キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション 作:ねうしとら
オープンフェイスが完成したことに喜びを隠せないスネイルです。
しかし、アビドス砂漠で目撃されたビナーなる存在に頭を悩ませています。まあ、企業が直々に手を下す必要はないでしょうが、あの存在がキヴォトスを縦横無尽に暴れまわるとなれば話は変わります。
あの存在に対して本気でオーバードレールキャノンが必要になるのではないかと思い、焦って開発を進めそうになりましたが……。
流石に過剰とも言えるでしょうし、一先ず保留としています。
IA-02ほど巨大ではない上に、常時展開しているシールドがあるわけでもなさそうですから。
スタンニードルランチャーは完成しているのです。使うかもわからない兵器に予算を投入する必要はないでしょう。
さて、今はオープンフェイスについてです。
ACの製作を第一目標とし、日々活動してきた私に相応しい機体名である試作第一号機であり、私専用のACになります。
重量二脚型であり、最初に造る機体としてはあまり適していないのではないかと考えましたが、考えてみれば姿勢安定の観点から、最初に造る機体としての適性はそれなりにありました。
この重量の人型兵器を安定した姿勢で保つというのは、困難であることは理解できるでしょう。
そもそも、設計の段階で苦心したのはそこですから。足がしっかりしているというのはそれだけで理論の段階から練りやすかったということになります。
無論、それならば四脚やタンクを最初に造るべきだと思うでしょうが、それは違う。確かにそれら機体にも優れた点はありますが、記念すべき最初のACが人型とは名ばかりの機体では格好がつかないでしょう。
我がアーキバスが誇るAC、その第一機としてこれ以上ないほど相応しいと満足しています。
ACの開発において、何を追い求めるのか。
それは、社内でも様々な意見が出ました。
中量二脚のスタンダードな機体こそ至高と言う者もいれば、逆関節のスタイリッシュさと機動力の高さを説く者もいました。四脚ACの武骨なカッコよさや安定感に惹かれる者もいれば、防御力こそ全てと言い、高耐久・高火力のタンク型に魅力を感じたガチタン主義など。
それぞれがそれぞれのロマンを追求し、時に殴り合いの喧嘩に発展しそうになったこともあります。
ならば最初に造るべき機体として相応しいものは何か。
大方ACの開発が現実的となってきた時期に上がってきたその議題は、アーキバスのエンジニアたちの中で白熱した議論を呼びました。
結果として、社員たちが『スネイル閣下が造りたい機体を一番最初に造るべきだ』という結論に至ったことで、オープンフェイスが開発されることになったのですが。
あの時の議論はあまりにも鬼気迫ったモノでした。こだわりの強いエンジニアたちのめんどくさい部分に火が着いたのでしょうね。
私とて、最初はナイトフォール辺りを目指した開発を想定していたのですがね。まあ、あの機体はあの機体で、パイルバンカーという使いづらい武器を装備していますが。
しかし、一号機が造れたのですから他の機体も出来上がるのにそう時間はかからないでしょう。
次は恐らく、ロックスミスになるのでしょうね。そうでなければフロイトが駄々を捏ねるのは目に見えています。……めんどくさい。
ACの開発において課題となったのは、何もACの機体構成だけではありません。
搭乗者についての問題もあります。
具体的には、パイロットにかかる負荷でしょう。かなりの速さで動くACの内部には、当然ですが並大抵ではないGが掛かります。この負荷をどれだけ軽減できるかが鍵となっていたのですが……。
結論から言うと、そこまで重要な課題ではありませんでした。
そもそも、キヴォトスにおける人間は私のかつての常識にある人間とは耐久性が段違いですから、意外と問題にはなりませんでした。AC専用のパイロットスーツも開発にそこまで苦労することはありませんでしたから、あまり憂慮することもなく、順調に進んだことです。
代わりに、AC操作における補助機能の搭載を行っています。
