キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション   作:ねうしとら

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届かなかったか…。


時計じかけの花のパヴァーヌ編
次の一手


「スネイル。なぜ俺を戦わせなかった」

 

「……先日の依頼は、オープンフェイスの機体性能の確認及び、生徒相手にACがどこまで戦えるのかを確かめる目的で行ったものです。貴方のロックスミスはまだ調整が終わっていないでしょう」

 

「ACに乗れなかったことを言っているんじゃない。アビドスと便利屋相手に俺も戦いたかったということを言ってるんだ」

 

「……流石に死にますよ?」

 

 連邦捜査部シャーレに対して、対AC戦闘依頼を出したことをよりにもよって最も面倒な相手に知られてしまいました。

 何かにつけて戦いたかったと愚痴を吐く彼の姿を見るとそろそろ辟易してきます。もう三日はこの調子なのですから。

 

 そろそろ、怒りが負荷限界に達しそうです。

 

 ……はぁ。

 

 フロイトに付きまとわれている私を見ながら、面白そうにフィーカを嗜んでいるオキーフとラスティはどういうつもりなのでしょうか。確かに、最近はヴェスパーとしての任務に関しては落ち着いていますが、日々の業務は健在ですが?

 

「いやなに、今日の分の業務は済んだのでな。こうして優雅なコーヒーブレイクと洒落込んでいる」

 

「オキーフほど忙しくはないが、私も必要な仕事は終わらせている。適度に余裕を持つのも社会人としての嗜みさ」

 

「それは私への当てつけと受け取ってよろしいか?」

 

 企業として日々業務に追われている私に対する皮肉だとするのであれば、私は企業として然るべき措置を取ることもやぶさかではありません。

 具体的には、私の業務の五パーセントをそれぞれに押し付けます。これならば、文句も言っていられなくなるでしょう。

 

 まあ、それはさておき。

 

 オキーフが仕事を終えているというのは珍しい。

 

 情報工作を始めとした、スパイ活動の大半を行っている第三隊の隊長である彼は、日々様々な情報の波を泳いでる状態です。

 無論、公私ははっきりと分けるべきですが、いつもであればもう少し仕事をしているはずの彼がラスティと共にフィーカを啜っているのは、企業としては少々疑問です。

 

「……あなた方の能力を疑うつもりはありませんが、オキーフは最近忙しいのでは? 色々と情勢も変わりつつあります。連邦生徒会長の置き土産が、そろそろ動き出す頃でしょうし」

 

 連邦生徒会長が失踪したことによる影響は、未だに色濃く残っています。 

 シャーレの先生とて、その身は一つしかない上に、真に連邦生徒会長の代理となれている訳ではありません。

 

 どちらかといえば、どこからでも依頼を受けることができる何でも屋として世間には認識されていたりします。

 アビドスでの活躍も、世間に知られることはないでしょうし。

 

 まあ、連邦生徒会長がその地位にいたときでさえ、世間の大半は彼女が普段どのような業務を行っているのかなど知る由もなかったのですが。

 

 そういうものです。

 

 まあ、企業の諜報部隊を退けたのは流石と言っておきましょう。

 

 さて、私の疑問に対してラスティが口を開きます。

 連邦生徒会長の置き土産と聞き、彼にも思い当たる節はあったようだ。

 

「エデン条約か。トリニティとゲヘナ、犬猿の仲である両校の関係改善のための武力機関を設立する条約だったな……。あまり、良い方向には進まなさそうだが」

 

「そうだな。現ティーパーティーホストである桐藤ナギサが率先して調印を結ぼうと活動的になっているが、ゲヘナがそれを真面目に受け取るかどうかが問題だろう。本来は、ゲヘナの前生徒会長に対する連邦生徒会長の奇策として用いられるはずだったものらしいがな」

 

「空中分解同然の条約を形にするところまで持ち直したのは、見事な政治的手腕だ。だが、発案者でもあり仲介役でもあった連邦生徒会長が不在である現状、あまり事を進めるべきではないように思うが……」

