キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション   作:ねうしとら

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エリドゥ攻防戦

 アリスは、勇者ではなく魔王でした。

 

 モモイやミドリ、ユズにネル先輩。そして先生。

 

 アリスの大切な人たちは、アリスが知らないセーブデータによって傷つけてしまいました。

 キヴォトスを滅ぼすべくして造られた存在であると会長に教えられ、大切な人を傷つけるくらいなら消えた方が良いとアリスは思いました。

 

 ですが、モンスターと同じ名前を持つスネイルさんと、そんな彼のパーティーメンバーであるラスティさんが言いました。

 

 アリスがいなくなった世界で、モモイたちが楽しそうに暮らしている中、その輪の中にアリスがいなくても良いのかと。

 

 それを聞いたとき、アリスはまるで倒したくないモンスターを倒してしまった時のような。友好MOBに攻撃をしてしまったときのような、そんな感覚に襲われました。

 

 アリスがいるからみんなが危険なのに、みんなと一緒にいられないのは嫌だったのです。

 それに気が付いたとき、アリスはやっぱり勇者になりたいと思いました。

 

 みんなと一緒に冒険をして、ゲームを作って楽しく暮らしたいと願いました。

 

 仲間を信じるのも、勇者の役目です。

 

 スネイルさんは、アリスを助けるために先生たちがやってくると言っていました。そして、その時に大人しく助けられる準備をしておくべきだとも言っていました。

 

 ですが、アリスはまだ迷っています。

 

 本当に助かるべきなのか。魔王であるアリスは、世界を滅ぼす存在です。

 確かに、アリスはみんなと一緒にいたいです。モモイやミドリ、ユズたちと一緒にずっとゲームをやっていたいです。

 

 ですが、アリスがいることで世界が滅んでしまうこと自体が解決したわけではありません。

 

 それに、本当に先生たちが助けに来てくれるのかも分かりません。

 

 もしかしたら、モモイはアリスのことを嫌いになってしまっているかもしれません。

 

 アリスは我儘です。

 

 勇者になれなかった魔王なのです。

 

 勇者になりたいけれど、勇者の資格がないのかもしれません。

 ですから、アリスは問います。

 

 魔王であるアリスでも、勇者になってもいいのかと。

 アリスは、きっと助けに来てくれるモモイやミドリ、ユズや先生に聞きます。

 

「……そして、拒絶されてしまったらどうするのですか」

 

「その場合は、アリスは大人しく消えるとします。本当に嫌ですけど、みんなに嫌われてしまえば仕方ありません」

 

「……理解不能」

 

 目の前で問いかけてくる、自分自身に応えます。彼女はまだ、分からないようですが。

 

 アリスはきっと、答えがあると信じています。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 要塞都市エリドゥ。

 

 今宵、そこに侵入してきた人影が確認された。

 調月リオ、そしてアーキバスが想定していた通りの人間。

 

 ゲーム開発部に、C&C。それから、シャーレの先生。彼らに対する協力者として、エンジニア部にヴェリタスまでバックアップとして控えている。

 

 かなりの戦力を前にして、それでもリオは引かなかった。

 

 いや、引く理由がないと言うべきか。

 AMASというロボットの私兵を保有しているリオにとって、数の問題は無視できる。

 

 アバンギャルド君という秘密兵器も用意しているうえに、C&Cのメンバーであるトキも控えている。

 更に、そのトキにはリオが開発した武装が用意されており、対名もなき神々の王女を想定したアビ・エシュフなるパワードスーツも存在している。

 

「……ミレニアムにもこれほどの技術があったとは。中々侮れん」

 

 アビ・エシュフを観察したスネイルが言う。

 

 規模こそACに劣るが、局所的にACすら凌駕しかねない性能を有している。

 要塞都市に張り巡らされている電力をアビ・エシュフに集中させることで、規格外の演算機能を有するこれは、疑似的な未来予知すらも可能にするほど。

 

 これと相手をするのであれば、相応の準備は必要になるだろう。

 

「パワードスーツか。これもこれで、中々かっこいいな」

 

「デザイン自体は悪くありませんが、如何せんコアである人体が露出しているのが気になりますね。いえ、見栄えとしては悪くないのですが」

 

 一人のエンジニアとして火がつきそうになるスネイルだったが、リオが外敵に集中している現状であるため、あまり熱を込めないように気を付けている。

 

 現在は、要塞都市が侵入者を迎撃するために都市そのものの構造を変化させている最中だ。

 C&Cというミレニアムの精鋭部隊が敵に回っている以上、最善は常に取っておく必要がある。

 