フロイトには必要ないかもしれませんが、この世界では強化人間などと言う狂気の産物は存在しません。そのため、いくらキヴォトスの人間だろうとただの人間である限り、ACを十全に操作できるとは限りません。多少の補助機能は必要不可欠でしょう。そのため、我が社が開発したACに搭載しているCOMに、その役割を与えています。
物理的な耐久性が高いキヴォトスの人間は、ACの操作における負荷もそれなりに無視できるというのは良い知らせでした。
あまり深いことは考えずに開発することができたのは僥倖でしょう。
そもそも、ACに乗るのはヴェスパーの人間だけを想定していますから、ここら辺はあまり配慮する必要もなかったのかもしれません。
ACを軍用兵器として売り出すつもりは今のところありません。量産可能な人型兵器としてはあまりにも価値が高いことは分かりますが、これを世に出してしまえば齎される影響はかなり大きなものになるでしょう。
下手をすれば、キヴォトスが混乱に陥る可能性もあります。
なんだかんだで適応しそうな気がしなくもないのが恐ろしいところですが、無駄に騒ぎを起こすことはしたくありません。ですから、ACは当分は我が社が独占することになるでしょう。
他企業から何か言われる可能性もありますが、法律は守っていますので。
巨大人型機動兵器を作り、それを運用してはならないなどと言う法律は存在しませんし。そもそもキヴォトスにおいて自治区ごとに規則は異なるわけですから、考えるだけ無駄と言うことです。
欠片たりともACの技術をカイザーなどと言う企業とは名ばかりのドブネズミに渡ってほしくないと思っているわけではありません。ええ、そんなことは思っていませんよ?
とはいえ、これほどの兵力を持ったアーキバスであれば、例えカイザーの害獣だろうが一蹴できるでしょう。最早あのゴミに気を遣う必要もないのです。何かあれば、ACをチラつかせるだけでよいのですから。
愉快極まります。
さて、オープンフェイスの一時開発完了に基づき、実際に戦ってみたくはあるのですが、現状その相手がいません。
我が社には、完成したACを実際に動かすためのテスタールームが存在していますが、今のところ完成したACは私のオープンフェイスのみです。
操作感覚の慣らしや実際に破綻なく動けているかなどを確認するのには十分ですが、それはオートパイロット状態で問題ないのは確認済み。やはり実際に戦える相手と言うのが欲しいところです。
オープンフェイスもまだまだ改良の余地があるでしょうから、実際に戦闘データを取るのは有意義なのですが……。
どうしたものか。
ロックスミスの完成まで待つというのも一つの手ですが、折角です。
ルビコン総合技術学園辺りに依頼を出し、実際に生徒相手にACはどこまでやれるのかと言うのを確認するのも良いでしょう。
アビドス高校の生徒たちが、ビナーという大蛇と多少戦闘したというログは先日の依頼で確認していますから、やはりキヴォトスの生徒は自らの何十倍も大きな相手だろうと戦えることは実証済みです。
メーテルリンクにも聞きましたが、ACを生身で相手する場合、非常に厳しいが努力すればやれなくはないだろうと言っていました。勝てるかどうかは別だとも話していましたが。
ではそうと決まればさっそくルビコンに依頼を……。
いや待て。
そうです。シャーレの先生に依頼を出しましょう。
連邦捜査部シャーレに着任した先生とはまだお会いしていませんでしたし、シャーレは無制限で生徒を加入させることができる部活です。
ならば、我がオープンフェイスと戦うための人材に困ることはないでしょうし、先生と知見を得る良い機会にもなります。
我ながら良案です。
生徒が有する『神秘』に対してどれほど通用するのかを検証する機会にもなり、シャーレの先生と会う口実にもなる。
開発段階でもメーテルリンクの協力のもと、装甲やACSを攻撃してもらったことはありますが、他の生徒の攻撃を実際に受けたことはありません。
シャーレの先生が誰を連れてくるのかは分かりませんが、つい先日アビドスを訪れていたとのことですし、恐らくアビドス高校の誰かが来るのではないかと推測します。