 

「さてな。だが、トリニティには焦りが見られる。何を原動力としているのかは知らんが、今最もエデン条約に対して積極的なのは、現ホストの桐藤ナギサであることには間違いない」

 

 仲介役程度であれば、シャーレが代用できそうな気がしますが。

 とはいえ、連邦生徒会長とシャーレでは様々なことが異なります。立場も信頼も、何もかもが今のシャーレには足りていないということでしょう。

 

 先生が今の段階で完全な中立であるのか、それが確信できるだけの根拠がありませんから。

 

「……それで、仕事の方はどうなのですか? エデン条約に関して企業は無関係ですが、三大学園の二つが関係してくる条約を巡って、キヴォトスは様々な影響を受けるでしょう。貴方も忙しくなりそうですが」

 

 私が聞きたかったのはこれです。

 

 何故か私の疑問をきっかけにオキーフとラスティが、私を無視して話し始めましたがね……。

 

「事実として、これから忙しくなる予兆が見える。今後しばらく、こうしてフィーカを嗜むこともできなくなるかもしれない。だから今のうちに休んでいるわけでもある」

 

「そういうことですか」

 

 諜報部隊の長であるオキーフが絡むと、政治の話になってしまうのは仕方のないことですが……。きな臭い話ばかりが入ってくると、流石にうんざりします。

 

 企業にとって、不利益となりそうなことを事前に知るために、第三隊にはキヴォトスにおける情報収集を行ってもらっています。そのため、ある程度政治が絡むのは致し方ありません。

 

「何か動乱が起こりそうでしたら、今からでもトリニティやゲヘナにあるアーキバス系列企業へ、注意喚起でもしておきましょうか」

 

「そうだな。それがいいだろう。うんざりするが、備えておくに越したことはない」

 

 ……既にフロイトはどこかへ行ってしまっていますが、丁度いいでしょう。

 我が社のエンジニアたちとの定例会議も近づいています。そろそろ、プランも次の段階へと足を踏み入れるべきでしょう。

 

 我が社におけるAC開発における技術は、凡そ煮詰まってきました。

 

 当分、この技術を他所へと流すつもりはないにせよ、ビナーという存在が確認されているキヴォトスにおいて、ACを隠し続けるのは非現実的です。

 そもそも、開発が成功したのであれば、遅かれ早かれ世間の目には晒すつもりでしたが。せっかく完成させた機体を企業内だけで運用する等、全く以て非合理的でしょう。

 

 ACという兵器を保有しているという事実は多方面への抑止力にもなります。

 企業間のパワーバランスをアーキバス優勢に傾ける一手にもなる。

 

 AC技術やACのパーツは独占し、市場に流れないよう調整するにせよ、世間の目に晒すのであれば、必然的にACを模倣した技術が世に出るのは時間の問題です。こちらがどれほど情報管理を徹底しようと、全てを防ぐことなど不可能。

 

 であれば、技術的優位にある我々が取るべき行動は一つ。

 

 AC擬きが開発されたとしても、それを上からねじ伏せられる武力を保有すること。

 ACの模造品など、ヴェスパーで十分に思えますが、抑止力を持っておくのは良いことです。念には念を入れておきましょう。例えACが造れたとて、それで企業に敵うなどといった思い上がりをしないように。

 

 あらゆるリソースの関係上、造れたとしても一機が限界であり、それ以上を求めるのであれば十年の月日が必要となるでしょうが、構いません。

 

 そもそも、本来このキヴォトスではACが完成しただけで企業としては十二分なのですから、これはあくまでサブプランとして、使わないに越したことはないという予備に当たります。

 

 AC技術の向上や他の機体の開発と並列する関係上、すぐに出来上がることはないでしょうが。

 

 それでも、切り札として持っておくべきものでしょう。

 

 

 それ即ち、特務機体。アーキバス・バルテウスを。

 

 

 とてつもない費用が掛かるでしょうが、必要経費として割り切りましょう。

 

