キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション   作:ねうしとら

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決着

 どうやら、私の仮説は半ば的を射ていたらしい。

 

 名もなき神々には、プログラムを実行するためのカギとなるAIが内蔵されており、それが稼働することで本来の性能を発揮する。

 keyと名乗った天童アリスの第二人格のような者による発言からそのように推測することができます。

 

 要塞都市エリドゥに存在する一万エクサバイトのリソースをハッキングすることで、この都市そのものを箱舟として作り変えるという、オカルトじみた発言をしていますが。

 

 どうやら、調月リオが取った手段は裏目に出たらしい。

 

 彼女もそれをいち早く自覚し、自身の命を犠牲としてでも名もなき神々の王女を止めると決意しています。そのため、先生たちには避難を促している。

 

 そろそろ、契約に基づき企業が手を出す頃合いかと思いもしましたが、まだその段階ではありませんね。

 

 確実に要塞都市がハッキングされていく様子を見て、調月リオが焦っています。

 

 自らの命と引き換えにしてまで、システムを止めてみせると豪語したその決意だけは認めても良いかもしれません。

 ラスティの見立ては正しかったようですね。

 

 私も、万が一の場合に備え、懐に忍ばせていたスタンガンに手を伸ばします。

 これは、我がオープンフェイスの右手武器としても装備しているスタンガン。それを人間サイズにスケールダウンさせた代物です。

 

 ハッキング進捗が無視できないところまで進んだ場合にのみ、これの行使を視野に入れましょう。

 

 このスタンガンがアレに通じるかどうかは未知数ですが、何もしないよりマシでしょう。少なくとも、機械である以上、何らかの効力を発揮してもらわねば困りますが。

 

 リソース確保進捗が99%となったところで、いよいよ潮時かと私はスタンガンを打ち放とうと……。

 

『今よノア、電源を落として!』

 

「おや」

 

 そう思っていたのですが、どうやら杞憂だったようです。

 

 エリドゥの電力がシャットダウンされ、アクセス権が物理的に失われている様子。

 なるほど。力押しですが、最も効果的な手法です。まあ、私が行おうとしていた手段も力押しですが。

 

 早瀬ユウカに生塩ノア。

 

 セミナーの書記と会計でしたか。

 

 表立って動ける立場にはないと思いましたが、どうやら事態が事態だと判断した様子です。

 

 最早企業の出る幕はないと、ラスティと共にこの茶番を見学していたのですが……。

 

 そういえば、フロイトを待機させたままであったことを思い出しました。

 

 このまま出番なく終わるとなると、帰った後が怖いですね。

 

 話を聞くにどうやら、要塞都市中にDivi:Sionが現れている様子。まあ、協力者として少しばかりは手助けをするという名目で、フロイトを出撃させますか。

 

 ACの存在をミレニアムにアピールする絶好の機会と考えましょう。

 

「さて、事態は一時落ち着いているようですね。しかし、外には何やら無粋な兵器が湧いているらしい。どうです? 戦力が欲しくはありませんか」

 

 “それって、もしかして……!?”

 

 先生は気づいているようですね。

 まあ、それも当然でしょう。そのように匂わせたのですから。

 

「フロイト。出番ですよ」

 

『ようやくか。待ちくたびれたぞ』

 

 通信越しに、楽しみだと言わんばかりにやや高揚したフロイトの声が響く。

 

 ミレニアム近郊に待機させていた大型ヘリから、ロックスミスの出動を確認します。

 

『……この反応は!?』

 

 名もなき神々の鍵と、調月リオが驚愕した様子でロックスミスを見ている。

 

「連戦に次ぐ連戦で、あなた方も疲弊しているでしょう。外の兵器に対しては、仕方がありませんのでこちらで対処して差し上げます。今回ばかりの特別待遇、といったところでしょうか」

 

「あれは……人型兵器!? キヴォトスにあのようなものが存在していたなど……! それに、都市内に残存兵力まで……!」

 

『きょ、巨大ロボットだー!!?』

 

「まさか、このような代物を抱えていたとは……」

 