しかし、生徒と戦うことを想定するとなると、オープンフェイスに搭載しているレーザーランスやスタンニードルランチャーが危険すぎる可能性がありますか。
業腹ですが、企業としては配慮しないわけにもいきませんね。
無難にレーザーハンドガンと三連プラズマミサイルにでも変えておきますか。
◇◆◇◆
『連邦捜査部シャーレの先生。これは、当社アーキバスからの依頼です。我が社はこの度、新たな兵器の開発に成功しました。シャーレには、この兵器をテスト運用するにあたり、協力して頂ける生徒の仲介をお願いしたい。できるだけ、多くの生徒を連れてアーキバス本社にいらしてください。ブリーフィングは以上です。よろしくお願いします』
落ち着いた声音の男性から、依頼内容についての説明がされた。
連邦捜査部シャーレに対して、アーキバスからの指名依頼。新たな兵器の開発に成功したため、そのテスト相手となれる生徒を紹介してほしいとの依頼だった。
この依頼に対して、先生は少し考えていた。
シャーレを通す必要のある依頼なのかどうか。兵器のテスト運用のための生徒ならば、アビドスの子たちに依頼するだけでも十分な気がする。
つまり、向こうはシャーレに用があるのだと見て間違いないだろう。それ以上のことは推し量れないが、それだけは確かだ。何が目的なのか。案外、ただシャーレの先生について興味があって邂逅するための場を用意しているだけかもしれないが。黒服も似たようなことしてたし。
そんなことを考えながら、先生は少しテンションを上げていた。
いつかは会いたいと思っていた相手から直々に誘われたのだ。これ以上ないほどの機会に、先生は僅かに興奮している。
“生徒かぁ……。私はまだ知り合えている子たちが多くはないし、無難にアビドスの子たちと、便利屋の子たちになるのかな。あとは、ダメもとで風紀委員会にも声をかけてみようかな”
そうしてモモトークを開き、生徒たちにメッセージを送る。
結局、都合が着いたのはアビドスと便利屋の面々だけだった。しかし、九人もいれば十分だろうと先生は考える。新たな兵器のテスト運用がどのような物かは知らないが、これほどの人数がいて足りないなんてことは早々考えられない。
そんなことを考え、スケジュールを組み立てながら雑務を熟し、当日に備える。
どのような人物が待ち構えているのか。
流石に社長に会えるかどうかは行ってみなければ分からないが、それでもアーキバスと接点を持てるのは幸いだった。
「アーキバス・コーポレーション代表取締役社長、V.Ⅱスネイルです。何やら見知った顔が並んでいますが、まあいいでしょう。想定の範囲内です。……そして、あなたがシャーレの先生ですか」
“初めまして。私がシャーレの先生です。以後お見知りおきを”
まさか本社に訪れて早々、社長であるスネイルが出てくるなんて思わなかったため少し驚いている先生。
エアから人柄について教えてもらわなかったら、絶対誤解したままだっただろうななどと思いつつ、神経質そうな性格を隠す気がない目の前の人物と会話する。
「ええ。超法規的組織の責任者たるあなたとは、良き関係でいたいものです。浅ましい営業努力は企業のすることではありませんが、知己を得られて光栄とでも言っておきましょう」
なんだかすごいことを言っているような気がするが、あまり気にする必要はない。話半分に聞けというのが、スネイルとの関係を長続きさせるためのコツだとエアが言っていた。
「他の寄せ集めに関しては、言うことはないでしょう。早速ですが本題に入ります」
スネイルはそういったが、しかしここで待ったをかける人間がいた。
アビドス廃校対策委員会の委員長、小鳥遊ホシノである。
彼女は、一つだけ絶対に聞いておきたかったことがあった。
次にスネイルに会う機会があれば絶対に聞くべきことだった。
「うへ~。……あのさ、ちょっと聞きたかったんだけど。ビナーの情報提供額が二億円ってどういうこと?」
そういえば、ビナーの調査で分かった情報をアーキバスに提供したら、口座に二億円が振り込まれていたって誤字だらけのモモトークが送られてきたっけと、先生は今更ながら思う。
