人である私にもあるからね”

 

 それを聞いて、エアはため息を吐く。

 

 しかし、それは悪い感情ばかりが現れたものではなかった。

 

「筋金入りの先生ですね。ですが、そういった筋金入りの信念を抱いている人間が、良くも悪くも何かを成し遂げてしまうのでしょう」

 

 そう言って、エアは目の前の大人を含めた三人の大人の姿を思い浮かべる。

 

「人は人と戦うための形をしている。かつて私が考えていたことで、今でもそう思っています。憎しみ、罵り、蹴落とし合う。それが人の本性であり、生命進化の鍵なのでしょう。ですから、私のような人間が生まれるのは、ある種必然だったのかもしれません。……ですが、それでも人は互いに手を取り合い、更なる可能性を追い求めることができる。私は、そう信じています」

 

 エアは、自分は本当に地獄を見たわけではないと思っている。 

 何せ、良い大人に拾われた上で、良い大人に拾われているからだ。

 

 自分たちよりもよほどひどい目に遭っている生徒は、たくさんいるのだろう。

 

 そんな中でもたくましく生きる人間を、エアは一人知っていた。

 

「先生。一つ、助言を送りましょう。私の友人の言葉ですが……」

 

 “是非、聞かせて”

 

 

「『生きてるなら笑え』。困難な状況こそ、それでも笑うのだと。あまり、今の先生の状況に適した言葉ではないかもしれませんが……」

 

 その言葉を聞いた先生は、何かに気づかされたような表情を浮かべる。

 

 “……いや、十分だよ。全く、生徒に励まされるなんて先生失格だね!”

 

「そうでしょうか……。私は、一人の人間としての苦悩を前面に出す先生は、親しみやすくてよいと思います」

 

 “そうかな。……でも、そうだね。私はまだまだ未熟で、矛盾だらけの人生を生きて行くんだろうけど、それでも生徒に手を伸ばすことだけは諦めちゃいけない。そう思うんだ”

 

 先ほどまでは苦し気な表情を浮かべていた先生も、今では吹っ切れたのか明るい笑みを浮かべていた。

 どうやら、助言が効いたらしい。

 

「そうですか。ならば私は、そんな先生の旅路をささやかながら応援しましょう」

 

 “エアの応援があれば百人力だよ! そうと決まれば、先輩たちに恥じない先生にならなくちゃね!”

 

 そうして、元気になった先生を見て安心したのも束の間。エアはなんだか不穏な空気を察知した。

 

「……『先輩』? あの、先生。その先輩とは、どなたのことを指しているのでしょうか……」

 

 なんとなく分かっているような気がしなくもないが、彼女は一応確認する。

 すると、先生はやはりというべきか。エアが思い浮かべていた面々を口にした。

 

 “もちろん、アーキバスの社長さんと、エアとレイヴンを拾ってくれたハンドラーさんだよ!”

 

「……その呼び方は、止めた方がいいと思います。どちらも、そのような呼ばれ方を好むような方ではありませんから……」

 

 エアは、先生に先輩と呼ばれたスネイルとウォルターが、とてつもない顰め面をして嫌がる様子がありありと想像できた。

 




一方そのころ、スネイルは提供されたビナーの情報に、本気でオーバードレールキャノンを作るべきか悩みながら、四脚の作成に勤しんでいた。
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