 ゲーム開発部、それから調月リオが驚いている様子。

 

『先生、何だいこの巨大ロボットは!?』

 

『目の前に、人型ロボがいます!? それも大きい!』

 

『エンジニア部の華麗な復活だったんだけど、美味しいところを取られた感じ?』

 

 何やら通信越しにも騒がしい声が聞こえてきました。

 

 どうやら、外の様子も変化が生じているらしい。

 

 アバンギャルドに改造を施したエンジニア部もエリドゥで暴れているDivi:Sionの相手をしています。

 なるほど。あれほどの短時間でアバンギャルドにあれほどの改造を施せるとは、ミレニアムの部活も侮れん。

 

 加えて、中々ロマンを解するようです。

 

「宇宙戦艦でも扱える火力武器ですか。我が社のACは宇宙空間での活動も視野に入れた開発を行っていますが、どうです? 我が社で働く気はありませんか?」

 

『う、宇宙空間での活動ですか!? つ、つまり、あのロボットは宇宙戦艦でもあると!?』

 

『なるほど、見た目にそぐわぬ性能をしているようだね。それに、物凄くロマンに溢れている』

 

「どうやら、見る目があるようですね」

 

『だが、お断りかな。宇宙戦艦は、自分たちで作ってこそロマンだからね』

 

「なるほど。それは残念」

 

 まさか、企業の提案を断るとは中々生意気なエンジニアです。

 しかし、学生の身でこれほどの技術力を有している集団があるとは。将来、是が非でも欲しい人材であることは変わりません。

 

 破格の待遇を用意してでも企業に置いておきたい。

 

「機嫌がよさそうだな、スネイル」

 

 ラスティが茶々を入れてきますが、無視します。

 

『スネイル。ここにいる雑魚を片せばいいのか?』

 

「ええ。少し物足りないかもしれませんが、数だけは多いですので。雑魚処理をお願いします」

 

『そうか。なら、さっさと終わらせよう』

 

 そこからは、通信越しに爆発音と風切り音が鳴り響き、中央タワーにもわずかに衝撃が伝わってきます。

 

『SB-033M MORLEY』。ロックスミスの右肩武器である拡散バズーカ。

 そして、『Vvc-770LB』。左手武器のレーザーブレード。

 

 大量に湧く小型兵器の掃討にうってつけの武装による攻撃でしょう。

 

 拡散バズーカの広範囲殲滅攻撃により、数多のDivi:Sionが粉微塵となり、レーザーブレードによるチャージ攻撃による一掃で、ロックスミスを中心とした円状範囲内にいる全ての物体は両断される。

 

 エリドゥ内の建造物すらも例外ではありません。

 

 サイズの違いにより、そのままではレーザーブレードがDivi:Sionを捉えることができませんが、そこは流石の操縦能力の持ち主たるフロイト。

 

 機体を斜めに、左手を傾けることで対処しています。

 

 “レ、レーザーブレード……!?”

 

 目を輝かせ、先生が驚愕している。

 

 愉快この上ないですね。

 

「例え、要塞都市が相手であろうと。アーキバスにとっては児戯に等しい」

 

 現段階で完成しているACはオープンフェイスとロックスミスですが、アーキバスには武装MTも数多く存在しています。我が社は既に、一学園程度ならば一蹴できるだけの兵力を保有している。

 

 今の連邦生徒会程度であれば、クーデターを仕掛けたとしても十分な結果が得られるでしょう。

 

 やりませんが。

 

 “っていうか、スネイルさん。アレ、私が知ってる機体じゃなくないです?”

 

「ええ。先生がご存じなのは、私のオープンフェイスです。あれは、我がヴェスパーの第一隊長が搭乗している機体。ロックスミスですので」

 

 “やっぱりそうなんだ……”

 

「アバンギャルド君を改造して、宇宙戦艦に……。それに、人型の宇宙戦艦まで現れて……??」

 

「展開が怒涛過ぎて、訳が分かりません……」

 

 “ロボット大決戦って感じだね! ロマンあふれていいんじゃないかな!?”

