キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション 作:ねうしとら
アーキバス・コーポレーション代表取締役社長。V.Ⅱスネイルです。
名前は、これが本名です。ええ。とても光栄な名前だと思いますよ? この世界に存在するゲームの雑魚モンスターとして定着していなければ、の話ですが。
そもそも由来がカタツムリであるという話はしないように。あまり私を苛立たせないでください。
まあそんなことはどうでもよいのです。
さて、率直に言いましょう。私は転生者です。
何を戯けたことをと思われるかもしれませんが、不思議なことはあるものです。
前世は一般的な日本人でした。ほどほどに働き、ほどほどに休み、ほどほどに満足した生活を送ってきた社会人です。それなりの苦労とそれなりの楽しみを経験した、健全で没個性的な人間だったと思います。
キヴォトスという馬鹿げた世界に転生したため、そのような精神は既に廃棄処分となっていますが。ええ、人間のアイデンティティというのは移り行くものなのです。
とはいえ、それも仕方ないでしょう。
何と言っても当然のように銃火器の携帯が許されている世界なのですからね、ここは。
最初に見たときは己の目を疑ったものです。当たり前のように銃を乱射する女子高生がそんじょそこらに存在する。
なんだこれは地獄か何かか?
そう思ったのも記憶に新しい。
しかも、この世界の住人は銃弾程度で死ぬような体をしていないではありませんか。最早、私の常識は音を立てて崩れ去りました。ええ、綺麗さっぱりなくなっています。
とはいえ、死なないというだけで銃を撃たれれば痛いのですがね。
撃たれて死なないから撃ってもいいとはならないと思うのですが? ええ。かつての私の常識に当てはめるのであれば、いわば当然のように殴る蹴るといった暴行が合法的に許されているということでしょう?
十分治安が底をついていると言わざるを得ません。
表面的に文明的な世界ではあるものの、住んでいる者たちはどいつもこいつも野蛮人。
戦場を限りなく美化したようなちぐはぐさを感じます。まあ、それがこの世界の常識だというのであれば、合わせる程度の度量は持ち合わせているつもりですが。
学園都市ということもあり、各学園が土地を所有し自治区としている。子供が支配する世界。なるほど、中々度し難い。
しかし、そんな世界にも美点というのはあります。
それは、技術力です。
各自治区にもよりますが、基本的にテクノロジーは私がいた世界と比べ、全体的に進んでいる。特に、ミレニアムサイエンススクールの科学技術は何歩も先を歩んでいます。
そこで、私は気が付きました。
この世界ならば、ACを造ることも可能なのでは? と。
アーマード・コア。略してAC。
私が前世で嗜んでいたゲームの題材であり、そこに登場する人型機動兵器の名称。
まあ平たく言えば人型ロボットのことです。特徴的なのは、アセンブリ式であることでしょうか。
私はACシリーズはⅥにしか手を出せていない新参ですが、それでも十分に脳を焼かれました。
その鮮烈な光が、例え転生したとしても離れなかったのです。ロマンと言い換えることもできるでしょう。
それを実現することができるのではないかと思い、私は企業となったわけです。
ACについての知識……は、作中で明らかとなっていたこと程度は持ち合わせていますが、何分それでも手探りとなります。苦労しましたが、今では優秀なエンジニアを雇うことで何とか開発にこぎつけています。
私のうっすらとした要望を形にすることができる優秀な社員を抱えることができて幸運でした。
無論、言い出しっぺは私ですから、起業する前に専門知識をしっかりと身に着け、私も開発の一員として日々労働に励んでいます。企業ですから、当然のことです。
しかしここまで来るのに、どれほどの苦労を費やしたものか。
ここ二、三年でようやく軌道に乗り始めたのは運がよかったと言わざるを得ません。
私が企業となって最初の数年は、まあ煮え湯を飲まされたものです。
主に、カイザーコーポレーションを名乗る不届き者のせいですが。
AC開発の資金集めのため、このキヴォトスにおいて生活必需品であり消耗品である兵器の類を取り扱うことで、一定の収入を獲得することには成功したのですが、似たような事業にも手を出しているあの害獣によって様々な妨害を受けたものです。
誰かの足を引っ張ることでしか自身を押し上げられない惨めな害獣は、とっとと野垂死んだ方が世間のためだというのに。
しかし、害獣どもの妨害も空しく、わが社は躍進したわけですが。
オキーフには感謝しなければなりませんね。任務として害獣どもに対して情報工作を行っていただきましたから。つくづく、私には優秀な社員が揃っていることを実感します。
ACの開発も佳境に差し掛かっている現状ですが、急いては事を仕損じると言います。
何より、この世界の生徒たちは単独でそれなりの戦闘能力を有している。
場合によっては、単騎でACを打ち落とすことも不可能ではないほど。
ACには、ACS――動的防弾制御調整――という、受ける衝撃やダメージを軽減させる機能が備わっています。
これにより、相手から銃撃や爆撃を受けたとしても衝撃を可能な限り受け流すことで、ダメージを最小限に抑える機能のことです。
しかし、この世界の生徒たちは何やら不可思議な力を扱うらしい。私が企業となり、日々の業務に励んでいた頃にやってきた、何やら胡散臭い連中。ゲマトリアなる研究者集団が言うには『神秘』とのこと。