 バルテウスに関する情報は、AC以上に極秘扱いする必要があるでしょうから、これに関してもウォッチポイントを十二分に活用することになるでしょう。

 

「そういえば、スネイル。さっきまでフロイトに絡まれていたようだが、生徒たちと戦ったんだろう? どうだった、戦ってみて」

 

 ふと、ラスティから話題を振られました。

 生徒たちと戦ってみた感想ですか……。

 

「強い。その一言に尽きます。アビドスと便利屋というキヴォトスでも屈指の集団を相手取ったというのもあるでしょうが、人間離れした身体能力で食らいついてくるのは厄介でした」

 

 ACS負荷限界まで衝撃を与えられたのは、不覚を取ったと言っていいでしょう。

 

 相手が一枚上手だったということでもありますが。

 

 生徒を相手にするのであれば、四脚でホバリングしながら足を止めずに上から爆撃を繰り出すのが最も効果的なのかもしれませんね。

 

 まあ、今のキヴォトスなら四脚AC一機あれば、どこかの自治区の一つくらいはこの作戦で機能不全にできそうですが。

 そんなことをすれば戦争待ったなしでしょう。企業がすることではありません。

 

「なるほど。ACに対して生身の人間が九人で対抗できるのが異常なのか、それとも神秘というのはそういうものなのか。中々興味深い」

 

 私の率直な評価に、ラスティが笑みを浮かべている。

 

 彼はフロイトほど戦闘狂ではありませんが、強者との戦い自体が嫌いと言うわけでもありません。

 どのような背景を持ち、戦うのか。何かを背負った人間を尊重し、その上で敵対するのであれば真っ向から打ち砕く。

 

 それが、ラスティという男です。

 

「シャーレの先生も、また厄介な存在でした。彼の指揮能力の高さは、ヴェスパーだろうと上回る。それほどまで適切な判断力を有しています。くれぐれも、シャーレに対して敵対的な行動を取らないように」

 

「それほどにか。やはり、連邦生徒会長が選んだだけあるということか」

 

「そうでしょうね。……そういえば、シャーレの先生は今何をしているのでしょう。オキーフ、何か知っていますか?」

 

「シャーレの先生は今、ミレニアムを訪れているようだな。そういえば、ミレニアムのセミナーとはどうだ?」

 

 ふと、先生が今何をしているのか気になり、情報を持っていそうなオキーフへと尋ねました。

 結果として、返ってきた答えはミレニアムを訪れているということ。

 

 アビドスのように、また何かの依頼を受けたのでしょう。

 

 そして、オキーフはミレニアムと私の関係について何か進展がないか問うてきました。

 

 現状、何も進展はありません。

 

 互いに個人的な関係を続けている。そこに、企業と学園という関係性は持ち込まず、ただの一技術者として話し相手になる。その程度です。

 

 正直、そろそろ時間の無駄と思えてきましたが、この関係を白紙に戻すのは企業として悪手以外の何物でもありません。

 

 商売と言うのは、人脈が必須ですから。

 

「現状維持、といったところでしょう。EN武装を取引材料としていますが、ミレニアムとてエネルギー武器の類は開発している。業務提携を結ぶには、どうやら互いに抱えているものがあるらしい」

 

「セミナーが、か?」

 

「というより、セミナーの会長がですが。会計や書記と関わる機会はあまりありませんから、彼女たちがどういった人物なのかについては、あまり詳しくないのですよ」

 

「三大学園の一角として、相応に厄介なネタも抱えているのかもしれん。ミレニアムは他に比べて情報管理が徹底されていて、あまり詳しく知らないがな」

 

 そういえば、私も近々ミレニアムへと足を運ぶ用事がありましたね。

 

 機会があれば、先生とも会うかもしれません。

 

 




特務機体はバルテウスのみ
エクドロモイやカタフラクトもかっこいいけど、あくまでメインはACなので。

バルテウスは、ほら、閣下と言えばね?
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