 

「先生、興奮しすぎです……」

 

「理解不能。状況判断不可。命令修正および再実行。追従者は想定外の兵力と戦闘を避け、エリドゥ中央タワーに集結……」

 

 名もなき神々の鍵は、どうにか計画を遂行しようとDivi:Sionを中央タワーに集結させようとしていますが……。

 

「申し訳ありませんが、その子たちはここまで来られませんよ。タワーの入口でしたら、エイミとC&Cのメンバーが塞いでおりますので」

 

 突如現れた白を基調とした車椅子の少女により、それも不可能であると断言されました。

 彼女は確か、明星ヒマリでしたか。ヴェリタスと言うハッカー集団の長であったと記憶しています。

 

「加えて、フロイトの目を搔い潜れるなどと考えているようでしたら、それはあまりに浅慮としか言いようのない愚かさです」

 

 Divi:Sion程度がロックスミスを掻い潜ってエリドゥ中央タワーに到達することなど、あり得ません。

 

「こんにちは。アーキバス・コーポレーション社長、スネイルさん?」

 

「貴方は、明星ヒマリでしたか。なんの用です」

 

「貴方に、少々協力を依頼したいのです。対価は……」

 

「……御託は結構。さっさと本題に入りなさい。私は既に食傷気味なのです」

 

「あら。思ったより話の通じるお方なのですね。では、ご要望通り早速本題に入りましょう。アリスを救う手段について。このまま放置してしまえば、アリスは『名もなき神々の王女』として覚醒することになります。それを防ぐには、アリスの精神世界へとダイブし、データベースの深部に隔離されてしまったアリスを起こすのです」

 

「なるほど。天童アリスの肉体はあくまで機械であるため、内部へとアクセスが可能であると」

 

「ええ」

 

「しかし、それはあまりに危険な行為であるはずです。それが解らぬ貴方ではないでしょう?」

 

「ですから、スネイルさんには可能な限り技術提供を行っていただきたいのです。人間の精神世界にダイブする。その方法を最適化するために」

 

 まあ、そうなるでしょうね。

 

 シミュレーター技術を有しているアーキバスが口を出せば、成功率は確かに上がるでしょう。しかし、シミュレーターに関する情報も機密事項なのですがね。

 

「なるほど。企業への協力要請とは、高くつきますよ?」

 

「あら。先程対価についてお教えしようとした私を遮ったのは他ならぬ貴方だったと思うのですが……」

 

「それとこれとは話が変わる。であれば、ミレニアムからアーキバスへの技術提供に加え、ミレニアム自治区におけるアーキバス社への優遇措置を求めましょう」

 

『それくらいなら、私の方でもなんとかできるけど……』

 

 早瀬ユウカが渋りながらも承諾しました。

 セミナーの会計が首を縦に振ったのであれば、後は調月リオの承諾を待つのみですが……。

 

 彼女もこの状況では承諾するしかないようです。

 

「では、決まりです。天童アリスの精神へとダイブするための各種機器。その調整を請け負いましょう」

 

「できれば、早めにお願いします。無名の司祭はこちらへ向かっているようですから」

 

「問題ありません。エリドゥにはロックスミスが控えていますので。Divi:Sionとて、既に半数以上が壊滅しているようですし。無名の司祭とやらが何であれ、全て返り討ちにして差し上げましょう」

 

「ふふ。心強いですね」

 

 さて、少々想定以上に私の仕事が増えましたが、ロックスミスを出動させたのは私の判断です。契約内容に反することは何もしていませんし。問題はありません。

 

 では、天童アリスを救出するためのダイブ装置。

 

 その調整を始めましょう。

 

 

「ゲーム開発部と先生には、アリスを連れ戻す役割をお任せします。かなり危険を伴いますが、アリスを連れ戻すことができるのは、貴方たちを置いて他にいませんので」

 

「……分かりました。やります。アリスちゃんを……連れ戻せるのなら」

 

「それでは、私は今から彼と協力しアリスの精神を分析して隙間を作ります。皆さんはアリスの精神世界に入って、彼女を連れ戻してきてください」

 