「どういうことも何も、それ以上の意味はありませんが? 我が社の依頼を遂行したアビドス対策委員会に対する正当な報酬金額です。それとも、まだ足りないと?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
ホシノは困惑している。
あまりにも大きすぎる金額を振り込まれたことに対してどのような感情を抱けばいいのか分からなくなっているのだろう。
しかし、スネイルは無情である。
そんなことより、さっさとACについて説明したいと思っていた。
「そのような些事で企業を煩わせないように。今は前回の依頼について話している暇はありません」
組織が組織に対して支払う金額としては普通のことなんじゃないかと先生はホシノに対してフォローを入れていたが、それでもあまりに動いた金額が大きすぎて混乱しているようだった。
未だ咀嚼しきれていない現実がありながらも、今やるべきことはそれではないと無理やり区切りをつけて、ホシノはスネイルの話を遮らないようにした。
「さて、では話を戻します。今回あなた方に依頼するのは、我がアーキバスが開発した新たな兵器。その運用についてです。今からお見せするのは、我が社の悲願。その最初の一機になります。これが果たして兵器として破綻なく動き、そして十分な性能を持っているかどうかを実際に戦うことで証明する。それが、今回の依頼内容となります」
スネイルの言葉に、この場の面々が様々な疑問を抱く。
ただの兵器のテスト利用にしては、やや仰々しすぎる言い回し。そして、“一機”という表現方法。通常、武器の類はそのような数え方はしない。
加え、どうやら依頼内容は自分たちが新たに開発された兵器を扱うのではなく、どうやらそれと戦うらしい。
違和感ばかりを覚えるが、しかし確固たる結論は未だ出せない。
そんなモヤモヤを感じながら、一同はスネイルに導かれるままアーキバス本社の巨大地下空間に足を踏み入れていた。
そして、そこで初めて目の当たりにする。
目の前には、自身の十倍ほどの大きさを誇る人型の立体物が鎮座していた。
紫色を基調とし、両手両肩に武装が施されている兵器。
有り体に言えば……。
“巨大ロボットだー!!”
そう、巨大ロボットである。
目を輝かせ、興奮する先生。
そして、そんな先生の反応を満足げに見つめながら自慢げに語り始めるのはスネイルだった。
「これぞ、我が社が全精力を尽くして開発した人型機動兵器! 名付けて、アーマード・コア! 今からあなた方には、このACに搭乗した私と戦っていただきます」
“の、乗れるの!?”
「無論です。ACの真価は有人であることにこそあります。有人機体であることにこそ、強さが如実に表れるのですから」
先生は更に興奮する。
こんなのは正に夢のような現実だ。
目を輝かせ、在りし日の少年の思い出を存分に出し切っている。
「シャーレの先生。貴方はどうやら、私のロマンを解する人間であるようだ」
“もちろんだよ! 巨大ロボットなんて、全人類の夢だからね!”
そのセリフを聞いて、スネイルは非常に満足していた。
まさかこれほどまで話の分かる大人が現れるなんてと感動すら抱いている。
このキヴォトスにおける大人など、アーキバス社員以外は碌でもない人間ばかりだと思っているが、やはりキヴォトス外から来たシャーレの先生は違ったのだ。
「では、企業からの依頼です。このAC『オープンフェイス』に搭乗した私を相手に五分間戦うこと。これが、今回の依頼となります。精々、足掻くことです」
そして、生徒たちと企業の戦いが幕を開けた。
ホシノ:最早疑う必要なんてなにもないと、ACを見て思った。
シロコ:ん。これがあれば銀行強盗なんて楽勝。
ノノミ:すごいですね~☆
セリカ:……すっご。
アヤネ:すごいです……。
アル:かっこいい……。
カヨコ:えぇ……。
ムツキ:あははっ!
ハルカ:す、すごいですね……。
『オープンフェイス』
ブースター:FLUEGEL/21Z
FCS:VE-21B
ジェネレーター:VP-20D