「……あのアバンギャルドとかいうのは、どうにかならなかったのですか?」

 

「いいデザインだと思うのだけれど」

 

「……本当に、アビ・エシュフを作成したのと同一人物なのか、私は疑わしくなってきました」

 

 迎撃しているはずなのに、順調に攻略が進んでいる状況に切り札を投入したリオ。

 

 そんな切り札を見て、苦言を呈するのはこの男。アーキバス・コーポレーション代表取締役社長。スネイルだった。

 

 性能だけ見るのであれば、十分以上のものを誇るアバンギャルド君だが、如何せんデザイン面において全てを台無しにしている。

 何故、円柱の胴なのか。何故、キャタピラなのか。何故、顔があのような冒涜的なデザインなのか。

 

 子供のおもちゃだと言われた方がまだ納得のできるデザインに、スネイルは頭を抱える。

 

 キャタピラなのはまあいいとして、それが他の部品と一切調和していないのが問題だった。

 極めつけは顔。やはり顔。あのような顔文字のような頭部パーツでは何一つとして調和することがない。

 

 兵器として相手を油断させ、見た目にそぐわぬ性能で迎撃するのが目的なのであればまだ合理的であると言える。

 

 しかし、リオ本人は至って真面目にこれが最良だと信じて疑わない態度を取っている。

 

 これではロマンも糞もない。

 

 スネイルは嘆いた。

 

 この壊滅的なセンスの持ち主が、どのようにしてアビ・エシュフのシンプルかつ流動的で洗練されたデザインに行き着いたのか疑問しか浮かばない。

 

「戦況は、かなり不利ですか。先生の指揮能力の高さは私も身を以て知っていますが、やはり生徒の戦力が勝敗を分ける要素となるでしょう」

 

「飛鳥馬トキ一人に任せるには、些か荷が重かったようです」

 

「仕方ないわ。アビ・エシュフの投入を視野に入れましょう」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

 シャーレの先生率いる生徒たちの軍勢は、やはり一筋縄ではいかない脅威であるようです。

 

 私とラスティも戦況を共有していますが、生徒の総数で負けている調月リオを始めとした要塞都市陣営は苦戦を強いられています。

 飛鳥馬トキはC&Cの対処に精一杯であり、AMASの相手であればエンジニア部とゲーム開発部で十分。

 

「武装」を施している飛鳥馬トキでさえ、C&Cの連携に後手に回っている状況です。

 

 この状況を冷静に判断した調月リオは、飛鳥馬トキに対して一時撤退を命令しました。アビ・エシュフを投入するためでしょう。

 

 そうして、一時撤退した飛鳥馬トキを追うようにタワーの入口へとやってきた先生たち。

 

 入口の前では、門番のように飛鳥馬トキが待ち受けています。

 彼女は投入された。

 

 アビ・エシュフを装備した飛鳥馬トキ相手では、戦況は一転。

 エリドゥ側が有利となり。

 

「さて、どのように攻略するのか。見ものだな」

 

「楽しそうですね、ラスティ」

 

「ああ。私も戦いを専門とする人間だ。必然、興味は湧くさ。あれほどのスペックを持った相手には、策を講じることでしか突破口は見出せない。そして、そのか細い糸を手繰り寄せることができるかどうかは、彼女たちの知恵に準ずる」

 

「それには同意しましょう。エリドゥの電力を集中させたアビ・エシュフの相手と言うのは、正に要塞都市そのものを相手にしていると同義。あまりに隔絶したスペックを前に、生身の人間にできることは限られています」

 

「しかし、どのような武装にも弱点はある」

 

「それを掴むことができるのは、実力から考えるに美甘ネルのみでしょう」

 

「この展開、読めなくなってきた」

 

「そうですね。……さて、どうやら動きがあるようですよ」

 

 私たちは美甘ネルと飛鳥馬トキの戦いの行く末を眺める。

 

「……なるほど。空中ならば条件は五分か」

 

「しかし、根本的な性能差を埋めるには至りません」

 

 陸上専用の武装だと見て、空中ならばやりようがあると判断したのでしょう。しかし、それだけでは不十分だったようです。

 

「一時撤退を判断したようですね」

 

 私はコーヒーを口にしながら言う。

 

「さて、ここから先はどうなるかな」

 

 ラスティが笑みを浮かべながらそのようなことを言います。まるで、映画の先の展開が気になる子供のように。

 

 

 

 

 

 そこからは、怒涛の展開でした。

 

 中央タワー内部での攻防戦。主砲を真正面から受けたにも関わらず、気合だけで耐えてみせた美甘ネルの根性により、飛鳥馬トキはエレベーターへと押し込まれた。

 