カイザーの害獣に比べれば、礼儀はしっかりと身についているうえにアポを取って企業へとやってきた、良くも悪くもれっきとした大人である彼らは、何やら私を仲間に引き入れようと勧誘してきたりもしましたが、断りました。
その過程で、何やら興味深い情報を私に教えてくれたりもしましたが、まあ彼らにとって語っても支障のないものだったのでしょう。
まあ、そのようなことはどうでもよいのです。彼らもあっさりと諦めましたし。
つまり、彼女たちはその力を攻撃に転用することで、威力を大幅に引き上げたり、物理法則を逸脱した効果を発揮することがあるのだとか。
オカルトの類はあまり信じていなかったのですが、私もキヴォトスで生活する中で似たような疑問を抱いたことは数知れません。彼らの言い分をすべて信じるわけではありませんが、少なくとも何か特殊な力が働いていることは事実でしょう。
であれば、私が開発するACもそれに耐えうる設計にしなければならない。ACSや装甲の基礎理論を見直す必要がありました。私はACにオカルトを持ち込みたくありませんから、すべて科学技術で補っています。
開発は振り出しに戻る形となりましたが、まあいいでしょう。
私とて、生身の人間に爆散させられるACなど見たくはありません。そのようなもの、企業たる私が許さない。
一撃が重いのであれば、当たらないほど素早い機体を造ればいいのでは? と語る空力キチも一定数見られましたが、まだ却下です。一号機すらできていないのに、軽量機体を最初に造るなど言語道断。せめて基本となる機体ができてからにしてほしい。
ラスティは賛成していましたが……。
まあ、そのようなことがありつつ、様々な理論を打ち立てては見直し、実際に開発に移せば想定外のエラーが起こり、また理論を見直し開発し、『神秘』に耐えうる機体の研究を進め、EN武装の本格的な開発に乗り出し、パルスアーマーやアサルトアーマーについての理論を現実的な物にすべく、何度も社内のエンジニアたちと議論を重ね、今も開発に取り組んでいます。
思い通りにいかないことも多々ありますが、わが社の優秀な社員たちはACというロマンを必ず実現させると息巻いています。
ゆっくりと、しかし堅実な一歩を歩み続けて、今のわが社は奮闘しているわけです。
無論、ACの開発ばかりに気を取られすぎてはいけません。私は企業ですから、表向きの業務も十全に熟しています。アーキバスにおける社長業。ヴェスパーとしての任務など。
ACの開発は極秘事項ですから、本社の人間ですら知っているのは限られた人間のみ。
我が社を支えているのは、AC開発などではなく、普段の業務を行っている社員の力あってのものです。
アーキバスはキヴォトスにおける兵器類の開発、生産、販売を行っている企業です。
量産型の武器類から、オーダーメイドまで幅広く。
AC開発によって生まれた様々な技術を駆使して、非常に質の高い武装を取り揃えています。ACの開発によって誕生したわが社の技術を駆使して、質の高い武装を売り、儲けた金でACの開発を行う。
素晴らしいスパイラルが生まれている。
加えて、メーテルリンクを雇用したのも正解でした。
当時のわが社はかなり人手不足に悩まされていました。主に、皇帝とは名ばかりの害獣の仕業でしょうが。
企業としてある程度成長したというのに、規模を大きくするのに人手が足りない。
出会った当初は躾のなっていない狂犬でしたが……。
教育を施せば非常に優秀な戦闘員となりました。今では第六隊の隊長を任せています。
彼女のような、学籍を失い行く当てのない生徒たちを雇用することで簡単に人手不足を解消することができると天啓を受けた私は、すぐさまこの足でブラックマーケットへ赴き、勧誘をしたものです。
おかげで口コミも広がり、生徒の総数は今や四分の一にまで昇ります。
生徒を企業が抱える行為に対して、外部から批判を受けたこともありましたが……。
何を馬鹿なことを。行く当てのなくなった狂犬どもをしつけ、従順な企業の狗として社会に貢献させているのですから、ボランティアと言ってほしいものです。
全く、口ばかりが達者な有言無実行者は迅速な指導が必要です。再教育センターがあれば送り付けているところですよ。
それが影響したのか知りませんが、生徒を抱える行為について正否を問うべく、あの『超人』と名高い連邦生徒会長がやってきたこともありましたが、何を考えているのかよく分からない生徒でした。
我が社が生徒を抱えることを認める代わりに、新たに学園を設立し、そこの所属とするようにと通達を受けたときは何事かと思いましたが、学園の運営はキヴォトスに影響力を広げる好機ですから、断る理由もありません。
……とはいえ、設立に際して費用の全額をアーキバスが負担することになったのは未だ納得が行っていませんが。私から見れば、連邦生徒会長など『超人』とは名ばかりのガキでしかありません。
度し難いにもほどがあります。
まあ、そのようなことに日々取り組み、我が社は企業として邁進しているわけです。
「スネイル。ACの開発は順調か?」
「……フロイト。気になるのは分かりますが、三日に一回同じことを聞かないでください。腹が立ちます」
「すまんな。何分、お前が思い描くACに期待してるんだ」
「……そうですか。では、大人しく待っていてください。先日のアビドス高校のデータから、プランを少し修正する必要が出てきましたので。私はエンジニアたちと会議を行ってきます」
直近の胃痛の種は、わがアーキバス最強の戦力にして最大の問題児であるフロイトへの対応というのが、非常にネックですが……。
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