 “分かった”

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 スネイル、そしてヒマリの尽力によりアリスの精神世界へと足を踏み入れたゲーム開発部と先生は、アリスと初めて出会った廃墟の奥にいた。

 

「ここがアリスの……」

 

「……心の中?」

 

 モモイとユズが、困惑したように言う。

 

「ねえ、お姉ちゃん! ユズ! ……あそこ」

 

 ミドリは、精神世界に存在するアリスの姿を見つけ、皆に共有した。

 そこには、かつての廃墟で眠っているアリスの姿があった。

 

「アリス!」

 

 モモイが近づく。

 

 すると、アリスはすぐに目を覚まし、辺りを見渡し納得したような表情を浮かべる。

 

「……モモイにミドリ……ユズ……。そして先生。やっぱり、来たんですね」

 

「もちろん! 家出したアリスを連れ戻すためにね!」

 

「……アリスは、皆と一緒にいたいです。それは、紛れもない本心です」

 

「……なら!」

 

「ですが! アリスがみんなを傷つけてしまったことは事実です。アリスがみんなの傍にいたら……みんなはその分、傷ついてしまいます」

 

 帰りたいと本心を言うアリスはしかし、それでもみんなに傷ついては欲しくないと願う。

 自分の存在が、彼女たちに害を与えてしまう事実が、やはり割り切れていなかった。

 

 そんな彼女の慟哭を聞き、鍵はこの場に現れる。

 

「やはり、自覚しているようですね。王女よ」

 

「だれ!?」

 

 アリスと同じ外見の少女。しかし、その瞳の色だけがアリスと異なる。

 彼女こそ、名もなき神々の王女が本来の役割を遂行するために存在するAI。

 

 “key……”

 

「つまり、あれが……!」

 

「アリスちゃんと同じ顔をしたあの人が……?」

 

「アリスちゃんを、ここに閉じ込めた元凶……?」

 

 “自覚してるって、どういうこと?”

 

「言葉の通りです。王女よ、貴方が見てきた全てを思い出すのです」

 

 そして、要塞都市エリドゥで戦ってきた軌跡のすべてが流れる。

 

 先生にゲーム開発部、C&Cにエンジニア部がトキを相手に苦戦を強いられている様子。

 美甘ネルが、気を失いそうになりながらも戦い続ける姿が映された。

 

 この映像は、アリスの心の弱さそのもの。

 

「貴方がいるから、彼女たちが傷つくのです」

 

 鍵は、王女を本来の役目に戻すため、言の葉を紡ぐ。

 その人間としての機能を損なわせるために。

 

 しかし……。

 

「はい。でも、アリスはみんなと一緒にいたいです。魔王である……アリスでも、勇者になりたいです。ですが、皆は、アリスのことが怖くないのでしょうか。アリスは、皆を傷つけて……。アリスを嫌いになっていませんか?」

 

「――そんなことどうでもいいよ! アリスが魔王だとか、私たちを傷つけたとか。そんなの何も気にしてない! 友達の過ちは、赦すのが友達だからね! それに、アリスのことを嫌いになるなんて、世界が滅んでもあり得ないから!」

 

「……モモイ」

 

「うん。そんなことは、当たり前」

 

「……ミドリの言う通りだよ。私たちは、四人でゲーム開発部。なりたい存在なんて、作ることができるんだから」

 

 そんな彼女たちの言葉に、アリスは消えそうな笑みを浮かべながらも確かに問う。

 

 最早、アリスの心に迷いなどなかった。

 

「魔王であるアリスが、みんなの傍にいてもいいのですか?」

 

「当然! それに、アリスがいたから私たちが一緒に作ったゲームは、特別賞を貰えたんだよ!」

 

「……魔王でも、勇者になっていいのですか?」

 

 その問いは、既に決まっていた。

 

 “君がなりたい存在は、君自身が決めていいんだよ――アリス”

 

「なら、やっぱりアリスは――」

 

 

 

 

 

 

 ――勇者に、なりたいです!

 




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