 そして、エレベーターの重力加速度が十倍となる。

 

「トキ、早くそこから出て!」

 

 調月リオの叫び声が聞こえますが、一手遅かったようです。

 

「これは……」

 

「重力加速度が十倍となったエレベーター内では想像を絶する力が加わるでしょう。アビ・エシュフはエリドゥの電力、そして演算機能を集中させた武装であると同時に、それを活用した防御機構が売りです」

 

 しかし、演算機能がパンクするほどの情報量を叩き込めば、回避システムは一つの情報を処理するだけで手一杯となってしまう。

 通常の攻撃を無効化するだけの効力を失う。いえ、手が足りない。と言うべきですか。

 

「どうやら、策を講じてきたようですね」

 

 とはいえ、重力加速度が十倍となったエレベーター内でさも当然のように動くことができる美甘ネルは異常であるとしか言えませんが。

 

「勝負あったな」

 

 さて、これで決着はついたでしょう。

 ここから先は、先生たちを出迎えるとしましょう。

 

 私とラスティは、中央タワー最上階の客室から出て、先生や調月リオたちがいるであろう部屋へと赴く。

 

 すると、そこでは何やら会話が行われていた。聞こえる内容から推測するに、くだらぬ問答の類であると断定し、考える必要のない些事であると結論付けます。

 

「本当に……貴方たちはここまで来たのね」

 

「近い将来、キヴォトスの脅威になることが確定しているあの子を救うために……」

 

 そして、一通りの話が終わったころ。

 

 ゲーム開発部の面々が、天童アリスのいる場所へと向かった時に、私たちは顔を出しました。

 

「よくもまあ、ここまでたどり着いたものです」

 

 “あなたは……”

 

「お久しぶりですね。シャーレの先生。このような形で再会することになるとは、些か不満ですが」

 

 中央タワーの最上階へとやってきたゲーム開発部、及び先生の前に私は姿を見せる。

 どうやら驚いている様子ですが、まあ当然でしょう。私は今まで一度たりとも存在を示唆するような行動はとらないようにしてきましたから。

 

 “なぜ、ここに?”

 

「私は調月リオからの協力要請に基づき、キヴォトスの崩壊を招く存在に対して措置を講じるべく招かれているのです」

 

『彼は……。アーキバスの社長、スネイル?』

 

 通信越しのヴェリタス副部長、各務チヒロという少女が企業の名を呼ぶ。

 

「私のことを存じているとは、良い心がけです」

 

『会長は、外部の人間を招いていたってこと……?』

 

「ええ。独善的な行動であることは認めますが、少なくとも企業に協力を要請する程度の理性は持ち合わせていたようです。尤も、それは同じ学園に所属するあなたたちが信頼できないというメッセージと捉えることも可能ですが」

 

 私がそう言えば、通信越しのチヒロという少女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべました。

 

「私が調月リオと結んだ契約は、天童アリスがミレニアムでは対処しきれない脅威と認定された場合に限り、問題解決のため介入措置を取る。というものです」

 

 “つまり、まだ敵ではないと?”

 

「そういうことです。私は、現段階ではあくまで招かれただけの部外者に過ぎません。天童アリスがキヴォトスにとって害のある存在か否かを審判することが、今の私の役割です」

 

 私がその発言を終わらせたその時。

 

 不意に、部屋に存在するありとあらゆるモニターがハッキングされ、『Divi:Sion』という文字列が浮かび上がる。

 天童アリスの元へ向かったゲーム開発部の面々は困惑し、調月リオもたじろいでいる。各務チヒロの通信は不安定となり、そして肝心の天童アリスの様子が不自然なものとなっている。

 

 どうやら、何かが起きている様子です。

 

「エリドゥのシステム全体が……ハッキング……。いえ、これは単純なハッキングではない……」

 

 調月リオが、現状の分析を行っていますが、私は話を続けましょう。

 

「さて、私が動く条件についてです。ミレニアムでは対処不可能な事態であるとアーキバスが認定することになれば、先生は存じているでしょうが、アレを投入することも吝かではありません。精々、そのような事態にならないよう努力することです」

 

 現在進行形で行われているハッキング。

 確実に名もなき神々の王女が目覚めようとしている兆候でしょうが、まだ私が動くべきではありませんね。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 早くケーブルを外してアリスを……!」

 

 才羽モモイは、何としてでも友人である天童アリスを連れ戻そうと必死になっている様子ですが……。

 

 どうやら、それは叶わぬようだ。

 

 

「その行為は、推奨しません」

 

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